推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第29話 エルル、初めてのスラム

 エルルは屋台の店主からもらった地図を頼りにして、スラムに足を踏み入れていた。

 

 まだ昼間なのに人通りは少なく、空気は粘り気と臭気を帯び、道には得体の知れない襤褸が落ちている。

 

 エルルがその襤褸の横を通ると、俄かに動きがあった。

 

 襤褸は人であった。片足のない老人がエルルに向かって濁った瞳を向ける。

 

「……お恵みを……お恵みを……」

 

 掠れる声に耳を傾けると、エルルは桃色のポーチから銀貨を一枚出して、老人に握らせた。

 

「私もあんまりお金がないので、今はこれだけです。もっとすごい魔法師になったら、また来ますね」

 

「……ありがたや……」

 

 老人は両手を組み、エルルに向かって祈りを捧げ始める。居心地の悪くなったエルルは何度か手を振りながら、その場を去った。

 

 

 更にスラムを進むと、今度は顔を汚した子供達が現れた。男子二人に女子一人。

 

 三人は珍しいものを見るように、エルルに観察の視線を向ける。

 

 「あの……なんでしょう?」

 

 堪り兼ねてエルルから口を開いた。

 

「ん~、どっかで見たことあるなぁ~って」

「どこだっけ?」

「あれじゃない? ロジェが映った討伐配信の時の」

 

「ロジェ」という名前にエルルはビクリと身体を反応させた。

 

「ロジェさんの知り合いなんですか?」

 

 エルルの問いに子供三人は胸を張った。

 

「俺達はロジェの弟子なんだ! いつかロジェみたいに最強になるんだ!」

「もう王都周りでホーンラビットを狩れるようになったもんね~」

「ワタシは強い」

 

 子供達は思い思いのポーズを取り、それぞれの力をアピールした。エルルは反応に困ったような笑顔を作る。

 

「で、そのロジェさんはどこにいるんですか?」

 

 ポーズを取ったまま、子供達は口を開く。

 

「うーん、わかんない」

「ロジェのやつ、目立つの嫌いだから地下に潜っちゃった」

「ワタシを置いていった」

 

「そうですか……」と明らかに肩を落とし、エルルは手に持っていた地図を開く。

 

「じゃあ、この地図の場所ってわかります?」

 

 一番年長の男子が地図を受け取り、直ぐに瞳を輝かせた。

 

「これは薬屋のババアのとこだな。おねーちゃん、ヤバイ薬が欲しいの? 癖になるからやめた方がいいよ?」

「違います! ロジェさんのことを教えてもらいに行くんです!」

 

 エルルは頬を赤くして反論し、その謝罪として薬屋の場所を教えてもらう。

 

 

 子供達と別れ、スラムの更に深いところ。古い煉瓦造りの建物の地下へとエルルは降りていった。

 

 看板どころか、文字一つ書かれていない無骨な扉。一度深呼吸をしてから、エルルはドアノブを廻して中へと入った。

 

「こ、こんにちは」

 

 薄暗い店内。奥には広いテーブルがあり、その上には様々な形をしたガラス瓶が複雑な角度で配置されている。

 

「あら、いらっしゃい」

 

 テーブルの傍に立つ老婆がエルルを迎える言葉を発した。何か面白いものを見つけたような、喜悦の光りが老婆の瞳には宿っている。

 

 エルルは慎重に店内を進み、テーブル越しに老婆と対面した。

 

「どんな薬をお求めかしら?」

 

 値踏みするような視線をエルルに向けながら、老婆は接客を開始する。

 

「ええと……」

 

 薬屋としては当然の質問に、エルルは窮してしまう。そして、なんとか答えを絞り出す。

 

「ロジェさんに会える薬はありますか?」

「フフフ。面白いお嬢さんね。何で、ロジェに会いたいの?」

 

 エルルは急に瞳を輝かせ、それまでの問答が嘘だったように、滑らかに話始めた。

 

「ロジェさんは私の命の恩人なんです! 盗賊討伐の時も、ずっと私のことを見守っててくれて! ピンチになったら颯爽と現れて、強敵をあっという間にやっつけて! ううん、それだけじゃありません! ロジェさんは私が白蘭魔法団に入るずっと前から、応援してくれていたんです! 私が挫けずに一人前の魔法師になれたのも、ロジェさんのお陰なんです! だから――」

「ロジェに会いたい。と」

 

 息を切らしながら、エルルは頷く。

 

「残念だけど、ロジェの居場所は私にも分からないよ。討伐配信で思いっきり目立ってしまったからね。今は髪の色も真っ黒に変えて、どこか王都の地下に潜んでいる筈さ。あの子は表に出ることを極端に嫌うからね」

「そんな……」

 

 最後の望みを絶たれたかのように、エルルは項垂れ――。

 

「ただし、気持ちを伝える手段はある」

「えっ……どうやって……」

 

 老婆は口元を歪めて顔を低くし、ジイとエルルを見上げた。

 

「ちょっとばかし荒っぽい手段だが、覚悟は出来ているかい?」

「大丈夫です!」

 

 エルルは言い切る。

 

「じゃあ、説明しようかね」

 

 老婆は楽しそうに語り始めた。

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