推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第2話 素材屋と冒険者ギルド

 王都の中央通りには屋台が溢れている。その中でも最も胡散臭い屋台の店主は客に背をむけ、大きな黒い袋を漁っていた。

 

「おっさん、肉パンくれ」

 

 店主は何かやましいことがあるのかビクリと身を震わせてから、顔に笑顔を張り付けて振り返った。

 

「なんだ、ロジェか」

「なんだ。とはなんだ。お客様だぞ! 肉パンくれ」

「ちょっと待ってな」

 

 肉パン屋の店主は焜炉の魔道具の上に肉をのせ、焼き始める。

 

「今日の肉は大丈夫なやつだろうな?」

 

 獣臭い煙を上げる肉を見ながら、店主に問う。

 

「今のところ倒れた客はいないから大丈夫だろ」と店主。肉を焼き続ける。

 

 肉パン屋で出されるのは肉を挟んだパンだ。ただし、何の肉かは教えてくれない。いや、店主自身も知らないことが多い。

 

 何故なのか?

 

 それは、この屋台が冒険者ギルドでは買い取ってくれない不人気肉の買い取りをしているからだ。

 

 冒険者ギルドが買い取るモンスターの肉は種類が決まっている。王都の周りだとホーンラビットなんかが買い取り対象だ。同じく王都の周りにいるグラスウルフは肉が臭いので買い取ってもらえない。

 

 この肉パン屋はそんな不人気肉を冒険者から買い取り、焼いてパンに挟んで売っているのだ。

 

 だからその日によってパンに挟んでいる肉の種類は違う。当たりの日もあれば外れの日もある。大外れだと何日も腹を下すことになる。

 

 そんな安くて早くてスリリングな屋台が肉パン屋だ。

 

「ほれ。ソース多めだ」

 

 焼きたての謎肉が大量に挟まれたパンが手渡される。引き換えに、俺は銅貨を三枚を店主に渡した。

 

「この前、ロジェが持ってきてくれた肉、滅茶苦茶評判よかったぞ。あれ、また仕入れてくれよ」

 

 この前……。あぁ、白龍の肉だな。美味くて当たり前だ。まだかなりの量がリュックに残っている。ちなみに俺が親からもらったリュックは拡張魔法が付与されているらしく、一軒家がまるまる入るぐらいの容量がある。遅延魔法も付与されているので、しばらくは腐らないだろう。

 

「あぁ、カタツムリオオトカゲの肉だな。今度出くわしたらまた売りにくるよ」

「なんだよそのモンスターの名前。適当なこと言いやがって」

 

 白龍の肉はもう売るつもりはない。龍の肉は他のモンスターをおびき寄せるのに、非常にいい餌になる。龍を食べるってのはモンスターにとっては特別なことらしい。

 

 俺は肉パン店主に手をヒラヒラと振って別れの挨拶とし、中央通りを食べ歩き。

 

 ちっ。肉パン屋のおっさん、ソースをかけ過ぎだ。滅茶苦茶手に垂れてくる。

 

 そして肉が硬い。超硬い。これ、グラスウルフの老体の肉だな……。嚙み切れない……。

 

 俺は顎の周りにだけ魔力を高速に循環させた。部分的な身体強化だ。ついでに胃にも魔力を廻らせる。消化不良を防ぐために。

 

 強化された顎の力によって硬い肉を難なく咀嚼し、後は胃にまかせる。

 

 魔力ってのは便利だ。魔力を身体の中で循環させれば、身体能力が向上する。高速に回せば効果も倍増する。

 

 ただし、身体を循環させている内に魔力はどんどん減っていく。重要なのは必要な箇所にだけ、必要なタイミングで、必要な量を高速に循環させることだ。

 

 俺は肉パンを食べ終え、手についたソースを舐めながら、中央通りから一本裏の通りに入る。

 

 急に日当たりが悪くなり、人通りも少なくなる。心なしか、空気も湿っている。

 

 少し進むと更に人影がなくなり、今まで聞こえなかった自分の足音が耳につくようになった。

 

 この辺りは一般人にはあまり用のない、素材屋が密集しているエリアだ。

 

 俺は素材屋が並ぶ建物の中でも一番雑多で怪しい店に足を踏み入れた。

 

「ゲジゲジ屋」

 

 俺はそう呼んでいる。ゲジゲジ眉の毛深いおっさんが店主をしているからだ。たぶん、正式名称も似たような感じだろう。

 

 うず高く重なった素材。モンスターの皮や角、瓶に入った得体の知れない眼球、絶対に危ない干しキノコなど、その商品は本当に様々だ。

 

 俺は素材の山を崩さないように慎重に店内を歩き、奥のゲジ眉店主のところに辿り着いた。

 

「おっさん、やってるか?」

「なんだロジェか」

 

 ゲジ眉店主はつまらなそうに口を開いた。

 

「素材を買い取ってほしい」

「全くよ~お前、冒険者なんだからギルドで買い取ってもらえよ」

 

 めんどくせ~。

 

「やだね。ギルドだと素材の鑑定をされるからな。いちいち時間がかかるし面倒臭いんだよ。ちょっといい素材を持ち込むと『F級冒険者の癖に怪しいな? 盗品か?』なんて疑いを掛けられるし」

「そりゃ、仕方ないだろ。ギルドが偽物や盗品を流通させたら問題になる」

 

 冒険者ギルドには【鑑定】のスキル持ちが必ずいて、冒険者が持ち込んだ素材や魔石、肉なんかを鑑定する。

 

 そして冒険者ギルドお墨付きの素材として様々な問屋に卸すのだ。

 

「それで、今日は何を買い取りするんだ?」

 

