昔は毎日投稿もっと出来ていたんですけど、寄る年波には勝てず……。
今後も自分のペースで頑張るデース!
ローテーブルの上にはチェス盤。いつでも対戦を待ち受けてるとでも言いたげに駒は全て盤の上に配置されている。
そして、盤の傍らには同期のフユコ・マユズミが表紙を飾ったザフトの広報誌も置かれていた。
「レイの同期は面白い子が多いな」
ソファにゆったりと腰掛け、リラックスした様子でギルは言った。
「ええ。それなりに」
「ははっ。レイがそう言うくらいなら、結構楽しめているということだね」
楽しめている……というのは、たしかにそうかもしれない。
今まで出会ったこともないような種類の人々に囲まれて過ごすのは存外悪くない。
シンは確かに未熟だけれど、その成長性には目を見張るものがあるしルナマリアは真っ当に優秀だ。
「彼女の様子はどうかね?」
ギルが広報誌へと目を向けて言う。
フユコ・マユズミ。
俺は彼女のことをいまいち掴み切れていない。
誰に対してもいい顔をして、人に好かれようとしている。最初はただの八方美人だと思っていた。けれど、彼女のその表の顔は彼女なりに筋が通った生き方だと知って、八方美人などではないと認識を改めた。
あれはフユコ・マユズミが理想とする姿。それを体現し、ごく限られた人間の前でしか本性を表さない。本性と言っても、言葉から連想されるような悪人的な本性ではない。気が強く、激情的。
別に隠して生きる必要もないものだろう。しかし、彼女の中には確固たる理想があり、それをあのアカデミーという環境で理想の姿で振る舞い続けている。役者だとしても無理だろう。アカデミーの訓練は、特に後期のパイロット課程では人間の限界を試される場面も多い。人間は限界を迎えると、その本性が現れる。
そんな中で、彼女は理想の姿を演じ続けている。
それが、俺には分からない。
何故、そんなことをする必要があるのかと。
「最初こそ不服そうでしたが、根は真面目な奴です。訓練に励んで順調に腕を上げています」
「ああ。この前、模擬戦でレイが負けたと聞いた時は驚いたよ」
……ギルの耳に入っていたか。
しかし、これまでの勝敗であれば俺の方が勝ち越している。
あの日は、彼女のプレッシャーに少々気圧されただけだ。
「レイが彼女をパイロット課程に進ませるよう手配してくれと言ってきた時は少々驚いたがね、言うとおりにして正解だったよ。ありがとうレイ」
「ギルの役に立てたなら俺も嬉しい」
「パイロットの適性もあれば、こうした広報……いいや、アイドル的な才能も彼女にはありそうだ。なかなか評判が良くてね、広報部長がどうにか引っ張ってこれないかと言っているらしい」
そこまで、人を魅了するのか。フユコの笑顔は。
いや、正直に告白すると俺自身、この広報誌に載っていたフユコの笑顔をたしかに魅力的だと思ったのだ。
彼女の笑顔は作り物ではある。だから魅力的な笑顔ではないと、言うことは出来ない。
本物の笑顔なんてものが存在するかは分からないが、フユコの笑顔は本物を凌駕する偽物。偽物が本物に敵わないという道理はない。
「……たしかに彼女には、そういった仕事も向いていると思います。いや、むしろ……」
むしろ、なんだ。
何を言おうとしたんだ、俺は。
「だが、
「……ええ」
「パイロットとしても優秀。周囲に良く気を配り指揮官の適性もある。問題児のシン・アスカも彼女の言うことには逆らわないそうじゃないか」
たしかに、今後のことを考えるとシンとフユコはセットであるべきだろう。
教官に反抗的な態度を示すシンも、フユコの言うことはある程度素直に聞く。これは俺やルナマリアにも出来ない。彼女の人となりがそうさせるのだろう。
シンの境遇を思ってのことなのか、フユコはシンに対して親身に接している。
ルナマリア曰く、母親のようだと。
母親……。
「どうした、レイ?」
「いえ、なんでも……」
母親とは。
俺は母親を知らない。
知ろうとも思わないが。
ナイフ戦闘の訓練で、シンが教官にキレた。
極々つまらない理由で。
教官と学生の関係性はドSとドMの関係性とでも言えるようなもので、とにかくしごく。しごいて、しごく。
それには言葉による攻撃も含まれる。学生のやる気を引き出すためだ。
ふゆもまあカチンとくるようなことを言われるけれど、それもまた訓練だと思えば我慢というかスルー出来るのだけど、シンにはまだそのスルースキルが足りていない。
真正面から言葉を受け止めて、キレる。もういい加減なれたらいいのに。
「今日も派手にやられたわねー。いい加減、学習しなさいよ」
