剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

7 / 21
気持ちのいい男が一人登場~!
ジャバウォックを除けば初の原作キャラが登場~!


大きな男

【刀巫】ミルキーウェイ・アンティプライド

 

 足軽大将の少年、藤山断佐は、俺以外の全ての<マスター>に、()()()()バフ【穢多】を与えていった。俺はそれを、何も言わずに黙って見ていた。

 

 断佐は、本部から伝達された事前情報と作戦について説明した。概要は以下の通りである。

 

・斥候によると、敵軍は百人前後、そのほとんどがカンストティアンで、一部に<マスター>の姿もあり。

・敵軍大将は黒羽家当主、黒羽影宗。

・進軍速度から、数で勝っているうちに平野で決戦するのが黒羽家当主の狙いだと推測。

・軍勢は明日の昼間に平原に到着する模様。

 

 そして、総大将から指示された、断佐率いる足軽マスター部隊の役割は二つ。

 威力偵察と、敵兵の足止めだ。

 四十人の即席で組んだ<マスター>の軍勢、V.S.(バーサス)、超級職率いるカンストティアンおよそ百名。戦力は拮抗しているが、勝つのは難しい。

 この部隊は、死ぬことを前提に組まれている。断佐はそれを明言した。だからこその、ティアンを排した純<マスター>部隊だと。

 

 一方、断佐の指揮下に置かれた<マスター>たちはノリノリであった。

 

「別に、倒してしまっても構わんのだろう?」

「右ストレートでぶっ飛ばす、まっすぐ行ってぶっ飛ばす」

「諸君、私は戦争が「演説は断佐の大将が終わらせただろ!」――すいません」

 

 TYPE:アームズやチャリオッツの者はエンブリオの耐久値を確認し、ガードナー使いは配下に食事を与え。テリトリーやキャッスル持ちの<マスター>は特に準備をせずにいた。

 

 前衛系プレイヤーが十六名、後衛攻撃職が八名、支援職が六名。そのうちカンストプレイヤーは五人ほど。

 だが、ほとんどがレベル400越えのプレイヤーであり、<エンブリオ>の補正もあれば、カンストティアン相手でも十分に戦える。

 

 誰もがそう思っていた。そういう雰囲気の中、行軍準備は進んでいく。夜が明ければ、本格的に出陣する予定だ。

 

 その間に、<マスター>の一人である男から声を掛けられた。俺よりも二回りほど大きい、筋肉の塊のような男。しかしどこか洗練を感じさせるアバターだ。

 

「やあ、護衛の人。たしか、ミルキ殿と言ったかな?」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

「ふむ、ほう。中々の益荒男じゃないか。そこの断佐殿も可愛らしく、素敵だ。ぜひ愛でたい……」

 

 突然の不審な発言に、俺は断佐を庇うように身体を広げ、断佐はその後ろに隠れる。なんだこいつ、敵か?

 

「おっと失礼。少し欲望が漏れてしまった。すまない」

 

 ――ただの挙動不審だったようだ。デンドロもネトゲだ、こういう<マスター>もいるにはいる。

 

「……少し、尋ねたいことがある。今回の作戦。何か裏があるとは思わないか?」

 

「裏、とは」

 

 裏はあるだろう。断佐のバフがキルスイッチでもあるという事実を、隠し通さなければならない。

 彼も、断佐によってバフを受けた一人だ。真実を知られれば、何らかの手段で口止めをしなければならない。

 

「リアルの歴史では。そもそも、戦士階級の上層たる所以は、自ら戦い農民を守ることだ。【農兵(ファーム・ソルジャー)】などのジョブに就く一部の農民階級は、リアルよりも高い自衛力を持つが、それでも戦争略奪を生業とする武芸者には敵わない。だから、武家という、血統と修行によって戦闘用のジョブ適性を高めた人々が、農民階級を守るのだ」

 

「……それが、どうかしたんですか」

 

 断佐が、それに反応する。農民は武芸者に敵わないから武家が守るしかない。その指摘に、思うところがあったのだろうか。

 

「つまり――戦とは、武士にとって(ほま)れである。その誉れを得る機会をわざわざ捨て、不死者たる<マスター>に委託している。この意味が、分かるか?」

 

 俺はすっかり思い込みをしていた。危険な戦だから、死なない兵士と被差別階級の超級職に丸投げしたのだろう。そう、すっかり思い込んでいた。

 もっと深いところに、思惑があるのかもしれない。

 だが、今は考え込む時間ではない。

 