 俺は背負っていたリュックを前にまわし、中に手を突っ込んである素材を念じながら取り出す。

 

「これを買い取ってくれ」

 

 俺がカウンターに置いたのは白く輝く大きな鱗、五枚。一枚一枚が俺の掌ぐらいのサイズだ。

 

「ほぉ……これは?」

 

 ゲジ眉店主の目つきが鋭くなる。

 

「これはカタツムリオオトカゲの鱗だ」

「ちっ。ふざけやがって。そんなモンスターいねえだろ! 何処で手に入れた?」

「森で拾った」

 

 嘘である。白龍が現れた国境の山までわざわざ出向き、死闘を演じ、打ち破り、手に入れたものだ。

 

 しかし、そんなことを言う必要はない。F級冒険者がそんなことを言っても信じてもらえない。

 

「まぁいい。鱗一枚、銀貨一枚でどうだ?」

 

 たぶん、ギルドに持ち込めば鱗一枚、小金貨一枚にはなるだろう。十倍である。しかし、出どころを間違いなく聞かれるし、盗品の疑いもかけられる。なんなら尋問される。そんな面倒はまっぴらごめんだ。

 

「渋いけど、仕方ない。あと四十五枚売るから小金貨五枚くれ」

「お? それはいいけれど、そんなに拾ったのか?」

「あぁ、今、王都近くの森ではカタツムリオオトカゲが大繁殖してるんだ」

「聞いたことねえぞ」

 

 ゲジ眉店主は俺から白龍の鱗を五十枚受け取り、カウンターに小金貨を五枚ならべた。俺はそれをリュックに放り込む。

 

「ロジェよぉ。たまにはウチで買い物していけよ。お前、小物作るのが趣味なんだろ?」

 

 俺は店内をぐるり見渡し、一応考えるフリをする。

 

「あぁ、俺。自分で作る小物の素材は自分で集めるって決めているんだ」

「けっ」

 

 ゲジ眉は分かりやすく悪態をつき「もう帰れ帰れ」と手を振った。しかし、顔はニコニコだ。それはそうだろう。白龍の鱗を格安で仕入れることが出来たんだ。【鑑定】のスキルがなくても、目利きの出来る素材屋ならあれが龍種の鱗だとは分かった筈。

 

 数日の生活費を得た俺は、ゲジゲジ屋を後にした。

 

 時間は昼飯時。冒険者ギルドに冒険者が少ない時間帯だ。

 

 俺は中央通りに戻り、屋台に並ぶ人々を尻目に中心部を目指す。

 

 やがて、レンガ造りの三階建ての立派な建物が見えてきた。冒険者ギルドだ。やはり、周囲でたむろする冒険者の姿は少ない。今頃、依頼をこなしているか、昼飯を食っているか。

 

 人が多いと落ち着いて依頼票がみれないからな。俺はギルドに行くときは昼飯時にいくことにしているのだ。

 

 なるべく気配を薄くしてギルドの扉を開く。

 

 交代で昼休憩に行っているのだろう。カウンターにならぶ職員の数も少ない。勿論、冒険者の姿はほとんどない。買い取りの鑑定待ちでベンチに腰をかけるベテランが二人いるだけだ。

 

 俺は音もなくベンチの裏を抜け、依頼掲示板の前に立つ。別に依頼を受けるつもりはない。俺が欲しいのは目ぼしいモンスターの出現情報だ。

 

「ほぉ」

 

 一つ、目を引く依頼があった。王都南の湖に現れたという水のエレメンタルスライムの討伐依頼だ。エレメンタルスライムとは精霊の力を取り込んだスライムのこと。今回は水の精霊の力をとりこんだやつが現れたらしい。

 

「次はこいつを推しに捧げるか……」

 

 一人ニヤニヤしながら情報をメモしていると、背後に気配を感じた。サッとメモを仕舞い、グルリと振り返る。

 

「あっ、ロジェ君?」

「なんだ鑑定師さんか」

 

 いたのはギルドの制服を着たブラウンの髪の女だった。たしか、俺が冒険者になったのとほぼ同じタイミングで鑑定師として雇われた人だ。年も俺と同じ十八ぐらいの筈。

 

「鑑定師さんって……。名前覚えてくれてないんだ……」

 

 鑑定師さんは表情を暗くする。いや、失礼だとは思うよ? でも覚えてないもんは仕方ないじゃん!

 

「名前で呼ぶと周りの冒険者が睨んでくるからな。生意気だって。特に俺みたいなF級はよく絡まれるから気をつけているんだ」

「あっ、ごめん。そうだったんだね」

 

 鑑定師さんは機嫌を直し、話し掛けてくる。

 

「もう随分と依頼を受けてないみたいだけど、今日は目ぼしいのあった?」

「いや。ちょっと難しそうな依頼ばかりだから今日はやめとく」

「そっかぁ。ロジェ君、パーティーとか組まないの?」

 

 パーティー? そんな面倒臭いもの、俺が組むわけないじゃん! パーティーで活動していたらあれこれ制限が生まれるし、何より白蘭魔法団の配信が見られなくなる可能性が高い。

 

 俺はエルルちゃんのことを白蘭魔法団の下部組織の頃から応援している。そんなエルルちゃんがやっと白蘭魔法団本隊の所属になったのだ。

 

 推し活最優先の生活を送るために、パーティーなんて組んでいられないのだ!

 

「俺がパーティーを組むと他の人に迷惑がかかるから」

「あっ、ごめんなさい……」

 

 鑑定師さんは口に手をあて、何かを思い出したような表情になる。

 

「用事があるので」

 

 俺は鑑定師さんを放置し、ギルドを後にした。

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