推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第25話 国境の戦い②

 街道から離れたディバイ山脈の麓。まだ樹々の密度が薄い場所で、討伐隊は野営をしていた。

 

 陽はすっかり落ち、多くの篝火が焚かれ、辺りには肉を焼いた臭いが漂っていた。冒険者が仕留めた食用のモンスターを、さっそく食しているようだった。

 

 今までなら大いに盛り上がり、皆で車座になって夕飯を摂っていただろう。

 

 しかし、今の野営地にはそのような浮ついた空気はない。

 

 食事をしているのは討伐隊メンバーの半分ほどで、残りの半分は腰の剣に手をあて、油断なく周囲を警戒していた。

 

 野営地の中で一番大きな天幕に、影の薄い男が入っていく。

 

「……レオパルド様、戻りました」

 

 男は折り畳み式の椅子に脚を組んで座る黒豹騎士団の団長、レオパルドに声を掛けた。その左隣りには白蘭魔法団のパオラ、右隣にはA級冒険者のランベルトが同じように椅子に座っている。

 

「どうだった? 盗賊団の様子は」

 

 レオパルドの低い声。斥候役の男は静かに返す。

 

「拠点に煌々と灯りを焚き、油断なく警戒を続けていました。ぱっと見ただけでも、二十人以上が見張りについています。おそらく、こちらの動きも把握していることでしょう」

「そうか……」

 

 眉間に皺を寄せ、レオパルドは考え始める。

 

「相手には凄腕の土魔法使いがいる。夜襲をしかけて落とし穴にでも嵌れば、奴等の思う壺だな」

「えぇ。こちらの存在が伝わっている以上、あまり有効な手立てには思えません」

 

 パオラが同意する。

 

「正面から戦うしかないと?」

 

 ランベルトの問いに、レオパルドは軽く眉を上げた。

 

「正面から戦っても十分に勝てる。が、損失も出るだろう。今回の戦いは配信魔法で王国全土に届けられる。我々は、完全な勝利を得る必要がある」

「では、どうするのです?」

 

 レオパルドがニヤリと笑った。

 

「奴等にだけ……夜を、闇を押し付ける」

 

 芝居がかった物言いに、パオラは顔を緩める。

 

「一体、何をやるつもりなんです?」

「言葉のままだ」

 

 レオパルドはそれ以上、詳細を明かすつもりはないようだった。何かを考えながら、ランベルトに質問をする。

 

「冒険者の中に少数で盗賊団の拠点に攻め込めるような力を持つ者は?」

「それならばトマージ、魔王殺しが最適でしょう」

 

 ランベルトの答えに、レオパルドは満足そうに頷く。

 

「明日の昼から、盗賊団の拠点に攻め入る。腹を括るように、各員に伝えてくれ」

 

 今度はパオラとランベルトが頷いた。

 

 そして、夜が深まる。

 

 

#

 

 

 人が駆け、地面を蹴る音。革鎧が下草に擦れる音。

 

 魔力を廻らせて強化した耳が拾ったのは、盗賊団の斥候が慌てて要塞に戻る様子だった。

 

 大木の上から目に魔力を廻らせて見ると、隙のない身のこなしの男が要塞の空堀の前で合図を出している。

 

 まもなく跳ね橋が下ろされ、斥候は要塞の壁の中へと入っていった。

 

 一瞬、しんとなったあと、俄かに騒がしくなる。

 

 要塞の城壁の上に盗賊団がずらり並んだかと思うと、奴等は身を低くして敵襲に備えた。

 

 辺りに緊迫した空気が流れ始める。

 

 息を殺した分、うるさくなった盗賊達の拍動が城壁の上から大気を振動させた。

 

 俺の耳に、それとは別の音が混ざり始める。

 

 一つ、二つ、三つ。多くの人間の足音が、聞こえ始めた。

 

 討伐隊だろう。

 

 俺はエルルちゃんの足音を探そうと、さらに耳を凝らす。

 

 足音と連動し、たゆんと胸が空気を揺らす筈……。俺は全神経を、魔力を耳に廻らせる。

 

 駄目だ……。雑音が多くて判別できない……! すぐ近くをエルルちゃんが歩いている筈なのに……!

 

 しばらくすると、先行する冒険者たちが盗賊団の要塞のすぐ側までやってきた。先頭に立つのは赤髪の男。確か名前はトマージ……。

 

 そろそろ、戦闘が始まる。

 

 俺は特等席でエルルちゃんの活躍を見るために、大木から降りる。気配を殺し、要塞のすぐ近くの下草に身を潜めた。

 

 念の為、仮面をつけておくか。覗き見をしているのがバレると、あとで怒られそうだからな。

 

 俺はリュックから白い仮面を取り出し、しっかりと顔につけて調整する。これでいい。視界は良好。

 

 左手側には要塞の空堀。右手側には続々と集まってくる討伐隊。

 

 まさに、戦端が開かれようとしていた。

 

 

 ヒュン! と矢羽根が空気を裂く音がし、要塞の城壁から矢が放たれた。最初は一本。二本、三本と増え、やがて矢の雨が降り始める。

 

「障壁を!」

 

 パオラ団長の凛とした声が響いた。途端、討伐隊の前衛の上に物理障壁が張られる。森の中に甲高い音が響き、要塞から降る矢の雨を弾き始めた。

 

 鏃が障壁を破ることはない。すぐに、矢雨は止み、盗賊団は次の手に移る。

 

 城壁の上にローブ姿の男が立った。男は百を超える討伐隊を見ても全く動じず、静かに睥睨する。そして、口を開いた。

 

「【土牙】」

 

 突然、討伐隊前衛の足元に、土の牙が生成された。牙は増え続け、避け損ねた冒険者の足や腿を抉る。

 

