とある達人の地獄回遊《アルスゲヘナ》   作:✕せんたくだま

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6 ただそこにあるもの(To_serve_others_around_me.)

 

 

 重なり合う銃声は決して止むことがなかった。気の遠くなるような景色の中で、散発的に炸裂するグレネードの爆音が時間の経過を伝えている。

 風紀委員と温泉開発部による即席の包囲射撃によって動きの鈍ったケルベロスを視界から外さないようにしつつ、アンナとカスミ、メグ、イオリが瓦礫の山に集まった。

 

「──何? あの大穴の爆薬を使うだと?」

 

「そうだ。このまま撃ち続けても効きが悪いし、()()()の攻撃は威力こそとんでもないがすぐに再生される。一度にアレをどうにかできる威力を用意するとしたら……」

 

 赤い人ことアンナは、決して逃げようとしない生徒たちを心配そうに眺めながら、自分の両腕に視線を移した。

 

(魔術ノ使用にハ問題あり〼✕(ません)が、見た目ハ(わるい)ですね)

 

 直前にケルベロスの膂力を受け止めたその両腕は大きく傷を負っていた。皮膚が破け、中に仕込まれた機械の部分が露出し、それも幾分歪んでいるように見える。

 ()()()()()によって復活させられる際にその肉体をアンドロイドに改造された彼女に、出血や痛みの概念は無い。少々動かしづらいが、それは怪我というよりはドアの蝶番の油が切れてしまったときに近い。

 

 魔術を使えば見た目と機能を取り繕うにも困ることは無いが、それを直すとなると門外漢の彼女には難しい。

 そんなアンナにとっての懸案事項は、この破損が隙となって生徒たちに危害が及ばないかということだった。

 

「ああ、えっと……赤の人」

 

 そんなアンナの横にカスミが寄ってきた。

 

(あぶない)ことなら応援ハ出来〼✕(ません)よ」

 

「それでも、貴女しかいないんだ。さっきやったみたいに、私とメグをあの大穴へ連れて行っては貰えないか?」

 

 いけません、と制止してはイオリを含めた全員の避難を主張するアンナに、カスミはそれでもと食い下がる。

 つい先程までの半泣きの姿とはまるで別人。力強い視線がその決意を物語っていた。

 

「計画は単純だ。貴女とイオリちゃんたちがあのバケモノの気を引いている間に、私はメグと掘削用炸薬を有線で起爆できるように繋ぎ直す。配線は十分な長さを取るから爆発に巻き込まれるなんてことは無いし、そこにさっきのアッパーカットでバケモノを弾き飛ばしてくれれば片が付くんだ」

 

 横から砂まみれのメグもペコリと頭を下げた。

 

「ええと、私からもお願いします。カスミ部長はとっても頭が良いから、きっと上手くいくと思うの……」

 

 銃声は止まず、時折拘束を逃れたケルベロスの初動を刈り取るようにしてアンナの魔術が差し込まれ、また包囲射撃に戻る。事態は全く前進していない。

 長い赤髪をエビフライみたいに纏めた知の大女神は思案する。目の前の生徒たちの安全と、ケルベロスの打倒。その両方を同時に成し得る力が今の自分に無いことは確かだ。

 不調でさえなければ、とは思う。だが、それを解決するには時間が足りない。

 今、自分にできることは何だろう。カスミたちはそれを見つけている。

 

「……魔術とハ、ただ其処ニ(ある)もの」

 

「え?」

 

 ほとんど掠れ声のような小声で呟かれたのは、彼女にとっての矜持の1つ。

 重要なのは魔術が使えるかではなく、それを扱う意思だ。想定外の事象に見舞われて多少取り乱しはしたが、知の大女神にして達人たるアンナ=キングスフォードはブレない。

 

「分かり(まし)た。お二方の覚悟と意思ヲ尊重しましょう。──イオリ、ほんの少しだけこの場ヲ預けます」

 

「元はといえば我々の両分だ。規則違反者に頼るのは業腹だが、そこはアンナさん、貴女を信じます」

 

 イオリに頷いたアンナは胸の前で小さく十字を切って、それからカスミとメグの額に軽く人差し指で触れる。水滴が一粒、貼り付いたような感触があった。

 

「なんということハ無い、ちょっとしたお守りですわ」

 

