レックウザ「きりゅりりゅりしぃぃ!」
反応が良ければ続きも書いて行ければ…と思っています。
前半のくだりを大幅に修正しました。
我は天空を統べる者。然し、人類は我を個体名で『レックウザ』と呼ぶ。
そして同時に、『転生者』でもある。
いつも通りの平凡な日常を送ってただけの筈なんがなぁ…。目が覚めたら龍の姿になってるし。一体どうしてこうなってしまったのか。
──転生して多分1億年は経ってると思う。そもそも歳なんて100歳超えた辺りからまともに数えてない。
最初の内は混乱と絶望の中だった。意識はあるのに言葉も話せず、ただ本能のままに空を翔け、彷徨うばかり。だが、時が経つにつれ、少しずつ状況を受け入れられるようになった。いや、受け入れるしかなかった。
何より、自分がかつての「人間」としての記憶を持ったまま、神話にも語られる伝説のポケモン『レックウザ』として生きていることに、ある種の誇りすら感じるようになった。
だが、それと同時に、孤独は付き纏った。空に棲む者に仲間はおらず、理解者もいない。俺…いや、"我"とて『元人間』だ。
寂しさを感じる時だってある。
そんなある日、異変は起きた。
いつものように成層圏を流れる気流に身を任せ、ただ静かに空を見下ろしていた時のことだった。空間が、裂けたのだ。
否、「裂けた」と表現するには生温い。まるで宇宙そのものに亀裂が走り、異なる次元が覗いたかのような…そんな、嫌な感覚。あれほど広く、孤独で、静寂だったこの空に、「異物」が混ざったことを、すぐに察知した。
「きりゅりりゅり?」(翻訳:地球に何か起きた?)
直感的にそう理解できた。理由はわからない。だが、俺の中の“元人間”としての本能が、叫んでいた。
……行かなければ。
成層圏の風がざわついていた。
宇宙の闇と大気の青が混ざる境界線。その中に浮かぶ我の瞳が、地上のわずかな異変を見逃すはずがない。
裂けた空間の向こうには、うごめく“何か”があった。正体はわからぬ。ただ、その存在が「理」や「時間」といった、この世界の法則すら脅かしていることだけは、確かにわかった。
──地上が危うい。
我は空の監視者であり、天の秩序を保つ存在である。しかし同時に、我は“元人間”だ。
だからこそ、このまま見過ごすことなど、できはしない。
「……きりゅりり…」(……一億年ぶりくらい、か…)
静かに呟いた声は風に溶け、大気圏を震わせた。悠久の沈黙を破るように、我はゆっくりと螺旋を描きながら下降を始める。
その巨体が雲を貫いた瞬間、空が轟き、稲光が走る。
我は天の理を統べる者にして、かつて人であった者。今一度、地上に降り立とう。
空を裂いて墜ちる黒曜の流星が、文明を照らし出す。
──それは、世界が変わる音だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
満身創痍になりながらも、セイバー・オルタの宝具。『
コレで歴史は修正される。そう思った矢先、大空洞に一人の男が拍手をしながら満面の笑みと共に現れる。
「いやはや、ここまでしぶといとはな。見事なものだよ。カルデア諸君」
レフ・ライノール。
……その男の登場と共に、空気が変わる。否、「空気」というもの自体が一瞬、世界から剥ぎ取られたような――
そして、レイシフト先の空洞に満ちる、強烈な圧力と存在感。
「レフ?良かった、生きていたのね!?」
オルガマリー所長が声を震わせながら駆け寄ろうとした、その瞬間だった。
「――やあ、オルガ。まだ生きていたようだね」
レフは口角を上げ、まるで親しい友人にでも語りかけるような調子で微笑んだ。
「君は本当に目障りで、吐き気を催す存在だったよ」
「な、何を言ってるの…レフ。こんな時に冗談を言ってる場合じゃ…!」
「まだ自分が利用されてるだけの玩具だったと気付かないのか、小娘!それとも現実を受け入れるのが怖いのか?どちらにせよ、もう死んでる貴様には関係のない話だったな」
「し、死んでるですって…?私が?」
「君の足元に爆弾を設置したのは私だよオルガ。今の君は肉体と分離した精神体だけの存在。トリスメギストスはご丁寧にも思念体の君を特異点に転移させたようだがね。死に恐怖していた様だが、とっくに君は死んでたというオチだ。どうだ?事実が判明して良かったなマリー?」
レフの言葉が落ちた瞬間、大空洞に響いていた余韻が、まるで引き潮のように静まり返った。
