推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第15話 調査団

 早朝の王都西門にはずらりと馬車が並んでいた。すでに十台以上とまっている。その周囲には思い思いの恰好をした冒険者達がお互いを牽制するように険しい雰囲気を醸しながら、たむろしていた。

 

 そこへ、白髪の混じった男がギルド職員と共に現れた。視線が集まる。

 

「皆、揃っているな? 俺は今回の調査団の団長を務めるランベルトだ。皆、俺の指示に従ってもらう。不満があるやつは今ここで言ってくれ」

 

 皆、黙り込む。

 

 そんな中、赤髪の若い男が一歩前に出て口を開いた。

 

「ランベルトさん。あんたはA級冒険者だが、もう随分とベテランだ。ちゃんとモンスターと戦えるのか?」

 

 ランベルトが赤髪の男を睨む。

 

「トマージか。最近の活躍は耳にしている。しかし、今は粋がる場面じゃない。ここには若い女はいないだろ? 格好つけてどうする?」

 

 今度はトマージがランベルトを睨みつけた。剣吞な雰囲気に、ギルド職員が慌てて止めに入る。

 

「二人とも落ち着いてください! それぞれの実力はモンスター相手に発揮してもらって! とにかく、調査団の団長は経験豊かなランベルトさんにお願いしています! これは冒険者ギルドとしての決定です! そこのところ、皆さんよろしくお願いします!」

 

 トマージはつまらなそうに鼻を鳴らし、後ろに下がっていった。

 

「よし。では早速、西の森に向かう。馬は途中の町で交換する手配が済んでいるから、休まず一日で西の森まで行く。夕方、森に入り口についたらそのまま野営。翌日から森に入って調査開始だ。いいな?」

 

 五十人弱の冒険者達がランベルトの言葉に同意し、それぞれ手配された馬車に乗り込んだ。

 

 

#

 

 

 もうすっかり陽は落ち、西の森は魔の領域へと変貌していた。軽く見渡すだけで、モンスターの赤い瞳がいくつも闇に浮かんでいる。

 

「半分は篝火を焚いて天幕を設営。残りの半分は薪を拾いながら周囲を警戒。すぐそこにモンスターはわらわらいやがる。気を抜くなよ!」

 

 ランベルトが指示を出すと、冒険者達は一斉に動き始めた。篝火によってすぐに周囲が明るくなり、人間の領域が生まれる。

 

「よし。天幕はこんなもんでいいだろう。俺達も周囲の警戒に移ろう」

 

 手早く天幕を張り終えたトマージ達三人は森へと向かっていく。トマージが剣を抜き、仲間二人が灯りの魔道具で先を照らしながら進んでいく。

 

 しばらく進むと、カサリ。と十歩先の茂みが揺れる音がした。その奥には赤い光りが見える。

 

 トマージがハンドサインを出すと仲間二人が足を止める。闇の中の赤い瞳はじっとトマージ達を睨んでいた。いつ、飛び掛かってくるか分からない。

 

 長剣を静かに振り上げる。その身体に魔力が満ちるのが分かった。

 

 細く、静かに息を吸う。

 

「【ウィンドブレイド】!」

 

 トマージが唱えると同時に長剣は緑の光りに包まれ、振り下ろすと同時に真空の刃が前方に放たれた。

 

 均衡が破られ、茂みの中から思わぬ巨体が現れた。マッドボアの上位種、レイジボアだ。

 

 地面を抉りながらトマージに迫り、真空の刃と交錯する。

 

 ブモッ……!! と間抜けな鳴き声と同時に、レイジボアは地面に転がった。すぐに灯りの魔道具で照らされる。

 

 浮かび上がったのは、両前足を失い、二度と立ち上がれなくなった猪のモンスターの姿だった。

 

 憎しみの籠った赤い瞳をトマージに向けている。

 

「よし。こいつを夕飯にしよう」

 

 必死にもがくレイジボア。しかし、後ろ足で地面を蹴るばかりで、なんの脅威にもならない。トマージは長剣の刃を下にして構えると、レイジボアの首に向かって深く差し込んだ。

 

 赤い血が噴き出し、直ぐに土にしみ込んでいく。やがて、レイジボアは動かなくなった。

 

「よし。何人か呼んで来てくれ」

 

 トマージが討ち取ったレイジボアは巨大で、十人がかりでやっと運べるほどの重量だった。

 

