僕は……アンチ・ヘイトなんかしたくないのにぃーーっ!!!
「はあ……。アタシ、射撃苦手なのよね……」
「ルナはまだいい方だろ……。オレ、一発も当たらなかった……」
「ふ、二人とも元気だして! 次は上手くいくように練習しよう?」
ルナマリアとシン・アスカの二人はさっき終了したばかりの拳銃射撃の訓練での結果に肩を落としていた。
シン・アスカはともかく、ルナマリアまで苦手なんて。まあ、人間なんて苦手なものがある方がちょうどいいぐらいね。
ふゆも本当は銃なんて上手くなりたいわけでもないし、こんなのが似合うような女じゃないし。
「うん……。それにしても、フユもレイもなんであんな当てられるんだ?」
「ほんと。コツとかあるの?」
二人が質問すると、これまでずっと黙っていたレイ・ザ・バレルが口を開いた。
「落ち着いて撃てば当たる」
……アドバイスになってない!
なに? こいつも天才肌系?
思えば、シン・アスカの勉強会の時もレイ・ザ・バレルの説明、指導はシン・アスカにとって優しいとは言い難いものだった。
レイ・ザ・バレルが説明したことを噛み砕いてシン・アスカにも分かりやすく説明するのがふゆの役割になりつつある。
でも、こいつは天才というより秀才ね。一人で勉強したりシミュレーションしてるところもたまに見かける。
説明も単に下手くそなだけだろう。
案の定、二人からはレイ・ザ・バレルへのクレームの声が上がっている。すると、レイ・ザ・バレルはふゆに注目の的を移してきた。
「フユコはどうなんだ? なかなかの腕前だった」
だからふゆって呼べっての。けれど、今は話の腰を折らずに話すのがベスト。
「うーん……ふゆも教官の言われたことを守ってるぐらいかなぁ……」
「それで上手くいったら苦労しないわよ……」
「ごめんね。まだ、なんで上手くいったのか言語化出来てなくて……。回数を重ねれば、分かってくると思うんだけど……」
「そうだな。オレ、出来るようになるまで練習する!」
「ほんと、単純なんだから」
「いいだろ。これが一番性に合ってるんだから」
シン・アスカはたしかに人一倍努力しなければいけないし、人よりも遠回りな道のりになるかもしれない。
けれど、それに悲観して諦めるのではなく努力することを選んで実践していることは評価するべきだろう。それは間違いなくシン・アスカという人間の強み。
このまま努力を続けていけば、いずれ彼のことを落ちこぼれと言う輩はいなくなるだろう。
それに、最近は仲の良い友達も増えてきているみたいだし。思ったよりも上手くやっていけるかもしれないわね。
「……フユ、なんかお母さんみたいな顔してるわよ」
「おかっ……そ、そんな顔してたかなぁ?」
失礼ねルナマリア。
誰がお母さんよ。まったく。
危うくキレるところだったけれど、ルナマリアだからまだ許せる。
「落ちこぼれはどんだけやったって落ちこぼれよ。シン」
……耳障りな声がした。
声の主は立ち止まったふゆ達を追い抜いて、正面に立ち、シン・アスカを嘲笑していた。
赤よりのピンク髪をツインテールにし、これまたピンクのアイシャドウを塗りたくった女子。
アグネス・ギーベンラート。
最近、シン・アスカによく突っかかってくるようになった……それだけならまだいいんだけど、ふゆにまで突っかかってくるのよね。
原因は先日行われたモビルスーツのシミュレーション訓練。
チームで分けられ、アグネス・ギーベンラートはシン・アスカと同じチームであった。
そして、そのチームと対戦したのがふゆのチーム。
チーム戦はふゆのチームが勝利したのだけれど、アグネス・ギーベンラートは気に食わないことがあったようだ。
まず、シン・アスカに対して。
戦闘開始わずか14秒で撃墜されたことに腹を立てていた。その撃墜したのはふゆだったんだけど……仕方ないじゃない。的になってたんだし、訓練で手を抜くわけにもいかないし。
