ノゾヒカアオバ作品   作:みょん!

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I hate rainy days

 私は、雨の日が嫌いだ。

 別に、雨の日に嫌なことがあったとか、そういう記憶によるものじゃない。

 ただ。

「…………」

 朝起きて、いつものように洗面所で鏡を見て、爆発した髪の毛を見て――ため息を付きたくなった。

 寝る前には髪をしっかりと渇かしたし、そうならないように対策はしている。それでも雨の日は、勝手に髪の毛が湿気を吸うせいか、いつもこうなる。

「痛っ」

 試しに櫛を入れてみる。ほんの少し動かすだけで、髪に引っかかって頭が引っ張られた。今回の髪は無駄に手強そうで、今日二回目のため息が出た。

「…………別に、やる必要もないんですけど」

 つい、口から言葉が出た。

 自分自身、他のキラキラした生徒みたいに、みてくれを気にしている訳でもないし。そもそも今日は休日だから、いつものように髪を二本に結ぶ必要もない。ない、んだけど。

 ――どうせまた、来るんですよね。

 頭に浮かぶのは、幹部の中でも、なぜか憎めない二人。

 あの二人は、休日に私の部屋に押しかけてくる。しかも、事前連絡も無しに。神出鬼没もいいところで、私に予定を聞くこともなく、外に連れ出す。

 ――……まぁ、休日に予定があることの方が圧倒的に少ないんですけど。

 去年一年で休日に外に出た数を、この数ヶ月で簡単に超えてしまっているような気がする。そのくらい、二人は私を連れ出す。理由らしい理由もなく。何かをしてみたかった、とか、そんな子どもみたいな理由で。

 でもそれは決して、私としては、嫌な気持ちじゃなくて――

 

 ピポピポピポピポピポーン

 

 だとか思ってたら、寮のチャイムを連打される音がした。

「――――やっぱり」

 もはや驚くことはない。

 私の口からは、本日三度目の大きな息が漏れた。けれど、顔を上げて、鏡に映る私の顔は――やっぱり、嬉しさを抑えきれない顔をしていた。

 そのままの顔で出て行ったら、二人に色々と言われるのが目に見えていたから。頬を伸ばしたり揉んだりして元に戻して――その間にもまたチャイムを連打された――ドアを開ける。