「……ありがとう。このチャンスは無駄にしない」

 

「頑張ってくるね!」

 

 ──ぱちん。

 始めのようにアンナが柏手を打つと、温泉開発部の2人の姿が消えた。見れば、向こうの大穴の前で大手を振るメグと、その手を取って降りていくカスミの姿が見えた。

 

「……すごいな、もう運んでしまうなんて。場を預かる暇も無かったし」

 

「何らかノ縁さえあれば彼方と此方ヲ結ぶ道になります。あの穴はカスミたちが掘ったのでしょう?」

 

「それはその通りだけど……」

 

 困惑のまま、イオリは砂煙の向こうで暴れるケルベロスの頭部に狙いを定めた。観測兵を請け負った他の風紀委員に測位情報を聞きつつ放つ弾丸に、「命中」の2文字以外は有り得ない。

 

「──さあて。周囲へノ奉仕ノためニ、己モ出来ることヲ致しましょう」

 

 アンナは柏手を打ったときのまま合わせた両手をスルリと互い違いにズラして、一言。

 

「──ソロール、キングスフォード、1888

 

 本人を除いて、その言葉の意味するところが理解できる者はいない。だが、その代わりにアンナを中心に場の空気がガラリと変わったことだけは全員が感じた。

 それまでが自然色だったとすれば、その上に油膜のような極彩色が薄っすら重なったような。

 唐突な違和感に身震いするイオリを制するように、とんがり帽子の達人はその名を呼ぶ。

 

「イオリ、弾丸ヲ1つお貸し頂きたいのと、それで己ノ合図ニ合わせて撃って頂け(ます)か」

 

「狙いは?」

 

「頭ヲ。出来れば口の中ガ(のぞましい)です」

 

「鉛玉を食べさせてやろうってことね、いつでも行けるよ」

 

 イオリから獲物の8ミリ弾を受け取った魔術師は、それを快晴の青空へ天高く投げ上げ、力強く受け止めてから持ち主へ返す。

 えっこれだけで良いの? と喉まで出掛かった言葉を呑み込みつつ、イオリはその弾を装填して、合図を待った。

 なんてことのない所作から度肝を抜く結果を引きずりだして来たアンナのことだから、これも似たようなものだという慣れが生まれていた。

 

「──でハ、どうぞ」

 

 狙って、撃つ。

 今まで何度も繰り返してきた、何ら特別性の無い行為。

 砂煙を巻き上げながら近場の温泉開発部員を目掛けて腕を振り下ろそうとしていたケルベロスの口の1つに、イオリの弾丸は吸い込まれていった。

 ──すぐに異変が起きた。

 

 ケルベロスの中央の頭が地面に叩きつけられる──否、落ちた。

 まるで釘付けにでもされたかのように地面と濃厚なキスをするその頭を引きずろうと、ケルベロスは胴体を前後に引っ張るが、首元からゴキゴキと嫌な音が響くだけで効果は無い。

 イオリの足元へ伝わるザラついた地響きがその怪物的な膂力を物語っていた。

 

「今度は、何……?」

 

()()()ヲ与えて眠らせました。己ガ直接魔術ヲ使うよりもイオリノ銃弾ヲ触媒にした方ガ(うまく)いき(まし)たね」

 

「いやどう見ても寝てないじゃん、ていうかお菓子なんてどこにも……」

 

「……?」

 

 地面に伏せていれば寝ているも同じなのでは? とでも言いたげに小首を傾げるアンナに、イオリは閉口する。

 ダメだこの人、常識が通じない……。

 

 ギリシャ神話の世界において、冥府に分け入って何かを得ようとする人物は数多くいる。

 そこで最大の障害となるのが番犬ケルベロスだ。それは冥府の入り口を見張っていて、不用意に近付いたものをたちまち喰い殺してしまう。

 ケルベロスをやり過ごす方法の1つとして語られるのが、「睡眠薬入りのパンを食わせる」というものだった。そうして、火薬を小麦粉、銃弾を睡眠薬に見立てて放たれたのがアンナの魔術である。

 

 兎にも角にも時間稼ぎには十分だろう。他の生徒たちも異様な光景に攻撃の手を緩めてしまったが、すぐにケルベロスの他の頭2つを狙っての包囲攻撃が再開された。

 

「どうするよ、このまま倒せるか!?」

 