とにかく、アグネス・ギーベンラートはチームの足を引っ張ったシンを詰った。「お家に帰れば!」なんて言った時には流石にふゆもキレかけた。
シン・アスカには帰れる場所がないのだ。
彼はプラントに来るまでは地球のオーブ連合首長国で暮らしていた。地球の国家の中では数少ないコーディネイターを受け入れている国でもあり、連合、ザフトに対して中立の立場を取る国でもあった。
先の大戦中も平和だったというが、ある日を境に平和が崩れることとなった。
連合軍は当時、最高司令部であったアラスカ基地を放棄し自爆。また、パナマ基地を失ったことで宇宙への足がかりとなるマスドライバーを喪失。
これにより、連合の上層部が目をつけたのがマスドライバーを保有するオーブだった。
政権退陣、武装解除を48時間以内に行え。さもなくばザフトに味方する勢力と見做し、攻撃する。
到底受け入れられないような通達だろう。すなわち、国の全てを明け渡せと言っているのだから。
中立を謳うオーブは徹底抗戦の姿勢を取り、オーブは戦場となった。
しかし、数で勝る地球連合軍にオーブ国防軍は劣勢に陥り、オーブは国民や残存兵力を宇宙へと避難させマスドライバーや軍関係施設を爆破。自爆したのだ。
これが、地球連合によるオーブ侵攻の大まかな流れ。この辺の話は、シン・アスカがオーブからの難民ということを知ってから調べた。変な地雷を踏んでは堪らない。
そうして、シン・アスカは一人でプラントに逃れてきた。
シン・アスカの家族はこの戦闘に巻き込まれ命を落としたのだ。
そんな人間に「お家に帰れ」なんて言える奴の気が知れない。
それでいて、そんなの関係ないとまで言うアグネス・ギーベンラートのことを殴ってやりたかったけれど、余計なトラブルは禁物。
あんな奴、ふゆがどうにかしなくてもそのうち周囲から孤立していくわよ。
それはそれとしてイライラを司る神経は刺激されてるけどね、バカ!
「体術でも座学でも射撃でもモビルスーツの操縦でも、何か一個でも取り柄がある? ないわよね。そんな人間にいられても邪魔なの、分かる? あ、人間じゃなくて山猿だったかしら」
「アグネス!」
ルナマリアがたしなめるも、アグネス・ギーベンラートは止まらない。
「ルナマリアもよくそんなのと一緒に行動出来るわね。そんなのと一緒にいたら、落ちこぼれるわよ。レイも、付き合う人間はちゃんと選んだら? そこの猫被りさんもね!」
は?
なにこいつ。ふゆのこと猫被りさんって呼んでんの。
そして話の流れついでにアグネスはシン・アスカからこっちにターゲットを移したらしい。
そう、アグネス・ギーベンラートに目をつけられているのはシン・アスカだけではない。ふゆもまたその一人。
元々いいように思われていなかったのには少し前に気付いた。多分、ふゆの周りに人が集まってるのが気に食わなかったんでしょうね。
あの手の女は自分以外に人気な女がいるのが我慢ならないタイプでしょうから。
それで、件のシミュレーションでの戦闘でアグネスを撃墜したのが拙かった。これが原因でまだ内心で燻っていたのが我慢ならなくなったようだ。
「あんた、シンみたいな落ちこぼれに優しくして優しい人間ですってアピールでもしてるつもり? そうやってチヤホヤされたいってのが目に見えてるのよ」
「アグネス! フユはそんなんじゃない!」
シン・アスカがアグネスに言い返した。自分が言われてる時は何も言い返さないくせに、今はふゆが言われてるんだから黙っていればいいのよあんたはと言ってあげたい。
けど、まあ、嬉しくないわけではない。
「大体なに? フユって呼ばせようとしたり、媚びるような話し方なんかしちゃって。そこまでして人に好かれたいわけ?」
たしかに、それはそのとおりだ。
アグネス・ギーベンラートの言葉は一定の真実を語る。それが棘となって言い返せなくなる場合が多いのはこれまでの経験で分かっている。
前までのふゆだったら図星を突かれて言い返せなくなっていたと思う。
