剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~ 作:砂漠谷
――やってやる。
ミルキーウェイは、そう決意し。
特典武具の鞘、【延刃善壊 クレグレ】のスキルを起動する。
《技力変怨》によってSPを怨念に変質させ、それを《怨刃延長》によって刃に纏わせる。
同時に、エンブリオ【クロサワ】を抜刀。刃に纏った怨念は、抜刀の直後のみ、【クロサワ】と同等の硬度――すなわち、古代伝説級最上位レベルの魔法金属となって刃を延長する。
一瞬で完成したのは、ビッグマンも眼を見開くほどの大々太刀。全長五十メートルにも迫るその刀は、【クロサワ】そのものであり、しかし怨念金属による追加重量も大きい。
本来、TYPE:アームズの<エンブリオ>はその重量を主に感じさせない。怨念金属によって、多少刃が長くなろうが、まるで箸を持つように刀を持てる――"多少"ならば。
未だ第四形態である【再録示剣 クロサワ】は、装備重量を軽減できるとはいえど、その限度は大きくなかった。全長五十メートル、怨念金属の密度は尋常の金属より遥かに高く、その質量は一トンにもなる。
それだけなら、尋常の近接ジョブ持ちならば優に持ち上げられるだろう。だが、彼は抜刀の姿勢で、すなわち片手で柄を持つ状態でそれを振り抜かなければならなかった。
モーメントの暴力がミルキーウェイの右手に襲いかかる。
握力に換算して、40トン。ステータスに換算して、STR1万。一方、彼のSTRは、バフやステータス補正を考慮に入れても、7千にも満たなかった。超級職でもない近接型のステータスなど、こんなものだ。
――そんなことは、分かっている。
倍ほどの力を発揮するための、精神の在り方。
掌にかかる負荷を全身に分担するための、肉体の在り方。
全てはその手にすでにある。彼は、
「――ダォォオオオ!」
怒声が響き渡り、大々太刀が振り切られる。ビッグマンの必殺スキルに引けを取らない威力で、影の軍勢を一刀に斬り伏せた。
「……まじかよ」
「勝てる、勝てるぞ!」
三十人未満に減ったプレイヤーたちも、士気を持ち直し、次の軍勢が現れる前にポーションやスキルで回復するなどの休息を取る。
そこに、大きな声で叫ぶ老人プレイヤー。少年足軽大将断佐を守る仏堂を建てた男、阿舎利だ。
「お主ら! 儂の近くに手持ちの銭を投げ捨てい! それで大きな砦を建てられる! 砦の内側にはジョブスキルで転移阻害などを貼る!」
それに断佐も仏堂の中から言葉を重ねる。
「使用した分は北玄院家が補填します! どうか、お願いします!」
それを聞き、多くのプレイヤーが手持ちのリルを阿舎利の足元になげうつ。
「よし、これで十分じゃろう、《
阿舎利のエンブリオ、TYPE:インスタント・フォートレスである【豪家顕藍 キンカクジ】の必殺スキルが発動する。
必殺スキルは、消費した金銭に応じた規模の巨大建造物――大仏殿を創造した。
一億リル級の大仏殿は砦としての機能も持ち、空堀に柵を外郭として、矢や魔法を打ち出すための穴が空いた内郭。中心には大きな仏堂と、兵を収容するための広場があった。
「よし、《不偸盗の戒》! これで転移や空間干渉系は使えんぞ!」
【キンカクジ】に付与されたバフ・デバフは、敵味方問わず、入城する全ての人間に共有される。その分、金銭から置換された内部リソースは減るが、上級職のバフ共有程度で一億リルを全損することなどそうそうない。
阿舎利は、そう踏んでいた。
【キンカクジ】の外部から現れる影の軍勢も、プレイヤーたちの遠距離スキルでちまちま削れば数分で壊滅させられる。
確かに火縄銃の威力は驚異的だが、命中率はそこまでではない。威力も、数メートルの分厚い土壁を貫くものは少ない。
プレイヤーたちは、勝利を確信していた。
そこから数刻、時はすぎる。プレイヤーたちは、奇襲によってできなかった能力の開示や交流などをしていた。
そして、時折現れる影の軍勢を蹴散らして、太陽が中天に達した時。
「そろそろ、こっちから打って出ねぇか?」
プレイヤーの一部は、そう口にした。出陣派の筆頭は、【
反対派の筆頭は、【
「しかし、影の軍勢の本体の場所は未だ分かっていません。せめてそれが分かれば――」
