月に魅せられた魔族   作:万年赤字一般傭兵

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ダークソウルの月光といえば




導きの月光(後)

 

 ¥月%日

 

 受け取ってから机に置きっぱなしで、触れられなかった結晶の左手と魔導書。それを使えば、彼との別れを分かってしまう気がしたから

 

 だが書き終わった日記帳を見て、使う覚悟を決めた。…今日、魔導書を読んで左手を取り付けたのだ

 

 魔導書を見れば…かつて解析した呪いの構造に、結晶を操る魔法、ソウルを通して心を分析する魔法。今まで共に研究してきた事が全て詰め込まれていた

 

 

 思い通りに動くが構造は恐ろしい程に複雑。

ローガンが独自に発展させた為に、理解が難解なソウル系統の魔法を用いた…意思・魔力伝導部。

共に研究してきた結晶を緻密に組み立ててできている、結晶魔法への造詣が深くなければ決して扱えないであろう…可動部。

そして、魔族にだけ使える呪いの…高次的な起動手段

 

 

 扱えるとしたら、彼と研究を共にして独自の魔法も何もかも理解し尽くした私しかいない。

特別な言葉が無くとも、私のためだけに作ってくれた事は明確だった

 

 懐かしさを覚えさせる美しい光を放っていたそれは、露に濡れると一層強い輝きを発していて…

遺書は無いのに、彼も私も互いに一番の親友だと最期まで思い続けた事。そして、最早彼がいない事を静かにつたえてきた

 

 

 

 

 ○月×日

 

 ローガンがいない小屋は、とても広い。

 彼がいない食卓は、とても静かだ。

 研究室にはペンの音と本を捲る音が足りない

 

 彼が死んだ事を察知してか、魔族が大量に来たが…

 ここは彼との唯一の縁を残す場所。

 全員、結晶で覆って石に変えてやった

 

 

※月◇日

 

 この日、私は彼と暮らしていた小屋を出る。故にこれは、ここで書く最後の日記となるのだ

 

 今日は図書室の本を読み漁った。

自分の背丈を容易に越える高さの本棚に覆われた一室。私と彼で書いてきた魔導書に限らず、様々な本を詰め込んでいる。

ローガンの軌跡を、残していったものをかき集めるように読んだ

 

 

 そんな中、彼が幼い頃に書いたと思われるノートを見つけた。普段なら見ないで仕舞っていただろうが…この時は、とにかく彼を感じたくて開いたのだ

 

 

 

 そして、彼の夢を知った。

 誰にも認められる偉大な魔法使いに、賢者になる事

 

 

 凍りついた心に火がついた様だった。気づけば、収納魔法に今までの研究成果と魔導書を詰め込み…

彼の名前を世に知らしめる事、偉大なる魔法使いとしてその名を歴史に残す事が私にできる最大の弔いだと思い立ち、準備を始めた

 

 

 これから人の姿になる魔法(ヒューマニティ)を使って人間に化け、小屋と洞窟に強力な結界をかける。

そして旅立つ、様々な街や国を巡りローガンの魔法を広めて彼の名を残そう

 

 

 

 ○月◇日

 

 旅立ちから1日目

 ローガンの研究を見返す中、ある問題点に気付いた

 

 タナカ=タロー

 

 私の名前、これが魔導書の中にも共同研究者として載ってしまっている。読むだけでは魔族の名前だと分からないだろうが…万が一この旅で私が魔族だとバレれば、芋蔓式に分かってしまうだろう

 

 そうなれば、彼は魔族に与した裏切り者の魔法使いとして汚名を被せられてしまう

 

 だから、今日から私は…

 タナカ=タローの名をここに捨てる

 

 

 これからは、こう名乗ろう

 

 

シース

 

 

 

 彼が大好きな物語に出てくる、鱗のない白竜の名前

 

 

 数十年の時であれど彼が私の事を人だと認めてくれた。だから、十分だ。人である事を示すタナカ=タローはもういらない

 

 それに…私は自分を人間だと信じすぎた愚かさで、彼と満足な別れを為せなかった。故にこの名は、私が化け物の魔族である事を忘れさせない警句にもなろう

 

 

 

 

 

 ◯月・日

 

 旅立ちから3日目

 

 一つ目の街に辿り着いた。しかし…魔族としての正体がバレないか、緊張しすぎたせいで街の名前は覚えていない

 

 何の問題もなく人間として街に滞在できた。

 しかし、人で一杯の街の中で孤独感を感じてしまう

 

 

 

 

 ○月<日

 

 旅立ちから18日目

 

 初めてローガンの魔法を他者に伝えられた。街にいた魔法使いへ魔導書の写しを渡すと、素晴らしいものとして広める事を約束してくれたのだ。

彼の名前はグリッグス。好青年でお茶まで誘われたが…一刻も早く街を出たくて断ってしまった。

 

 

 自分が魔族だという事を隠して誰かと関わる事が、こんなにも苦しいことだなんて思いもしなかった

 

 

 

 

 

 

 ☆月×日

 

 旅立ちから31日目

 変なエルフの女の子…?に出会い、逃げた

 

 名前は ゼーリエ。かつての様に彼女も私の正体を暴き、戦いが始まった。

彼女の魔法使いとしての腕はローガンすら超えそうな程凄まじく、とてつもない戦闘になったが……最終的には結晶で追い込んだ後石化させて決着

 