だけど、ふゆだって成長してるのよ。
「……たしかに、アグネスちゃんの言うことはそのとおりかもしれない」
「ほら……」
「でもね、それって普通のことじゃない?」
「えっ……」
はじめて、言われた。今まで、ふゆがやってきたことは、誰にだってよくあることだって。
それが、なによりも嬉しかった。
「誰だって、他人からよく見られたいと思うのは当然だし、アグネスちゃんもそうでしょう?」
「私は違……っ! いい!? 次のシミュレーションでまた10秒で撃墜なんてしたらただじゃおかないから! あんたもまた私を落とせるなんて思わないことね!」
あらら、捨て台詞なんて吐いちゃって。
いい気味ね。
「もうアグネスったら……」
「なんだよアイツ。10秒で撃墜なんかされるかよ」
「ああ。正確にはお前が撃墜されたのは戦闘開始から14秒だからな」
「レイくん、それフォローになってないよ?」
しかし、言われっぱなしも腹立たしい。
このままだと、ずーっとあの女から色々と言われて過ごさなきゃいけなくなるような気もするし。
どうにかして、理解らせるしかないわね。
そのためには……。
「ねえ、シンくん。訓練が終わったらモビルスーツのシミュレーションしよっか」
「え。でも、射撃が……」
「いいから、ね?」
「う、うん……分かった……」
「これから毎日、ね❤️」
「毎日!? 他にも色々あるのに!?」
やはり、あの女の鼻を明かすのにはこれが一番だろう。
シン・アスカに撃墜されたともなればあいつも多少は黙るようになるでしょ。
そうとなれば、シン・アスカの育成計画を根本的に見直さないといけないわね……。次のシミュレーション訓練までそう日もないし、せめて14秒で撃墜されるようなことは二度とないようにしないと。
「すっかりシンはフユの尻に敷かれてるわね」
「だが、フユコの指導が始まってから確実にシンは成長している。ルナマリアも気を抜いているとシンに追い抜かれるかもしれないぞ」
「ルナちゃん。ふゆはシンくんのこと、尻に敷いてなんかないよ❤️ あと、レイくんもふゆのことはふゆって呼んでほしいな❤️」
「ご、ごめんって……。あと、私もそのシミュレーション付き合うから!」
よし、相手が増えるのはいいことね。
ふゆとしても、負担も減るし自分自身の腕を磨くためにも相手は必要だ。それに、相手が優秀であればあるほどいい。
横目でレイ・ザ・バレルを盗み見ると、いつも通りの澄ました顔。
「俺も参加しよう。いいな、フユコ」
「……うん。ありがとうレイくん❤️」
こいつ、呼び方を改めるつもりはないわね……。
それについては諦めるつもりはない。283プロの人間ですら、「ふゆ」と呼んでくれたのは半数にも満たなかったのだから。
もう仕方ないものだとして諦めるしかない。
ふゆ レイのことがちょっと苦手。やはり天才肌には対抗心が芽生える。レイは秀才系。あさひみたいに振り回すタイプでもないので何倍もマシ。
銃の腕は悪くないけど、ふゆにはこういうの似合わないわよね。
シン 祭りの射的なら自信がある。
ルナ 射撃が苦手。ディアッカに憧れてるって本当?
レイ フユコ・マユズミは優秀。ギルに送信っと……。
桑島 お前のことをアンチ・ヘイトしたいわけじゃないんだ。お前がそういうキャラだからこうならざるを得ないって……分かれ!
P 冬優子の欲しい言葉をくれる。さながら熟年夫婦。こいつに頭を灼かれたしアイドルだしで他の男に惹かれることはない。
年頃の女子の近くにいていい奴じゃない。
芹沢 この穴から弾が出てくるんすね(銃口を覗き込む)(やめなさいと冬優子がキレる)
愛依 冬優子ちゃんなら銃も似合うっしょ〜!(公式4コマで言った台詞)(冬優子はキレる)
ちなみに総合成績的には
レイ>>冬優子>アグネス≧ルナマリア>>>>>>>>>シンぐらいな現状
越えられない壁はない。がんばれ、シン!