「断佐大将も言ってただろ。俺たちは捨て駒だ。だが、捨て駒が戦局をひっくり返すこともある。見せてやろうぜ、俺たちの力を」

 

「――そうだな。俺の疑い過ぎかもしれん」

 

 彼の言葉にも一理あったが、とりあえず今はうやむやにしておくべきだろう。

 

「ところで、名前は? 差し支えなければ、連携のためにジョブと<エンブリオ>も教えてほしい」

 

「ああ、俺は()()()()()。ジョブは【大山賊(グレイト・ブリガンド)】。エンブリオは所持品の巨大化を旨とする【遠断質重 ブロッケン】だ。ミルキ殿は?」

 

「俺は【刀巫(シャーマニック・ソード)】。エンブリオは、刀で受けた攻撃を記録する【再録示剣 クロサワ】」

 

 【クロサワ】は、戦争に行く直前に、第四形態、<上級エンブリオ>に進化した。

 形は変わらず、だが、内包するステータス補正やスキルは、下級と比べてかなりの強度になり、新たなスキルも得た。

 

「ふむ――、俺たちの相性は"良"だな」

 

 いきなり変なことを言われる。 俺の背後からビッグマンを見上げている断佐もきょとんとした表情だ。

 

「いや、いや。能力の話だ。戦闘中は、世話になるかもしれない」

 

 それだけ言って、去っていった。

 

 ――変な男だ。

 

 夜襲対策に雇った、テリトリー型<エンブリオ>の持ち主が、一時ログアウトする。その間は、ジョブスキルや目視による哨戒をより厳重に行った。

 

 

 そんな折、東の空が、青がかった黒から、ぬるりと、蛞蝓の速さで白み始めた。

 やけに静かだった、だから。

 火薬が弾ける音が、ひどく響いた。

 

 一斉の発砲音に、咄嗟に断佐を突き飛ばして覆いかぶさる。

 背中には複数の痛覚源、【身代わり竜鱗】が一つ砕ける音が耳の奥で鳴る。

 少年の身体が、俺の下で震えていた。

 

 振り向くと、今まで人影の一片も見えなかった場所に、どこから現れたのか、薄暗い半透明の軍勢がいる。

 地平線の日の出と重なっており、とても見えにくいが、たしかにそこに見える。

 東の先に、影でできていると表現すべき、モノクロで半透明の武士たちが、火縄銃を持って構えていた。

 

「おい! 哨戒班どうしたんだよ!」

「クソ、バディ死んだ! 火縄銃でヘッショ決めてんじゃねぇよ!」

「私、《危険察知》スキル10なんだけど!? チート使ってるよねこれェ!」

 

 意表を突かれたことによる混乱が味方側に見える。【身代わり竜鱗】や【救命のブローチ】を持っていない何人かは初撃で死亡したようだ。二、三人分の光の塵が見える。

 

 戦闘が始まったことを、多くのプレイヤーが悟る。彼らは紋章やアイテムボックスから武器を取り出し、もしくは《瞬間装備》して、次の弾幕を弾いていた。さらに、弓持ちや術使いは、火縄持ちの影の武士に遠距離からカウンターを仕掛ける。

 半透明の戦列歩兵による三段撃ちが続くが、俺にはまだ【身代わり竜鱗】は残っている。このまま断佐を庇いつつ、防御に長けたプレイヤーを呼び寄せる。

 

「防御型プレイヤー! 俺だけじゃ不足だ、断佐を守ってくれ!」

 

 その言葉に反応したプレイヤーが一人。錫杖を持った壮年の男だ。たしか、阿舎利千尋というネームだったか。

 

「おう、儂に任せぇ! 《小さくも畏き金御堂(ティニーテンプル)》!」

 

 彼はゲーム内通貨、リルを周囲に素早くばら撒き、錫杖で地面を突く。

 地面からせりあがってくるのは、黄金色の小型仏堂。弾幕を剣で弾きながら、急いで断佐を仏堂内に入れる。

 

「儂のポケットマネーで強度重視となるとこれが限界じゃが、種子島相手なら十分じゃろう! ついでじゃ! 《不肉食の戒》」

 

 阿舎利から追加のバフを貰う。ステータスを確認すると、攻撃力の上昇と共に、経験値獲得不可のデバフも貰っていたが、特に問題はない。既にカンスト済みだ。

 

