ポコン。
【明日、一緒にお買い物に行くよ!】
【行くよー】
ノゾミとヒカリ、そして私の三人のトークルームでの会話。二人からの誘いは、いつも突然だ。
『どう?』ではなく『行くよ』と、まるで私が行くと決まっているようなもの。
「別に、予定も何もないからいいんですけど」
ぼそりと、口から出る。けれど、その口元は、どうしようもなく、緩んでいた。
一年生の時は、休みの日は外に出ることはあまりなくて。備品が足りなくなったときに――しかも自腹で――買いに行く程度で、人混みが分かりきってるところに行くのは嫌だった。
基本的に家で過ごす形だったから――こうやって休みの日に連れ出してくれるノゾミとヒカリには、正直感謝してる。――絶対に、言わないですけど。
【分かりました。集合場所と、時間は?】
【0820に駅改札口前で】
その時間なら、問題無く起きている時間。寝坊しないようにアラームをセットしておけば大丈夫だと思う。
……あと、念のため。確認しておく。
【電車、ですよね?】
【もち!】
【分かりました】
それから、すぐさま【よろしく!】のスタンプが押される。ほんの数分で、休日の予定が立った。今までは朝に起きてから何をしようかと考えていたから、金曜日の時点で予定があるのは、なんだか、新鮮で。
明日が楽しみだと、そう思える自分がいた。
◇◇◇
「おはよー。アオバ、服はいつもどおりだね。パヒャッ!」
「二人も同じだと思うんですけど」
「違うよー。ほんのり、おめかしー」
ヒカリが見せてくれたのはカバンに付けたキーホルダー。……一緒に買い物に行ったときに、買った、それ。付けてくれてるのが嬉しいな、って思う。……私も、なんとなく、付けてきたから。
私の首元にも下げられてるのを見て、底意地が悪いようなにんまりとした顔をしてくる。あと、口元に手を当てて、口は見えないけど目が笑ってるのが見える。
「そういうのは現場じゃ御法度だからね。パヒャッ!」
ノゾミの言う通り。首や手首から何かを下げるのは、巻き込まれた時に危険だからと現場では厳禁も厳禁だ。だから、そもそもみてくれには興味なかったし、平日は付ける機会もないし、そもそも休日は付けることもないし、というあらゆる面で買わなかった私が、血迷って買ったものを付けてるのを、ノゾミは目ざとく見つける。そして私の脇腹を面白そうにつついてくる。「アオバも付けてくれてるんだー」
「つつかないでほしいんですけど」
「照れない照れない」
「……照れてないんですけど」
「ほんとー?」
言っても話を聞かずに、つついてくる。まったく、この幹部連中は……。
「それじゃー、お買い物へ、ごーごー」
ノゾミに脇腹をつつかれながら、ヒカリに手を引かれながら、駅の方へ。
「うぇ」
「おー、今日もいっぱーい」
「お休みの日だもんねー」
目に見える人混みに嫌になる。明確な目的がなかった時の私だったらきっと、この時点で回れ右をしていただろうと思う。
でも、今は。
「アオバー、行こー。八番乗り場ー」
「トイレは大丈夫? 忘れ物はない? 荷物持ってあげよっか?」
「――――ど、どっちも大丈夫ですけど!」
二人と一緒なら。大丈夫だと思う。
私たちが改札に来た時点で、電車は既に止まっていた。
ここが始発ということもあって、駅中の人混みに比べて、電車にはまだ座れる場所があった。
目的地までは経路がぐるっと大回りをする関係で、大体一時間くらいかかる。乗り換えをしなくていいのは楽な一方、時間だけは掛かる。
――とは、言っても。
「今回はバスじゃないからゲロ吐かなくて大丈夫だね!」
「あの時も吐いてないんですけど!」
「アオバが吐きそうな時はー、パワーアップした背中トントンをしてあげるー」
