剣道少年ビターエンドアフター ~後日談はデンドロで~   作:砂漠谷

9 / 21
華麗なる神族たち

 眼の前に現るは、【大将影(ジェネラル・シャドウ)】、黒羽影宗本体。

 プレイヤーたちはすでに逃散するかデスペナルティを喰らい、残ったのは、断佐とミルキーウェイの二人。

 

「貴様ら程度、我一人で十分じゃあ!」

 影宗は、髷を結い、ヒゲと眉を整えたきれいめの壮年だった。ただ、長時間の地下活動故か、やや土で汚れ、ヒゲも整えきれておらず、首筋にちょろちょろと黒い毛が生えている。

 

「現われよ我が軍勢! 《影の軍団(シャドウ・ウォーリアーズ)》!」

 

 影宗の足元から、影の武士たちが湧き出す。

 

「うん? 貴様ら、もっと遠くから出ぬか! で、出れない? ここからじゃないと?」

 

 影の武士が湧き出す速度が、先ほどと比べて明らかに遅かった。それを見抜いたミルキは、断佐にまだ【救命のブローチ】が掛けられていることを確認して、敵方へと走り出す。

 

「貴様、待て、待て! 我に降れば褒美を、待って、うおぉお、助けろぉおおお!」

 

 ミルキは静止を耳にしない。ようやく理解した影宗は刀を抜き、防御の構えを取る。

 

「その程度――<無夏>」

 

 名刀ではあっただろう。それこそ天地名刀百選に選ばれる程度には。

 だが、武器破壊に特化した技と、怨念金属でコーティングされた上級エンブリオの硬度には叶わない。

 そもそも、持ち手の技量が違った。

 

「お、おぉ、我の【燦々】がぁ!」

 

 返す刀で、影宗の首を刎ねようと、ミルキは一歩踏み込み。

 秋の風が吹く。

 

 その剣は、どこからか現れた、異様な剣に遮られた。

 

「なっ!」

「来たか、()()!」

 

 異様な剣は、握り手がいなかった。

 否、握る手のみがいた。右手のみがあり、手首から先は存在しなかった。

 宙に浮いた右手は、明らかに重力に逆らっている。浮遊能力があるのだろう。

 手は全体が包帯で覆われ、それに握られて宙に浮くのは、水晶か金属かわからない半透明の直刃刀。装飾はなく、まるで戦前に作られた工場刀のような無骨さの割には、妖精が握っているような可憐さがあった。

 その周囲には、同様に浮遊する一対二個の眼球。特典武具なのだろうか、虹色の光を秘める水晶でできていた。

 

「――何だ、いや、誰だ?」

 

「――ふふ、流石に分かるか」

 

 垂れている包帯の一部に隙間ができ、そこから唇が現れる。それが奏でる声色は、明らかに若い少女のものだった。

 

 数歩引く。半ばの無意識がミルキの身体を動かした。

 相手がプレイヤーだと察したはずなのに、臓器に冷や汗をかく気分だった。

 明らかに――それこそ、そこにいる【大将影】とは比べ物にならない程度に、()()()()()()()()が上だった。

 群れぬ獣を、飢えた隻眼の狼を想像して、更に一歩引く。

 これが、本当にプレイヤーか……? ミルキはカマを掛ける。

 

「――プレイヤー。声はキャラメイク時に設定できる声優の一種だな。何人か会ったことがある。何者だ?」

 

「ふふ。ジョブ名だけ名乗っておくよ、ミルキ。ボクは【隻剣王(キング・オブ・シンギュラーソード)】。ただの惨めな売剣夫さ。依頼はこのおっさんを守ること」

 

 【隻剣王】が名乗る。四面体に封印されているUBMを剣で指す。

 

「報酬は、そこの<UBM>の討伐権、だったんだけど……おっさん、払う気なかったの?」

 

 不満そうな声色に、おっさん呼ばわりされた影宗はやや怯えた表情で否定する。

 

「い、いや違う! か、勝手にあのガンニバルの小娘が! 我が家が統治する湖から盗んだのだ!」

 

「そういうことに、しておこう、今はね。じゃあ、ミルキ。勝負しようか」

 

 あまりにも自然な提案に、つい首を縦に振りかけたミルキは、横に振り直す。

 

「あ――っ、いやまて、【隻剣王】。妙に慣れ親しいのも気になるが――俺の仕事は決闘代理人じゃねぇ、大将の護衛だ。見逃してくれるなら引くぜ」

 

「ツレないね。ふふ――いいよ。おっさん、引くぞ」

 

 影の武士たちは、ざわりと動揺する。主の指示に従うべきか、主を殺しうる人間の脅迫に従うべきか――ロボット三原則のようなコンフリクトが起こる。

 

