本人なりに攻略法を生み出しましたが、はたしてみらいに通用するのか?
PIXIVにも同じタイトルで投稿しております。
「みらい、これからひと勝負どうかしら?」
自信満々に笑みを浮かべて、リコがトランプを取り出す。この前、はーちゃんとひーちゃんにボコボコにやられて泣き崩れてたから、流石に懲りたと思ったんだけどなぁ。
「いいよ。でも私よりモフルンとやった方が良くない?」
モフルンは、勝っても私みたく取って喰うこともないし、はーちゃんやひーちゃんみたくとんでもない量のおやつを奢らせることもない。だから完全ノーリスクなんだ。
それにモフルンも嘘を付けないから、リコと腕は大差ないんだよね。
「ふふん、もうモフルンじゃ私の相手にはならないわ!」
あーあ、そんな事言って良いのかなぁ。モフルン、そこにいるのに。それに……。
「この前、3時間も粘っておいて負けたじゃん」
「負けてないし! あ、あれはモフルンが疲れてたから譲ってあげたのよ! それに夕飯も近かったし!」
なんだろう、このギャグ漫画にいそうな小物ぶりは。まぁ、リコって二枚目を自認してる三枚目なところはあるから、こういう台詞は良く似合う。それがまた可愛いんだけどね。言ったらカンカンになって怒るから言わないけど。
いや、怒らせた方が良いのかな。リコほど下拵えの効果が出やすい子はいないから、適度におちょくるのは大事だ。
「ねぇ、リコ。ひょっとしてさ、この後の事、期待してるの?」
「この後の事って何よ」
「いつもやられて私に好き放題されてるじゃん。そういうのが好きなのかなって思ってさ」
「そ、そんな事ないし!」
なんでわざわざ吃って返すの? なんでこっち向かないの? まぁ、こういうツッコミを出すのも良いけど、ちょっとキツイのを返してみようか。
「ねぇ、床が濡れてるんだけど」
「嘘っ!」
私が下に目を向けてそんなことを言ったものだから、リコも慌てて足下を確認する。別にリコの足下なんて言ってないのに。
これなら大丈夫だ、今日も勝てる。
「は、謀ったわね!」
「何を?」
「とぼけないで! 私の足下が濡れてるだなんて」
「リコの足下なんて言ってないよ。床が濡れてるとは言ったけど」
「なっ?!」
「ナニか濡らすようなことでも想像したの?」
意地悪な微笑みと一緒にわざと妙な言い方をする。
リコを素直にするおまじないだ。
「う、うるさいわね! 私、そんなに溜まってないし!」
わぁ、効果覿面。
「語るに落ちたね」
「落ちてないし!!」
そうそう、リコ、どんどん落ちていって。
私がしっかりと底なし沼に引き摺り込んであげるから。
「なに笑ってるのよ」
「いや、リコでなにして遊ぼうかなぁって考えててさ。そろそろネタが尽きかけて困ってるんだぁ。ねぇ、溜まってるんでしょ? 何かリクエストない?」
「えっと、じゃあ……。ちょっと! 何言わせる気?!」
ちぇっ、あと少しだったのに。
「そういうところは素直になんなきゃ。リコがこの後どうなるのかなんて、火を見るよりも明らかなんだからさぁ」
呆れ顔で返すと、リコの顔が茹で上がったタコのように真っ赤になった。ああ、分かりやすくて良いなぁ。おまけにいつ見ても面白い。
「馬鹿にしてぇ!! もう怒った! 今日こそ勝ってやるんだから!」
いつになったら来るのかな、その『今日』。
この前、はーちゃんとその事で賭けをしたっけ。
どっちも永遠に来ないに賭けて、結局勝負にはならなかったけど。
「みらい、ゲームを始める前にこれを被ってちょうだい」
そういってリコが手渡したのは、縁日で見かけるようなお面だ。しかも自分の分まで用意して被ってる。
「お互いの表情を読めなくするつもり?」
「そうよ。あなたのお得意のフェイクを使えなくしちゃえば良いって気づいたのよ」
フェイクねぇ……。だから顔を隠すって発想はいいんだけどさぁ……。
「うわぁ、せっこいなぁ」
「せこくないし! これは歴とした作戦よ!」
もっとどうにかしなきゃいけないところはそのまんまだ。作戦にすらなってないや。
「私も被ってるもの。これで公平でしょう?」
