推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる 作:フーツラ
「おい、トマージ」
王都中央にある、冒険者の集まる酒場のカウンターの奥。赤髪の若い冒険者が一人で酒を飲んでいるところに、二人の男がやってきた。
二人は泥酔状態のトマージを挟むようにカウンターに座り、注文もせずに話し始める。
「いい加減、酒に逃げるのをやめたらどうだ?」
「ほら、水を飲め」
一人がトマージの前から酒の入ったグラスを下げ、もう一人が水の入った革袋を差し出す。
「俺のことは放っておいてくれ……」
トマージはグラスに手を伸ばす。男はグラスをカウンターの奥へ置き、店主がサッと片付けた。
「おい、トマージ。パーティーメンバーがお前を心配して、こうしてやって来たんだ。今日はもう酒はやめにしろ」
カウンターの向こうから、店主も諫める。流石に気まずくなったのか、トマージは仲間から水を受け取り、グイと呷った。
「ふぅ……」
溜息をつき、トマージの顔に若干理性が戻る。
「で、今日はどうした? わざわざ俺の泥酔具合を確認に来たのか?」
トマージが自虐の含めながら、仲間二人に問う。
「面白い知らせがあった」
パーティーメンバーの一人が意味深な笑みを浮かべた。
「一体、何の知らせだ?」
興味をひかれたのか、トマージの顔が更にしっかりする。
「灰色の髪をした男が見つかった。ランベルトさんに連れられて、もうすぐ王都に到着する」
「なに……!?」
身体から酒精が消えてなくなったかのような表情になった。
「灰色の髪をした仮面の男か? 雷魔法師を倒したという」
「あぁ。俺達やトマージが勘違いをしてしまった元凶だ」
三人の瞳が鋭くなる。
「どうする?」
「今はまだ……どうすべきか分からない……。ただ、会ってみれば、答えは見つかるきがする」
トマージの瞳が炎が宿ったように、爛々と輝き始めた。さっきまで泥酔していたのが噓のように。
「ただ待っているのも退屈だろ? 久しぶりに冒険者ギルドに行って依頼を受けようぜ? 最近は酒ばかりで鈍っているだろ?」
パーティーメンバーの一人が悪戯っぽく言うと、トマージは頭を掻いてバツが悪そうにした。
「悪かったよ。不貞腐れて。A級冒険者への道が遠退いて、ちょっと凹んでいたんだよ。しかし、灰色の髪の男が現れたとすれば別だ。灰色の男には言いたいことがたくさんある」
「そうだな」
「あぁ」
三人は呼吸を合わせる。
「よし。冒険者ギルドに行こう。久しぶり暴れるぜ」
「それでこそトマージだ」
「頼りにしてるぜ」
トマージとパーティーメンバーの二人は勢いよく立ち上がり、喧噪の店内を抜けて冒険者ギルドへと向かった。
#
白髪の混じったベテラン風の冒険者と、灰色の髪をし、風変わりな恰好をした若い男が王都の冒険者ギルドに足を踏み入れた。
A級冒険者のランベルトと、記憶をなくした謎の男、レンヤだった。
それまで騒がしかったギルドの中は急に静かになり、全ての視線が二人に集中する。
二人の足音だけが響く。
ランベルトとレンヤがカウンターに近寄ると、列をなしていた冒険者達がサッと身を引き、二人に順番を譲った。
その様子を見て、レンヤの口元が緩む。その待遇に満足しているように。
「ギルド長はいるか?」
ランベルトが声を掛けると、カウンターの男性職員は背をビクリと伸ばし「おります!」と上擦った声で答えた。
「灰色の髪をした男をつれてきた。と伝えてくれ」
「承知しました!」
男性職員は慌てて立ち上がり、カウンターを出て二階に上がる。
その間、レンヤはカウンターの奥にいる女性職員にジトリとした視線を這わせた。まるで、獲物を見つけた蛇のように……。
「ん? どうした、レンヤ」
「いや。王都の女性は綺麗な人ばかりだと、見惚れていたんだ」
「全く……。英雄色を好むってのは本当だな……」
ランベルトは呆れた顔でレンヤに返す。レンヤが何か言い換えそうとしたところで、慌ただしい足音がした。
「お待たせしました! 応接室にご案内します!」
二階から戻ってきた男性職員はテキパキとした動作で二人の案内を始める。二人は呆気にとられながらも、職員の後に続いて階段を上った。そして、重厚な扉の奥の応接室に通される。
黒髪をオールバックに撫でつけた太った男が二人を迎える。
「私はリンデ王国冒険者ギルドのギルド長のアストンだ」
「この灰色の髪の男の名はレンヤ。おそらく、我々が探し求めていた男だ……」
ランベルトはアストンに向かってレンヤを紹介した。その表情は得意げだ。
「レンヤだ」
「話は聞いている。さぁ、座ってくれ」
アストンは二人に革張りのソファーを勧め、自分はどっかと腰を下ろした。