「……う、そ……死んだ…?…そんな…いや…。だって、私は誰にも認められてない!褒められてない!」
オルガマリーの瞳が大きく見開かれ、視線が自身の手元に落ちる。そこには、うっすらと透けて見える自分の指があった。微かに揺れる光、足元がふわりと浮いているような錯覚。
「それと…、君は生前よりカルデアスを大層盲信していた様だが、アレは君の物では無い。父親の様に娘も優秀だったならば、この様な悲劇は生まれなかったやも知れぬな?───せめてもの情けだ、手向けをくれてやる」
オルガマリーの体が浮かび上がる。
カルデアスへと引きずられるかのように、彼女の精神体は次元の狭間へ沈もうとしていた。
「ま、待って…止めて…。カルデアスは高密度の情報体なのよ?次元が異なる領域なのよ?そんな所に落ちたら…」
「まずい!所長が!」
「先輩!近付いたらダメです!」
「宝物と一緒に消えるがいい」
レフが冷たく告げ、手を掲げた瞬間だった。
――ズン。
重低音のような“何か”が、大空洞の天蓋を震わせた。
音でも、衝撃でもない。
あれは、“圧”だ。
「……な、んだ……?」
レフの手が止まる。
「きりゅりりゅりしぃぃ!」
天井の遥か彼方、空洞の天に裂け目が生まれる。
雲すら届かぬ場所――そこに現れたのは、悠然と宙を滑る
「あっ……あ…そ、そんな…。なんで…なんで、子供の頃に絵本で見た龍が実在して…!」
「先輩…?」
『マシュ!状況を説明してくれ!そっちで何が起こっているんだい!?』
「は、はい!えっと、黒い龍が突如空の裂けから出現しました!これは一体どういう…」
「きりゅりりゅりしぃぃ!!」
「……っ」
マシュの呼吸が浅くなる。膝が震え、盾を構える手がかすかに揺れる。瞳に映ったその漆黒の龍には、一切の感情が読み取れなかった。あまりにも巨大で、あまりにも異質なその存在。ただ圧倒的な“力”の化身――それだけが、そこにあった。
『な、何だ……?この反応……ッ!?』
カルデア通信端末を睨みつけるロマニ・アーキマンの顔色が、見る間に蒼白に変わっていく。
「数値が……数値がバグってる……!?違う、これは──測定できる限界値をとっくに超えてるんだ……!何なんだこの黒い龍は!?」
ロマニの指先が震える。端末の画面には、従来の霊基反応とは一線を画す、異常なエネルギーパターンが記録されていた。
『このエネルギー……特異点全体を支配している…のか?然し、特異点全域を飲み込む程の空歪曲に、重力干渉…。星の守護機構…いや、違う……あれは、ただの概念でも機械でもない。もっと、根源的な“意志”か……!?』
ダ・ヴィンチちゃんが通信を通じて絶句する。
彼女の目には、天に君臨する黒い龍の存在が、ありありと映っていた。
「ば、馬鹿な……っ。空間の外側から特異点に干渉して来ただと?いや、これは……存在そのものがこの空間を“押し潰して…!」
レフが口を歪ませ、後ずさる。オルガマリーの体は、引力を失ったかのようにふわりと宙に留まったままだ。
「その姿……貴様、古い書物に記録されていた…神龍か!?バカな…まさか本当に地球上に存在して…ッ。ま、待て!や、めろォォォォォォォ!!」
――レフ・ライノールの絶叫が響いた瞬間、
漆黒の龍が、その巨体をしならせて一閃。
それはもはや「動き」と呼ぶにはあまりに静かで、あまりに速すぎた。
まるで空間そのものが“避けた”ように、レックウザの尾がレフの身体を貫いたわけでもなく、触れたわけでもないのに――
「ッが、はっ……!?」
レフの肉体が、風に飛ばされた紙切れのように宙を弾け飛んだ。
無様に地へ叩きつけられ、数度跳ね、壁にめり込む。
一拍遅れて、轟音。空洞全体が“振動”ではなく、“沈黙”に打ちひしがれるような異質な静けさが訪れる。
「な、何を……した、貴様…………」
レフの口から、鮮血と共にかすれた声が漏れた。
その目には、明らかな“恐怖”が宿っていた。
「─────」
レックウザは、何の感情も宿らぬ瞳でレフを見下ろす。
ただ、それだけで地が軋み、空間が軋む。
――まさしく、“概念の威圧”。
「ッ、うぅ……!」
マシュが盾を構えて一歩退き、藤丸は拳を握りしめて震える。動こうにも、足が大地に縫い付けられたように動かない。
レックウザの身体の周囲で、大気が紫紺の稲妻をまとい始める。まるで天が怒りに震え、次元すら断ち割るかのように。
