皆さんありがとうございます!
次はお気に入り412件目指します!
むんっ!
アカデミーの後期教育課程が始まる前に、10日間の休暇が与えられた。
久しぶりの帰省。といっても、アカデミーと家は同じプラント内なのであまり帰省という雰囲気でもない。
それになにより……。
「はあ……」
今は何もやる気が起きない。
ベッドの上から動きたくない。
マジで意味が分からない。なんでパイロット課程になってるのよ!
もう、何度目だろう。こう思うのは。
既に結論なんて出ているのに。
配属先が発表されたあと、教官のもとへ抗議……じゃなくて、確認しに行ったのだ。
そしたら。
「ああ……実は適性検査で後方支援しか適性がない奴がいてな。そいつに譲ることになったんだ。マユズミならパイロット課程でも大丈夫だ! 期待しているぞ!」
なんて言われちゃって。はあ……。こんなはずじゃなかったのに……。
大体どこのどいつよ適性検査で後方支援しか適性がないとかいう奴!
そんな奴よりふゆの方が絶対優秀に決まってるでしょ!
……とはいえ、なまじ優秀なのがいけなかった。軍隊というのは均等に人材を配置するように考えている。
優秀な人材とそうでもないものを合わせるようにしている。
けれど、後方支援部隊に関しては今回、採用枠が一人しか設けられていなかった。
そして、適性検査の結果で全てに適性があり、成績優秀なふゆとその某の成績は分からないけれど、適性検査の結果、後方支援にしか適性がなかった某。
このどちらを配置するかとなった時、選ばれるのはふゆではなく後者。
優秀で、他の適性もある。
なら、どこでも大丈夫だろうという考えだ。
そうなると、一番人材を確保したいパイロット課程へと行かされるのは最早当然のように思えてくる。
後方支援の部隊は人材が足りているから、毎年の枠も少ないという。この少ない枠のために頑張って成績を上げていたのに!
とにかく、これが軍隊というものねと理解らされた気分。はあ……気分転換にラクス・クラインの曲でも聴こう。
あーこの、透き通るような歌声が最高。荒んだ心にスーッと効いてくる。昔出てたいろんな番組の動画とかもチェックしたけど本当にお嬢様って感じで可愛いのよね……。
こんな子が戦時中に違法電波で反戦を訴えたり戦艦乗って、前大戦を止めるために行動したなんてとても信じらない。
「とんだ行動力おばけね……」
平和を願い、戦争を止めるためにはこれぐらいしないといけなかったのかもしれない。
その後、どこで何をしてるのかしら。
戦争を止めて、その後は身を隠すなんて少し無責任なような気もするけれど、ふゆと変わらない歳の子でもある。政治は大人がやるべきなんだろう。
それに、ラクス・クラインの影響力は大きすぎる。
彼女の鶴の一声で世界が動いてしまうんじゃないかというぐらい。それもあるから、彼女は世界に背を向けたのかもしれない。
気分転換は続く。
休暇中に晴らさないといけないのは重々承知だけど、今のところ全くそんなビジョンが見えない。
天気予定では一日晴れ。プラントやコロニーでは天気は予報するのではなく、予定を発表するもの。建造物の中だし、自然を再現するからにはそうなってしまうのだろう。
しかし、どれだけ科学が進歩して人が宇宙で暮らすようになったとしても変わらないものがある。
それは、食へのこだわり。
ここプラントにも、素晴らしいお店がある。
辛さの極み 麺や花道
店の前に来るだけで辛さを感じるような痺れた空気。
「ふゆ」を演じるにあたって、甘いもの好きとして振る舞っているわけだけれど、ふゆは辛い物が好きなのよね。甘いのも好きだけど。
アカデミーの食堂は栄養バランスや訓練で燃焼したカロリーなども含めて計算された料理のため、とても身体にはいい食事。それを毎日きっちり3食いただける恵まれた環境。
けれど、ふゆの身体が求める辛いものは出てこない。
食事は心も満たしてこそ。
気分が晴らすには、好きなものを食べればいいはず。
そう信じて、店の中に入ろう。という時だった。
「フユ?」
「ひゃっ!?」
聞き慣れた声。
シン……だけならまだ良かった。けれど、シンの両隣にはシンと仲が良いメカニック志望のヨウラン・ケントとヴィーノ・デュプレがいる。
シンもふゆの事情を分かってるならわざわざ話しかけてくるんじゃない! よりにもよってこんな場所で!
「え! マユズミさん!?」
「奇遇だなぁ。こんなところで何を?」
「わぁ……すごい偶然。三人で遊びに来たの?」
マスクを外してふゆモードで接する。
適当なところで切り上げて、早く店に入らないとそろそろお昼時。店が混む!
