ノゾヒカアオバ作品   作:みょん!

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『また、あした』

 いつもの場所にコンビニ弁当が入った袋を持って向かったら、休みに入って大急ぎで来たというのに、二人はもうそこに居た。

 そこでご飯を食べていたのなら、穴場を見つけられた、で済むのだけれど。

「一分と二十秒。今日はちょっと早いね」

「もう少しダッシュすれば、一分切れるかもー?」

 二人の左右に置かれているコンビニ袋からは、何も出されていない。

 そして二人の間は、ちょうど人が一人入れるくらいの幅が空いている。

「はい、アオバはこっち」

「そ、こっちこっち」

 ――それは。つまりは。

 ……私を、待ってくれていた、ということで。

「……別に、二人の間じゃなくてもいいんですけど」

「そっちの方がおかず取りやすい」

「パヒャッ!」

 ――笑ってるあなたも取ってるんですけど。

 約束をしているわけじゃない。何か示し合わせたわけでもない。もちろん先生に言われたわけでもなければ、当然ながら業務命令でもなんでもない。

 それなのに。二人は。

 私がご飯をいつも食べているところにやってきて――今日も一緒に、ご飯を食べる。

「ふぅん、今日は三色フライ弁当かぁ……」

「取るおかずを物色しないでほしいんですけど」

「私がいつもおかずを取ると思ってる?」

「思ってる」

「パヒャッ! アオバ、よく分かってんじゃん!」

「背中叩かないで欲しいんですけど。弁当落ちるんで。――っていうか取ることの方を気にして欲しいんですけど!」

 言ってもノゾミはパヒャパヒャ笑うばかり。――と、思ってたら、いつの間にか弁当の左端にあったカットオレンジがなくなっているのに気づく。

「…………ヒカリ?」

「…………」

 ふるふると首を振る。

「口開けてみてください」

 にこっと口を横に広げて、開けた口の中には――。

「――――ぶふっ!」

 笑顔の形になったオレンジの皮が、口から覗いていた。

「――食べ物で遊んじゃいけないって習いませんでした!?」

 ヒカリに指摘すると、後ろからはさっきよりも大きな声で、見なくても腹を抱えてパヒャパヒャ笑ってるヒカリがいるのが分かる。

「…………ああ、もう……」

 ため息が出る。

 でも、そのため息を付く私も。

 ――きっと、笑ってるんだろうと思う。

 

 おかずの取り合いをして、あと取られた分、二人からサンドイッチを分けて貰って。

 ――ギブアンドテイク、の言葉通りではあるものの、なんか違う気がしてならないんですけど……。

 何回目かの、騒がしいお昼の時間が、今日もまた、繰り広げられた。

「アオバはさー、明日って」

 

 キーンコーンカーンコーン、と

 

 ノゾミが話を続けようとしたところで、予鈴が鳴る音がした。

 お昼の休憩時間は終わって、午後の作業時間が始まる。走ったりしなくても作業場には着くから私は問題無い、のだけれど。

 ――二人は間に合う、んですかね……?

 かれこれ何回か一緒にお昼を食べているけれど、二人が移動し始めるのは予鈴が鳴ってから。……大丈夫なのだろう、きっと。たぶん。

「それじゃあ、私は現場に戻りますね」

「んー」

 口元をナプキンで拭きながら、ヒカリが鳴き声なのか返事なのか、分からない声を上げる。

「あー、楽しかった!」

 ノゾミはそう言って、元気よく立ち上がる。あれだけ面白がってたら、そんな感想にもなるだろうな、と思う。こういうときのノゾミは、羨ましいと思う。皮肉、とかじゃなくて。

 二人は軽くなったコンビニ袋を持って、そして私が向かう方向とは逆方向へと向かう。

「じゃーね、アオバ。ばいばい」

「それじゃーアオバ、また明日!」

 数歩歩き出してから、後ろから、静かな優しげな声と、さわがしくて元気の良い声が聞こえてくる。

 振り向くと、二人は大きく手を振っていた。手旗信号よりもよっぽど、オーバーに。

 ――また明日。

 初めてのときから、そうだった。

 そう言われる度に、胸がきゅっと締め付けられる思いがする。

 それは上司に嫌なことを言われたときに感じるそれじゃなくて、むしろ、何か温かいものが、こみ上げてくるようなもので。(それは決して、悪い気持ちじゃない。)

 油断したら、涙だとか変な物が出てきちゃいそうになるから、ほんの少し、意識して、呼吸をする。

「…………明日も、同じ時間に来られるか分かんないんですけど」

 ――こういうときにノゾミは羨ましいと思う。

 自分の心に、正直な言葉は、こういうとき、どうしても、出てこなくて。どこか、遠回りになったり、変に、壁を作るような言葉になったり、つんとする言葉になっちゃったり、しちゃって。

「だいじょーぶ!」

 でも、そんな私に、ノゾミは自信満々に言う。

「アオバは来てくれるから」

 ――だなんて、まっすぐに、笑顔で、私に向けて言う。

「――――――」

 そんなこと言われたら。這ってでも行かなきゃいけなくなるじゃないですか。

 期待させて裏切られるのは、私の方だったのに。

 この二人は、私が来ると、信用してくれている。

 私は、明日にまた、騒がしいお昼が来てくれるんじゃないかと、期待を、してしまう。

 

 そんなこと、言われたら。明日に、期待、しちゃうんですけど。

 

 明日が同じことが起こるとは思ってない。

 未来は、分からないから。何が起こるか、分からないから。

 起きてみなきゃ、分からない。

 でも。

 少なくとも。

「…………はい。――――また、明日」

 今の、私は。

 『また明日』と言ってくれる二人を、信用して。そして。

 明日のお昼に、期待を、しているんだ。




明日に期待していないけれど、別れ際の挨拶で明日に期待をしてしまう――。
そんなアオバが見たいなと思ったので書きました。

ノゾヒカに救われてるアオバがいたらいいなって思います。

追記:夏コミでノゾヒカアオバの本が出るかもしれません。半分以上描き下ろしのつもりです。頑張ります。
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