推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第11話 開封の儀②

 俺は肉パン屋で謎肉を挟んだパンを買い、「今日は当たりだ」と呟きながら中央通りを歩いた。

 

 そのまま浴場に入店する。俺は白蘭魔法団のギフト開封配信の前には必ず、身体を清めることにしていた。

 

 カウンターのおっさんに金を払うと、ロッカーの鍵を渡される。俺は脱衣所に入って服を脱ぎ、ロッカーにぶち込んでしっかりと鍵を掛けた。

 

 服は貴重だ。ちょっといい素材の服を着ていたら簡単に盗まれる。俺の着ている服は地味だがなかなかレアなモンスターの皮で作られている。専門家が見ればわかる。だからしっかり鍵を掛けなければならない。

 

 俺はロッカーの鍵を手首に結び、浴場へ入る。中は盛況だった。

 

 夕方ということもあり、依頼を終えた冒険者達が汗を流しているのだろう。実際の温度以上の暑苦しさがある。

 

 俺は礼儀正しく、浴槽に入る前に石鹸で身体を洗う。石鹼は薬屋のババアにもらったものだ。この石鹼、めちゃくちゃ汚れが落ちるので重宝している。ただ薬屋のババアは「この石鹼で粘膜は洗わないほうがいい」と言っていた。一体、原材料はなんだ?

 

 ババアとの会話を思い出しながら身体を洗っていると、ロッカーの鍵を足首に結んだ、やたらごつい男が隣に座った。汲んだばかりの湯を身体にかけながら、ちらちら俺を見てくる。

 

「やっぱりロジェだったのねぇ。後ろ姿で分かったわ」

 

 うわ。最悪だ。まさか浴場で出くわすとは。

 

「誰?」

「もう! あんなに熱い夜を過ごしたのに忘れたの!?」

「過ごしてねえよ! 殺すぞ!」

 

 気安く俺の肩を叩いたのは冒険者のブーマーだった。同じ頃に王都に出てきて冒険者になったよしみで、俺を見付けると話し掛けてくるのだ。

 

 ちなみにこいつは冒険者をやりながらスラムの同性愛者用の売春宿でも働いている。ブーマー曰く「やりたいことは全部やる。私はその為に生まれてきたの」だそうだ。

 

「ロジェ、最近、店に顔を出さないじゃない?」

「一回も行ったことないだろ!」

「じゃ、今日、この後どう?」

「死んでもお断りだ!」

 

 ブーマーは軽口を続ける。たぶん、本気で誘っているわけではない。ないよな?

 

 俺はさっさと身体を洗い、大きな浴槽へと向かおうとする。

 

「ちょっとロジェ。石鹼貸してくれない」

「持ってきてないのかよ。全く。ほれ」

 

 俺は若干の悪戯心を持って、ブーマーに石鹼を投げた。

 

「隅々まで洗えよ。このあと仕事だろ」

「分かっているわよ」

 

 大浴槽に浸かる。身体が湯に包まれ、芯まで温まる。少しだけ目を瞑る。途端、様々な音が耳に入ってくるようになった。

 

 湯の流れる音。身体を洗う音。ちょっとした会話。ちょっとした悲鳴。

 

「痛い! 痛い! 何これ!」

 

 ブーマーは粘膜を洗ったようだ。

 

 

#

 

 

 浴場で身体を清めた後、俺は「蛇の巣」へ戻ってギフト開封配信に備えていた。タブレットを両手で握り、姿勢を正して集中する。

 

 自然と呼吸が深くなる。ただ、相反するように心臓は早鐘を打つ。暴走する自分とそれを抑えようとする自分が一つの身体の中で争っていた。

 

 時間の流れがやけにゆっくりだ。逸る気持ちを見透かしてか、タブレットには何も映らない。俺を焦らして楽しむかのように。

 

「まだか――」

 

 俺の言葉を待っていたかのように、タブレットに光りが灯る。そして徐々に映像が映し出される。

 

『王国民の皆んな! いつもありがとう! これから白蘭魔法団のギフト開封配信を始めるね!』

 

「よし。始まった」

 

