推し活に励む底辺冒険者、レア素材を貢いで実力者をざわつかせる   作:フーツラ

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第7話 作戦変更と接敵

 釣れないよ馬鹿!! こんなでかい湖で竿一本、糸を垂れても水のエレメンタルスライムなんて釣れるわけないじゃん!!

 

 そもそも、普通の魚も一匹も釣れなかったし! 舐めやがって! 湖の水全部抜いて湖底でぴちぴち跳ねてるところを笑いながら網ですくって出荷してやろうか!! 畜生!!!!

 

「おい、小僧……。随分荒れてるが大丈夫か?」

 

 桟橋に小舟を着けた漁業リーダーが舟の上から心配そうな表情をして声を掛けてきた。

 

「全然釣れなくて……。この周辺を焼野原にしてもいい?」

「お前、怖えこというなよな」

 

 リーダーは係船柱に縄をかけて小舟を繋留させ、ひょいと桟橋に降りた。俺の横にきて肩を叩き、「たかが釣りだ。そんなに気を落とすな」と慰める。

 

「ところでリーダー……。水のエレメンタルスライムの被害って星鱒だけだった?」

「いや、湖の近くで放牧をしていた家畜も襲われていた筈だぞ」

「えっ!? 湖から出てくるの?」

「夜は頻繫に湖の外で目撃例がある」

「早く言ってよ!! リーダー!!」

「俺はオスターだ!!」

 

 漁業リーダーは理解不能な怪物を見るような視線を俺に向けた後、桟橋から去っていった。

 

「一日無駄にしたな。作戦変更だ」

 

 俺は釣りとお茶セットをサッとリュックに仕舞い、桟橋の根元まで歩く。歩きながら、考えをまとめる。

 

 水のエレメンタルスライムは夜になると湖から上がり、餌を求めて徘徊する。餌は魚でなくてもいい。肉でもいい。いや、肉がいい筈だ。

 

 水のエレメンタルスライムは日中は湖の中で魚ばっかり食べている。だから、たまには肉が食べたいのだ。漁業の人と同じだ。きっと浅黒くて筋肉質だ。

 

「つまり、最高の肉を湖畔にばら撒く。俺のカバーできる範囲で。そして夜を待つ」

 

 方針は決まった。

 

 俺は掌サイズにカットされた肉塊をリュックから出す。その身は鮮やかな赤で、見るからに生命力が詰まっていた。白龍の肉だ。

 

「ほれ!」

 

 俺は湖畔に白龍の肉塊を放り投げる。

 

 最初は近場。徐々に遠く。腕と肩、胸筋に瞬間的に魔力を廻し遠投する。高く投げると、肉は鈍い音を立てて着弾した。

 

 人間も高いところから落下すると、こんな音がするのだろうか? そんな物騒なことを考えながら、黙々と遠投を続ける。

 

 肉塊を五十程投げたところで、俺の警戒可能な範囲は全て埋まった。後は、夜を待つだけだ。

 

 湖畔にある丁度いい大木を発見し、俺はするする登った。

 

 太い枝に腰を下ろし、幹に背を預ける。

 

「蛇の巣」よりも快適だ。

 

 リュックから本を取り出し、陽が完全に暮れるまでの間、読む。

 

 タイトルは『厳冬の地に生きる虫』。

 

 この中央大陸の最北端に暮らす人々について記した本だ。人間を虫と一緒にするな。とは思う。ただ、長い冬の間はずっと地下の穴に籠る暮らしは、虫っぽい。たぶん、著者もそう感じたのだろう。

 

 五十ページほど読み進めたところで、俺のいる大木は完全な闇に包まれた。目に魔力を廻し、夜目を効かせてまで読む本じゃない。冒険譚なら先が気になったかもしれないが、この本は生活体験記の類だ。また今度でいい。

 

 俺は時が来るまで、瞼を下ろすことにした。

 

 

#

 

 

 星の湖の湖畔。深夜でも赤い炎が見える。その炎の横には人影。退屈そうな表情をした男だ。

 

 男は焚火の傍で乾かしていた薪を火にくべ、徐々に炎が大きくなるのを漫然と眺めていた。

 

 風が吹いて炎を揺らす。炎が作る男の影もつられて揺れた。風は飽き足らず、男の背後にある天幕も揺らした。天幕の中から、返事するように寝息が聞こえる。

 