「弾切れも近い……ジリ貧になる前にありったけ突っ込め!」

 

 遅れて到着した風紀委員の援軍も加わり、弱まりかけた攻撃の嵐は再び勢いを取り戻す。

 今度の狙いはケルベロスの脚。イオリの照準に合わせてそこへ火力が叩き込まれる。

 変わらず再生を続ける怪物を倒し切るには足りないが、それでも今度は希望があった。

 

(……さて、準備ハ上々といったところでしょうか)

 

 アンナは目を細めて、カスミからの合図を待つ。

 生徒たちの退避が終わればすぐにでもケルベロスを奥の大穴にねじ込んでやるつもりだった。

 ──そんな彼女の瞳孔が、不意に縮む。

 

 ばき……ぼご、ごき……。

 

 その場の全員の肌が総毛立った。

 辺りに響く湿った音のせい、()()()()

 

「あ、アイツ、そこまでやるのか……?」

 

 地面に釘付けにされたケルベロスの頭の1つ──その首元に残りの2つの頭が齧り付いていた。

 犬がする甘噛みとか物を運ぼうとするのとは明らかに違う。

 動けない頭など不要とばかりに、自分で自分の首を食い千切ろうとしていたのだ。

 

「伝承ノ怪物と言えど生き物……ト思っていたのハ間違いでしたね」

 

 自切する生物は実在する。だが、生命維持に必須の頭まで切り捨てる生き物などいるだろうか?

 それは詰まる所、頭ですらあの怪物にとっては重要ではない可能性があるということ。

 

 元より理外の存在。怪物。

 それがもはや生き物ですら無いのなら、ヤツには死すら存在するか怪しい。

 

「……待ってくれ」

 

 ざざり。

 鳴り響く銃声と爆発の中で、イオリは砂利の擦れる微かな音を聞いた。

 そうして、片腕の捻れたエビフライ髪の女の背を呼ぶ。

 行かないでくれ。

 

「少々、事情ガ変わり(まし)た。誰ノ手にも余るのなら、己ガ行くべきでしょう?」

 

「どうする気?」

 

「アレヲ大穴まで押し込みます。カスミガすぐニ起爆してくれるはずです(から)

 

「それで貴女はどうなる! もう強さを疑ったりしないけど、でも……」

 

 一歩、また一歩とアンナは前に進む。

 ケルベロスが自分の首を食い千切って解き放たれるまで、あまり時間がない。

 自分で吐き出した唾液や胆汁が大地に撒かれただけでトリカブトが生えてきた、なんて逸話のある相手だ。

 リスクは最悪を想定する。

 

 イオリはその肩に手を伸ばした。けれど、その手はスルリと空を切って。

 振り向いたアンナはニッコリと笑顔を咲かせた。

 

「知ってい(ます)か、イオリ? 魔術師というのハ、()()()()()()()()()なのですよ」

 

「……ッ!」

 

 返せる言葉は無かった。

 ケルベロスに背を向けて、真後ろへ駆け出したイオリを見送ったアンナは、今度こそ怪物目掛けて駆け出した。

 

(──さて、今度ハどのような裏技ガ相応しいでしょうか?)

 

 初めと同じような霊的蹴たぐりでアッパーカットを決めるが、頭の1つを地面に縫い付けられていてはあまり効果も見込めない。ケルベロスの巨体は僅かに浮き上がるも、縫い付けられた頭が錨となってその場に留まってしまう。

 そして、ついに。

 

 ブチィッ、と肉が断ち切れる生々しい音が響き渡った。

 

 ケルベロスは自らの頭を食い千切り、アンナの魔術による束縛から完全に解き放たれた。

 千切れた首の断面からは血の代わりに黒い泥のようなものが噴き出し、瞬く間に新たな頭部が形成されていく。

 

「なっ……ま、マジで自分の首を切り捨てやがった……!?」

 

 驚愕の声を挙げたのは温泉開発部の生徒だったろうか。だが、アンナは冷静だった。むしろ、これで好都合とすら考えていた。

 アンナは深く、深く息を吸い込む。内部から溢れ出す見えない()()に、破損した腕の関節が軋んだ。痛みは元より無いが、どちらにせよ構わない。

 途端にぐっと空気の色が変わって、生えたての頭を振るケルベロスの意識は否応なしにとんがり帽子の魔術師に向けられた。

 