「な、なんだとぉ……! 命令だ! あのガキを殺せ! 我は自分で自分を守れる!」

 

 コンフリクトは、命令が言葉にされたことで解決した。

 影の武士たちは、火縄銃を構える。

 引き金が引かれる直前――、一陣の、穏やかな秋の風が吹き、全ての影の首は刎ねられていた。

 

「な、なぜ……我の軍勢を……」

 

「いや、そもそも()()()()()()、アンタじゃないし。あ、言っちゃった」

 

 影の首を斬り終えた【隻剣王】は、元の場所に戻って、呟く。

 声は軽かったが、その一言で、その場にいる全員の表情――【隻剣王】は表情が見えないので除く――が凍りつく。

 

「き、貴様ァ、我からあれほどの褒美を受け取っておきながら!」

 

 黒羽影宗は吼える。

 

「いや、あんな大量の米と山の幸要らないよ。現ナマでくれよ」

 

 【隻剣王】はぼやくように返した。

 

「やはり! 貴方を本当に雇った主は、()()()()()様なのですね!?」

 

 藤山断佐は叫ぶ。

 

「ああ、そだよ。もう言っちゃったしいっか。『不穏分子と明確な敵をぶつけて有望株を見つける作戦』らしいね。君、信用されてないよ」

 

 【隻剣王】はにこやかに返した。

 

「――【隻剣王】、お前は、何がしたいんだ?」

 

 ミルキーウェイ・アンティプライドは問う。

 

「うん? 何も? しいて言えば、ボクみたいに惨めな人生をあらゆる人間に送ってほしいと願っている、それだけ」

 

 【隻剣王】は、語るように返した。

 

「じゃあ、帰るね。こいつはボクとは一緒に来ないだろうし、置いていくよ。もう依頼は失敗したし」

 

 秋の風が吹き、包帯の巻かれた手と水晶の剣は消え去った。

 

 三人だけがその場に残る。

 一歩、ミルキは、黒羽影宗に近づく。剣クロサワを抜く。

 相手は超級職とはいえステータスの低い【将軍(ジェネラル)】系。彼は十分殺せると判断した。

 

「ふざ、ふざっけるな、この、わた、わたしが、こんなところでぇええええ!」

 

 首を飛ばそうと大きく踏み入ると、影の戦列歩兵が、ミルキと影宗の間を遮るように現れた。

 

「ははは! あの糞坊主の最後っ屁はもうなさそうだ! 《影の軍団(シャドウ・ウォーリアーズ)》、蹂躙しろ!」

 

 即座に前方の戦列歩兵らは発砲、だが、ミルキの意識は、前ではなく後ろ、断佐の方へ。

 

「《悪魔のように細心に(クロ)》」

 

 再度必殺スキルを宣言。迫りくる弾丸の距離と反比例するように、ミルキのAGIは跳ね上がる。

 その速度を利用し、藤山断佐に届きうる弾丸を【クロサワ】に計算させ、危険な弾丸のみを切り落とす。

 

 そして、切り落としたものと同じ数の弾丸を、散弾銃へと変化した剣を用い、戦列歩兵らに放つ。

 

「《天使のように大胆に(サワ)》」

 

 それで、戦闘は終わった。薄く横に広い戦列歩兵を、怨念金属の弾丸は貫通して、その一つが影宗の心の臓まで届いたからだ。

 【救命のブローチ】が砕けた音が影宗の耳に届いた。

「ひぃ、ひぃ、ぎゃあああああ!」

 

 自らに直面する死を悟った影宗は、全力で逃げた。それはそれは全力で。ミルキに追う気を起こさせないほどに、速く走った。

 草原を駆け、森に踏み入り、木の根で転びそうになっても。

 

 そして、柔らかな何かが、頭にぶつかって倒れた。

 

「はぎっ」

 

 影宗は視線を上に向ける。

 

「ふむ、黒羽家棟梁、よく仕事をやってくれた――が、儂が譲った【大将影】、そろそろ返してほしいのよ」

 

 二人の、悍馬に乗った【(ザ・ワン)】がいた。妙齢の美女と、白髪の目立つ長髪の好々爺。

 

 北玄院家嫡子、【薙神(ザ・グレイブ)】、北玄院碧乃

 北玄院家当主、【糸神(ザ・ストリング)】、北玄院藍牙。

 

「は、はは……」

 

 ここで、黒羽影宗の命運は尽きた。

 後は何を為そうとも、この地から帰ることはできないと。

 そう、彼は悟った。




『彼』はロールプレイ、というより自分を偽っています。
もともと、そういう性質ではなかったのですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。