推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第19話 悩むトマージ。我が道を行くロジェ

「一体、これはどうなっているんだ……?」

 

 ランベルトとその背後にいる二人の冒険者は灯りの魔道具で照らしながら、森の中の惨状に目を丸くしていた。

 

 大木を中心にしてモンスターの死体の山がある。ついさっき殺されたばかりのように死体の鮮度が高い。

 

「この短時間に……この数のモンスターを倒したというのか……」

「そうとしか考えられません……」

 

 ランベルトの呟きに、一人の冒険者が同意する。

 

「あっ、こっちにトマージ達が倒れています!」

 

 照らされた先には三人の冒険者が横たわっていた。その装備は激しい炎に焼かれたように炭化し、とても無事には見えない。

 

「大丈夫か……!?」

 

 ランベルトが赤髪の男に駆け寄り、その身体を抱き起す。

 

「レロレロレロレロ」

「トマージ……!? どうした? 無事か?」

 

 激しく肩を揺らされるトマージ。しかし、トマージの瞳はトロンとしたままだ。

 

「おい! トマージ! 大丈夫か!」

「しっかりしろ!!」

 

 二人の冒険者もトマージに声を掛けるが、変化はない。

 

「ランベルトさん。仕方がないです。殴りましょう」

「そうだな」

 

 一人の冒険者がトマージの身体を起こす。ランベルトが拳を握り、トマージの顔に向けて振り抜いた。

 

「レロレゴッ! ……うぅ、ランベルトさん……?」

「やっと気が付いたか、トマージ」

 

 トマージは頬を摩りながら立ち上がる。

 

「一体何があったんだ?」

 

 ランベルトは灯りの魔道具で周囲を照らし、トマージに説明を求める。トマージは目の前に広がる惨状を見て、大きく口をあけ、茫然とした。そして、吐き出すように話し始める。

 

「俺は……怪しいフードの男を追い詰めて、倒した……しかし、その後、魔王が現れて……うっ、頭が……!」

 

 トマージは頭を両手で挟み、苦悶の表情を浮かべた。

 

「今、魔王と言ったか!? 一体、どんな魔王だったんだ!?」

 

 ランベルトはトマージに問いただす。トマージは震える手で、地面に横たわるローブを羽織ったモンスターを指差した。そのモンスターには頭と両手がない。

 

「あ、あれが……魔王だ……! 俺は……魔王と戦い、必殺の技を返され……うぅぅ……頭が……頭が痛い……」

 

 再び、トマージは頭を押さえる。手を離すと、ぱっかりと割れてしまうかのように、強く力を込めて。

 

「それから、どうしたんだ!? トマージ、お前が魔王を倒したのか!? 魔王だけじゃない! この山となった膨大なモンスターの数はなんだ? これも、お前が倒したのか!?」

「な、何も思い出せない……」

 

 目を充血させたまま、トマージは魔王の死体を見つめている。

 

「お、俺は見たぜ……。トマージが魔王を倒すところを……」

 

 そう告げたのは、トマージのパーティーメンバーの一人だった。さっきまで倒れていたが、介抱されてやっと立ち上がれるようになったらしい。

 

「本当に、俺がやったのか?」

「あぁ、間違いない……。トマージがあの不気味な魔王の頭を吹き飛ばした。素手で……」

 

 仲間の言葉を聞き、トマージは「信じられない」という表情で、自分の右手を見つめた。

 

「トマージがこんな風になったのは、今回が初めてか?」

 

 黙り込んでしまったトマージから離れ、ランベルトはそのパーティーメンバーに話し掛けた。

 

「いえ……。二回目です。水のエレメンタルスライムを倒した時も、トマージは意識を失っていました」

「水のエレメンタルスライムの時もか……。もしかするとトマージは……」

 

 ランベルトは含みを持たせる。トマージのパーティーメンバーが食いつく。

 

「もしかすると?」

「たまにいるんだよ……。ピンチになると、別の人格が出てきていつもの何倍もの力を発揮する奴が……。トマージはきっと、そーいう【覚醒】タイプだ」

「トマージに……そんな秘密が……」

 

 トマージはランベルトと仲間の会話を聞き、「俺は一体何者なんだ……?」と呟いた。

 

 

#

 

 

 魔王を倒し、レア素材を入手した俺は爆速で王都に戻って来ていた。一睡もせずに走り、身体はボロボロで今すぐにでも寝たい。

 

 しかし、床に就くのはやることをやってからだ。

 

 俺は脚を引きずるように王都のスラムを歩いていた。

 

「あっ、ロジェだ!」

「本当だ!」

「ねーねー、どうしたの? 身体痛いの?」

 

 オスガキ二人とメスガキ一人。俺にひっつくように絡んできて、妙にキラキラした瞳を向けてくる。

 

「なんでもねーよ」

 

 両手で押しのけながら歩くが、ガキ共はしつこい。

 

「あっ、分かった! ロジェは悪いモンスターと戦ってきたんだね!」

「西の森のモンスターがヤバイって噂になってたもんね~」

「ねえ? ロジェはどんなモンスターをやっつけたの?」

 

 メスガキが俺の手を引っ張って離そうとしない。何か話すまで、解放してもらえなさそうだ。

 

「なんか突然変異の気持ちの悪いゴブリンがいたから、とりあえず頭ぶっとばした。これでいいか?」

「えっ、それってユニークモンスターってこと? やっぱりロジェはやべーな!」

「ユニークモンスターって何?」

「教えて教えて!」

 

 一番年長のオスガキが知った風な口を利く。メスガキの興味はユニークモンスターに移ったようで、やっと手を離して貰えた。

 

 俺は一瞬だけ脚に魔力を廻らし、ガキ共と距離をとると、細い路地に身を滑り込ませる。そして古い煉瓦造りの建物の地下へと降りた。なんの看板もない扉を開く。

 

「……なんだ。ロジェかい?」

 

 薬屋のババアはいつも通り、カウンター代わりの実験台で怪しい液体を弄っていた。絶対にまっとうな薬ではない、謎の信頼感がある。

 

「ちょっと頼みたいことがある」

 

 俺は背負っていたリュックを前に回し、あるモノを念じながら取り出す。そして、実験台の上に置いた。ババアはぎょっとした表情になる。

 

「……なんだい。この手は……?」

「これはシマシマゴブリンの手だ」

「シマシマゴブリン? そんなモンスター聞いたことないよ! また適当なことを言って」

 

 そう言いながら、薬屋のババアは恐る恐る魔王の手に触れる。

 

「この手、切れ目みたいなのがあるけど、なんなんだい?」

「それは瞼だ。開くと赤い目がある」

「本当かい?」

 

 ババアは親指と人差し指で、掌にある瞼をそっと開く。今も尚、赤く輝く瞳があった。

 

「その赤い目を手から取り出して、腐らないように処理して欲しいんだ。そーいうのは、素材屋より薬屋の方が得意だろ?」

 

 ババアの瞳が妖しく光った。

 

「まぁね。やってやれないことはないよ。ただし、ちょっと値が張るよ。あと、この手は私が引き取る。その条件でよければ、ロジェのお願いを聞いてあげる」

 

 こんな手が欲しいのか。変なババアだ。

 

「わかった。その条件でいい。で、幾らだ?」

 

 俺はババアの言い値を払い、魔王の手を置いて薬屋を出た。そしてやっと、蛇の巣に戻って泥のように眠った。

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