ようこそ神域の男がいる教室へ 作:3年生編楽しみ
オレたち新入生は、体育館へと向かわされることとなった。そこで「入学式」が行われる。これまでこうしたイベントとは全くの無縁だったオレは、興味関心が湧き起こるのを実感している。
体育館までの道のりを歩いている最中、オレは"彼"のことを探した。1人だけ纏う空気が違う。多くの生徒が歩いているが、もし彼がいればすぐに分かるだろう。
だが、彼の姿は見えなかった。既に体育館に入ってしまったのかは分からないが、オレの視界には映ることがなかった。
………オレは今、奇妙なことをしている。
オレの目標は「平穏な学校生活」。波風立てることなく、世の中の学校というものがどんなものかを学ぶことが、ここに入学した最大の理由のはずだ。
ならば、彼と関わることはむしろ「普通」を遠ざける行為ではないのか。
明らかに矛盾した自らの行動に、オレは疑問を呈することとなる。
「何をしているの?」
凛とした清涼な声が、オレのことを呼び止めた。振り向くとそこには、バスの中で一緒にいた黒い長髪の女子生徒が。
「キョロキョロと周りを見て。不審者にしか見えなかったわよ」
女子生徒の棘のある物言いに、オレは少し気圧された気分になる。初対面の人間にそこまで言うのは、あまりスタンダードな対応ではないんじゃないか。流石のオレもそれぐらいは分かっているつもりだ。
「いや………特に変なことは考えてないぞ」
「本当かしら?いやらしいことを考えていそうな素振りね」
「いやらしいことって何だよ。人を探してただけだ」
「人?」
一旦、オレへの口撃は止まったようだ。
「あの白髪の男子生徒を知らないか」
「……………!」
すると、女子生徒の目が大きく見開かれた。驚きの色が強く表れている。
「あなた………彼のことを知っているの?」
彼。そう言えば、さっき男子生徒と最後まで残っていたのがこの女子生徒だったか。何か話をしていたようだったが………
「いや……特には知らない」
「……………知らないのね」
「何だその嫌そうな顔は。オレは何も悪いことをしてないぞ」
「嫌そうな顔じゃないわ。ただ落胆しただけよ、あなたの無知に」
……さっきからオレへの当たりが強くないか?
オレはお前の名前すら知らないんだぞ。いやらしいってさっき言ってたが、別に痴漢をした訳でもないし、そもそも誰の身体にも触れていない。誤解もいいところだ。
「そういうお前は知ってるのか、彼のこと」
「知らないわ」
知らないのかよ。じゃあ人のことを言えないじゃないか。
「名前以外は」
名前以外は………
なら名前は知ってるのか。
「何て名前なんだ」
「それをあなたに教える義理があるの?」
拒絶の意思が凄まじい。オレってそんなに馬鹿馬鹿しい奴に見えるのか?世の中から見たら、オレはそこまでみみっちい存在なのか。
少し自信を失いそうになるぞ。
「…………………………………」
「………………あの、何か言ってくれないか」
「…………………………赤木」
「え?」
「赤木しげるよ」
彼女はそう言うと、オレを置き去りにして前へと歩き出した。
赤木、か。
赤木と今後関わる機会があるかは分からないが、その時にはよくよく彼の動向を観察しておこう。
……………てか、結局女子生徒は名前を名乗らなかったな。オレも名乗らなかった。まさか他己紹介だけをして別れることがあるなんて。
オレの学校生活は、かなり寂しいものとして出鼻を挫かれることとなった。
体育館に入った私は、全体を一瞥した。
目立つ白い髪の毛。一目見れば分かるその風貌を、私は人の群れの中から探し出そうとしていた。
…………いないわね。
赤木くんの姿はどこにもない。私よりも先に校内に入っておいて、私よりも遅い到着なんて。どこで油を売ってるのかしら。
「……………………」
「どうした、いなかったか」
すると、さっきの男子生徒の声が背後から聞こえてきた。
「ええ………」
「初日からフケてるのかもな」
「だとしたらとんだ不真面目ね………でも、否定も出来ないわ」
彼とはほとんど会話をしてはいない。でも、彼が優等生の類ではないことは一目瞭然だった。入学式をサボるという奇行も、あながち取らないとは言えない。
「あなたは欠席しないの?入学式」
「何でだよ。最初からヤバイ奴になるじゃないか」
「あら?あの不審者ぶりはヤバくないとでも?あなたは十分"そっち側"の人よ」
