なんでふゆがザフトになんか!   作:大ちゃんネオ

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逃走失敗、そして自首

 普段は優しくておとなしい人なのに、運転中だとやたら強気になるというか口が悪くなる人っているわよね。

 いる。

 いるのよ。

 だからそう、これだってきっとそう誤魔化せ……。

 

「フユ……その……」

 

 るわけがない!

 ああもう、無理じゃないこんなの。誤魔化せるわけがない。

 ……あいつらに素を晒したからか、前ほど焦りはしていないけれど。でも、見損なわれたわよね。

 こいつらといるの、案外悪くなかったから、距離を置かれたら少し……。

 

「フユ……フユもアグネスにすげぇムカついてたんだな!」

「へ……?」

 

 シン・アスカの言葉に思わず気の抜けた声を発していた。

 

「やっぱりフユでもムカつくよなアイツ! 絶対次のシミュレーションは勝ってやる!」

 

 ……なにこいつ。

 え、もしかして気付いてないの。

 ふゆが猫被ってて、さっきのが素だって気付いてないわけ?

 近くにいたルナマリアと顔を見合わせる。

 数秒の間を置いて、笑いがこみ上げてきた。

 

「……ふっ……ふふ……あはは! おっかしい!」

「な、なんだよフユ……ルナまで!」

「あー笑った。あんたねぇ、こういう時、普通気まずくなるもんなのよ」

「あ、あんたって……フユ、お前……」

「馬鹿ねぇ。まだ気付かないの? こっちが素のふゆよ」

「ええっ!?」

「シンってば……。本当に分かってなかったの?」

 

 ああ、なんだろう。いっそ清々しい気分。前までは他人の前で素を晒すなんてしたら、やらかしたーって、自己嫌悪に陥っていたのに。こんな風に開き直れるなんて。あいつらが受け入れてくれたおかげとシンが鈍かったおかげね。

 

「素って……。じゃあ今まで猫被ってたのかよ!」

「当然でしょ。人間、誰しも他人には良く見られたいもの。……嫌いになった? ふゆのこと」

「いや、そういうわけじゃ……でも、なんていうか……」

 

 シン・アスカが言い淀んでいると、シミュレーションルームに教官が現れた。見回りに来たらしい。レイ・ザ・バレルとシン・アスカ、ルナマリアが姿勢を正して礼をし、ふゆも筐体から立ち上がって気を付け。

 

「お疲れ様です❤️」

「おう。自主練か、精が出るな」

「はい! アスカ訓練生から特訓に付き合ってほしいと頼まれたので。アスカ訓練生も、とっても頑張ってます!」

「そうか。訓練に励むのは良いことだ。その調子で励めよ。マユズミもアスカのことよろしく頼むな」

「はい! がんばります!」

 

 教官は室内の点検をざっと済ませて、「根を詰め過ぎるなよ」と言ってシミュレーションルームを後にした。

 

「ふう……行ったわね。……なに、その目」

 

 シン・アスカが信じられないものを見たような目をふゆに向けていた。

 失礼ね。

 

「いや、だって……切り替えが凄すぎて、こっちは全然切り替えられてないっていうか、まだ戸惑ってるっていうか……。大体、なんでそこまでする必要があるんだよ。フユならそんなことしなくたって皆から……」

「ああーいい、いい。そういうのいいから。こういう風に歩いていくって決めたのはふゆなんだから。ふゆの好きにさせなさい」

 

 そう、これは自分で決めた生き方。

 軍隊に入ってまで「ふゆ」を演じる必要があるのか入隊前に一瞬考えて、一瞬で決断した。

 それに、「ふゆ」を演じないでいたら錆びついてしまいそうで。むしろ、軍隊なんて環境でも「ふゆ」を貫けたら自信にも繋がるなんて考えてたけど、ふゆもまだまだね……。

 

「それより、座んなさいよ。まだやるんでしょ」

「お、おう」

 

 再びシミュレーションの筐体に座り、自主練再開。

 こういう時は、一旦仕切り直すのがいい。

 モニターのジンは愚直に76mm突撃機銃を連射しながら真っ直ぐこちらへと突っ込んでくる。

 まったく、変わらない戦法ばっかね。 

 周囲のデブリを盾にしながら弾丸を回避して、パパパンッと3発だけお返しに撃ち返す。弾丸はシン機のライフルに命中。爆発寸前にライフルを投げ捨てたのはいいけど、重斬刀だけでどこまで出来るかしらね。デブリを蹴り、スラスターを吹かして加速。距離を詰めさせるわけないでしょ。

