大飯食らいの家族と一緒に暮らすようになってから半年。
そのとんでもない食欲が移ったのか、アタシは夜中に変なことをやるようになった。
「ええと、冷やご飯と卵とコンソメ……。これでいいか」
水を張った鍋に目についた食材を放り込んで火にかけ、焦がさないようにかき回す。
妖精の里にいた時は、こんなことしてなかったのに。
「ナシマホウ界だと簡単にお腹が空くのね……」
そもそもこんなに食べていただろうか? あまり食べるということをしてなかったような気がする。
料理もあんまりしなかったような……。めんどくさかったからかしら? いいや、違う。
「そもそも悪戯以外することなかったわね」
それ以外、何かを考えたことなんてなかった。どうでも良かったもの。
それが今は食べる事に夢中か……。夢中というほどじゃないけど、意識はするようになった。
「今日は何作ってるの」
しかも夜食を作っていると、誰かが起きてくる。大抵はひすいが空きっ腹を抱えてやってくる。同じ部屋で寝ているものね。
「おじや」
「ひーちゃんの分もある?」
「ないと思う?」
ないとごねるか自分で何か作り出すから、作っておくに越したことはない。次の日の夕飯が貧相になりかねないもの。
「ほら」
「ありがと」
お腹が空いていたのか、茶碗を受け取るなり大急ぎで掻っ込んでいる。熱いのに平気なのかしら?
「あちゅ!」
案の定舌を火傷した。
「何やってんの?」
「熱い!」
「出来立てなんだから当たり前でしょ」
「先に教えてよ!」
「見りゃわかるでしょ。ったく」
水を渡してやると、一気に飲み干してグラスを空にした。なんでこうも子供はセカセカと動くのか。
「ピーちゃんのジュース入れて!」
「は?」
アタシのジュース? 何それ?
「りんごのジュース!」
「もしかしてこれ?」
カルヴァドスの瓶を出すと首を元気に縦に振った。
「ちびっ子に飲ませるわけないでしょ」
そんなことしたらママ2人に死ぬほどどやされるのは目に見えている。怒らせるととてつもなく怖いのよ。
こいつが復活した時のことを考えると、悪戯を仕掛けた時に同情されただけで済んだのは、本当に運が良かったんだとつくづく思う。
「ピーちゃんだって小さいもん!」
「あのねぇ、アタシあんたよりもずっと年上だからね?」
「そうなの?」
キョトンと首を傾げている。生まれて数ヶ月の子よりも大きいのは当たり前でしょうが。
「いくつに見えたのよ」
「ええと、3歳!」
「んなわけないでしょ」
もっともアタシも自分が幾つなのかは知らない。だって数えてくれる人が全くいなかったのだもの。
「おかわりちょうだい」
「ないわよ」
「えー!」
「1人前のおじや2人で分けたんだから当たり前よ」
「もっと食べなきゃピーちゃんもひーちゃんも大きくならないよぉ」
「アタシはこれでちょうど良いし、あんたは食べ過ぎなのよ」
こんな小さなナリならあれだけ食べてりゃ十分でしょうが。
「そんなことないもん! はーちゃんよりも先に大きくなりたいもん!」
「横に?」
「え?」
「たくさん食べたらブクブクと太っちゃうでしょォ」
意地悪くニヤニヤと笑うと、ちんちくりんは顔を真っ青にした。
「太っちゃうのは嫌だァ!」
「でも食べちゃったわよォ〜?」
「どうしよどうしよ! あっ、そうだ!」
何か良い手を思いついたのかポンと手を叩くと、おチビは私を背負って一目散に玄関に駆け出した。何するつもり?
「どこ行くのよ?」
「ピーちゃんと一緒に町を一周するの!」
「は?」
ひすいのランニングに付き合わされた後、今度はアタシがこいつを背負って走る羽目になった。おじやを食べたのはアタシも同じだから同じだけ走れって。
逃げようとしたけど、このおチビの足がそれはもう速くて速くて、あっという間に捕まってしまって観念するしかなかった。
「ピーちゃん、おそい!」
「か、か」
息を切らしてしまうから勘弁してとも言えない。
「明日からひーちゃんと一緒に走ろうね!」
冗談じゃない! アタシは部屋でゴロゴロしてる方が良いの!
「い、いや……」
「ひーちゃんと一緒にお留守番するんだから走るの!」
アタシ、なんであんな約束したんだァ!
「それにいっぱい走れば太らないもん! ピーちゃんもいっぱい食べるもん!」
アンタほどの大飯食らいじゃないわよぉ!
ああ、冗談が分からない奴を揶揄うんじゃなかったぁ!