美少年百面相   作:忘旗かんばせ

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哲人Q 1

 

 

 

 8 オカルト屋

 

 

 

 その少年の名は鞠舞(まりまい)真丸(まんまる)と言った。

 

「あんたが——オカルト屋?」

 

 と、小学生らしい、声変わり前の声で問われたのは、何を隠そうこの私、十三階段が十段目、『美眼鏡のマユミ』こと瞳島眉美であるのは間違いのないことではあるのだけれど、しかしそれは決して、私がそれら肩書きを捨て去って、如何わしい拝み屋か何かに転身したなんてわけでは断じてない。

 

「ええ、その通り」

 

 首肯と共に答える。おいおいやっぱりそうなんじゃないかという声がどこからか聞こえてきそうなものだけれど、しかし、違うのだ。私は断じて、心霊商品を売りつけるような商売をしようというわけではなく——むしろ、その逆。

 

「私はオカルト屋さん。君が『オカルト』を知っているのなら、買い取ってあげよう」

 

 私は今——オカルトの『買取』をしているのだった。

 

 十三階段の首領、狐さんこと西東天その人より、『怪談百面相』の捕獲を申しつけられた私は、その雲を掴むような任務をなんとか果たすために、『怪談探し』を開始した。一発目で()()()()()——『映像の魔人』を引き当てたはいいものの、本命である怪談百面相はその影を踏むことすらできず。以来私は様々な怪談を探し回り——独力でのそれに限界を感じた。これ以上、本物の怪談を探して駆けずり回るのは無理がある。私程度が探せるような怪談なんて、九十九パーセントは作り物かデマかだったし。

 

 だから、探すのが限界ならば——向こうからやってきてもらおう。

 

 そう思って始めたのが、この『オカルト屋』である。

 

 怪談、あるいはそれだけに関わらず、ありとあらゆる『怪しいもの』——オカルト全般を『買い取る』店。それが、私の見出した第二の手段であった。探偵ならば情報は足で探せと怒られるところだろうが、残念。今の私は探偵ではない。

 

 使えるものは親でも使え、だ。

 あるいは小学生でも。

 使えるのならば、使ってしまえ。

 

「さあ、少年、遠慮せず。どうぞ座って」

「……ふぅん」

 

 椅子を勧めたにも関わらず、真丸少年は立ったまま、吐息なのか返事なのか、曖昧な声を出した。緊張しているのだろうか。まあ、無理もない。雰囲気作りのために、この部屋は少々加工をしてある。

 

 空間制作——と言ったか。十三階段の同僚にして大先輩。現在では『一段目』を務める『空間制作者』こと一里塚木の実さんにお出まし願い、空間を()()()()()加工してもらっている。遠近感をおかしくして、廊下を本来のそれよりずっと長く感じさせたり、部屋を本来の光量よりずっと暗く感じさせたり、それでいながら人物だけは浮き上がって見えるようにしたり。とにかく『神秘的』な雰囲気を感じさせられるように、空間を『制作』してもらった。

 

 元はと言えば、私とその『お目付け役』が潜伏する用のセーフハウスとしてあてがわれたそれの一室なのだけれど、よくもまあ化けるものだ。普通の民家の一室が、怪しげな『オカルト屋』の居城に早変わりである。

 

「あのさ」

「なんでしょう」

 

 芝居掛かって、私は小首を傾げて見せる。ちなみに、衣装の方も工夫してある。空間だけが一丁前でも、そこに座っているのがジャージの女子中学生じゃあ締まらない。典型的だが、シルエットの大きな黒ローブをかぶって、顔は影が隠すようにしている。プライバシー保護もバッチリってわけだ。

 

「ここで話したことって、ちゃんと秘密になる?」

 

 お、なんだなんだ、小学生のくせに一丁前に守秘義務の確認か。あいにくと、秘密契約を結ぶほどの用意はないが——

 

「安心していいよ。私の願いは、あくまでも『本物のオカルト』と出会うこと。買い上げた『オカルト』をわざわざ人に言いふらして回るような、愚かな真似はしないとも」

 

 私が言えば、少年は意を決したように椅子に座った。

 

「オカルト屋さん……あんたさ、哲人Qって知ってる?」

 

 知ってるよ。江戸川乱歩でしょ?

 

 

 

 9 四〇四号室

 

 

 

 字が違った。

 

 江戸川乱歩の名作、『鉄人Q』は、その名の通り、人間そっくりのロボットとされる『鉄人Q』が主題な訳だが、しかしこちらのQは鉄人ではない。

 

 哲人だ。

 

『哲人Q』。

 

 それが怪談のタイトルだった。

 

「それで、本当にここで合っているのかな、真丸くん」

 

 私が言えば、隣を歩く少年は「うん」と控えめに返事をする。私が絶世の美少女だからって、そんなに照れなくてもいいのにな。

 

「いや照れてるっていうか、むしろ逆っていうか……」

 

 なんだ、むしろ逆って。どういう意味だ、おい。

 目が見えない私を案内するためにという名目で手を繋いでおいて、照れのひとつもないってか?