「どこがさ〜。お面被ったところでリコはそのまんまじゃん」
「どういう意味よ!」
「そのまんまだよ」
「変な顔で悪かったわね!!」
そこじゃない。そんなに感情を剥き出しにしちゃ意味ないってことだ。
はーちゃんみたくずーっと笑っていられなきゃ、お面の意味なんかないよ。
鏡でも見せれば気づくんだろうけど……、リコを食べられなくなるのは嫌だからそんなことはしないでおこう。
配られた札を額にくっつける。
リコの札は8。ちょうど真ん中だ。どうしたもんか。確率で言えば、勝ち負け共におおよそ同等。ジョーカーもある分、こっちの方が有利か。引き分けも入れたら損をする確率は少ない。
「あは」
良い状況にいる事に気づいて、よせば良いのに笑い声が出てしまう。
「ど、どうしたのよ」
「別に?」
プラスアルファで、今のリコの様子から私の札がどうやらそれなりに大きいらしいことも分かった。芝居が打てない事を考えれば、このまま乗ってもいいだろう。
「じゃあ、いくよ」
「え、ええ」
「いち」
「にの」
「さん!」
「ああっ!」
カードを放り出した途端、リコが叫んだ。
私の札は9。あぁ、やっぱりね。
「リコ、ヤバそうなら降りなきゃ」
「う、うるさいわね! もしかすると私の札の方が大きかったかもしれなかったじゃない!」
よしよし、勝つことだけしか考えてないな。
その「奇跡」が起きる確率も低くはないけど、あの十六夜の夜の再会とは違って、努力で手繰り寄せられるようなものじゃないからね。
「さぁ、もうひと勝負いくわよ!」
「そ、そんな……」
結局、30分で方がついた。わぁ、新記録だ。
私相手じゃ20分と少し保たせるのがやっとだったのに。
「なんで?! モフルンにはこれで勝てたのに!」
あぁ、前もってテストしていたんだ。でも意味無かっただろうなぁ。
「簡単だよ。モフルンとリコは、タイプが同じだもん」
「えっ?」
「どっちも自分に正直過ぎるからね。顔隠したって意味ない、意味ない」
「そ、そんな……」
それなりに考えてきた作戦が何の意味もなかった事を教えられて、リコはがっくしと肩を落としてしまった。
このまま食べちゃうのも有りだけど、もう少し活きが良いほうが食べ応えがある。そこでちょっと悪戯を仕掛けることにした。
「今日はこれで終わりにしようか」
「へっ?」
心にもないことを言って、リコを驚かせる。私が「お約束」を欠かさないことはよく分かっているからね。
「い、良いの?」
「今日はしてほしいこともまだ決めてないし、このまま終わりで良いよ」
そう。まだ、決めてないんだ。まだ、ね。
だから止めるなら今がチャンス。さてこれに気づけるかどうか。
「そ、そっか」
「あれ、もしかして期待してた?」
「し、してないし!」
「いやいや、リコ。ここは素直になっていいんだよ? リコが辛いと私も辛いもの」
「なに妙な気遣いしてるのよ! あなたがやりたいだけじゃない!」
「何をさ?」
「とぼけないで! セ……」
そこまで言って顔を赤くして黙り込んでしまう。
だから素直になりなって。どうせ聞いてるの私と台所に行ったモフルンだけなんだから。
「セ? ええと、なに?」
「そ、それは……、その」
「ほらほらぁ、教えてよ。リコ先生?」
思春期の悪ガキのような口調でニヤニヤ笑いながら迫る。我ながら底意地が悪い。
「ねぇねぇ、早く言わなきゃ何にも進まないよぉ〜?」
「う、うるさいわね! こうなったらもうひと勝負いくわよ! 私が勝ったら当分の間、エッチはお預け! 良いわね?!」
その言葉を待っていました。この分だと、負けたらどうなるか考えてないね。
「また語るに落ちたねぇ」
「だから落ちてないし!! 絶対絶対勝ってやるんだからぁ!!」
「それじゃあ、これからはお楽しみの時間だね。ワクワクもんだぁ」
例によって例の如く、用の済んだトランプを放り捨ててリコに迫る。もう皆まで言わなくてもわかると思うけど、ゲームは私が勝った。
「えっ? でもさっき何も決めてないって」
「今決まったもん」
「そんなの無しよ!」