索敵系<エンブリオ>は希少であり、唯一それを持っているプレイヤーはログアウトしている。
「つーか、アイツ、索敵系テリトリー持ちのプレイヤーってどこ行った?」
それは多くの人が気になりつつ、しかし口に出せないことだった。
「トイレ休憩っていってましたね」
「いつ出てった?」
「日の出の直前――あ。」
ガンニバルが口に出したそれは、内通者の存在を示す材料だった。
「あの銃撃の直前にログアウトって、確定で裏切りモンじゃねぇか! 信用できるプレイヤーだけ集めたんじゃねぇのかよ、どういうことだよ、オイ?」
ガラ悪くガンニバルに詰め寄るレイド。ガンニバルは怯えた表情で、断佐を見る。それに釣られるように、レイドも断佐を睨む。
ミルキは断佐を守るが、レイドの疑いの目は止まらない。
「いえ、私にも、信用できる人のみ集めた、とだけ言われている、います――」
足軽大将、【
銃撃の混乱が収まった後、この戦への危惧が高まった。
そして、それがピークに達して、レイドが武器を抜いた、その瞬間。
晴天にもかかわらず、広場に影が落ちた。
「――は?」
上空を彼らは見上げる。そこには、直径百メートルはあろうかという大岩が、遥か天空に現れ、重力加速度に従い、落下を始めていた。
「はぁあああ!?」
「逃げろ、全員逃げろ!」
「やべえええええ!」
多くのプレイヤーは、【キンカクジ】から脱出し、逃げる。ミルキも、断佐を背負い逃れようとして、もはや着弾に間に合わないと悟り、自分が持っていた【救命のブローチ】を断佐に与える。
逃れなかったプレイヤーは、ミルキを除けば二人。
【
【
ビッグマンは、特典武具の血錆の付いた大鉈で、自らの腹を裂き、鉈に血を吸収させる。
血錆は取れ、大鉈は赫銅色に染まる。
「そこの坊さん。俺を
「応、よか意気じゃ! 奥義、《断戒》」
阿舎利がプレイヤーたちに与えていたバフが中断される。その瞬間、阿舎利の持つMPは一気に回復し最大量を超え、周囲に魔力として溢れ出る。
溢れ出た魔力は、しかし霧散せず、【キンカクジ】の中心である仏堂に吸収されていく。
「――仏恥義理じゃよ!」
仏堂に内包されるのは、当然の如く青銅の大仏。それが、変形した仏堂を鎧として纏い、動き出す。
その大仏は、ビッグマンの身体を優しく握り、上空の巨岩に向けて叩きつけるように投擲した。
「うむ、そちらもなかなかの意気だ、坊さん。――《
空を飛ぶビッグマン。彼は必殺スキルにより大鉈を巨大化させる。
大岩に向けて、筋肉を隆起させながら両手で振るう。
巨大化した大鉈は、落下する隕石に大きな罅を入れた。
ビッグマンは、鉈の衝突の反作用によって高速で地面に落下し――ミルキによって、受け止められた。
「《
落下の衝撃と、切腹の継続ダメージでビッグマンのHPが尽きる直前、彼が目にしたのは、罅の入った巨岩を砕く、大仏からのロケットパンチだった。
光の塵になって、ビッグマンが消滅する。
同時に、巨岩も消滅し、光の塵となり――プレイヤーの一人である、その女の左手に、吸収された。
「バレた?」
テヘペロ、というような表情で。
影の軍勢に守られた彼女、ガンニバルが笑った。
彼女がジョブクリスタルを砕くと、頭上のジョブ表示はこのように変化した。
【結界術師】から【
合計ジョブレベルは、500から720レベルへと増加していた。
「あはは、超級職でもないのに、よくやるねぇ。《
――イション、と言う直前。彼は彼女を見つめ、素早くそれを宣言した。
「《
【穢者頭】奥義が発動し、【穢多】が付与されていたガンニバル、その肉体は一瞬で崩壊し、光の塵となった。
「――ふぅ。結果として、裏切りに気が付けて良かったです」
一息吐く断佐に、頭を下げるミルキ。
「――断佐、すまない。俺がもっとはやく裏切りに気付くべきだった。護衛失格だ」
「いえ、とっさに【救命のブローチ】を僕に渡してくれただけで、護衛としては十分です。ありがとうございます。しかし、彼女は何をしようとしていたのでしょうか……」
すると、広場の少し離れたところに、どしゃあと落下してきた正四面体。
その中には、体長10メートルほどの、烏賊とカジキが融合したようなナマモノが、身動き一つとらず静止していた。
「うわっと、なんじゃこれ」