「“空の覇者”……この時代に存在して良いレベルじゃない……!」
ロマニの額には冷や汗が流れ、モニターの数値が完全にフリーズしていた。
そして――
レックウザが再び空を滑る。
その動きは、宇宙を泳ぐ彗星のように、ひとつの線を描いた。直後、レフの存在が、“音も無く”空間から削り取られるように消失した。
「きりゅりりゅりしぃぃ!!!!」
まるで、最初からこの世に存在しなかったかのように。一行はその場に立ち尽くし、誰もが息を呑む。
「……い、今の……」
マシュが震える声を上げ、藤丸が彼女の肩を支える。空洞の上空、レックウザは雄叫びを上げながら旋回する。その姿は、怒りを持って降り立った“空の意志”そのもの。
『て、撤退!直ちに藤丸君達を強制レイシフトで回収する!このままでは空間ごと全滅するぞ!』
ロマニの絶叫が通信に響き渡る。
「座標固定完了!レイシフト回収シーケンス、開始!」
ダ・ヴィンチの指が高速で端末を叩く。一行の足元に魔術陣が展開され、眩い光が彼らを包み始める。
3。
「みんな、しっかり掴まって!」
「所長も、早く……!」
藤丸が手を伸ばし、未だ宙に浮かぶオルガマリーの精神体を抱え込むように掴む。彼女の意識は朦朧としており、自らの現状すら理解しきれていない。
2。
「私……もう、何も……」
「そんなこと言わないで!一緒に帰るんだ、所長!」
光が強くなり、周囲の風景が崩壊していく。裂け目がさらに拡大し、異次元の風が特異点全体を引き裂こうとしていた。
1。
「きりゅりりゅりしぃぃ!!」
0――。
その瞬間だった。
「……っ!? 所長!!」
レイシフトの光が最高潮に達する直前、空洞に響く咆哮が再び雷鳴のように轟く。
「きりゅりりゅりしぃぃぃ!!!!」
天より降り注ぐ絶対の威圧。その声に応えるように、漆黒のレックウザが一閃――否、“滑るように”現実を裂き、オルガマリーの頭上へと瞬時に迫る。
藤丸の手がオルガマリーの手を、確かに掴んでいた。
だが、その腕が、風のように“すり抜けた”。
「ま、待っ──!」
光と共に消えゆくその刹那、オルガマリーの身体が“逆流するように”空へ引かれていく。まるで、星の重力を超越した何かが、彼女の精神体を選び、貪り取ったかのように。
「……あ……や、だ……っ、まだ……ッ」
彼女の瞳が、涙で揺れる。
「私……もっと、やれるって……凄いって…!人に認められたかったのだけなのに……っ!」
藤丸が手を伸ばす。が、その指先は虚空を掴み、掴んだと思った瞬間、そこにもう“彼女”はいなかった。
レックウザの口内、漆黒の渦のような空間が静かに蠢く。オルガマリーの精神体が、光となってその中へと溶けていった。
「所長ぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!!」
藤丸の叫びが、大空洞に響く。
その声を振り返ることもなく、レックウザは一度だけ彼を見下ろした。金色の双眸――それは、怒りでも哀しみでもない。ただ、遥かなる存在からの“選別の視線”だった。
そして次の瞬間、藤丸たちはレイシフトの光に包まれ、空間から消えた。
レックウザの尾が一振りされ、大空洞の天が音もなく閉ざされていく。まるで、何も起きなかったかのように。
だが確かに、そこに一人の魂が“飲まれた”という事実だけが、空に刻まれていた。
――閃光。
すべてが光に呑まれた瞬間、藤丸たちは、確かに“消えた”。
いや、“転移”した。
“裂空の訪問者”により、地上は一度、息を潜めるのだった――。
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静まり返るカルデアの中央制御室。藤丸たちがレイシフトから帰還した直後の光がまだ残像として漂う中、誰もが息を飲んでいた。
「所長……」
藤丸の声に、誰も応えられなかった。その時だった。
――ピッ、ピッ、ピッ…。
制御室奥、転移シーケンスの最終確認用コンソールが小さな警告音を鳴らす。モニターの1つが、予定に無い“余剰霊子反応”を感知していた。
「……? この反応は…」
ダ・ヴィンチが眉をひそめ、別モニターを操作する。映し出された立体映像には、転移直後の霊子の流れ、
その中心に――
「……マリー!?」
「所長だぁぁぁぁ!?」
オルガマリーが安らかな寝息を立てて倒れ込んでいた。