「だって教官が! 痛って!」
ルナマリアにまで食ってかかるのを消毒で黙らせる。
「あんたがそうやっていちいち反応するから教官側も面白がってんの」
頬に出来た傷口の消毒をしながら、教官と同じ気持ちになってつい余計に傷口を消毒してしまうけれど、これもまた訓練と思いなさいシン。
あとは絆創膏を貼って……。
「はい、これで良し」
「ありがと……」
「あ、その絆創膏可愛いわね」
「は!? どんなの貼ったんだよフユ!」
シンはドタバタとロッカーの扉の内側にある鏡で顔を確認する。ピンク色の可愛らしい絆創膏を貼ってあげたんだけど、不服らしい。
まったく、我儘ね。
「普通の絆創膏にしてくれよ!」
「あら、普通の絆創膏じゃない。特別な効能も何もないわよ」
「そういうことじゃなくて!」
「いいじゃない。可愛げも必要よ」
膨れっ面になるシンに、元から可愛げはあったかと内心で思っていると視線を感じた。
これまでずっと黙っていたレイだ。
「なに? どうかした?」
「……いや。シンはすっかりフユコの玩具だと思っただけだ」
「誰が玩具だ!」
「だから、それが駄目だって言ってるでしょ。レイも、人聞きが悪いこと言わない」
レイだってシンを玩具にしたでしょう、今。
こいつも案外、茶目っ気があるというかなんというか。シンを弄って満足したのかまた黙り込んで、やっぱりこいつのことはまだまだ分からないわね。
そう思っていた矢先のこと、珍しくレイと二人きりになる機会があった。シンは補習、ルナマリアはメイリンに呼ばれて何か用事があるらしく、日課である終業後の自主トレはレイと二人で行うことに自然となった。
お互い特に二人しかいないから今日は無しとも言わなかったし。
そして相手はレイなので特に喋ることもなし。黙々とシミュレーターでの戦闘訓練を行っていた。
やはりレイは強い。流石、首席卒業確実と言われるだけあってなかなか崩せない。だけど、こっちもそう簡単にやられるわけにはいかないのよね!
突撃機銃の弾丸をばら撒き、牽制。重斬刀を左手で抜き、スラスターを吹かして加速。デブリを盾に隠れ潜み、攻める。
デブリを蹴り、勢いをつけてレイ機へと接近。ふゆ得意の戦法で、カタをつける。
「やあッ!」
「チィッ!」
重斬刀の一撃を左手を犠牲にして防御するレイ機に驚き、一瞬固まるとその隙にレイ機の突撃機銃が火を吹いた。
こっちの左肩に弾丸が命中し、こちらも左腕を重斬刀ごと失ってしまう。反撃に突撃機銃を放つも、レイ機はデブリの影に隠れて回避。一旦、仕切り直しとしたいのだろう。
互いに左腕を失くし、武装はこちらは突撃機銃のみ。対して、あちらは突撃機銃と重斬刀が揃っている。右腕しかないので同時に使われることもないだろうけれど、この差がどういう結果をもたらすのか。
「残弾数は……同じくらい撃ってるから、そう差はないはず……」
一呼吸入れ、レイ機を追撃する。
「……やはり、デブリ戦が得意のようだな」
「……珍しいわね。シミュレーション中に話しかけるなんて」
「まあ、な」
口を動かしつつ、手も足も目も動かしてシミュレーションに集中する。まだ決着はついていないのだから。
「やはりパイロット課程に進んで良かっただろう?」
「なに? 煽ってんの?」
「褒めているんだ」
「伝わりにくいっての!」
デブリの影から飛び出たレイ機へと銃口を向ける。
弾丸はデブリの表面を砕き、肝心のレイ機には命中せず。
反撃の銃弾がデブリを盾にしたレイ機から放たれたのを回避し、加速する。だけど、左腕を失くした分が反映されたせいで機体の制御が普段通りにはいかない。
なるほど、レイの奴はこれを狙って……。
「どうした。いつものように動き回らないのか」
「あんたの言う通りになんか動かないわよ」
とは口で言いつつも、内心は焦っている。
得意の戦法を封じられたも同然なのだ。やってやれないことはないけど、損傷した機体で動き回るのはリスキーだ。
だからレイは派手に動き回らず、デブリを盾にした狙撃に戦法を変えている。下手に動き回って、しくったところを狙い撃ちになんてされたら堪らない。
狙撃対決となると、レイの方が有利だ。射撃の腕だってあちらが上なのだから。
ふゆの勝機は、中近距離に接近しなければ無いと言っても過言ではない。
(しかし、そこで一か八かの賭けに出るほどフユコは甘くない)
さて、一気に飛び込んでいきたいところだけれど、ぐっと堪えて頭を使わなければ。
デブリを利用して接近するにしても、レイに狙い撃たれる可能性は高い。確実に接近して、レイを仕留める方法……。
いや、やっぱり突っ込むしかなくない?