 

「なんで同じジンなのにこんな違うんだよ!」

「ふふっ。ふゆのジンは速いのよ」

「くそーっ!」

 

 当然のことだけれど機体性能はまったく同じに設定されている。なら、外的要因で差をつける他ない。宇宙という無重力空間では、ちょっと何かを足場にして踏み込むだけでどこまでも飛んでいけてしまうのだ。そこにスラスターも使えば、推進剤の消耗も少なく効率的に加速することが出来る。

 他にも無重力空間特有のものがある。

 ほんの少しの動きで、大きな差が生まれると言っても過言ではない。

 モビルスーツがモビルアーマーに対して有効的だったのはこれが理由のひとつでもあると考えられているらしい。モビルアーマーは姿勢制御のために複数のバーニアに頼らざるを得ない。これは推進剤をかなり消耗してしまう。だがモビルスーツは手足を動かすことで推進剤を使うことなく方向転換、姿勢制御が可能。

 開戦当初、連合のお偉いさん達はジンの手足をただの枷だと思っていたという話がある。けれどこの手足の有無がモビルアーマーとモビルスーツの決定的な差となり、モビルスーツが戦場を支配することとなった。

 

 つまり、この少しの動きを有効的にかつ、無駄なく行うことがモビルスーツを動かすコツなのだろう。

 ダンスと同じ。

 身体は大きく動かしダイナミックに、されど微細な動きに感情を乗せる。

 そうして、ライブに来た観客をみんなふゆの虜にしてみせる。

 

「フユの操縦って、なんだか……」

「踊っているようだな」

 

 もちろん、字面通りに戦場で踊ってしまったらいい的。

 けれど、踊っているかのように、魅せる。

 

「あっ……」

 

 ……なに見惚れてんのよ、あいつ。

 隙あり。

 急反転し、ライフルの銃口をシン機へと向けて、銃爪を引く。

 シン機の胸部が蜂の巣にされて、撃墜。

 隣のシンに目を向けると、まだ惚けている。

 

「ちょっと、あんたの練習に付き合ってあげてるのにボケっとしてんじゃないわよ」

「あ……ああ、ごめん」

「まったく……。いい? あんたはもっと考えて行動しなさい。がむしゃらに突っ込んでるだけで勝てるわけないんだから」

「はい……」

 

 ……そういう態度取られると、こっちもやりづらいのよね。

 雨の日の捨てられた子犬みたいで。

 あさひならこういう時、「なんでっすか?」とか「何を考えればいいっすか?」とか、質問責めしてくるだろうし。愛依も愛依で「ヤバ! あんな動きながら冬優子ちゃん考えてんの!?」とか言ってきそうだし。

 とにかく、あの二人とシンは違うんだし、そこも考えに入れとかないとね。

 

「……ま、そういう馬鹿みたいな動きも時には必要かもしれないけど」

「バ、バカってなんだよ! オレだって!」

「オレだって考えてる。なんて言ったら」

「……なんて、言ったら?」

「ふふっ❤️」

「なんでそこで猫被るんだよ!」

「まあ? あんたが想像してるようなことになりたくなかったら、これからはモビルスーツの操縦でも何でも、自分の頭で考えて行動することね」

 

 それが出来るかはともかく。

 いや、出来るようにならなくてはいけない。

 ザフトに、軍隊という上からの命令が絶対とされる環境にいるとしても。シンは天涯孤独の身。これから先、一人で考えなくてはいけない場面というものが恐らくふゆの想像以上にやって来るのだろう。

 そのためにも、自分の頭で考える力を身につけるべきだ。

 なんて、ふゆが偉そうに言えた口ではないんでしょうけど。

 

「それじゃ、今日はここまでにしましょう。ふゆのこと、他の誰にも言うんじゃないわよ?」

「言わないって……」

 

 レイも小さくだけど頷いていた。

 まあ、レイは人にべらべらと喋るような奴でもないし、信用していいか。

 

「そう。じゃあ行きましょうルナマリア」

「あ、ちょっと待ってってフユ!」

 

 シン達の横を通り過ぎ、ルナマリアが駆け寄ってくる。

 そのまま部屋を出ようとした時、シンに声をかけられた。

 