「さっきからズケズケ言ってくるな………お前、そんなのだと友達出来ないぞ」
「必要無いわ。特にあなたみたいな人はね」
そう言い終えると、私は自分のクラスが集まっている場所まで移動することにした。遅れて彼の足跡も聞こえてきたけど、どこかたじたじになった力無い足踏みに聞こえた。
女子生徒の情け容赦の欠片も無い発言の数々に、既にオレの心はまち針でボコボコに刺されたみたいになっていた。
オレはもしかすると、想像以上に外の世界に適応出来ていないのかもしれない。一般人とは所作や雰囲気が違いすぎて悪目立ちして、その結果ああした鉄の洗礼が待ち受けていた………
なのだとしたら、結構深刻だな。オレのこれまでの学習が、全て机上の空論だったと証明することになってしまう。"普通の学校生活"というオレの夢が、遥か遠い世界の御伽噺になってしまう。
最悪かもしれない滑り出しに、オレは焦りを感じ出していた。
「ん…………」
オレは自分のクラス"1年Dクラス"の指定された位置に行き着くが、そこにはさっきの女子生徒の姿があった。
まさか同じクラスとは。これ物凄く気まずいんじゃないか?
これで席まで隣だった暁には………オレの学園生活は地獄から始まることになる。それは最も避けなければならない事態だ。
「…………………げ」
女子生徒もまたオレの存在に気がついたのか、軽くこちらに目を向けて露骨に嫌そうな顔を浮かべた。
今「げ」って言ったよな。他の皆がどうかは知らないがオレは聞き逃さなかったぞ。これでも聴力は良い方なんだからな。それが全く良い方向に働かなかったのが今回なんだが。
女子生徒はオレに向けた視線を程なくして前へと向けた。オレの胃にストレスがのしかかるのも時間の問題なのかもしれない。
…………
…………………
………………………………
それから暫く経って、凡そ全生徒が集合したと言える程に体育館は賑やかになった。
「全員揃いましたか?」
最前列のそのまた前から、神経質そうな眼鏡をかけた男性教員の声が聞こえた。
「いえ………まだ1人が来ていません」
男性教員の質問に対して、茶髪のポニーテールの女性教員が答える。あと1人が来ていない。女性教員の立ち位置的に、彼女がオレたちのクラスを受け持つ担任である可能性は高い。
となると、オレたちのクラスに1人遅刻者がいるということになるか。
「…………………………」
オレは周囲を見渡す。あの白髪の赤木の姿を、気配を探す。しかし、やはりどこにもその姿は見当たらない。遅刻者は赤木ということになるのか。
まさか、な。
となれば、赤木はオレたちと同じクラスになる。
それが凶と出るか吉と出るか、それは分からない。だが……"平和な学校生活"は遠のいていく。そんな予感は確かに存在していた。
「………あ、来ました」
女性教員が僅かに目を見開いた。
「赤木しげるです」
やっぱり、赤木なのか。
赤木が、最後の1人だったのか。
振り返ると、確かに体育館の入り口から白髪の生徒が歩いてくるのが見えた。間違いなくバスの中で見た"赤木しげる"そのものだった。
「………………………」
赤木は何も言わず、スッとオレたちのクラスの最後尾に加わった。
すると、女子生徒も最後尾を振り返る。オレのことには目もくれず、最後尾にいる赤木を目にして驚愕の色を見せていた。
赤木と同じクラス。どこかチリチリとした熱が、頭の中に充満していく。
だが、何かを話すということをするでもなく、メインイベントである入学式が幕を開けようとしていた。
……………
……………………
……………………………
最初は理事長挨拶だった。この高度育成高等学校の理事長は坂柳理事長という人で、眼鏡をかけた50代ぐらいの男性。温厚な雰囲気を漂わせた、言うならば「優男」といった感じの人だ。
内容はそう仰々しいものではなかった。日本全国から集められた、数少ない高校生の1人に恥じない学生生活を心がけましょう。ここでの3年間を、一生の宝物として胸にしまって卒業して欲しい。そんな金言だった。
なのだが………
「眠そうだな」
皆、随分と気が抜けてるな。そこかしこから欠伸が聞こえてくるし、女子なんかは髪の毛をいじっていたり、手鏡でメイクをしていたり。人の話を聞く態度としてはあるまじきものばかりだ。ちなみにあの女子生徒は直立不動で微動だにしない。不真面目そうには見えなかったが、やはり怠惰は見られないな。