「【土操作】!」

 

 討伐隊の中から響いたのは白蘭魔法団、カリー副団長の声だった。カリー副団長は土魔法に長けている。

 

 長身からスラリとした腕を伸ばして、魔法を行使。

 

 敵の生成した土の牙を押さえこみ、討伐隊の陣地を平にならしていく。

 

 城壁上の土魔法使いが腕組みをし、苦々しい表情を見せた。

 

 その隙をつくように、数名の男が前に出る。黒豹騎士団、団長レオパルドとその側近。そして、赤髪の冒険者トマージだ。

 

 剣を抜いて構えると、レオパルドが「やれ」と合図を出した。

 

 それを受け取ったのはパオラ団長。集団の中から一歩前に出ると、素早く魔力を練って魔法を放つ。

 

「【飛翔】」

 

 掛け声とともに緑の光りが生まれ、レオパルド達を包む。

 

「飛んだ!」

 

 それはきっと作戦を知らされていなかった、間抜けな冒険者の声。しかし、それは状況を端的に表していた。

 

 レオパルドやその側近、トマージは風魔法に包まれて物凄い速度で飛翔し、要塞の城壁に降り立つ。

 

 怒声が響き、盗賊達が剣を抜いた。しかし――。

 

「【暗黒剣】」

 

 強化した聴力が、レオパルドの声を拾った。途端、城壁の上に暗闇が広がる。闇の魔法剣士の本領発揮というところか。

 

 纏わりつくような闇が盗賊達の視界を奪い、すかさず騎士の剣によって命を刈り取られる。

 

「【ファイアブレイド】! 【ウィンドブレイド】!」

 

 城壁を覆う闇の中から、今度は火炎旋風が生まれた。盗賊達の身体を天高く巻き上げる。落ちて来た時にはすっかり焼き上がっているだろう。

 

 盗賊団の要塞は、圧倒的な個の力に蹂躙され、阿鼻叫喚の巷と化している。対照的に、討伐隊からは歓声が上がっていた。

 

「ちっ……。つまらないな。エルルちゃんの活躍の場面がないじゃないか……」

 

 思わず本音が出てしまった。レオパルド団長達の活躍なんて、正直どうでもいいんだよなぁ……。マジでつまんない……。しかし、盗賊達の数はどんどん減っていく……。このまま、戦いは終焉を――。

 

 ドドン! と大気を割るような音が響き、紫電が火炎旋風を打ち消した。

 

 城壁の上に、紫の雷を纏った大男の姿が見える。

 

「おっ、こいつやばやそう」

 

 たぶん、格が違う。その身から感じる魔力の濃度が桁違いだ。こいつ、人間か?

 

『王国の犬どもが……! 俺の眠りを邪魔しやがって……!』

 

 こいつ、味方のピンチに寝てたの!? 俺よりヤバイじゃん。というか、声が変。直接頭に響くような感覚。やっぱり、こいつ人間やめてない?

 

 紫電を纏う大男は城壁の上をゆっくりと歩き、レオパルドやトマージに近付く。レオパルドの放った暗闇は雷に触れると霧散し、晴れていく。

 

「【ファイアブレイド】!」「【毒剣】!」

 

 長剣を炎で毒で覆い、トマージとレオパルドが斬りかかるが――

 

「【雷槍】」

 

 ――雷男の手から放たれた槍状の雷に貫かれ、身体が痙攣し、パタリと崩れた。

 

 討伐隊の主力が一瞬で無力化され、空気が一変する。

 

『おっ、女がいるじゃないか』

 

 大男が城壁の上から、空堀の向こうに陣を敷く白蘭魔法団に目を付けた。身体を眩い紫電で覆うと、一息で跳躍し、討伐隊のすぐ前に着地する。

 

「近づけるな!」

 

 黒豹騎士団の騎士が一斉に斬りかかるが、全ての刃が空しく空を斬った。大男、動きが速すぎる。とても、一般の騎士では捉えられない。

 

「【雷槍】」

 

 ズドン! と水平に放たれた雷が一人の騎士の身体を貫き、それは連続する。まるで、一筆書きで線を描き、次々と騎士を繋ぐように、貫く。

 

「【エアハンマー】!」「【土牙】!」

 

 カリー副団長とパオラ団長の魔法が、天と地から挟むが――。

 

『遅い』

 

 ――大男は雷のような速度で躱す。そして、右手を白蘭魔法団に向けた。

 

「【雷槍】」

 

 紫電がパオラ団長に迫る。まさに……貫こうとする、その時。

 

 水色の髪をした可憐な少女が庇うように前に出た。そして、赤い宝石の輝く杖を構える。

 

「【吸収】!」

 

 大男から放たれた槍のような紫電が、赤い宝石に吸い寄せられ、消えた。

 

『お前……何をした?』

 

 エルルちゃんは答えない。ただ杖を大男に向け、無言で対峙する。

 

「【雷槍】」

「【吸収】!」

 

 大男から放たれた紫電の槍を、エルルちゃんは再び【吸収】で凌ぐ。そして、キッと大男を睨み付けた。

 

「貴方の好きにはさせないわ!」

 

 うおぉぉぉぉおおお!!!! エルルちゃん、カッコイイ!!!! カッコイイカッコイイカッコイイイイヨオオオオオオオオオ!!!!!!! うおぉぉぉぉおおお!!!!!!! もう駄目!!!! 絶頂失神しそう!!!!!!!!!! エルルちゃんんんん!!!!!!!!!!!! イッ○ャウゥゥゥ!!!!!!!!

 

『――お前、何者だ……!?』

 

 紫電を纏った大男が俺の方に顔を向けている。

 

 どうやら俺は興奮のあまり立ち上がり、大声で叫んでいたらしい……。どうしよう……。

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