シンにアイコンタクトを取り、こいつらを引き離すように画策する。
「そうだけど、ヨウランとヴィーノが……」
「この辺りに、面白いものが食べられる店があるって噂で聞いてさ〜」
面白いもの。
まさかここじゃないわよね。
いいえきっと違うわ。この辺りは色々なお店あるし、面白いものを出すところだっていっぱいあるはず、
「その店なんだけど、すっごい激辛のラーメンで三人で挑戦しようって話になったんだ」
この店じゃない!
しかもふゆが食べようと思ってたやつ!
「マユズミさんもこのラーメン屋に入ろうとしてたの?」
「そんなわけないだろヴィーノ。マユズミさんがラーメン屋なんかに入るかよ」
入りたいわよ!
でも絶賛あんた達のせいで入れないのよ!
「へ、へえ〜そうなんだ……。でも、そんなに辛いもの食べたらお腹壊しちゃったりとかするかもしれないし、ふゆ心配だなぁ……」
ほら、ふゆが心配してやってんだからさっさと帰りなさいよ!
ていうか休みの日に出歩くんじゃないわよ!
シンも早く、この無駄に声が良い奴と前髪にケチャップぶちまけたみたいな奴を連れてどっか遠くに行きなさい!
ということを視線で伝える。すると、シンは理解してくれたらしい。
「フユも一緒に食べる?」
なんで、そう、なるの。
こいつに期待したふゆが馬鹿だった。
「バッカ! シンも、マユズミさんがこんなところで食べるわけないだろ。これからきっとお洒落なカフェでお洒落なもん食うに決まってるだろ」
激辛ラーメンが食べたいに決まってんのよふゆは!
どうする? こいつらが出るのを待ってから改めて来る?
でもそうすると混み出す時間だし、くぅ……こうなったら。
「せっかくだから、ふゆも一緒に入ってみてもいい?」
「えっ!?」
「こういうお店、一回は入ってみたいなぁって思ってて。一人だと入りにくいし……それに、なんだか面白そうだなぁって」
もう何回か一人でバリバリ来てるけど。
せっかくの休みの至福の時間をこいつらと過ごすのは遺憾だけれど、それよりもふゆは激辛ラーメンが食べたい。
そんなこんなで店内へ。
4人でチャレンジメニューを頼み、真っ赤なスープのラーメンが運ばれてきた。
これよこれ!
ふゆが求めていたのは!
「それではお三方頑張って!」
「すごい真っ赤……! いただきまーす❤️」
箸で麺を掴み上げ、早速食べ……ちょっと待ちなさい。
あの店員、今なんて言った?
お三方頑張って、ですって!?
その台詞はまずい。ふゆがこの店に来たことがあると物語っている!
ふゆが激辛チャレンジメニューを制覇したことがあると物語っている!
「なんだよあの店員。四人なのに、お三方なんて」
シン!
気にしなくていいから!
「シンくん、早く食べないと麺伸びちゃうよ?」
「そうだぞシン。熱いうちにラーメンは食わないと」
「分かってるよ……ひぃ、本当にこれ食えるのか? マグマみたいじゃん」
シンはそう言いながらも麺を箸で掴み上げ、ふうふうと冷まして麺を口に運ぶ。
そして……。
「なんだ、言うほど辛くな……ッ〜!」
ばーか。ここのは後から来るのよ。
「大丈夫? 早くお水飲んで……!」
「な、なんだよこの辛さは!」
辛さに悶えるシンに水を飲むように促していると、ヨウラン・ケントとヴィーノ・デュプレもまた辛さに悲鳴を上げた。
まったく、一口でこれなんて先が思いやられるわね。
前に、あさひと愛依を連れて食レポの練習のために激辛お好み焼きを食べに行ったことがあった。あの時は二人が辛くて食べ切れないというからふゆが二人の分まで食べてやったけど、流石に男が手をつけたものを食べる気にはならない。
けれど……もし、この三人が食べ切れなくてふゆだけが完食してしまったら……。
「俺達も食えない激辛ラーメンを完食してさ」
「やっぱり猫被ってたんだな」
「甘いもの好きみたいな顔しといて激辛チャレンジの成功者ですって? 本性現したわね!」
うっ……こんなことだけにはなりたくない……。
食欲に押されて、ついてきてしまったのはやっぱり間違いだったかしら……!
けど、食べたい。この真っ赤な辛味のオアシスを飲み干したいぐらいに!
こうなれば……!