 いつもの格好の、いつもの二人がいた。

「おはよ、アオバ!」

「やほー」

「……その、百歩譲って家に来るのはいいんですが、朝からチャイム連打は辞めてほしいんですけど。普通に近所迷惑なんですけど」

 腰に手を当てて、言う。そうでもしないと、二人が来てくれたっていう、『嬉しい』の方が、顔に出ちゃうから。

「えへへ」

「これっぽっちも褒めてないんですけど」

 ヒカリが頭を書いて照れくさそうにしている。全然、まったく、褒めた訳じゃないんですけど。

「ま、それはそれとしてさ」

 その隣でいつものように何かを企んでそうな笑みを浮かべていたノゾミが、物を隣に置くジェスチャー。

 話を逸らさないでほしいんですけど。――それもまた、いつものこと。だから、もはや言ったところでどうにかなるわけではないのは知ってる。

「アオバ、髪すごいよ?」

「芸術は爆発ー?」

 一番気にしていたことを、やっぱり口にされた。

「ええ、直そうとしてたところで二人が突撃してきたから直ってないんですよ。それで、今日は何用ですか?」

「アオバと一緒にパンケーキ食べに行こうと思って。……その前に、アオバの髪なんとかしよ?」

 大丈夫でしょ? とノゾミの目が言う。大丈夫ではあるけれど、それをすぐ返すのもなんだか掌の上で躍らされてる気がしないでもない。

「……まぁ、大丈夫、ですけど。ちょっと待っててもらっていいですか?」

 少し考える素振りをみせておいて、はいの返事。ノゾミの口元の笑みがより深まるのが見えた。

「いやいやアオバ、ここに髪の毛を整えるスペシャリストがいるんだよ?」

 何やら自慢げにノゾミが言う。ドヤ顔で言うってことは、さぞ自信があるのか、と、思ったら、『こちらです』とでも言うかのように、掌を上に向けて、隣の人物を指し示した。

「アオバの髪の毛は、私が綺麗に完璧にしてさしあげようー」

 などと、腰に手を当てて、ノゾミを真似するかのようにドヤ顔をするヒカリがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関で押し問答するわけにもいかず、かといって今日の髪の毛をちゃんとしたものにするなら黙って十分は掛かるだろうと思ったし、それまでずっとドアの前で立たせるのも失礼だし――ということで、ヒカリに任せることにした。

 部屋に姿見なんてものはないから、『アオバの髪の毛を、完璧にしてあげる』と意気込むヒカリを背後に感じながら、部屋の壁を見ていることしかできない。――なおノゾミは、私のベッドに寝っ転がって、勝手に持ち出した漫画を読んで笑い転げてる。本当こっちの方は自由だな、と思う。

 頭には、微かに髪の毛に触れられている感触がある。――でも、それだけだった。

 急いで髪を整えようとすると、どうしても櫛に髪の毛が引っかかって、引っ張られる。これが割と痛いし、急いでる時なんかは舌打ちをしたくなる。悪いのは全部自分だとは思いつつも、世界の理不尽さに眉が寄る。

 今のところ、ヒカリが髪を梳かし始めてから今までは、痛いと思ったこともなければ、頭が動くようなこともなかった。背後からはヒカリの吐息――と、部屋の端からはノゾミの笑い声――が聞こえるだけ。ヒカリは何もしないで寝てしまってるんじゃ、と思う位、何も感じなかった。かといって後ろを振り向いたら髪の毛を梳かす邪魔になるから、振り返ることもできなくて。

「ねーアオバー、この作者の別のやつあるー?」

「そこにあるカラーボックスの二段面の奥ですけど」

「ありがとー」

 ――もう一冊読み終わったんですか。

 そう言う間もなく、ノゾミはベッドから文字通り飛び降りる音がして、視界に現れる。

 私の方を見たノゾミは。

「パヒャッ」

 と一言鳴いて――笑って?――本を取り出したかと思うと、また視界から消えた。かと思うと、ベッドが軋む音。また寝っ転がったようだ。

 ――今の反応は、何なんだろう。

 鏡で見たいと思ったけれど、立ち上がることも、手鏡で自分の姿を見ることも、できなかった。

 

「――――」

 そういえば、と考える。

 誰かに髪を整えてもらうのって。親以外では初めて、かも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、かんせー」

 ふと、ヒカリから声がかかる。

 結局、最後まで頭が引っ張られることはなかった。まるで、何もしてないのかと思う位で――。

 振り返ると、ヒカリが腰に手を当てて、目を閉じて、先ほど以上にドヤ顔をしていた。

「完璧なお仕事ー。なでなでしてー」

 ヒカリが帽子を取って頭をこっちに向けてくるので、つい手が動いてしまった。頭を撫でていると、むふー、と気持ちよさそうに息を吐く音がした。

 逆の手で自分の髪の毛に触れてみる。指先で梳いてみる。一切、まったく、引っかかることなく、毛先まで流れていった。

 髪の毛のいつもの場所には、ヘアゴムの感触があった。自分以外の人に付けてもらったのにも関わらず、自分でやるのとまったく同じ場所にあるのが、なんだか嬉しく思えた。

 なでなでを終えようとしたら、ヒカリの手が私の手を押さえてくる。上目遣いで私の方をじっと見るヒカリの目は、『もっと』と言っているのは明らかで。

 なでなでが終わるまで、更に少しの時間を要した。

 

 満足そうに帽子を被るヒカリを横に、洗面所へ。唯一ある鏡に映った私を見て。

「…………あ、」

 思わず、声が漏れた。鏡に映るのは、私の、いつもの髪型で。それどころか、いつも以上にしっかりと整えられているのが分かる。髪の毛が跳ねている場所は、どこにもなかった。