 さっそくの大物に野営地は湧く。

 

 若手の冒険者が面倒な解体を買って出て、切り分けたそばからレイジボアの肉が焼かれていく。

 

「俺からの奢りだ! しっかり食べて明日に備えてくれよ!」

 

 トマージが声を上げると、冒険者は歓声で応えた。基本的に上位のモンスターの肉は美味い。そして、ボア系はそもそも食材としても人気がある。つまり、最高の夕食となったのだ。

 

「あんたは食べないのか?」

 

 トマージは食事の輪から外れて森を見渡しているランベルトに声を掛けた。

 

「俺は脂っぽい肉は苦手なんだよ」

「年を取るってのは嫌だな」

「お前もいずれ、年を取る」

 

 ランベルトはトマージと視線を合わさず、ずっと森を眺めている。

 

「俺は年を取る前に駆け上がってやるよ」

「ふん。身の程知らずめ。世の中には本物の化け物がいる。お前はまだ、出くわしたことがないから、そうやって粋がっていられるんだよ」

 

 ランベルトの言葉を聞いてもトマージは余裕の表情を崩さない。まるで自分がその「化け物」であるかのように。

 

「おい、トマージ! お前の分が無くなってしまうぞ!」

 

 仲間に声を掛けられ、トマージは食事の輪に入っていく。

 

 一方のランベルトは険しい顔を夜の森に向けたまま「血の臭いが濃すぎる」と呟いた。

 

 

#

 

 

「蛇の巣」のマズイ朝飯を食って目を覚ましから、俺は西の森に向けて進み始めた。

 

 街道にはやたら馬車が多いので、外れて草原を進む。何度もホーンラビットを轢き殺しながら。スラムのガキへの土産に丁度いいので、都度リュックに回収する。

 

 途中の町で休憩していたら、真っ赤に染まった衣服について老人から質問を受けた。「戦争帰りかね?」と。

 

「いや、戦いはこれからだ」と答えると、「お国のために頑張ってくれ」と焼き菓子をもらった。

 

 俺が知らないだけで、リンデ王国はどこかの国と戦争を始めるつもりなのかもしれない。もし、戦争となるとエルルちゃん属する白蘭魔法団も参加することになるだろう。

 

 しっかりレア素材を貢いでエルルちゃんの安全を確保しなければ……。

 

 俺は決意を新たにし、西の森へと急いだ。

 

 

 夕暮れ時を通りこし、既に夜がやってきた頃に西の森の入り口に着く。冒険者の集団が篝火を焚き、ワイワイと騒ぎながら野営の準備をしていた。緊張感のない奴等だ。

 

 俺は両目に魔力を廻らせ、夜目を効かせながら森へと入っていく。

 

 モンスターの気配が濃い。「魔王が誕生した」という噂は本当かもしれない。

 

「ふっ」

 

 茂みに隠れて冒険者の野営地を狙っていた豚面のモンスターの首をナイフで掻き切る。ハイオーク、もしくはオークジェネラルは一度も俺の存在に気付くことなく、地面に伏し、息絶える。

 

 血の臭いを消すため、俺はすぐさまリュックに死体を仕舞った。

 

 その後もハイゴブリンやハイコボルト等の首を次々落としていく。この密度、なかなかだ。

 

 森を進むにつれて現れるモンスターの傾向がはっきりしてくる。

 

 上位種が現れるのはゴブリン、コボルト、オークのみ。もし、魔王が生まれているとすれば、これらの種のどれかがベースとなっているのだろう。

 

 そして、近しい種に力を与え、進化させている。

 

「ギ……」

 

 魔法を放とうとしたゴブリンメイジの胸にナイフを刺し、左手で口を塞いで黙らせる。

 

 いままで、ゴブリンメイジが西の森に現れたなんて聞いたことがない。もしかすると、今回の魔王は魔法系かもしれない。

 

「いい素材が取れそうだ」

 

 俺は現れるモンスターを屠りながら進み、ちょうど夜の真ん中になったところで大木を見つけて休憩することにした。

 

 上まで登り、太い幹に身体を預け、リュックから干し肉を出し齧る。

 

 強い塩味が疲れを癒す。次は甘味。

 

 道中でもらった焼き菓子を思い出し、取り出して口に放り込んだ。

 

「なかなか美味い」

 

 俺は空腹を満たした後、意識は覚醒させたまま瞼を下ろした。

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