月に魅せられた魔族   作:万年赤字一般傭兵

1 / 4


ルドウイークの言葉の意味を考えてたら、何故かこうなっていた。使い古された魔族転生系ですけど許して




導きの月光(前)

 

 

 

 初日

 

 ここに来る直前、月が綺麗だった。何故かは分からないが、何となしに見たそれはとても…美しくて、下から迫る風に全身の痛みすら忘れて見入ってしまった

 

 新月を見たと思ったら、この世界へ異なる姿で生まれ変わっていた。しかし、私が私である為に今から日記を記そう。

名前は思い出せないが"田中 太郎"、そう言うことにしておく。この名前こそが私が人として死に、しかし今なお人である証明となる。

 

 

私は人間だ、例え鎧にツノが生えた人型になろうとも確かに人間なのだ

 

 

 

 この世界は、かつて私がいた世界とは違う。電車も車もビルも街灯も見当たらないが、それは問題では無い。問題は、ツノをつけた鎧達なのだ…今日1日を振り返るとそう思う

 

 

 

 

 気づいた時は深い森の中だったが、驚きを口にしようとも声は出なかった。

とにかく誰かいないかと人を求めて彷徨い続け…やがて村らしきところに着いたのだ。その途端、無性に孤独感が湧いてきた。村に入り、近くの人に話せない事も忘れて声を掛けようとしたら

 

 

 悲鳴をあげて、逃げられた。

 その時は自分が原因とも知らず、私も近くの家に逃げ込んだ。訳の分からない状況で混乱していたのだろう

 

 そして入った先の家で…自分の姿を知った。

何気なしに桶に溜まっていた水面を見ると、鎧がある。

兜には呼吸と視野の確保の為か狭く小さな穴が幾つか開いており、少し前に突き出たデザイン。首元の赤いマフラー、胴体の青いサーコート…

 

 映画で見る様な、プレートアーマー。

 違う点は、兜に立派なツノがあること。

 そして、私と同じ動きをしていたこと

 

 その時はとても驚いた。人間で無い姿である事もそうだが、全くもって視界の狭さだとか鎧の重さを感じなかったのだから

 

 そうして、困惑していると

 

 横から何かで殴られた

 

 これは、少し痛かった。けれど驚きの方が勝った

 

『死ね!!!魔族!!』

 

 頭にこびりついて離れないその言葉と…殺意。パニックになって、私は家も村も飛び出して森に逃げ帰り何もかも訳が分からず、ただただ己の不幸を嘆いた。

 

 

 そして、理解した。

 これは罰なのだと。辛く苦しい場所から逃げようとした罰なのだと

 そう考えれば、少しは気が楽になった…この後、更に追い詰められるとも知らずに

 

 

 変わらず森を彷徨うと、またもや鎧を見つけた。私とは違った、遥かに重そうな鎧。そして私は立ち止まっているのに、こちらへと近づいていたのだ。

その鎧は私を一瞥すると先程の村へと向かっていった

 

 正直に言うと、この時は嬉しさがあった。先の殺意からの差で襲って来なかったそいつへ、好意を持ってしまったのだ。そして、私は愚かにも…そいつに着いていってしまった

 

 

光、炎、怒号、悲鳴、絶叫、子ども、大人、血血血血血血………

 

『何でこんなに向かってきたんだ…?多いのはいいが、俺1人じゃ食べきれないなぁ…アンタも食べるか?』

 

 赤い鎧、差し出された手と腕と頭と足と……

 もう書きたく無い。ただ今日分かったのは、私は人でなしの化け物になってしまった事

 

 そんなのは嫌だ。そう思って、家を覆う炎を背後に村で拾った本と炭でこれを書き始めた

 

 

 

 

 2〜5日目

 

 少し落ち着いたから、纏めて書く事にする。

 これは決意だ、目を背ける事は己が化け物になったと認める事、これを書き続ければ人間だ

 