阿舎利の近くに落ちてきたため、阿舎利は驚いて距離を取る。
ナマモノの頭上には、【尾迅迫命 オイカジキ】と。
「「ユニーク、ボス、モンスター?」」
プレイヤーの二人は首を傾げるが、断佐は合点がいったとばかりに首を振った。
「なるほど。【封姫】ということは、封印術師系統の超級職。<UBM>の封印を解いて、僕にぶつけようとしたんでしょう」
「そうか――しかしの、大将の坊っちゃん。あの、《穢土還し》というスキルは――」
「後にしてください。来ますよ」
《不偸盗の戒》は解除されている。それに気がついたのだろう。
正体不明の影の主――【
ミルキはそれに反応し、遮蔽物の方に断佐を投げ入れる。代償として、火縄銃の弾幕を躱すことはできなかった。
言い換えれば、ミルキはようやく、
断佐を投げ入れた瞬間、ミルキはすでにスキルを発動していた。
「《刃心降霊》」
『御主人、承知』
肉体の操作権を、【クロサワ】と共有する。こうすることで、スキルの宣言を【クロサワ】に代行させることができる。
ミルキのエンブリオは、刃からそのスキルを宣言した。
『《
弾丸が近づいていく。それに比例するように、刀を構えるミルキの体感時間は遅くなっていく。
最初は、AGIの補正こそあれ、戦闘機のように速い弾丸だと感じたが、徐々にゆっくりと感じ、最後は自分の全力疾走と同程度にまで遅くなっていた。
弾丸を一つ、また一つと切り捨てていく。全て切り捨てた直後に、ミルキは体感速度を取り戻した。そのまま、一度納刀し即座に抜刀。
――その刀身は、拳ほどの経口を持つ銃身と化していた。
刀の切っ先を、否、散弾銃の筒先を、影の軍勢に向ける。
「《
怨念金属でできた散弾を複数発、放つ。
それは火縄銃の弾幕とまるで同じように、影の軍勢を襲い。
八割弱を地面に溶かして消失させた。
「――た、助かった!」
とっさにミルキを肉壁にしたことが、阿舎利にとって功を奏した。
ミルキが持つ阿舎利の株が下がるが、先程岩を砕いた分の上昇が評価の下落を打ち消した。
「しかし、一体、召喚主はどこに……」
ミルキは、少し考えた後、阿舎利に声を掛ける。彼はアタリを付けたようだ。
「――阿舎利さん。地面掘れます?」
「地面? それは――まあ、やれんことはないが、金がいるぞ」
「垂直で良いです。だいたい――あのあたり。十五メートルくらいあればありがたいですが」
今朝まで陣幕があった場所を指差す。
「十万リルじゃの」
「はい」
ミルキは金貨を阿舎利に渡す。阿舎利はそれを指さした場所にまで持っていき、地面に置いてスキルを宣言した。
「《
相撲取りが余裕を持って入れる程度の大穴が、地面に開いた。
「ひぃ、おのれぇ!」
大穴の中から、叫び声が響き、銃声が放たれる。阿舎利の身体は吹っ飛び、HPも尽きた。
だが、【死兵】を持っていたのか、その口は僅かに動き。
「《不偸盗の戒》、しかと掛けたぞ」
そして、光の塵となった。
「くくく、ふはははは! なんともないぞ、老いぼれの最後っ屁が!」
先ほどとは比べ物にならない量の、影の軍勢が大穴から溢れ出した。
「ふはは、特典武具越しの視界は随分と窮屈だったが! やっと貴様らを蹂躙できるわ!」
《看破》を持つものが見れば一目瞭然だっただろう。
【
【
バフとデバフがセットになった状態異常、『戒』を与えるジョブ。ただし、自分で自分に与えた『戒』だけはデバフを無視できる。
【豪家顕藍 キンカクジ】
リルを消費してさまざまな建物を建造するエンブリオ。モチーフは「金閣寺」。
建物に限らず、橋やトンネルなどの土木工事に相当するものもリル次第では再現可能。ただし、同時に複数の建造物を作ることはできず、新しく作ると古いものは光の塵になり、リルは帰ってこない。
【深容禁錮 セイテン】
内部に敵を転移させ「いしのなかにいる」状態にし、さらに接触者や内部の存在に対する猛烈なSTRデバフで抵抗を禁ずるTYPE:ラビリンスの巨岩型エンブリオ。モチーフは三蔵法師が孫悟空(斉天大聖)を封じた大岩。ガン二バルはさらに【封姫】の魔法で抵抗できなくなった存在を半永続封印して無力化するタイプ。
ネタバレになりますが、UBMは今回のリザルト枠であり、その種別に大きな意味はないです。