「では、こちらガ効きますわね?」

 

 アンナは先程と同じように虚空に指先を走らせた。

 描くのは、獅子座、蟹座、射手座、そして──海蛇座。

 

 メジャーな黄道十二宮からは外れている。

 共通するのは、それらが()()()()()()()()()()()()()()()()()()者たちということ。

 

「──()()()()()()()()()()()()()

 

 達人は多くを語らない。

 真正面から、再生を終えたばかりのケルベロスに突貫する。

 三つの頭が悍ましい速度で食らいついてくるのを紙一重で躱し、アンナはその巨大な前脚にしがみついた。

 

 ざり、ざり……!

 まるで巨木を根元から揺さぶるかのような、信じがたい光景だった。

 先程までの魔術的な搦め手とは違う、純然たる力の応酬。

 ケルベロスも抵抗し、アンナを振り払おうと暴れ狂う。

 

 だが、達人は負けない。

 神が地上に遺した奇跡を衆生のために無償で振るった()()()()()のように、周囲への奉仕のために動くアンナが退くことはない。

 

 相手が伝承の魔物でも、それの皮を被っただけのナニカであろうと、知ったことか。

 周囲への奉仕のため──それこそが彼女の思想(すくい)なのだから。

 

「押し、通る……っ!」

 

 ケルベロスの胴体に肩からぶつかり、そのまま地面に押さえつける。怪物の咆哮と、アンナの軋む身体の音が混じり合う。

 ずり、ずり、と。

 アンナはケルベロスを掴んだまま、大穴のある方向へと無理やり押し込み始めた。大地に深い溝が2本、まるで巨大なソリが引きずられたかのように刻まれていく。

 

「な、なんだあれ……あの人、バケモノを一人で押してるぞ……」

 

「今だ、頭を狙えッ! あの人を邪魔させるな!!」

 

 生徒たちの驚愕を背に受けながら、アンナは笑顔のまま表情を固める。

 腕は既にもげかけ、鮮やかな色のパレオは砂埃に塗れていた。

 

(まだ……まだです……! カスミたちの準備が、整うまで……!)

 

 視界の端で、大穴の方向から赤い光がチカッと点滅するのが見えた。カスミからの合図だ。

 そうだ赤い人、やってしまえ──そんな声が聞こえた気がする。

 

 目的の大穴までは距離がある。だが、それで十分。

 アンナは最後の力を振り絞ってケルベロスの胴体下に潜り込む。

 何をしようとしているのかに気付いたのか、ケルベロスも最後の抵抗とばかりに、三つの顎でアンナの身体に食らいつこうとする。

 

「──これで、終わりニし()しょう」

 

 グニグニと蠢く黒い体表に指をめり込ませ、軋む膝を曲げて、力任せに伸ばす。

 風が一陣吹いた。

 

「ウソでしょ!?」

 

 信じがたい光景だった。

 それはちょうど、腕の良いシェフが鍋を振るったときのように。

 漆黒の巨体が高く宙を舞い、大穴目掛けて大振りの放物線を描く。

 ケルベロスは手足をバタバタと暴れさせるが、どれも空を切るばかりだった。

 

 その場の大半の注意が空に向いているその瞬間に、低いエンジン音に気付けた者はいただろうか。

 そうでなくとも、アンナには大穴とは少し離れた方から突っ込んでくるミリタリーカラーの車体が見えた。風紀委員が保有するピックアップトラックだ。

 

「イオリ?」

 

「──乗ってくれっ!」

 

 車両の後部から目を輝かせるメグが無言で手を伸ばしてきていた。どうやらイオリは仕事を終えた2人を穴の近くに滑り込む形で回収に向かっていたようだ。

 中身を機械に置き換えられたアンナの身体だが、赤髪の温泉少女は片手で軽々と引き上げた。

 

「行って良いよっ! GO! GO~!」

 

「言われんでもッ!」

 

 即座に急加速して現場から離れるトラックの荷台の上で、カスミがすっくと立ち上がる。

 

「──ハーッハッハッハッハ! 我ら温泉開発部と風紀委員が協力するなんて珍しいこともあったが、無事にこの瞬間を迎えられることを嬉しく思う。今回は少々身体の大きな客に一番を味わっていただくことで、我々の仕事への理解を賜わろうじゃないかッ!」

 

 ぶんっ、と力強く掲げられた右手には──起爆用リモコン。大きくて真っ赤なスイッチが分かりやすい。

 カスミは巨大なナニカが大穴へ落下していく非日常的な光景に目もくれず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、それに指を掛けた。

 

発破ぁッ!!