赤木の方は…………
「…………………………」
理事長の方を見ているようで見ていない。欠伸はしてないし、変な体勢でもないんだが、変わらない仏頂面のまま理事長の上20度ぐらいの所に目線を向けている。
彼もまた、理事長の金言には興味を示していないようだった。
「まぁそうだよな……」
そのまま時は流れていって、坂柳理事長の祝辞は終わった。
そしてその次には生徒会長から新入生への挨拶だった。
「堀北学くん」
「はい」
男の声だった。
堀北という男子生徒は、舞台上へと上っていき、マイクの前に立つとオレたち全員を一度横一文字に眺める。
新入生の様子を確認しているようだった。
だが、そんな何でもない一瞬で、オレは前にいた女子生徒の様子が少し変わるのを実感する。
「っ………」
女子生徒の顔が、どこか強張っているのだ。堀北先輩は特段強面という訳ではないのだが、怯えているような、そんな不自然さを女子生徒は醸し出していた。
あの2人、知り合いか何かか。
「生徒会長の堀北学です。本年度、新たに入学してきた皆さんに在校生を代表して歓迎の意を表したいと思います」
言っている内容も別におかしくないんだが。一体何がそんなに気になっているんだろうか。
「本校は文武両道。更に、高い進学率・就職率を誇ることは、皆さんご存知の通りでしょう。それは卒業生、在校生たちの不断の努力により達成されている………」
さっきまでと変わらない。クラスの皆の興味は生徒会長の祝辞には向けられていない。オレとしては、入学式という初の行事に興味を大いに抱いていたので、一言一句聞き逃さないように心掛けてはいるのだが。既に小学校・中学校と義務教育を終えている皆にとっては、こういう話は聞き飽きたものなのかもしれないな。
だが、そういった背景事情とは別に、オレは1つ気になっていることがあった。
4クラス。オレたちがDクラスなので、隣がC、その隣がB、更にそのまた隣の左端がAクラスなのだが、彼らの様子とオレたちの様子がどこか違って見えるのだ。
具体的には、左に行くにつれて生徒たちに落ち着きが見られる。オレたちのクラスは、はっきり言えばかなりだらしがない。ズボンのベルトが緩んで、ズボンが尻の部分にまで垂れ下がっているような印象を受ける。
だが、他のクラスはそれとは違う。引き締まったベルトという印象。Cクラスなんかはオレたちのような落ち着きの無さも見られるが、Bクラスから左はそうではなかった。しっかりと坂柳理事長や堀北生徒会長の話に耳を傾けている。フラフラと揺れ動くこともなく、「優等生」という真面目さが伝わってくる佇まいの生徒たち。
一体この違いは何なのだろうか。
偶然にしては、偏りが見られる。明らかにC・Dクラスの生徒たちに無い落ち着きがある。
何か仕掛けがあるのか。オレたちの誰も知らない、裏の法則性のようなものがあるのだろうか。
あるのだとしたら、それは─────
「……………フフッ」
そんな刹那、オレは背後から静かなる空気の震えを聞き取った。
「悪くない、ね」
それは赤木が発した声だった。赤木は坂柳理事長の時とは違い、堀北生徒会長に目を向けていた。
"悪くない"。
それは一体、何に対する感想なのか。
たった一言、赤木が何かを口にしただけなのだが、オレの関心は赤木に吸い寄せられていた。
既にオレは、赤木の虜になってしまっているのかもしれない。
入学式はそれから滞りなく進行していき、遂には終わった。
オレたちはその後、各自教室へと向かうように指示される。既に他の生徒たちは友人関係を構築し始めているのか、何人かの纏まりで動く集団も珍しくない。
勿論だが、オレにそんな友人はいない。
1人で教室へと向かうこととなった。
ちなみに赤木は、オレがその姿を探した時にはもう体育館にはいなかった。殆ど神速と言っても良い身動きの速さだな。
教室に着くと、オレは黒板に貼り出されていた座席表を確認する。
オレの座席は最後列。そして、教室の出入口となる扉から最も遠い位置となる左端の席だった。
だが、単に席の位置がどうとかを言う前に、オレは自分の名前の近くにあったもう1つの名前に視線が釘付けになっていた。
オレの右隣の席の1つ前。そこの席に座ることになるのは
あの赤木しげるだったのだ。