「しかし、見事に灰色の髪だな。瞳も灰色だ」
品定めをするように、アストンはレンヤの容姿を確認する。
「そんなに珍しいのか?」
「あぁ。少なくとも王都周辺ではほとんど見かけることはない」
アストンは巨漢らしく額に汗をかきながら、話しを続ける。
「レンヤは記憶を無くしているらしいな」
「あぁ……。ランベルトに会った日より前のことは覚えていない……」
レンヤはわざとらしい目を伏し、申し訳なさそうに答えた。
「いや、責めているわけじゃないぞ? レンヤが王国を救った英雄であることを私達は確信している。灰色の髪をした実力者なんてそうそういるものではないからな。そうだろ? ランベルト」
アストンが話を振る。
「レンヤが討伐した地龍の亡骸は俺が確認した。魔石もここに入っている。単独で地龍を倒すなんてとんでもない実力だ」
ランベルトは床に置いたリュックを手で叩きながら、レンヤの実力を称えた。
「そんな大したことをしたつもりはないのだが」
「ちっ。これだから無自覚な実力者は……」
「ハハハハハ。まぁ、いいじゃないか! ギルドに新たな戦力が加わるんだから。レンヤ。冒険者ギルドに登録する意思があると聞いているが、それは間違いないか?」
アストンが眼光を強めながら確認する。
「他に、道は無さそうだからな」
「よし! であれば早速準備に取り掛かろう。レンヤは最初からA級冒険者として登録する。これは王国の冒険者ギルド創設以来初めてのことだ。是非、我々の期待に応えてほしい」
レンヤは鷹揚に頷いた。
「俺の力が役に立つのなら、協力は惜しまないよ」
「頼むぞ」
その後、アストンとランベルトは王国の冒険者ギルド事情や帝国との関係性についてレンヤに説明を始めた。レンヤとランベルトがギルドを出た頃にはすっかり、陽は落ちていた。
#
【第百三十回 地下ギルド会議 議事録】
ギルド組合員1
⇒ロジェの偽物現る!! 名前はレンヤ!!!!
ギルド組合員2
⇒えっ……!? どゆこと?
ギルド組合員3
⇒A級冒険者のランベルトが王国南部の農村で灰色の髪の若い男を拾ってきた。冒険者ギルドはその男を「仮面の男」と認定。いきなりA級冒険者にしたとか。
ギルド組合員4
⇒!?!? 自ら「イッチャウ! 仮面の男」っ名乗り出たってこと? そいつやばくね? イッチャウの!?!?
ギルド組合員5
⇒どうやら記憶喪失らしい。だからロジェの「イッチャウ! 配信」のことは知らないんだろうな……
ギルド組合員6
⇒wwwwなんて神の悪戯wwww
ギルド組合員7
⇒てかこのタイミングのよさ。マジで神が絡んでそう
ギルド組合員8
⇒私! レンヤ君に「イッチャウ!」って言わせてみせるわ!
ギルド組合員9
⇒やめてやれwwww 一生のトラウマになるwwww
ギルド組合員10
⇒邪神に対抗して善神がなんかしたってこと? やっば
ギルド組合員11
⇒マジでその可能性あるんよなぁ~
ギルド組合員12
⇒てかそのレンヤ君、実力は大丈夫なの? 見た目は「イッチャウ仮面」かもしれないけど、実力がないとすぐにボロが出ちゃうけど
ギルド組合員13
⇒それがどうも、ガチで実力者らしい。地龍を単独で討伐したとか
ギルド組合員14
⇒善神が関与してる説が濃厚になってまいりました
ギルド組合員15
⇒イッチャウ仮面ジワる
ギルド組合員16
⇒名前はもう忘れたけど、イッチャウ仮面は忘れない
ギルド組合員17
⇒てかさ~、邪神と帝国や絶対はそのレンヤ君を狙ってくるよね? モンスターとかガンガン送り込んでくるわけじゃん? 強力なレアモンスターとか邪神堕ちした人間を
ギルド組合員18
⇒そうなるね
ギルド組合員19
⇒で、面白がってお前らはロジェにレアモンスターの情報を漏らすじゃん?
ギルド組合員20
⇒そうなるね
ギルド組合員21
⇒絶対、イッチャウ仮面とロジェ、鉢合わせになるじゃんwwww
ギルド組合員22
⇒まぁ、そ~なるやろなぁ
ギルド組合員23
⇒てかイッチャウ仮面はロジェなのに、もう完全にレンヤ君の過去のやらかしみたいになってるの草
ギルド組合員24
⇒wwww
ギルド組合員25
⇒今から、二人の邂逅が楽しみだぜ~
ギルド組合員26
⇒てかさ、トマージはレンヤのことをイッチャウ仮面だと思っているわけで……しかも、いきなりA級になったら絶対嫉妬するよね?
ギルド組合員27
⇒ロジェ×レンヤ×トマージの三つ巴ってこと!?!?
ギルド組合員28
⇒うおおおおお!!!! なんか混沌としてきたあぁぁぁぁ……!!!!
ギルド組合員29
⇒まぁ、ロジェはエルルちゃんにしか興味ないと思うけど
ギルド組合員30
⇒それが色々と事態をややこしくした元凶なんよんぁ……