 

 ──ど、ごォッ!!

 

 次の瞬間、大地が叫びを上げた。

 大穴から土埃が巨大な柱となって天を突き、遅れて凄まじい爆音と衝撃波がその場を蹂躙する。掘削用の炸薬が織りなす熱と爆轟の奔流が、奈落の底を荒らし回っていることは見なくても明白だった。

 そして。

 

「あっ、来るよ!」

 

 ズズズズ……という低く唸るような振動が地の底から伝わってくる。つい今しがた穴底に落ちていった怪物のものではない。

 さて、そもそも今朝からカスミたちが睡眠時間を削ってまで大工場に励んだ理由は何だったか。

 掘り抜かれた穴の目的は?

 そこに仕掛けた爆薬の狙いは?

 知らないのは、あの怪物だけ。

 

 どッ、ずおおおおお────ッ!!

 

 起爆から一歩遅れて、大穴から茶色い柱が天を突くように伸びた。

 あまりの勢いに周囲の大地はひび割れ、周囲に熱く湿った風が流れ込む。

 

「ったく、毎度毎度どうやってこんなものを見つけてくるんだお前たちは!」

 

「ハッハッハッ、それは企業秘密というものだよイオリちゃん」

 

 イオリの駆るトラックは大きく跳ねて、間一髪で大穴から伸びてきた地割れを運よく回避した。

 そうして、今や白くなった()()の先で、ことの結末が見える。

 

 文字通り水の暴力だった。

 カスミたちの炸薬の威力など比にならない、ゲヘナの源泉から放たれる熱水の本流。

 それは飲み込まれたケルベロスの存在そのものをバラバラに食い千切っていく。

 

 余程の視力でもなければとっくに見えなくなった怪物を眺めながら、他の生徒たちも静かに喜んだ。

 

「すげー威力……今度の温泉はヤバいのが仕上がりそうだな」

 

「なんだお前、この期に及んでまだ開発する気なのか……?」

 

「なにを言ってんだ、アタシらは温泉開発部だぞ?」

 

 未だ勢いの弱まらない源泉。そして、一難過ぎればまた元通り。

 水飛沫のカーテンに午前の日差しが描く大輪の虹は、皆の勝利を祝福しているみたいで。

 

「……」

 

 激しく揺れるトラックの上で、アンナは間欠泉の如く吹き上がる水の柱をただ見つめていた。

 仕留めた獲物への残心か、それとも水に宿る軌跡を見据えてか。

 その目に宿る感情を解せる者はその場にいない。

 

 


 

・十二の試練の魔術

 

 星座の魔術を出発点に、多くの怪物を倒した英雄の力を引き出す魔術。

 逸話の大半は相手を膂力で倒してしまったという内容のため、それに合わせて自身の膂力をブーストする、という使い方が最もシンプルである。

 怪物に正面から向き合うのなら、同じルールに従わねばならない。それは深淵を覗くときの鉄則か。

 ──行儀の(よい)ふりハ、もう×(やめ)ニし(ます)

 

 

・カスミの爆薬

 

 温泉開発部で日常的に使用される爆薬。コンセプトは「気軽に、美しく!」。

 特殊なルートで仕入れた材料をカスミ自らが加工したもので、威力・指向性は折り紙付き。

 点火装置にまでこだわるその理由は、ここ最近は適切な威力で源泉を露出させるためであり、まかり間違っても掘り出す相手を埋没させてしまわないような精密さが求められていた。

 ──今度の温泉旅館、名前は「追儺の湯」でどうかな?

 




まるで濁流だった。おびえる作者に両原作は容赦ない新情報とストーリーで責め立てた──。

 ワスレテナイデスヨ~
 先日の夏イベントで温泉開発部に関する情報を浴びるほど流し込まれたせいで描写をアレコレ考えていたらこんなことに。メグつえぇ……。
 とあるの方もツンツン頭の彼が生き返って早々過密スケジュールに復帰して大変そうです。死は労働をやめる理由にならない、ということでしょうか。
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