 あの後、アイツ…ハベルと言うらしい…と行動を共にする事になった。何でも私には"魔力"なるものが大量にあるらしく、味方にしたいのだと言われた。

 正直言って姿を見るのも嫌だったが、私に唯一親切にしてくれた存在でもあったのだ。

 

 気づけば、首を縦に振っていた

 

 

 それから彼に簡単な魔法を教えてもらえた

 

 シルバーハンド(衝撃を与える魔法)

 

 簡単に習得できて片手で放てる。効果としては、相手の動きを止められる様な衝撃を与えて気絶させられたり…そのまま殺す事も出来るらしい

 

 習ったのは、あくまでも護身のためだ

 

 

 

 5〜10日目

 

 食べてしまった。

 手を、腕を、目を、脳を……

 時には、共に殺した。

 道を歩く旅人を、村人を、街の人を……

 

 それは忌避すべきだった。しかしとても美味しくて、今まで食べた事がない様な味で……

 

 

 

 殺してしまった人達の罵声や荷物の本から、私達が魔族という化け物だと分かった

 

 人を真似て誘い、殺して食べる人に似た人類の敵。

 魔法なる超常を使うツノ付きの化け物。

 

 人ならば、魔族を殺すべきだ

 

 

 だから、今日逃げ出す。

 ハベルから学んだ魔法を使って彼を殺して…ケリをつけたら、奪ってしまったフードを被ってツノを隠し、人に紛れて暮らそう

 

 

 20日目

 

 何とか村に住みこめて、今の所は上手くやっている。話せない事もあり、少し怪しまれたが…恐らくは魔族を知るものがいなかったのだろう。魔法を使って利益になる事を示すと、一応は歓迎してもらえた

 

 

 

 

 120日目

 

 農作業を手伝ったり、家畜の世話をしたり、魔法を使って解決不可能な事をどうにかしたり…とにかく認めてもらう為に頑張った

 

 この村の人たちは優しい。

 赤子を抱かせてもらった事もあったし、お祭りに参加すれば喜んで迎えてもらった

 

 村人の評判こそ、私が人である事の証明となる。

 過去の罵倒も、 罪も無くなっていく様に思えた

 

 

 

 150日目

 

 別の村との間で激しい争いが起きた

 彼らは私に助けを求めて来て……

 

 魔法で、殺した

 

 

 人であれ人は殺す。

 それに、誰かの為だ。

 

 私は、人でなしなどではない

 

 

 

 ◯月×日

 

 この村も随分発展した、色んな人が来る様になった今では街と言った方が良いだろう。

 

 

私はというと、正確な読み書きも学べて、予備の日記帳も手に入れられて、暦も知れて…今やタナカ=タローという人間として一切の疑惑も無く認められている。立派な人間であると思えて何処か誇らしい

 

 昨日は兵士たちと酒を飲んだが、魔法というものは大層便利で二日酔いすら消せるものすら作れたのだ。使ったら、次の日に響かないと喜んでもらえた

 

 

 

 

 △月◯日

 

 

 

 ある女性が急にやって来た

 

 エルフという耳が長い人間の様な種族。

 魔法を使える長寿な存在らしい

 

 

 そんな彼女は、私が魔族だと看破した。

 しかし、私は人として生きる事を決めたのだ。喋れないなりに必死に弁解しようとして

 

 

 返ってきたのは私のものを超えていた凄まじい魔法

 

 

 その後はただ逃げに逃げて……

ただ、月明かりだけが照らす中コレを書いているから死んではいないのだろう

 

 

 偽物だと罵る声、魔族だと知るや武器を持って切り掛かって来た兵士たち、かつて私が腕に抱いた子供を隠した母親……今までの付き合いは、感謝は何だったのだろう。私は、人でなしなのか、親や殺して来た彼らが言っていたように。だとすれば生き延びたとて、どうすればいい

 

 

 

愚かにも苦しむ魔族を見ていたのは、ただ一つ。

月だけだった





ここまで読んで頂きありがとうございます

昔の魔族が鎧と聞いて、上級騎士しか思いつきませんでした
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。