赤木とオレが、かなり近い位置の席に座る。これは非常に興味深い。平穏からはどんどん離れていく気がするが。
「あ」
「げ」
そして………
オレの右隣の席に座っていたのは、あの黒髪の辛口美人の女子生徒だった。
「あなたが隣だったの…………?」
「オレも驚いた。まさかお前が隣だったとはな、堀北」
オレの隣にあった名前は「堀北鈴音」。この女子生徒の名前は「堀北鈴音」だったのだ。奇しくもあの堀北生徒会長と同じ名前。益々2人の間に関係があるように思える。
「私はあまり良い気はしないわ、綾小路くん。あなたのような変態が隣にいては、私の身の危険があるもの」
「無いだろ。オレを何だと思ってる」
座席表でオレの名前を確認したようだから、自己紹介はいらないみたいだ。しかし、まだオレのことを性的な危険性を帯びた変態だと思い込んでいる堀北。その誤解はどのようにして解けば良いんだ。
「まぁあなたのことは良いとして………前の席に座っているのがあの赤木くんなんてね」
堀北は、今は誰も座っていない赤木の席を眺めながらそう言った。
「だな。まず同じクラスだったことに驚いたが」
「彼とはここに来るまでに会わなかった?」
「いや。入学式が終わった瞬間に消えたみたいだ。結局姿は見えなかった」
「…………………………」
「そんなに残念そうな顔をするな。どうせ待ってたら来るだろ。席も近いんだし」
「…………そう、ね。それまでにあなたの近くにいなければならないのは少し苦痛だけど」
「だからその言い方やめろ」
これから先が思いやられる隣人生活だった。
「皆!ちょっと良いかな?」
すると、オレたちから少し離れた場所からハツラツとした声が聞こえてきた。
目を向けると、そこには「爽やかなイケメン男子」とでも言うべき端正な顔立ちの男子生徒が。柔和な笑みを浮かべながら、オレたち全員に目を向けていた。
「これから皆で自己紹介をやって、1日でも早く友達になれたらと思うんだ。先生もまだ来ないみたいだし、どうかな?」
彼は白い歯を見せてニッコリと笑った。
ああいう人間がクラスの中心になっていくんだろう。オレとはまるで対照的だ。そんな滑稽な感想を思い浮かべていた。
にしても、自己紹介か。
オレはここに来るまでに何をしていたかなんて、口が裂けても言えない。ならば話を捏造するしかないんだが………
この堀北にブスブス刺されてしまったからな。正直、下手なことを言って変に思われるリスクが頭の中にちらついている。あの場所での学びが、早くも水の泡になる瀬戸際に来ていた。
「賛成〜!」
元気の良い声の女子が返事をした。
よく見ると、あの女子はオレと一緒にバスに乗っていたな。確か優先席付近で立っていた………同じクラスだったとは。
それに教室の真ん中付近には、優先席で優雅に足を組んで座っていた男子生徒まで。かなり良い背格好だったので記憶に残っている。
「良いんじゃない?」
他の女子もまたそれに同調した。他にも次々と賛同の意見が上がり、自己紹介をすることは既に確定した事実となったようだ。
「じゃあまずは僕から。平田洋介。気軽に『洋介』って呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般で、この学校ではサッカー部に入る予定だよ。皆、よろしく!」
よろしく〜。
そんな声があちこちから聞こえてきた。これは皆のまとめ役として活躍しそうだ。
オレとしても、そういう奴がいてくれた方が助かる。
「じゃあ次は私だね!」
そして、あのバスの女子生徒の番になった。
「櫛田桔梗と言います!ここにいる皆と仲良くなることが目標です!」
これまた元気いっぱいだな。女版平田、といったところか。こっちは女子のまとめ役になりそうだ。
「……………」
隣の堀北に目を向けると、どこかムスッとした顔を浮かべている。まぁこいつは、こういう話は好きじゃなさそうだからな。いずれオレたちの番も回ってくるだろうし、その時のことを考えて嫌な気持ちになってるのだろう。
それからも自己紹介はどんどん続いていった。オレが入学式の時に感じたクラスへの印象というのは強ち間違ってはいなく、ヤンキーやギャルとまでは言わないまでもノリの軽い生徒が多い。
オレは果たして馴染めるのだろうか。朱に交われば赤くなる、ならば真っ白なオレもまた、暫く経てばあんな風に……?