考えた結果それしかないんだし、左腕がない分は技術でカバーするしかない。相手の得意領域に持ち込まれたなら、それを打ち破ってふゆの得意なことで勝機を掴みに行くしかない。
もう、それしかない。
それに、これは模擬戦。死ぬわけでもない。
突っ込んで負けたなら、どうすれば勝てたのかを終わった後に考えればいい。
腹は括った。あとはもう突っ込むのみ。
一か八かではない。考えた末の突撃だ。
「ッ……! わざわざ突っ込んできたか!」
「狙い撃てるものならやってみなさい! レイ!」
最高速でレイ機へと吶喊。
迎え撃つ銃撃が赤いラインを引いてこちらへと迫ってくるのにも構わず。
突撃機銃をぶっ放し、反撃の隙も与えない。
このまま押し切る!
「チッ……」
デブリの影から突撃機銃だけが現れて、弾丸が命中。あちらの弾丸に引火し爆発。
その爆炎の中から、重斬刀を構えたレイのジンが現れる。
「嘘でしょ!?」
「……!」
レイのジンが迫ってくる。
まさか、レイまでこんな思い切った行動に踏み切るとは思わなかった。
突撃機銃の残弾は残り僅か。
レイ機との距離も近い。マガジンを交換している暇もない。
そして、ここで減速したら……負ける。そう、直感が囁いていた。
こうなればもうチキンレース。
ふゆが射撃を全弾外せばレイの勝ち。レイが被弾すればふゆの勝ち。
絶対に当ててやるんだから。
そして、決着は数秒のうちについた。
ふゆの弾丸がレイ機の胸部を貫くと同時に、レイが投擲した重斬刀がふゆのジンの胸部に突き刺さった。
「……ここまでやってドローとか……」
「……いいシミュレーションだった。パイロットには大胆さも必要ということを理解した」
本当に思ってる?
いや、本当にそう思っているようだ。レイは思ってもないことを言うようなタイプでないことは、この数ヶ月でなんとなく分かってきている。
「……フユコ」
「なによ」
「お前がパイロット課程に来て良かったと俺は思っている」
「そんなこと言われても、あんまり嬉しくないんだけど」
ふゆからすれば不服も不服なのだ。
どれだけ褒められても嬉しくはない。
「運命なんだろう。これが」
……レイにしては、らしくない言葉を使ったとその時思った。
ただ、それよりも現状を黙って受け入れろと言われたようで腹が立ったのだ。
「はっ。運命? 冗談じゃないわよ。運命ってのは自分で切り開くものよ。黙って受け入れろなんて、出来ない相談ね」
ちょうど夕食の時間になりレイを置き去りにして一人で食堂に向かってしまったが、この程度のことでショックを受けるような奴でもないだろう。
ルナマリアとメイリンあたりと合流出来るだろうか。シンは……流石に補習終わってるわよね?
シンはいつも通りレイと行動させればアフターケアにもなるか……って、そこまで面倒見る必要もないでしょ。
別にギクシャクしてるわけでもないんだし。明日からはいつも通りよいつも通り。
第一、レイとはそんなに会話することもないんだから!
「運命は、自分で切り開くもの……」
定められたもの、既に決まっているもの。それが運命なのだとギルは言っていた。
けれど、彼女は……。
いや、それはきっと間違いだろう。既にそうだと決まっているのなら、切り開いたと思ったところで意味がない。
何しろ、彼女は運命に抗えてもいないのだから。
パイロット課程に来たことが何よりの証拠とも言える。彼女は何も自分の力で切り開けてなどいない。
だから、正しいのはギルの方だ……。
ふゆ 自分の運命は自分で切り開く論者。デブリ戦が得意。
レイ 怪しげな良い声の議長とは懇ろな関係。運命は既に決まっているもの。
シン ピンクの絆創膏を剥がして捨てようとした時にちょっと躊躇した。
ルナ シンのお姉さん第2号と認知されてきている。デブリ戦の成績は悪い。
議長 絶賛暗躍中。