推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第37話 港町セレリオン

 王国の東。穏やかな入り江を持つ港街セレリオン。豊かな水産資源を背景に大きく栄えた場所だ。

 

 セレリオンの港で水揚げされた魚や貝、その他の海洋生物は街の水産加工工場で下処理をされ、王国全土に配送される。

 

 王都にいても新鮮な海鮮を食することができるのは、セレリオンお陰だ。

 

 今、そのセレリオンで異変が起きているという。漁船が謎の巨大生物に襲われ、沈没してしまう事件が頻発しているというのだ。

 

 謎の巨大生物。つまり、レアモンスターに違いない。レアモンスターとはつまり、エルルちゃんに贈るギフトの素材である。

 

 俺が向かわない理由はない。

 

 それに今回はもう一つ、目的がある。

 

 謎の巨大生物の討伐依頼を引き受けたという、A級冒険者レンヤの存在だ。

 

 レンヤは灰色の髪に灰色の瞳を持ち、冒険者として図抜けた実力を持つという。もしかすると、最北の戦士の生き残りかもしれない。俺と、同じように……。

 

 それを見極めるため、俺はセレリオンの街へと先回りし、港近くの廃漁船の中に潜んでいた。

 

 最初は大人しくしているつもりだった。レンヤが辿り着くのを待ち、巨大生物との戦いを通して彼の実力を測り、ギフトに使えそうな素材だけ頂くつもりだった。

 

 しかし、セレリオンの街に着いて二日目の夜。

 

 俺は廃漁船から浜辺に出てぼんやりと海を眺めていたところ、異変を見つけた。月明り中、海面が大きく盛り上がる様子を、俺の瞳が捉えた。

 

 俺はついウズウズしてしまい、リュックから小舟を出して沖へと繰り出し。異変の起きている場所へ辿り着く。

 

 そして、謎の巨大生物に襲われたので返り討ちにした。

 

 その正体は邪神の影響を強く受けたクラーケンだった。普通のクラーケンでもデカいのに、今回のクラーケンは島と言われてもおかしくないぐらい巨大だった。もう少しで知恵に目覚めて魔王化していたかもしれない。

 

 その前に討伐してしまったのだが……。

 

 まぁ、こんな流れで当初の目論見は修正を余儀なくされた。

 

 そこで俺は考えた。

 

 倒しても尚、プカプカと海の浮かぶ巨大クラーケンの死体を使って、レンヤの実力を測ることはできないかと?

 

「出来る。俺なら出来る」

 

 俺は魔力の扱いに長けている。自分の身体だけでなく、他の生物の体にも魔力を通すことができる。魔力を通じて筋肉を動かすことすら可能である。

 

 つまり、巨大クラーケンを操ることも容易い。

 

「おっ、漁船がきたな。避けよう。前進」

 

 俺は巨大クラーケンの頭部を操縦席と定め、その上に屈んで手を突き、体に魔力を伝播させて操る。クラーケンは器用に足をくねらせ、海面を進み始めた。

 

 すいすい進む。慣れたものである。

 

「あぁ、早くレンヤこないかなぁ」

 

 俺はイカ臭い操縦席で、時が過ぎるのを待ち続けた。

 

 

#

 

 

 港街セレリオンの正門を、二台の馬車が間を置かずして通過した。重厚な車輪の音が石畳に響き、城壁にこだまする。二台はまるで競うように馬車寄せに滑り込むと、同時に止まった。

 

 扉が軋む音とともに、乗っていた者たちが降り立つ。一方は厚手のマントを纏った商人風の男たち。もう一方は、鋭い視線を光らせる冒険者たちだった。

 

 先頭に立つのは、灰色の髪と深い眼差しを持つA級冒険者レンヤ。そしてその後ろに続くのは、若さと気迫をたぎらせるB級冒険者、トマージのパーティー。

 

 彼等はお互いを牽制するように視線を交わし、街の冒険者ギルドを目指した。

 

 冒険者ギルドに入っても、レンヤとトマージ達は互いに譲らない。同時にカウンターにつき「謎の巨大モンスターについて教えてくれ」と声を揃えて尋ねた。

 

「王都で依頼を受けたレンヤさんとトマージパーティーですね。連絡は受けています。長旅、お疲れ様です」

 

 カウンターでは年老いた男性職員が、柔らかい態度で二組に接した。場の空気を解きほぐそうと労いの言葉をかける。

 

「それより、巨大モンスターの情報を!」

 

 トマージが苛立ったように言葉を遮る。その声はギルドの奥にまで響き、職員の眉が僅かに動いた。それでも彼は慣れた様子で対応し、「まぁまぁ」と両手をやんわり上げ、静かに語り始める。

 

「巨大モンスターですが、ここのところ毎日、セレリオンの沖で目撃されています。海面をプカプカと浮いて、日差しを楽しむように気ままに遊泳しているそうです」

「ほう」「ふーむ」

 

 意外な展開に、レンヤとトマージは同時に小さく反応し、各々の思考に沈んだ。

 

「被害は出ていないのか?」

 

 レンヤが問い、職員は頷く。

 

「えぇ。ここ数日はまったく漁船の被害は出ていません。とはいえ、この街にとって脅威であることは違いありません」

「あぁ」「勿論だ」

 

 男性職員はレンヤとトマージの顔色を窺いながら、会話を続けた。

 

「漁業ギルドに頼めば、小舟を貸し出してくれることになっています。今なら、それほど沖に出て行かなくても、巨大モンスターに辿り着けるでしょう」

「わかった」「助かる」

「手配しておきます。今夜はしっかり宿で休んでください」

 

 レンヤとトマージは冒険者ギルドに紹介された宿に泊まることになった。その道中でも互いに譲らず、妙に張り詰めた空気をセレリオンの街に振り撒き続けた。

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