そんな自己紹介の最中、突然大きな物音が聞こえた。
目を向けた先には、身長180cmは超えるだろう体格のいい赤毛の男子生徒が。彼は机を思い切り叩きながら立ち上がった。
彼は………座席表の情報によると、"須藤健"。
「下らねぇ。自己紹介なんてやってられるかよ!」
大きな声で吐き捨てるようにそう言い、須藤は教室の扉へと向かって行った。その彼の振る舞いに、早くも多くの生徒が顔をしかめている。
あれはノリが軽い、なんてものじゃないな。本物の不良生徒の可能性がある。少なくともクラスの皆と仲良くなるなんてガラじゃない。
「………………」
気付けば堀北も立ち上がっていた。須藤の流れに乗って、自己紹介を避けるつもりのようだ。
「お前も行くのか」
「こんな馬鹿馬鹿しいことをしたくて入学した訳じゃないもの」
手厳しいな。だが止める術も無さそうだ。
須藤は扉に手をかけ、勢いよく開いた。そのまま教室から出ていこうとしたその時。
「……………っ!?」
須藤が突然止まった。
何かを見て、身体がビタっと止まったのだ。
その大柄な体格で隠れて、何を見たのかは視覚的にはこちらからは分からない。だが、オレは須藤のその先にいる存在が何なのか、瞬間的に気付いた。
「な、何だよお前…………」
「……………………………」
「…………………チッ!どけ!」
須藤は目の前にいた誰かを強引にどかし、教室から出て行った。
「あれは………」
同じく教室を去ろうとしていた堀北だったが、彼女もまた動きを止めている。
オレたちの視線の先にいたのは……………
「赤木、くん………」
赤木しげるだった。
須藤と入れ替わるように教室に入った赤木。必然的に、クラスメイトたちの注目の的になっていた。
赤木は黒板の前まで足を運ぶと、座席表を確認する。そして、そのままオレたちの方へと向かってきた。
「………あらら、あの時の」
そして、赤木はそこで意外にも少し砕けた表情を見せた。堀北を見てからのことだった。
「同じクラスだったなんてね」
「………それは私の台詞よ、赤木くん。あなたと同じクラス、しかもあなたの後ろの席になるなんて」
「まぁ、よろしく」
赤木は短く堀北と言葉を交わす。
そして…………
「……………………」
オレの方を見た。
今度はあの砕けた顔は消え失せていて、仏頂面のままオレのことを凝視している。
「………………えっと」
そのままだと気まずさが凄まじいので、オレは何とか言葉を捻り出した。
「オレとは初対面、だよな。赤木」
「…………ああ」
「オレは綾小路清隆。よろしく」
「……………よろしく」
その時、確かにオレと赤木の視線は交わった。
間近で見る赤木しげる。その瞳の奥が垣間見える。
そこにあったのは、オレと同じ───────
「次、ええっと………」
気付かない内に自己紹介は進行していたようだった。
既に赤木の前の席の生徒までは自己紹介を終えており、今度は赤木の番。
あの赤木が、果たして素直に従うのか。それが疑問だったが………
赤木は何の問題も無いと言うばかりに席を立ち上がった。
「赤木」
「赤木しげる。皆よろしく」
赤木は低く乾いた声で皆に告げた。
どうしてだろうか。
赤木の口もとが、不敵に歪んで見えたのは。
赤木しげるは今、何を考えているのか。
その疑問の答えは、実は身近にあったのだと後にオレは知った。