昨日あったからと言って、今日も同じ事が起きないかもしれない。同じ事が明日も起こるだなんて、全然期待していない。
「――――」
だから、今日も仕事場を抜けて、ロッカーの中にあるコンビニ弁当を持って、丘を上がっていったときに。
「アオバおそーい」
「三分遅刻ー。遅延証明ぷりーず」
二人の姿を見かけると、いつも胸が詰まりそうになる。
――また、来てくれた。
――約束を、守ってくれた。
嬉しくて、口元がゆるむ。
でも、そんな二人に、私は。
「こっちは、十二時になってから、急いで、来たんですけど…………。これが、最速、なんです、けど…………っ!」
素直にお礼の言葉が、言えなくて。
……というより、疲れ切ってて。
「はい、アオバー、しんこきゅー、しんこきゅー」
「今脇腹つついたら面白いことになりそ。パヒャッ」
二人の感触に、ああ、今日も、騒がしくて、賑やかで、そして安らぐ昼食の時間がやってくるんだな、と。嬉しくなる。
◇◇◇
あるときから、いつも同僚や上司から離れるためだけに使っていたお昼ご飯を食べる木陰は、私と――そして、ノゾミとヒカリの、三人で食べる場所になった。
私はその時間が、楽しいなと、思えるようになった。
幹部連中は相変わらず、仕事中の時間にも関わらずどうでもいいモモトークを送ってくるし――お昼時間と、そして十時と十五時の休憩時間しか見られないけど――。いつしか休憩時間に見るモモトークが、楽しみに思える自分が、どこかいることに気づいて。
しょーもないやりとりが、こんなにも嬉しいのだと、絶対に本人たちには言わないけれど、私はそれが、救いになってるのだと思う。
だから私は、安心するんだ。
――ああ、今日も、私は。裏切られなかったんだな、って。
そして今日も、私はコンビニで買った大容量と謳うコンビニ弁当と、お味噌汁が入った真空断熱のスープジャーを広げる。
「いただきます」
手を合わせて、そして食べ始める。今日の作業も体を動かしたおかげで、お腹はすごく空いている。二人の前でお腹が鳴らなかったのが本当によかったと思う。二人に聞かれてたら――まぁ笑われちゃうだろうし。もしくは頬か脇腹か肩辺りをつつかれるだろうし。
「アオバはさー?」
「むぐ?」
チキン南蛮と一緒にご飯を食べてると、隣のノゾミから不思議そうな声がした。
見ると、中身がぎっしり入ったフルーツサンドを手にしたノゾミの視線が、弁当と私の顔の間とを行き来していた。
「そんな量、アオバのどこに入んの?」
「ぼりゅーみー」
逆側のヒカリからも、似たような言葉が聞こえる。
このお弁当は、エンジェル24系列店で売っているもので、
一度開ける前のものをノゾミに持ってもらったときに『え!? 何これ重!?』と言われたことがあるから、きっとそのことなのだと思う。
現場で働く身としては、動けばお腹が減るからこの量は普通だと思っていたのだけれど。運行側だったり幹部側の方としてはそうでもないらしい。――おそらく、休憩時間にお菓子を食べたりしてるんだろうな、とは思うけれど。
「動けばお腹は減りますから。午後に向けてカロリーを摂取しないと、動けなくなっちゃいますし。……そもそも」
逆に、ノゾミやヒカリの手元にあるものを見る。今日のノゾミはフルーツサンドが一パック、厚めのものが二切れ分。ヒカリはサンドイッチが同じく一パック、薄めのものが三切れ分。それと、フルーツ牛乳がそれぞれ一パックずつ。そしてそれに加えて、いつものように私のお弁当からおかずをいくつか持ってくくらい。
――私としては、よくそれで足りるな、という位なんですけど。
「あなたたちは、全然足りないと思うんですけど?」
聞くと、二人とも同じような仕草で首を傾げる。――そうかなぁ? とでも言うかのような顔と、仕草。