 三段撃ちが一時、止んだ。弾切れか、攻勢に転ずるチャンスかと思うが、戦列歩兵の後ろから大砲持ちが五、六出てきて、照準を俺たちに合わせ始める。

 

「おい、アレ大砲じゃねーか! やべっ! 《大投擲(グレートピッチング)》」

「ぶっ壊せ! 《雷霆、星を射貫く(ピナーカ)》」

 

 大威力を想像させる臼砲を破壊しようと、プレイヤーたちは投石や魔法矢などの遠距離攻撃を集中させるが、盾持ちの兵士が出てきてそれは多くが防がれる。貫通系の必殺スキルなどで盾を貫く攻撃も幾つかあったが、破壊された臼砲は一つだけ。

 

 照準が合わさる。

 その直前、彼、ビッグマンはずいと一歩、大きく前に出て、しずかに鉈を横に振るった。

 

「《憮露通剣(ブロッケン)》」

 

 血の匂いがわずかに匂う、錆びた大鉈。特典武具だろうか。

 それが、一瞬のうちに百メートルを超える体積・質量となり、最前列の戦列歩兵と臼砲を、盾持ちごと薙ぎ飛ばした。

 吹き飛ばされた戦列歩兵は、地面に転がった後、死体も光の塵も残さず、溶け消えていく。

 

「助かった! 流石だなビッグマン!」

「よっ、ビッグマンのビッグマン!」

 

 感謝の軽口を叩きながら、銃撃に耐え、混乱を立て直した他の<マスター>らが影の軍勢の残党に攻撃を仕掛ける。

 

「《開封の儀(オープンザセサミ)》、《解怪器譚(ツクモガミ)》!」

 少年の<マスター>が宝箱型アイテムボックスを開くと、そこから武器が飛び出して影の軍勢に突撃していく。

 

「『アイツらは敵、アイツらは敵……』、よし行けゴクウ!」

 大猿型のガードナーに囁きかけ、指示をしてから突撃させる女性<マスター>。大猿は一騎当千の勢いで、軍勢をなぎ倒していく。

 

「頼むぜ……《流怒螺(ルドラ)》!」

 背中にジェットエンジンを背負ったような青年が、その推進力に加算するように大斧を大きく構えて振り切り、五体の武士の胴体を両断していた。

 

 彼ら三人を特に戦闘の中心として、<マスター>たちは巧みにここの影武士たちを消滅させていった。

 

 立て直していくこちらに、混乱していく影の敵軍。

 だが、それはもう一度、一斉の発砲音が鳴ったことで砕かれた。

 断佐のいる仏堂の周囲で警戒している俺に、再度背中の痛みが。

 撃たれた? 目の前の影軍は壊滅状態なのに?

 

「あっぐ!」「痛ぇぞクソ!」「あ、もう無理ぽ……」

 

 銃弾の衝撃に、<マスター>たちはたたらを踏む。

 

 振り向くと、南西の方向に、先ほどと同様、なんの前触れもなく現れた黒い戦列歩兵。

 黒い影らは、先ほどと同様に三列に構え、次の発砲を用意している。

 

「断佐、無事か!?」

「ええ、しかしこの御堂はそう何回も持ちませんよ!」

 

 断佐を守る黄金の仏堂も幾つか穴が空いていた。貫通はしていないようだが、それも何度耐えられるかどうか。臼砲が直撃すれば一撃で砕かれるだろう。

 

 戦列歩兵の後ろには、先ほどと同様に臼砲持ちばかりか、槍持ちの兵も現れている。

 もしや、無限湧きか……? そうだとしたら、厄介に過ぎる。

 

「チクショー……」

「ぐぅ、断佐きゅん……」

 

 光の塵と化す<マスター>は、この時点で既に十人ほどいた。純粋にHPや防御力が低い、魔法職や支援職のマスターが特にデスペナルティを喰らっていた。

 

 弾丸の雨が再度振る前に、ビッグマンに視線をやる。あの必殺スキルを再度使えれば。

 

「ビッグマン! もう一度できるか?」

 

「すまん、クールタイムだ! あと五秒持たせてくれ!」

 

 ――仕方ない。アレを再現するとなると、かなりの苦痛とSPの消費を伴うが。

 やってやる。




まだ<超級>ではないビッグマンです(必殺スキルは早めに覚えたという捏造設定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。