 

 言っておくけど、私はこれでもそれなりに盲目生活に慣れていて、比較的素直な碁盤の目状の街づくりがされているここいらじゃ、別に手を引かれなくても迷わないんだぞ? 手を繋がせてあげたのは、年下の少年に素敵なお姉さんと手を繋ぐという思い出を作ってやろうというサービス精神でしかないんだからな?

 

「いや変な意味じゃなくてさ……つーか、あんたの方が変な意味で捉えすぎだろ、手を繋ぐくらいのことを。そうじゃなくて……あんた、部屋の中にいた時と、ずいぶん印象が違うな、って思ったんだよ」

 

 ああ、そういう意味か。確かに、それはそうだろう。部屋の中にいる時は、空間制作で威厳十割マシになってるわけだし——

 

「あんた、女だったんだな」

 

 いやそこからかよ。

 

「姿はローブでほとんど見えなかったし」

 

 ああ、まあ、確かにそうか。いやそれでも、声でなんとなくわかりそうなもんだけれど。

 

「それに、歳も俺とそう変わらなさそうだし……本当に大丈夫なのか?」

 

 真丸少年は不安そうな声で問う。そうは言っても、私、君より三つは歳上だぞ。

 

「逆に言えば、三つしか変わんないってことだろ。所詮は中学生だ。あんたが飛び級してる天才児ってわけでもなけりゃあな……頭数がガキ二人なのは変わんないだろ。そんなんで、本当に()()()ができるのか?」

 

 ガキ二人、という言葉からもわかる通り、今回、お目付け役ことるれろさんはお休みだ。お休みというか正確には、別の仕事があるから駆り出されているという形なんだけれど。というわけで、今回は私単独である。頼れる大人は、近くにはいない。

 

 だが、しかし。

 

 その質問に、私はふんと鼻を鳴らす。

 

「大丈夫大丈夫。こう見えて、私は昔探偵をやっていたこともあるんだよ。謎解きなんて得意中の得意なんだから。大船に乗ったつもりで、いやさ、戦艦大和に乗ったつもりでいなさいな」

「だとしたら最終的に撃沈するんだが……」

 

 本当に大丈夫なんだろうな? と真丸少年は怯えたように言う。まあ、気持ちはわかる。()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう心配しないでって。死ぬ時は一緒なんだから」

「相談する相手間違えたかなぁ……」

 

 言いつつ、少年はため息を吐く。失礼なやつめ。

 

「ともかく——せっかくここまで来たんだし、ちゃっちゃと用事を片付けちゃおうよ」

「……ま、そうだな。ダメで元々だ」

 

 どこまでも失礼なことを言いつつも、少年は前へと進んでいく。私はそれを追って、その()()へと侵入した。

 

「しかし、君もなかなかチャレンジャーだよね。いくら度胸試しって言っても、こんな()()()にわざわざ入り込むなんて」

 

 たった今、私たちが侵入したのは、一棟の廃ビルだった。日本全国どこにでもあるだろう、入居者不在で廃れた小さなビル。交差点の角に聳えるそれ。事前に聞かされた情報では、五階建て。各階に四部屋。築年数は不明だけれど、少なくともそのすぐ近所に住む真丸少年曰く、彼の両親が子供の頃から建っているらしい。

 ビルの名前はミドリビル。至って普通の名前だ。

 

「中身はともかく、ビル自体はそんな怖いもんでもないだろ。ちょっとばかしボロっちくはあるが」

 

 エントランスなんて気の利いたものがあるわけでもなく、外階段を登りながら、少年は言う。まあ、私には見えないからどの程度ボロっちいのかはわからないけれど。

 

「いやいや、なかなか普通の人には真似できないことだよ。だっていくら見た目がボロっちくても、建物として存在している以上は所有者がいるわけだし、訴えられたら不法侵入で捕まっちゃうからね」

「そういう意味でかよ。別の意味で怖くなってきたわ」

 

 監視カメラとか、ないよな? なんて少年はキョロキョロと辺りを見回す。頑張れよ。あいにくと私には探せないから、君の目だけが頼りだぞ。

 

「それで、目的の部屋はどこなんだっけ?」

 

 階段をひたすら登りながら、私は問う。足が疲れてきた。もうこれ以上登りたくはないぞ。

 

「バテるのが早すぎだろ、この程度の階段で。……四〇四号室だよ。今三階だから、後ちょっとだ。頑張れ」

 

 三歳年下の少年に励まされつつ、私は階段を登り切る。たどり着いたのは四階。廊下は階段側から順に一、二、三と部屋番号が重なるそうで、四〇四号室は廊下の突き当たり、最奥になる。

 

 しかし、四〇四……四〇四か。なんとも縁起の悪い部屋番号名だ。この手の忌み数となるような部屋番号は、ホテルなんかじゃあ飛ばされるのが慣例となっていたりするようだけれど、どうやらこのビルはあいにくと、そう言ったジンクスには無頓着だったらしい。そのせいで、というわけじゃあないだろうけれど、結果としてビルは廃墟と化し、挙げ句の果てに——怪談の舞台にまでなってしまっているのだから救えない。

 

 私はドアの前で立ち止まる。

 

「ここに——いるの? 哲人Qが」

 

 私が問えば、隣からは首を振る気配が返った。

 

「本人がいるわけじゃない。あるのは——哲人Qからの挑戦状だ」

 





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