「私たちはー、省エネ活動ー。足りなくなったらおやつで補給ー」
「そうそう、もしお腹が空いたら、ピザでも頼めばいいし」
だなんて、動いていないことを自慢するようにも聞こえるようなことを言ってくる。実際そうなのかもしれないけど。……列車の運行って、結構精神と体力使うと思うんですけど。
――これだから幹部は……。
と口から出かけるのを、必死に堪える。消費する分だけカロリーを摂取するのは人として必要なことで。これがもう少し、成長の方に回ってくれたらいいな、と思うけれど。現状維持できてるだけマシというもので。
――という、よりも。
二人の様子を見る。自分の弁当を見た後だからか、なんだか、手元にあるお昼ご飯と、その見た目に、因果関係を感じてしまって。……食べてないから、なんだろうかな、と思ってしまう。
「だから、小さいと思うんですが」
…………あ、と思った時には、『すが』とまで言った後だった。前の方は耐えてたのに、耐えられた油断で、口から漏れてしまったのだと思った時には。
ノゾミがじとっとした目をしているのが、見えてしまった。
「…………ヒカリ」
「ヒカリ必殺のー、十六連射ー」
ノゾミの声が聞こえた瞬間、逆側の脇腹に刺激が、走――――
「ひゃうあっ!?」
トトトトトッと連続でつつかれて、体が跳ねそうになる。膝の上にはお弁当があるのに!
「――ちょ、ま、お弁…………~~~~~~!」
必死に左手でお弁当の箱を抑える。ビクッと膝が暴れそうになるけど、必死に箸と弁当が落ちないように耐える。
逆側からも同様に刺激。こっちはつつくんじゃなくて、物理的にくすぐってくる。
――そんっ、な、子どもみたいな、こと――――――っ!!!
それがどれくらい続いたか、脇腹の刺激が無くなったころには、私の体力は無駄に消費されていた。お弁当も、箸も無事。ただ、変に汗はかいてるし、まだ脇腹にはこちょこちょされた感触が残っている気がして、気を張ってないと体がまた跳ねそうになる。
「あっ…………あの! 食べてるところでくすぐるのやめてほしいんですけどっ!?」
「悪いのはアオバ」
「そう、アオバー」
ぷぅ、と頬を膨らませる二人に挟まれて、逃げ場は無い。……そんな私悪いこと言ってないと思うんですけど。
「アオバだって私たちとそんなに変わんなくてちっちゃいじゃん。人のこと言えなくない?」
「そう言えばいいじゃないですか! ヒカリを使って物理的に反論しないでほしいんですけど!?」
「だって、ねぇ、ヒカリ?」
「ねー」
よく見ると、二人が飲んでいるのは苺ミルクとバナナミルク。
……つまりは、そういうことのようで。
みんな、考えてることは一緒みたいで。
「……ごめんなさい」
ひとまず、謝っておいた。
「ん、謝れるならヨシ。……じゃあこれ貰うね」
「えっ、あ!」
「じゃあヒカリはー、こっちー」
「ぅあっ!?」
最後に食べようとしていたカットオレンジが、そして最後から二番目に食べようとしていた味付け卵が、左右から伸ばされた手に持って行かれてしまった。
片方に注意を向かせて、もう片方をかすめ取るという綺麗な連携に、物の見事に嵌まってしまった私は。
「…………ううぅぅぅ…………これだから………………」
自業自得、と頭の中の私が言ってくるのを尻目に。
頬を膨らませることしかできなかった。
ノゾヒカアオバで一緒に食べるお昼ご飯のイベントは、一度だけの限定イベントじゃなくて恒常イベントであってほしい。
一回目が二回目になり、それが一週間になって――次第に三人で食べることに慣れていって、それを楽しみにしてるアオバがいたらいいなって、思います。
ノゾヒカアオバでご飯を食べるとき、食べる量に明確に差があったらいいなって思う。そんなお話。