「有りだよ。私にたっぷりと時間をあげちゃったリコが悪いんだから」
にんまりと笑いかけるとリコが後退りをする。目の前の女郎蜘蛛に何を言っても無駄だと気づいたんだろう。
「忘れたの? さっきは『まだ』決めてなかっただけだよ」
「そんなの覚えてないわよ! きゃっ!!」
叫ぶリコをベッドに押し倒し、耳元で大事なことを囁く。リコが絶対に知らないことを。
「私みたいなわる〜い子と遊ぶんだからさ、油断しちゃダメだって」
リコの周りにいるのは皆んないい人達だから、「悪い奴」には慣れてないんだろうなぁ。だから罠を仕掛け放題だし、挑発して手のひらで転がすことも簡単にできちゃう。
「何してるモフ?」
「モフルン! 良いところに!」
早速喰らいつこうとした時に、台所からモフルンが入ってきた。
捕食されかけていたものだから、リコは待ちに待った救世主がやってきたと言わんばかりに歓声をあげている。
「モフルン、大変なの! みらいがまた悪霊に取り憑かれたわ!」
「はい?」
いきなり予想だにしなかった事を言い出したものだから、私もモフルンもぽかーんとしてしまった。悪霊なんてどこから引っ張り出してきたんだろう。
「ちょっと何言ってるか分かんないモフ」
「ハロウィンの時と同じよ!」
ああ、私が悪霊に取り憑かれて騒ぎを起こした一件を持ち出したんだ。確かにモフルンがなんとかしてくれた話だけど、それを今引っ張り出すのは無茶でしょ。
案の定、怪訝な顔をされているもの。
「悪霊ってどこがモフ?」
「みらいは、後出しで罰ゲームを決めるような小狡い事なんてしないじゃない! きっと悪霊が……」
「だから何言ってるか分かんないモフ」
モフルンは鬱陶しそうにリコの妄言を切り捨てる。
「あとモフルン、これから1日出かけるモフ」
続けて死刑宣告まで出して与える絶望を深くしてくれた。ありがとう。本当にありがとう。今度、カウボーイを奢ってあげなきゃ。
「えっ? う、嘘でしょ……」
救世主に相手にされなかったばかりか、最早救いの手すら差し出してもらえない事が分かったリコは呆然としている。
「どこ行くの?」
「この前助けた白猫さんのところモフ。子守りの相談がしたいって頼まれたモフ。晩御飯もご馳走してくれるって言ってたモフ」
「そうなんだ。皆んなによろしくね」
ちょうど聴き覚えのあるオートバイの音がアパートに近づいてきた。遠い街に住んでるのに、わざわざ迎えに来てくれたんだ。
「モフルン、私も」
「あのマシン、二人乗りモフ。それとリコ」
「な、何かしら?」
「リコより弱いモフルンに、みらいをどうにかできる訳ないモフ」
全く笑ってない目でリコを見下ろして、にっこりと笑うモフルン。
あーあ、さっき得意げに相手にならないなんて言ったから機嫌損ねちゃったよ。これは高級食パンでも献上しなきゃね。
「じゃあ行ってくるモフ」
「ま、待って! モフルン様ぁ! 調子に乗ったことは謝るからぁ!」
その懇願もドアを閉める音に掻き消される。雉も鳴かずば撃たれまいに。いや、鳴くのはこれからか。
「そうそう、はーちゃんとひーちゃんも明日まで帰ってこないよ。お母さんと一緒に、糸魚川まで翡翠を取りに行ってるもん」
「あっ」
もう1発絶望感を誘う弾丸を直撃させて、自分が置かれた状況を分からせる。本当に良い顔をしてくれるから私の方が床を濡らしてしまいそうだ。
「そういうわけで2人っきりだね、リコ?」
「あっ、あ…………」
もうここから逃げ出す手なんてない。
もっともそんなものは、最初からないんだけどね。勝てもしない博打に誘った時点で、蜘蛛の巣の中に自分で飛び込んだようなものだもん。
「心配しなくても大丈夫だよ。頑張ったリコにたっくさんご褒美をあげるだけだからね」
耳を一舐めして息をふっと吹き付ける。
こうすればリコはもう糸に絡まった蝶々同然だ。力が抜けてしまった身体で、怯え半分期待半分の眼差しで私を見上げることしかできなくなる。
その眼差しによって、理性の箍が完全に外れる。
「でもまぁ……、私にちょっとだけでも我慢させたんだもん。覚悟はしてね?」
「ゆ、許してぇぇぇえ!」