 髪が完璧なら、ヘアゴムの位置も、ヘアピンの位置も、全てが完璧。ヒカリの、思わぬ所の得意分野を知れた気がした。

 部屋に改めて戻ると、ヒカリが「どう?」とでも言いたげなドヤ顔をしていた。

「私もヒカリに髪整えて貰ってるからね。早いし綺麗、ヒカリは髪の毛整えるの上手なんだー」

 まるで愛おしい物を誇るかのように、ベッドに腰掛けて、足をぱたぱたとさせてノゾミが言う。言われたヒカリは頬を緩めて嬉しそうにしているのが見える。可愛い。

「雨の日に遊びに来たら、またやってあげるー」

「…………いえ、来る前に言ってくれれば、自分で直せるんですけど」

「アオバの髪の毛は、やり応えがあるから楽しいー。やらせて」

 櫛を手にして、むふんと息を吐く。きらきらとした好奇心旺盛な目は、言葉以上に、ヒカリの意志を示しているように見えた。

「…………えと、ヒカリの迷惑じゃ」

「ううん。楽しいから、おっけー。むしろさせて」

 私に近づいて来て、髪の毛を手に取る。掌に載せてもふもふとする手付きは、さっぱり、これっぽっちも、嫌そうなようには見えなくて。――今日、完璧に整えてくれたヒカリになら、任せても、いいかな、と、思ってしまう自分が居るのに、気づく。

「…………では。…………お願い、します」

「やた」

 笑みを深くして、ヒカリが言う。

「じゃあ次はー、私が使ってる櫛持ってこよっと」

 心なしか、声も弾んでいるように聞こえる。

「私はその間アオバの漫画読めるから、私の事は気にしなくていいからね」

「すみません、ノゾミの方は全然気にしてませんでした」

「パヒャッ! アオバも言うようになったね!」

 本音ですけど。

 っていうかぶったたかれた背中が痛いんですけど。――だなんて言うのは、止めておいた。なんとなく。

「よーし、それじゃパンケーキ食べにいこ! トリニティですっごいおいしいとこ見つけたんだー」

「……列車、ですよね?」

「もち!」

 はっきりと頷くノゾミを見て、安堵するのが分かった。

 ノゾミのことだから、そう言ってくれるだろうと思ってはいても、確信はないから。だからやっぱり、聞いてしまう。

 そんな私にノゾミは、いつものように、私の事を全て分かってるような口調で、言うんだ。

「アオバと一緒の時に、列車以外はありえないからね!」

 ――だとか、どうとか。

 分かっている。でも聞かないではいられない。

 友達だと分かってる。信じていいと分かってる。でも、心の底に染みついて、期待はできないという思考はどうしようもない。

 でもそれを、太陽のように照らしてくれるノゾミは、まぶしいなと思う。

「じゃー、アオバ、いこー。帽子被って、再爆発しないようにー」

「分かってますって。ヒカリが整えてくれたんですから」

「また爆発したらやってもらったらいいよ。……それとも、私がやる? 高いタワー建てちゃう?」

絶対(ぜっっっったい)にやめてほしいんですけど」

 ヒカリに引っ張られてドアの方へと向かう。私よりも先にドアを開けたノゾミの向こうから、しとしとと雨の音と、雨の匂いをはっきりと感じた。

 雨の日は髪の毛は爆発するし、外は歩きにくいし、気圧が低くてだるいし、本当に碌なことにならない。

 でも。平日はともかく、休日は、例外もあるかもしれない、と思った。

 

 私は、雨の日が嫌い――だった。




雨の日が嫌いなアオバが、条件付きで嫌い『だった』、に変わるお話。
大事な人の影響で認識が変わるのって、いいよね。

あと今日はノゾミとヒカリの誕生日。おめでたい!
ノゾヒカアオバの三人で末永く仲良くしててほしいなって思います。
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