特にいつの出来事かは決まっておりませんが、ひと段落ついてのんびりと過ごせるようになった時期のお話として書いております。
*PIXIVにも同じ名義で投稿しております。
月見酒
「偶には2人で出かけてきなよ。このところそれどころじゃなかったでしょ」
家の事はやっておくから行っておいでと、はーちゃんの勧めで出かける事にした私とみらい。
でもいざ2人きりとなると、案外行く場所が思いつかない。家族みんなでどこかに行く事が多いものだからだ。
ベタな選択でデートスポットというのもあるけど、生憎夜も更けているからどこも閉まっている。
「ねぇ、リコ」
どうしたものかと考えていると、みらいが声を掛けてきた。
「行きたい場所があるんだけどさ……、付き合ってくれない?」
「良い景色ね」
「月もよく見えるでしょ。リコといつか来たかったんだ」
街から少し離れた場所にある丘に私たちは腰掛けていた。
「十六夜の月を一緒に見上げたくて……。こうやって2人揃って」
「箒で迎えに行くんじゃ不満かしら」
「そんな事ない! でもさ、最初から一緒に月を観るってのもしたくて」
「なるほどね」
「それに箒に乗っていたら、こういう事は楽しめないでしょ?」
そういってみらいが傍に抱えたバスケットを開けた。中から黄金色の酒瓶が覗いている。
「こんなところで酒盛りをするつもり?」
「こんなところだから、だよ。十六夜を飲み込めるんだから」
「バカ……」
「かなり強いお酒じゃない」
みらいは平気で飲んでいるけれども、私には一杯煽っただけでアルコールが回ってきた。
「お代わりは水で割る?」
「そのままでいい!」
よせば良いのにそのまんままた飲む。こういう時だからか、なんだかみらいと違う物を飲みたくなかった。そんな気分だった。
「そのままか……。これ、何かで割って飲むものなんだけどなぁ」
「みらいも割ってないじゃない」
水の入った瓶に手をつけていないのは、みらいも同じだった。
「いや、私は割ってるよ」
「嘘ばっかり」
「本当だって。さっき言ったでしょ。忘れたの?」
『十六夜を飲み込める』って。
そう言って悪戯に笑うみらい。
「リコ2人分で割ってるから飲みやすいよ」
「じゃあ私もみらい2人分で割ってやるんだから!」
「朝日は出てないのに?」
「太陽の光ならあるじゃない。あそこと……」
グラスを置いて、まず私たちを照らす月を指差す。あれも太陽の光の照り返しなのは私も知っている。
「私の目の前に」
太陽の入ったカクテルと月の入ったカクテル。
他には何にもないけど、1本飲み干すにはこの2つがあれば十分だった。酔いが回るのも。
「おやすみ……」
行儀が悪いけどそのまま寝転がる。見ているのはみらいと月だけだから気にしない
「風邪ひくよ〜」
「お日様の近くで風邪なんか引かないわよ」
私の顔を覗き込むみらいの頸に両腕を回し、一気に抱き寄せる。
戸惑う彼女の様子も気にせずに、その温かさを全身で感じる。
「こうすれば、ね」
「リコ……」
「あったかい」
そのまま抱き合って、2人して夢の中へと落ちてゆく。邪魔する者は誰もいない。夜空に浮かぶ十六夜の月だけが、淡い光を放ちながら私たちを見守っていた。
「眠ってしまったようですね」
眠る2人の下に降り立ち、家から持ってきたコートをそっと掛けます。連れて帰ることも考えましたが、起こしてしまうのも申し訳ないからやめておく事にしました。
「それにしても綺麗なお月様……」
空に浮かぶ月に太陽の光が組み合わさってこの光景ができます。私のようにね。
「それに2人が眠る姿そのままでも……、ありますね」
お日様そのものをお月様が抱き寄せているから少し違うのかもしれませんが、どちらもないとこの光景ができないのは、十六夜の月と同じでしょう。
「このまま……、とはいかなくとも、こうした事が当たり前のように行える日々が続いてほしいものですね」
その永遠の平穏が訪れる事を今は静かに祈ることとしましょう。