推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる 作:フーツラ
『目覚めるのです』
真っ白な空間に神々しい声が響く。
『レンヤ。目覚めるのです』
名前を呼ばれて反応したのは、白い地面に横たわっていた男だった。年齢は二十前後だろうか。灰色の髪に白い肌。身体にピタリと貼り付くような、真っ黒いツナギを身に付けている。
レンヤは気怠そうに上半身を起こすと、白い空間に視線を泳がせる。
「どこだ、ここは?」
『ここは、私の作った空間です。神の間、とでも呼びましょうか」
レンヤは不快そうな表情つくる。
「神? 頭おかしいのか? 俺を監禁しやがって」
『口を慎みなさい。貴方は事故にあって死に、無に還るところだったのですよ? それを私が拾ったのです』
眉間に皺を寄せ、レンヤは何かを思い出そうとする。
「俺は確か、女と待ち合わせをしていて……」
『そうです。そこで、貴方の世界でいう車ですか? 空飛ぶ鉄の塊に轢かれたのです。全く、運が悪かったですね』
徐々に記憶を取り戻したのか、レンヤの白い顔が更に白くなる。灰色の瞳に絶望が浮かぶ。
「本当に俺は……死んだのか……」
『ええ。一度、死にました。しかし、私があなたに第二の人生を与えました。ただし、あなたの住んでいたところとは別の世界ですがね』
「異世界……」と呟き、レンヤは呆然とする。
『そんなに落ち込むことはありませんよ。異世界はあなたにとって理想的な場所です。いままで活かせなかった才能を思う存分、発揮することが出来ます』
「俺に才能が?」
レンヤは「信じられない」と、ポカンとした顔をした。
『ええ。あなたには類まれな魔法の才能があります。非常に多くの魔力を持ち、あらゆる魔法の適正があります。前世、魔法のない世界に生まれたのは不幸なことでした。しかし、次からの人生は違います。魔法の力で活躍し、邪悪なるモノ達を葬りさるのです!』
「邪悪なるモノ達ってのを俺に倒して欲しいのか? あんたは」
徐々に顔色を取り戻したレンヤは神を名乗る声に尋ねた。
『そうです。ただ、勝手に向こうからやって来るでしょうけどね。あなたは私の僕なのですから。邪神の僕と善神の僕は、戦い合うように出来ているのです』
「ちっ! 面倒なことを」
悪態をつきながらも、レンヤの瞳からはギラギラとした意欲が感じられる。
『では、そろそろお別れです。次、レンヤが目覚めるまでに、こちらの世界で暮らすための知識は授けておきます。記憶を無くしたフリをすれば、現地の人はあなたを受け入れてくれるでしょう。では、活躍を祈っていますよ。私の
「おい! ちょっと待て──」
声が聞こえなくなると、真っ白な空間はすうっと消えてしまった。
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「エルル! 大丈夫だったの!?」
王都にある白蘭魔法団本部にある宿舎。エルルがその扉を開くなり、パオラ団長の声が響いた。パタパタと足音も続く。
「ご心配をおかけしました……」
られると思ったのか、エルルは顔を下げて視線を泳がせている。
「すぐに帰ってくると思ったのに、二日も何をしていたのよ!?」
「えっと……ちょっと色々ありまして……」
エルルは答え難そうに語尾を濁した。
「ちょっと私の部屋に来なさい! お茶でも飲みながら、ゆっくり話を聞くわ」
パオラは「逃がさない」という強い意志の籠った瞳で、じっとエルルを見つめる。
「……はい……」
エルルは相変わらず下を向いたまま、パオラに連れられて歩き始めた。
二人は宿舎の二階、突き当りの部屋に入る。パオラ団長の部屋には全ての壁面に棚が作られていて、様々な品がずらりと並べられている。
「座って」
対になった革張りのソファーの一つを勧められ、エルルは遠慮しながら腰を下ろす。パオラは手早く茶を淹れると、自分もソファーに座った。ローテーブルに置いた茶を静かに一口啜ってから、話し始める。
「……『通りすがりの冒険者』に会うことは出来たの?」
「はい。会えました」
エルルは素直に答える。
「通りすがりの冒険者は、あの仮面の男なの?」
パオラの視線が鋭くなる。
「……それは言えません……」
「ふふふ。その答えは『通りすがりの冒険者は、仮面の男です』と言っているようなものよ?」
「えっ!? 私はそんなこと言っていません!」
エルルが慌てる様子を見て、パオラは更に笑う。
「ふふふふ。通りすがりのさんには何かしら事情があって、正体を明かすことは出来ない。ってことね。理解したわ。誰にも言わないようにする」
「お願いします……」
「ただ、私と同じように気付いている人もいる筈よ」
「はい……」
鋭かったパオラに視線は悪戯っぽいものに変わる。
「で、どんな人だったの? 通りすがりのさんは」
エルルの顔が急に赤くなる。
「カッコよかった?」
「……とても、カッコよかったです……」
「性格は?」
「……とても、シャイな人でした……」
さらに赤くなる。
「へえ~いいなぁ~。白龍や魔王を倒すほどの実力者でイケメン。しかも控えめな性格って最高じゃない? 普通、そんな実力があったら威張り散らして、ハーレム作っちゃうわよ。どこかのS級冒険者みたいに」
何かを思い出したのか、パオラ少し不機嫌な顔になった。エルルは相変わらず、顔を赤くしている。
「そういえば、通りすがりさんって王都にいるの? もどってくるのに随分と時間が掛かっていたけど」
「……王都にはいません。別の場所です。詳しくは言えないですけど……」
エルルの顔の赤みは急に引き、警戒した表情になる。
「そんな顔しないでよ。別に私が何かしようってわけじゃないわ」
「はい……」
「他の勢力が、通りすがりのさんの力を求めることはあるでしょうけどね」
パオラは表情を厳しくして続けた。
「今後も帝国はあらゆる手を使って、王国に攻め入ってくる筈よ。そんな時、S級冒険者に匹敵する力を持ち、まだどの勢力にも属していない通りすがりのさんの存在は大きいわ。自分の陣営に引き込もうとする貴族や組織は沢山いる筈よ」
「はい」
「エルルも気を付けてね」
エルルはギュッと手を握り、気を引き締める。
その後、また悪戯っぽい表情に戻ったパオラ団長は、「通りすがりの冒険者」について根掘り葉掘り、エルルに尋ねるのだった。