推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第38話 レンヤとトマージの共闘

「うひょうーたっのしいぃ~」

 

 俺は巨大クラーケンの体の操作について熟練を重ねていた。魔力を隅々まで通わせることで腐敗を防ぎつつ、その体にもともと備わっていた特殊機能まで使えるようになっていた。

 

 邪神の加護によって存在を強化したクラーケンは、その触腕と漏斗――墨を吐く器官――に特殊な機能を持っていたのだ。

 

 まず、触腕だ。その先端付近の吸盤には水を操るスキルが込められていることが分かった。

 

 次に漏斗。実は巨大クラーケンの体内には強力な毒袋があった。漏斗はその毒袋と繋がっており、墨と一緒に毒を吐くことが出来たのだ。

 

 俺はクラーケンの巨体と【水操作】と【毒】を武器にして、レンヤと対峙することになる。

 

 海面に浮かぶクラーケンの体の上に立ち、手をつけて魔力を通す。

 

「秘伝、【渦喰】!」

 

 触腕を操作して海面に激しい渦をいくつも発生させた。渦と渦はぶつかり合い、そこに巻き込まれた流木は粉々に砕ける。

 

「秘伝、【水閃】!」

 

 触腕の近くの海水が圧縮され、刃となって虚空を斬る。近くを飛んでいた海鳥の体が無残に真っ二つになった。無駄な殺生をしてしまった。

 

「あぁ~早く来ないなかぁ~」

 

 俺は身バレ防止のために深いフードのついたローブに身をつつみ、巨大クラーケン上でひたすら待ち続けた。

 

 

#

 

 

「何? 一艘しか借りられないのか?」

 

 セレリオンの港にある漁業ギルド。カウンターに響いたトマージの怒声は、静かな室内に波紋のような緊張を走らせた。対応していた浅黒い肌の職員は眉をひそめ、冷たく応じる。

 

「あのなぁ、なんで四人の冒険者に対して小舟を二艘ださなければいけないんだ? しかも戻ってくる保証はないと来た。一艘貸してもらえるだけで、有難いと思わないのか?」

 

 職員は腕組みをし、怒気の混ざった声でトマージに対応する。

 

「……この野郎と一緒の舟だなんて」

 

 トマージは隣に並ぶレンヤに忌々しげな視線を送った。一方のレンヤは涼しげな顔だ。

 

「俺は別に一緒の舟で構わない。一撃で終わらせるから、船の数なんて関係ない」

「……」

 

 レンヤの自信におされ、トマージは黙り込んでしまう。

 

「じゃ、決まりだな。もう舟は船着き場に用意してある。操舵の魔道具の使い方を教えるから、ついて来い」

 

 浅黒い肌の職員はカウンターから出ると、後ろも確かめずにつかつかと歩き出した。レンヤはそれに続き、トマージ達も不満気な表情をしているものの、後をついていった。

 

 

 小舟は四人が乗るには十分な大きさだった。つめれば、定員は十名以上だろう。職員がレンヤとトマージ達に操舵方法を簡単に説明する。

 

「あのモンスターは沖へ出てすぐの場所にいる。小山のように浮かんでいるから、見逃すことは無い筈だ。とっとと、やっつけてくれ」

 

 それまでぶっきらぼうだった職員も、最後にはレンヤとトマージ達に激励の言葉を送る。被害は止まっているとはいえ、彼等としても早くなんとかしたいのだ。

 

「任せてくれ」「やってみよう」

 

 トマージとレンヤはそう返し、小舟は動き出す。

 

 操舵を担当するのはトマージのパーティーメンバーだった。その横でトマージは背中の長剣と腰につけた短剣を抜き、早くも構える。

 

 一方のレンヤは船首に立ち、沖を見渡す。

 

 やがて、その視線の先に小さな島が見えて来た。その島は表面がつるりとしていて木の一本も生えていない。ぬらぬらした表面が陽光を反射し、妖しく輝く。

 

「あれは……」

 

 レンヤの声にトマージが反応して船首に駆け寄る。

 

「とんでもねぇデカさだな……」

 

 謎の巨大モンスターは小舟の何十倍もの大きさをもったクラーケンだった。小舟を歓迎するかのように触腕を空に掲げ、ふるふると振っている。

 

「……気付かれたようだな……」

「……どうする?」

 

 二人して目の前に現れた巨大なモンスターの威容に圧倒され、いがみ合う余裕すらなくす。

 

「……まず、私が一撃をお見舞いしよう。【テンペスト】!!」

 

 レンヤの右手から放たれたのは風の超高等魔法。幾千の風の刃が球体を描き、あらゆる物質を細切れにする。

 

【テンペスト】はクラーケンの体を穿つ! と思われたが――

 

 斬!! と音がして海面から水の刃が起り、球状の風の刃とぶつかる。大気を切り裂くような甲高い音のあと、二つの刃は綺麗に消えてしまっていた。

 

「なんだと……!?」

 

 動揺と焦燥。レンヤの顔に、初めての「危機」の色が差した。

 

「クソぉぉ……!!」

 

 感情を露わにし、遠距離攻撃魔法を次々と放つが、いずれもクラーケンの体に届く前にかき消されてします。

 

「ならば俺が! 【ファイアブレイド】! 【ウィンドブレイド】!」

 

 轟! と 燃え盛る炎が右手の長剣を包み、緑の風が左手の短剣を踊らせた。 剣の魔力が絡み合い、爆発的な力となりうねる――。 炎が風に煽られ、渦を巻きながら次第に凶暴な竜巻へと変貌していく。

 

「いけぇぇぇぇ……!!」

 

 トマージから放たれた【火炎旋風】が海水を巻き上げながらクラーケンに向かって進む。すると、それに呼応するように海面の至る所で渦が発生した。

 

 渦はあっという間に【火炎旋風】を呑み込み、それどころかトマージ達の乗る小舟すら引き寄せ始める。

 

「まずい……!!」

「任せろ……!! 【コールド・アビス】!!」

 

 レンヤは深海に向かって手をのばし、そう唱えた。とたん、海面から冷気が漂いはじめ、クラーケンが起こした渦の回転が緩やかになる。

 

 それまで波打っていた海面がピタリと止まり、やがて完全に凍てついた。

 

 レンヤは小舟の船首から凍り付いた海面へと降りる。トマージとそのパーティーメンバーも続く。

 

 少し進むと、クラーケンの体すら冷気に覆われていることが分かった。

 

「やったのか?」

 

 先頭を行くレンヤにトマージが声をかけた。

 

「まだ分からない……」

 

 レンヤの声に油断はない。広い海に四人の足音だけが響く。

 

「おい……何かいるぞ……」

 

 トマージはクラーケンの巨体の上に立つ、黒いローブを来た何者かを指差した。その身体は小刻みに揺れて霞み、超常の存在であることを匂わせる。

 

「貴様がクラーケンに漁船を襲わせていたのか?」

 

 黒いローブの者は勿体ぶるように時間をかけてから、口を開いた。

 

「漁船を襲ったのは私ではない。このクラーケンだ。私はクラーケンを討ち取り、其方達を待っていた」

 

 レンヤとトマージが瞳を見開く。

 

「貴様は……何者だ……?」

「私は『試す者』。其方達の力をみせてみろ」

 

 そう言って黒いローブの者はしゃがみ、クラーケンの体に触れる。それまで凍てついていた巨体が、俄かに動き始めた。

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