「いえ、しなくていいんですけど……」
二人と一緒のときはいつも通り騒がしく、賑やかで、そして――楽しい。だから一時間もきっとあっという間だし、バスじゃないから、乗り物酔いをする危険性もない。
ドアが締まり、列車が動き出す。
聞き慣れたタイミングで、聞き慣れた内容のアナウンスが聞こえる。そして最後に、運転士の名前が読み上げられて、そのアナウンスは終了。意識が耳にあったせいか、体感的な加速度が上がったような気がした。
「…………」
隣に座るヒカリはぼーっと窓の外を眺めていて、逆側のノゾミはと言えば、口元に手を当てて、何やら考えてるような顔。そしてその視線は、私の方へと向く。
「……なん、ですか?」
「…………ごめん、トイレ行きたい」
何か頷いたかと思うと、そんな事を言い出した。言葉の中身からすると、頷いたのはきっと、向こう一時間は耐えきれないだろうと判断したんだろう、きっと。
――さっきトイレは大丈夫? って聞いたの、ノゾミなんですけど……。
とは言わず、私たちは次の駅で降りて、用を済ませる。そしてまた数分後に来た列車に乗って、再び目的地へ。
こっちの電車も座ることができて、変なのにも絡まれることなく、気持ち悪くなることなく――途中から散々ノゾミに気にされてたけど、どっちかっていうと心配というよりもからかって遊んでるだけのように思えた――目的地のD.U.に到着。
駅直結のショッピングモールへと、私たちは向かった。
目的のお店を巡り、まだまだお昼までには時感があると、適当なお店を回っていて、ふとヒカリがお花摘みに行きたいと言い出して、しばしの休憩。
「…………ノゾミ」
「なーに?」
椅子に座って、足をぷらぷらと手持ち無沙汰そうに振るノゾミを見ながら、問う。
「今日、こっちに行く時。……本当はトイレ、じゃないですよね?」
「…………」
目をぱちくりとさせて、私の方を見る。足の動きも、そして瞬きもしないで私の方を見て、そしてしばらく何も言わなかったことが、全ての答えに感じた。目を見開いていたかと思うと、ふっと息を吐いて、そして目を細めて、優しげな顔になる。
「…………なーんで、バレるかなぁ」
「なんとなく、ですけど……」
なんとなく、本当になんとなくの、違和感だった。
ノゾミやヒカリと過ごしているのは、まだそんなに長くない。――けど、世話の方に回りがちなノゾミが、自分からわがままを言い出したのは珍しくて。……きっと、何か理由があるんだろうな、と思えて。聞いてみたら、答えはYESだった。
ノゾミは「そっかー」と言いながら、足のぱたぱたを再開させる。どこかあきらめがついたような、ため息を吐いて。
「アオバには、気取らせないつもりだったんだけどなぁ」
だなんて、達観した年長の生徒みたいなことを言う。ノゾミもヒカリも、幹部とは言っても、まだ精神年齢も幼い、一年生なのだけれど。
「念のため聞くけどさ、アオバって、カイザーの私鉄って乗ったことある?」
「早く着くのと引き換えに、電車なのに相当揺れるって有名の、ですよね。私、体質的にダメそうなので、乗ったことないです、けど」
「うんうん、それでいいと思う」
何回も頷いて、ノゾミは言う。……その質問に、何の意味があるのかは、分からない。
「えっとねぇ。まぁこれは内部のお話だし、私の勝手なお世話なんだけどさ」
体ごとこっちを向いて、そして。姉のような、母親のような、慈愛の表情を見せて、言う。
「――――最初に乗った電車の運転士、めちゃめちゃ運転が荒いんだよね」
ノゾヒカアオバの三人は、当たり前のようにお休みの日は遊びに行っててほしいし、アオバの体質を分かった上で経路を選ぶノゾヒカがいてほしい。
そしてしれっと業務内情報でアオバを守っててほしい。そんなお話。