「あのさ、フユ」

「んー? なに?」

「その、ありがとな」

「なに、急に。何に対しての感謝?」

「なんていうか、全部」

 

 また笑いそうになってしまった。

 そう、全部ね。

 別に大したことしてるつもりはないんだけどね。このシミュレーションの練習だって、ふゆが個人的にアグネスの鼻を明かしてやりたいってのが理由だし。でもまあ、感謝してくれるっていうなら受け取ってあげなくもない。

 

「そう。ちなみに言っておくけど、ふゆの優しさは安くないから」

「えっ?」

「これまで勉強も見てあげたし、格闘、シミュレーション……射撃訓練にも付き合ってあげる予定でしょ? ああ、さっき教官にあんたの印象も良くしてやったんだから、これも感謝しなさいよ」

「ええっ!?」

 

 指折り、シンのふゆへの貸しを数える。

 なかなか多い貸しを作ってるわね。これに日数も合わせて計算すると……。

 

「楽しそうね」

「だって実際楽しいんだもの」

「そんないい性格してると思わなかったわ」

「あら? 嫌だった?」

「いいえ。いい気味よ」

  

 愉しげに微笑むルナマリア。

 ルナマリアもなかなかいい性格してるじゃない。

 まあ、知ってたけどね。

 

「シン、あんたフユに本当に感謝しなさいよ? いっつも教官に歯向かって、その上成績も悪くて印象最悪なんだから」

「わ、分かってるよ。ルナに言われなくたって!」

「ま、ともかくお疲れ様。いつかこれまでとこれからの貸しを返してくれる日のこと、楽しみにしてるから。あははっ!」

 

 ルナマリアと二人で笑いながらシミュレーションルームを後にする。

 あーなんだかスッキリした!

 

「アタシ、素のフユの方が付き合いやすいかも」

「何よ。どっちのふゆも愛しなさいよ」

「そりゃあもちろん、あっちのフユも可愛くてお姫様〜みたいな感じで好きだけど、気が合うのはこっちのフユって感じ」

「あっそ。でも人前では当然ふゆは「ふゆ」を演じるから。そのつもりでいなさいよね」

「分かってる」

 

 もしかしたら今までで一番ルナマリアと互いに気負わず会話しているかもしれない。この気負いも知らずにストレスになっていたんでしょう。前に、ふゆに密着取材の話が来た時もプロデューサーから心配されたことがあったけれど、やはりプライベートぐらいでは素を晒せた方がいいのかもしれない。そう思うと、ルナマリアは良い相部屋相手だったのだろう。

 こんなふゆと、気が合うなんて言ってくれて。

 

「ありがとね、ルナ」

「何か言った?」

「何にも……あっ、お疲れ様です〜❤️」

 

 タイミング良く、さっきとは別の教官と遭遇し瞬時に「ふゆ」へと切り替える。

 これで、話は逸らせただろう……。

 

 

 

 一方その頃、シミュレーションルームに残ったシン達は。

 

「なあレイ……フユへの貸しって、どうやって返せばいいと思う……?」

「さあな」

「……なあ、レイ……」

「……連帯保証人にはならないからな」

 

 そんなぁ! という大声が響き渡る。

 これまでの時点でそれなりに積み重なった貸しと今後も生まれるであろう貸しがシンの両肩に重くのしかかる。

 とても今のシンでは返しきれないだろう貸しであるが、そう遠くない未来。エースパイロットとして覚醒したシンならば……。

 しかし、今はまだその能力は開花していない。

 現状では貸しを返せるビジョンが見えず、そんなシンを弄ぶだろう冬優子へと恐れを為すばかりのシンなのであった。

 




ふゆ なんか上手いこと素を晒せた。シャニPやあさひ、愛依に晒した時よりもマシに振る舞えた……かどうかは分かっていない。寮の部屋の中の空気が前よりも透き通ったような感じ。

シン 冬優子のことが恐ろしく思えてきた。それはそれとして「ふゆ」より冬優子の方が接しやすい。

ルナ シンと同じく冬優子の方が接しやすく部屋での会話が増えた。前まではこういう話題食い付かないだろうな〜みたいな内容の会話も話せるようになった。

レイ 特になんとも思っていない。

P  冬優子の素が晒された時はめちゃくちゃ荒れてた時だったことを思い出す

芹沢 アイドルが戦うってのがどういうことか見せてやるって言われたっす。

愛依 あの時の冬優子ちゃん、マジカッコよかったよね〜!
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