 男は腰のポーチから丸い時計を取り出し「まだか」と時の流れの遅さを責めた。

 

 薪の爆ぜる音の中に、水の音が混ざるようになった。

 

 男は湖に視線を向ける。月明りに照れされる湖面が風に吹かれ、ちゃぷちゃぷと音を立てていた。

 

 ちゃぷちゃぷ。ちゃぷちゃぷ。

 

 男は気が付く。もう、風が止んでいることに。凪なのに、湖面が揺れている。

 

 湖面の一部が盛り上がり、月の光を強く集めた。

 

 いや、違う。湖面自体がほんのり光っている。盛り上がりは徐々に大きくなり、波は繰り返す。

 

 男は立ち上がり、後ずさり。ようやっと異常を異常と認識して、天幕へ駆け込む。

 

「トマージ、起きてくれ! 何かくる!」

 

 天幕の中では二人の男が寝転んでいた。二人はすぐに立ち上がり、剣を持って天幕から飛び出す。

 

「……これは……」

 

 三人の前にはほんのりと光る、巨大な水の塊があった。その塊は湖から畔へと移動し始める。何かを求めるように。

 

「エレメンタルスライムで間違いないだろ。やるぞ。【魔法障壁】と【ブースト】を頼む」

 

 赤髪の男、トマージが低い声で指示を出す。二人の男が頷き、魔法が発動された。二種類の光りがトマージを包む。

 

「よし。B級冒険者の力をみせてやるぜ」

 

 トマージは長剣を鞘から抜き去ると、肩に担いで走り出す。地面が抉れるほどの脚力で。

 

 強弓から放たれた矢のような速度で、トマージはエレメンタルスライムに迫る。

 

 一方のエレメンタルスライムは湖畔にとどまって動かない。ただその体が点滅を繰り返していた。

 

「くらえ! 【スラッシュ】」

 

 トマージの身体が青い光りに包まれる。大上段から鋭い斬撃がエレメンタルスライムの体の一部に放たれた。

 

 スライムの体は弾け、その身が削られる。

 

「よし」

「いけそうだな」

 

 仲間の声。二人は距離をとって戦況を見つめている。戦闘に加わる様子はない。前衛のトマージにバッファー二人構成のパーティーらしい。

 

 トマージは通常の斬撃とスキルを織り交ぜながら、果敢にエレメンタルスライムの体を削っていく。その中心にあるコアを目指し、一心不乱に剣を振るう。

 

 突然、エレメンタルスライムの体が震えた。

 

 痛みに? 否。スライムに痛覚なんてない。むしろ、喜びに打ち震えているように見えた。

 

 エレメンタルスライムは体を天高く伸ばし、左右に振る。月夜の中、突然現れた巨人が踊っているようだ。

 

「ふざけやがって! 【ファイアブレイド 】!」

 

 トマージの持つ長剣が赤い炎に包まれた。魔力が注がれるにつれて、その炎はどんどん大きくなる。

 

「破っぁあ!」

 

 極大の炎の刃が高く伸びたエレメンタルスライムの体を両断しようと、振るわれた。

 

 激しい爆発音とともに水蒸気が噴き出す。エレメンタルスライムの体の三分の一が一瞬で消え失せた。

 

「へへ。ざまぁみやがれ」

 

 トマージは息を整えながら、随分と小さくなったエレメンタルスライムに悪態をつく。

 

 一方のエレメンタルスライムは一瞬止まった後、その身に纏う光りを強くした。体の中心にあるコア。その横で輝く青い石。それが発する光りがどんどん強くなり、体全体へと波及する。

 

 まるで、踊りを邪魔されて静かに怒っているように。

 

「さぁ、止めだ。【ファイアブレイド 】!」

 

 また、トマージの持つ長剣が赤い炎に包まれる。対抗するように、エレメンタルスライムの発光は強くなる。

 

 チュン。

 

 甲高く少々間抜けな音が響く。と同時にエレメンタルスライムから放たれた一筋の青い光線。

 

 それは全てを薙ぎ払う。その光線の通った後、地に立つ者はいない。

 

 トマージもその仲間二人も。

 

 少しして、湖畔の大木すらも倒れた。その大木からは、人間の男が一人。飛び降りた。

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