「か、辛〜い!」
「やっぱ、フユもそう思うよな……」
「うん……。けど、残したら作ってくれたお店の人や材料を作った生産者の皆さんにも悪いから、みんなで頑張って食べきろうね……!」
罪悪感は人を突き動かす。
こんなことをふゆみたいな女子に言われたら男共は動かざるを得ない……はず。
そしてふゆはちびちびと麺を啜り始める。
本当はもっと一気にたくさん啜りたいけれど、頑張ってる感を演出するにはこれが一番。
「よ、よーし……!」
「マユズミさんにばかり頑張らせてたまるかよ!」
「……でも辛いって!」
やいのやいの言いながら、激辛ラーメンを食べ切ることは出来た。
一人だったらもっと気楽に食べることが出来ただろうに。けど、まあ……辛い辛いと悲鳴を上げるシンという面白いものを見れたから良しとしよう。
完食後、水を飲んで舌を冷やす三人と軽く雑談をした。
「ヨウランくんとヴィーノくんもこの辺りにお家があるの?」
「いいや。今日はこいつのために来てやったんだよ」
ヨウラン・ケントがシンの肩を組む……というより首を絞めている。
ああ、そうか。
今のシンには、休暇だからと帰れる家がないんだ。
「別に頼んでないだろ!」
「あ! こいつ俺達の善意を!」
「……ふふ。ダメだよシンくん。そんなこと言ったら❤️」
そう言うと、シンは何も言い返さない。まあ、本人も心から言ったわけではないでしょうし、単に素直になれないだけね。
ラーメン屋で食べ終わってから長居するのも良くないと店を出て、解散することに。ヨウラン・ケントとヴィーノ・デュプレもそれぞれ実家に帰るらしい。
シンと二人になって、帰る方向は同じなので歩いて帰る。
「はあ……なんでタイミング悪くあの店に来るわけよ……」
「なんでって、フユ、最初からあの店に入るつもりだったのか?」
「当然。結構通ってるもの」
「マジ? そんな辛いもの好きだったのか……。そういえば鮭とばとかも好きだし、結構舌がおっさ……」
「締め上げられたいわけ? ふゆはヨウランよりキツいわよ」
「わ、悪かったって! ごめん!」
謝るぐらいなら最初から言わないことね。
次はないと警告していると、雑踏に紛れてふゆのことを呼ぶ声が聞こえた気がした。
「フユちゃ〜ん! こっちこっち!」
「お母さん……!」
買い物帰りのお母さんと遭遇してしまった。
よりにもよって、シンがいる時に……!
「えっ! フユちゃんもしかして彼氏?」
「違うから。アカデミーの同期。たまたまそこで会っただけ」
「えっと、シン・アスカ……です」
シンもどこかお母さんに押され気味ね……。
別に圧が強いとかではないんだけれど、ふゆのことになるとちょっと暴走気味になるのよね……。
「あらあら〜。いつもフユちゃんがお世話になって……」
「逆逆。いつもふゆがお世話してやってんの」
「そんなことないでしょ〜。みんなで助け合っていくものよ同期って」
「ああ、いえ! 本当にいつもオレ、いや自分が助けられてばかりで……」
「そうなの〜? あ、もし良ければお家に遊びに来ない〜?」
はあ!?
なに言ってるのよこの人は!
「ちょっとお母さん!」
「だってフユちゃん、アカデミーのこととか全然お話してくれないから……」
「ああもう後でたっぷり聞かせてあげるから!」
もうこの人は……。ふとシンに目が向くと、今まで見たことないような、懐かしむような、穏やかな顔をしている。
ああ、そうだ。
シンに家族はいないのだ。
「……家来る?」
口が勝手に動いていた。
なんでかは分からないけれど。
「まあ……! それじゃあ今日はご馳走ね……!」
「えっ、いや、オレは……」
「いいから。せっかくご馳走作ってくれるって言うんだし」
「遠慮しなくていいからね。あ、お泊まりしていってもいいのよ〜」
「それはダメでしょ普通……。外泊許可だってあるんだから」
「あらそう……残念ね〜」
というか、普通異性を泊めようとする?
テンション上がりすぎて正常な判断が出来ていないとしか思えない。
「で、どうする?」
「……えと、お邪魔します……?」
疑問系だったけれど、まあいい。
こうして家にシンが来ることが決まった。
ふゆ 辛いもの好きが高じて食べ物のロシアンルーレットはむしろハズレが当たりと化す。鮭とばとかも好き。
甘いものが嫌いなわけではない。
シン 貝、キノコ、酸っぱいもの、ナスが苦手。これを知られると冬優子になにされるか分からないため必死に隠している。
杉田 本人のいないところでは冬優子のことを「ふゆ」と呼んでいる。本人の前で呼ぶのは緊張する。
前髪 アグネス派から冬優子派へと乗り換えそうになったが男らしく一途にアグネスを応援すると決めた。ぶっちゃけアグネスはオレのこと好きだと思う。
黛母 一人娘を溺愛している。ザフト軍に入ると聞いた時は驚いたし心配もしてるけど上手くやれてるようで安心している。それはそれとして冬優子からアカデミーの話を聞けていないのでシンからたくさん聞くつもり。
店員 ラーメン屋の店員。ふゆのファン。
総裁 まだ総裁ではない。現在はオーブで隠居中。キラが心配ですわ。