 いつものようにパオラ団長の挨拶から配信が始まった。カメラが引いてテーブルの上にずらりと並ぶ各団員向けのギフトボックスを映した。その一番端には俺の推し、エルルちゃんのも見える。俺からのプレゼントが入ったギフトボックス。

 

『それでは先ず最初は団長である私、パオラのギフト開封です!』

 

「パオラ」と書かれた箱が大写しになり、次々にギフトが開封されていく。数が多いので流れ作業のようになっている。俺はその様子を無心で眺め続ける。

 

 しかし、身体は正直だ。この後に控えるエルルちゃんのギフト開封に向けて、どんどん心臓が五月蠅くなっていく。

 

「ふぅーふぅー」

 

 息を吐いて落ち着こうとするが、全く効果がない。

 

 パオラ団長のギフト開封の儀が終わり、カリー副団長へと移る。カリー副団長は胸の下で両腕を組み、双丘をアピールしていた。

 

「ふん。姑息な……。上げ底をしてもエルルちゃんには敵わない。無駄な足掻きだ」

 

 俺の言葉を無視し、カリー副団長はギフトの開封を進める。カリー副団長へのギフトはエロい衣装が多い。本人がエロ路線だから仕方がないのだろうが、なんとも即物的だ。もっと推しを高めるようなギフトをするべき。

 

 そんなことを独り言ちていると、ギフト開封の儀は進んでいく。そしていよいよ――。

 

『最後は先日入団したばかりの新人エルルちゃんのギフト開封です!』

「よっしゃぁああ! 来た来た来た来たぁあ! エルルちゃんの番だぁぁああ!」

 

 全ての息を吐き出し、叫んでしまった。狭い「蛇の巣」の部屋に反響する。

 

「おい! ロジェ! 黙れ!」

 

 隣に泊まっている冒険者が部屋の壁を殴り、怒りを表す。

 

 無視だ。今はそれどころじゃない。俺の全てをタブレットに集中させる。

 

 エルルちゃんはタブレットの向こうから、まだあどけなさの残る笑顔を俺に向けた。その水色の髪は以前よりも明らかに艶を増している。これは俺が贈った白龍の櫛の効果に違いない! 間違いない! エルルちゃん、使ってくれてありがとう!!

 

 俺が一人はしゃいでいる内に、映像が切り替わり、カメラがエルルちゃん向けのギフトの入った箱を映した。そこには相変わらず包が一つしかない。

 

 その包は蒼く光っている。間違いない。俺のだ。

 

『このギフト、光ってる!』

『一体、何が入っているんだ?』

 

 エルルちゃんの両サイドにパオラ団長とカリー副団長がやって来て、囃し立てた。

 

 慎重な手つきで、エルルちゃんは包を手にとり、ゆっくりと開く。

 

『わぁ、綺麗』

 

 エルルちゃんの手には水の精霊石が蓋についた小瓶がある。メッセージカードに気付き、読み上げる。

 

『"中に入っているのはちょっとレアな素材からつくった化粧水です。気が向いたら使ってください"って書いてます! 通りすがりの冒険者さん! ありがとうございます! 使わさせてもらいます!!』

 

「いいよぉぉぉお!! 使って使って!! なくなったらまた贈るから!!!!」

『エルル、ちょっと待て。液体は使っちゃ駄目だろ』

『そうね。使うにしても【鑑定】してからね』

 

 カリー副団長がエルルちゃんに苦言を呈し、パオラ団長がそれに同調した。

 

「余計なこと言ってんじゃねえよ!! なんだよ『液体は駄目』って!!!! 俺が危ないものをエルルちゃんに贈るわけないだろ!!!!」

 

 ドン! っと再び壁を殴られる。

 

「うるせえぞ! 液体ってなんだよ!!」

「液体は液体だ! ボケ!!!!」

 

 壁を殴り返し、慌ててタブレットに戻る。タブレットの向こうではエルルちゃんが少し困った顔をしていた。

 

『とにかく、ありがとうございます! 通りすがりの冒険者さん』

 

 エルルちゃんが精霊石の小瓶を両手で持ち、胸の前にもってくる。

 

「小瓶が……胸の上にのっているぅぅぅうううううう……!!!!」

 

 ここで目の前が急に真っ白になった。どうやら俺はまた、……興奮……しすぎた……ようだ。




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