推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第36話 トマージとレンヤの邂逅。エルルの困惑

「灰色の髪の男がいきなりA級登録って聞いたぞ!! どういうことだ!?」

 

 冒険者ギルドのカウンターで、赤髪の男が吠えている。若きB級冒険者のトマージだ。その後ろではパーティーメンバーの二人が必死になだめている。

 

「それは上が決めたことなので……」

 

 カウンターの向こうでは男性職員が気まずそうな顔で対応をしている。

 

「絶対におかしいだろ!! 一体、冒険者ギルドはどうなっているんだ!?」

 

 トマージの剣幕に男性職員はオロオロしてしまい、周囲を見渡して助けを求める。男性職員と目があった鑑定師のコリーナが仕方なく立ち上がり、トマージの前までやってきた。

 

「コリーナは聞いたか? 例の灰色の髪の男がいきなり、A級冒険者になったって」

「はい。討伐隊での活躍と地龍単独討伐の功績が認められ、特例としてA級からの冒険者登録となりました」

「地龍を……単独討伐……」

「ええ。魔石は私が鑑定しました。間違いなく、地龍のものでした」

 

 コリーナは毅然と答える。

 

「コリーナは、その灰色野郎がA級登録されたのは妥当だと思うのか?」

 

 トマージは縋るような視線をコリーナに向ける。コリーナの表情は変わらない。

 

「はい。実際にお会いしましたけど、A級の実力はあると感じました。その身から溢れる魔力の波動が異常でしたから」

「そうか……」

 

 トマージが項垂れた瞬間、冒険者ギルドの扉が開いた。

 

「あっ」

 

 カウンターの向こう男性職員が間抜けな声を上げた。その声の行く先にトマージは振り返った。

 

 視線の先に居たのは、灰色の髪に灰色の瞳、白い肌をした若い男だった。自信に満ちた表情で冒険者ギルドの一階を横断し、カウンターにやってくる。

 

「レンヤさん、買い取りですか?」

 

 コリーナが声を弾ませ、買い取りカウンターについた。

 

「あぁ。西の森で魔法の練習をしていたら、随分と魔石が溜まってしまったんだ」

 

 そう言って、レンヤは背負っていたリュックを前に回し、中から大きな魔石を次々と取り出しカウンターに並べる。

 

 いずれも拳大以上で、かなり手強いモンスターを相手にしていたことが分かる。

 

「……29、30。こんな大きな魔石を三十個も……? レンヤさん、ちょっとやりすぎです?」

 

 コリーナが呆れた様子で言った。レンヤは灰色の頭を指先で掻き、「ははは」と空笑いを返した。その横では、トマージが顔を険しくしている。

 

「コリーナ。何か手強いモンスターの討伐依頼はないか? 流石に西の森のモンスターでは物足りなくなってきた」

「あっ、それでしたら、さっき新しい依頼を掲示板に貼り出していたので、何かあるかもしれません」

「そうか」

 

 レンヤはトマージの視線を全く気にすることなく、依頼掲示板の前に歩いて行ってしまった。

 

「おい、俺達も行くぞ。奴と同じ依頼を受ける」

「わかった」「実力を確かめよう」

 

 トマージとパーティーメンバーの二人も依頼掲示板に近付き、新しい依頼票の確認を始める。

 

 そして、レンヤが手にしたものと同じ依頼票を掲示板から剥がした。

 

 その依頼票は王都の東にある港町に現れたという巨大なモンスターの討伐依頼だった。

 

 

 

 

「エルル。ちょっと私の部屋に来て」

 

 白蘭魔法団本部の食堂。食事を終えて食器を下げているエルルにパオラ団長が声を掛けた。静かに響いたパオラ団長の声は、どこか張り詰めていた。

 

「はい? 何かありましたか?」

 

 パオラは黙って小さく頷く。だがその目は何かを言いかけて、言葉を飲み込んだかのように揺れていた。

 

 その表情を見てエルルは何かを悟ったように、手早く後片付けを終え、パオラと共に歩き始めた。

 

 二人は宿舎の二階、突き当りの部屋に入る。

 

 対になった革張りのソファーの一つを勧められ、エルルは遠慮しながら腰を下ろした。パオラも対面に座り、エルルの顔をじっと見つめる。

 

「『灰色の髪の仮面の男』と思われる人物が王国の南部で見つかったわ。そして王都を訪れ、A級として冒険者登録したそうよ」

「えっ……!? そんな筈は……」

 

 エルルはソファから身を起こし、思わず言葉を詰まらせた。胸の奥で何かがざわめき、息を飲む音がやけに大きく響く。

 

「名前はレンヤ。灰色の髪に灰色の瞳、白い肌をした若い男でかなりの実力者だそうよ。これまでの情報を整理すると、『通りすがりの冒険者と仮面の男とレンヤは同一人物』ということになるわ」

 

 怒りと疑念が混じったような表情をして、エルルは首を振る。

 

「通りすがり冒険者さんと仮面の男は同一人物ですが、そのレンヤって人は違います。絶対に別人です。通りすがりのさんは表に出て目立つようなことはしません」

 

 パオラは手を口元に当て、黙考した。やがて、静かに呟く。

 

「やはりそうなのね……。となると、レンヤって男の狙いは何? 通りすがりさんの功績を引き継ぎ、手っ取り早く英雄になるつもりかしら」

「そうかもしれません……」

「戦力の拡充を対外的にアピールしたい冒険者ギルドと、英雄になりたいレンヤ。それぞれの思惑が一致した結果、特例でのA級登録ってとこかしらね」

 

 パオラの言葉の端々に皮肉が滲む。その奥には、消せない不安と苛立ちがあった。

 

「今後も、帝国とのいざこざは続く見込みよ。帝国では今、皇位継承争いが激化していて第一皇子と第二皇子が競い合っているの。奴等は王国に対して仕掛けることで、その力を示す。冒険者ギルドはそれに対し、レンヤをぶつけるつもりでしょうね」

「盗賊団の討伐隊と同じように、今後は私達と共同で作戦に臨むことがある? と」

「残念ながら、そうなるでしょうね」

 

 エルルの顔が曇る。思考が沈んでいくのが分かった。

 

「面倒なことにならなければいいけど……」

 

 その言葉は今後の展開を暗示しているようだった。

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