 戦いにはなったが、殺す気にはならず解呪石を投げつけて呪いが解け切る前に逃げ切った

 

 

 

 

 ☆月◻︎日

 

 あのエルフ…ゼーリエにまた絡まれた。

石化の呪いは徹底して避けられた為、結晶による質量攻撃の後凄まじい光を起こしてから衝撃を与える魔法(シルバーハンド)で気絶させて決着

 

 

 何でも魔力を探知して追ってきたらしいので、辺りに魔力を含む結晶をばら撒き、今度こそ逃げ切った

 

 

 

 

 

 ☆月◇日

 

 逃げ切れなかったらしい…

 だが、今度は戦いにならなかった。

 

 何で殺さないのかと、聞かれた時の返答が良かったのか悪かったのか。

彼女の目的は分からないが、私と道が同じだという理由で共に旅をする事になった

 

 

 何で?

 

 

 

 

 ○月×日

 

 ゼーリエとの旅は…色んな意味で刺激的だ。

 魔族に襲われるのはいつもの事だ。しかし、それに加えて毎日、魔法の研究だとか手合わせだとか…何かと理由をつけて模擬戦をする事になる。

ローガンともやっていた事ではあったが、ここまでの頻度では無かった

 

 それだけでは無い。彼女は身の回りの事が疎かで…大分世話をする事になってしまい、休息する時間は明らかに減っていた

 

 

 しかし、孤独感は無くなっていた

 

 

 


 

 

 

 

 △月×日

 

 旅の中、私とゼーリエは互いに魔法を教え合う何とも奇妙な関係にある。

 

私は、彼女の魔法好き故にローガンと作った魔法や、独自の解釈・想像を教え…

彼女は、私よりも戦闘に造詣が深い故に魔力探知や魔力制限といった戦法と実戦で使える魔法を教えるのだ

 

互いの情報の共有により、ただでさえ凄まじかった日々の模擬戦がとんでも無い事になって来た事は喜べないが…何処か懐かしいやり取りは大分楽しめた

 

 

 しかし、教えたにも関わらず…彼女が使おうとしない私の魔法がある。ソウルや結晶、呪いなんかには積極的なのに……

 

身の回りの事をする魔法だけは!!一向に使おうとしない!

 

『お前がやってくれるから良いだろう、それよりも結晶の魔法を……』

 

 

こんな事を言われた日には、石化していない頭に解呪石を投げつけたくなった

 

 

 

 

追記、さっき投げた。

余裕の表情で弾かれ、余計にイライラしたが

 

 


 

 

 

 △月×日

 

 時に魔族と戦い、時に封魔鉱の洞窟でひどく迷い、時に強大なドラゴンを倒し、時に美しい月を共に見て……何十年、いや何百年もの旅だった気がする。

アクシデントはあったが、何とか魔導書とローガンの名を各地に広めて歴史に残る様にした…残る場所は後二つだ

 

 結局、ゼーリエが身の回りのことをする魔法を使う事は無かったが…私達の魔法を殆ど理解してくれた。

後は、魔導書に研究ノートがあればどうにでもなる

 

 これで、安心できる

 

 

 

 

 ○月◇日

 

 とってもグータラなエルフ、ゼーリエ

 これは日記では無く、お前に宛てた手紙だ

 

 まずは感謝を。確かにお前に悩まされた事は沢山あったし、時には喧嘩もした…だけどな、騒がしくも寂しく無い旅の日々は決して悪く無いものだった。

決して、私一人では出来なかった旅だった。

 ありがとう

 

 

 そして、お前が魔族である私を友人と思っているかは分からないが、私はこの旅の中でお前を大切な友人だと思った

 

 故に、魔法が大好きな友人のお前に向けて贈り物と頼みがある。

まずは贈り物…親友と作った魔導書に研究データ、全て置いていこう。呪いについての解析もソウルの解釈も全て入っている、幾らでも読み学んでくれ

 

 だが、その代わりに…これから彼の魔法と名前を広めていって欲しい

 

 

 私の旅の目的、親友であるローガンの魔法を世に広めて彼を偉大なる魔法使いにする事。

今の所、行ける範囲は全て回って目的は達成したが…世の中は常に移り変わる。いつかは、彼の名も忘れられてしまうだろう

 

私が永遠に名を広め続けるつもりだった。

でも一方で怖かった、魔族である私が彼の名を汚してしまうかもしれなくて、怖くて怖くて堪らなかった

 

 

 

だが…ゼーリエのお陰で安心できた。私達の難解な魔法を理解するお前が友人になったから、全てを任せられると思ったから。

 どうか、臆病な私の願いをお前に叶えて欲しい

 

 

 友として、頼む

 

 

 

 ゼーリエ、私はお前が大事だ。だから、私は姿を消す。今は良い…しかしこの先、彼とお前にとって魔族である私と関わった事実は不都合になるだろうから

 

 

 

 さようなら

お前の、これからの生が魔法と楽しみに溢れたものである事を祈る

 

 

 

 

 


 

 

「何も言わず勝手に、勝手に…!」

 

「ふざけるな、ふざけるなよ…シース…!!」

 

 

 

 





ここまで読んで頂きありがとうございます

シース、鱗の無い裏切り者の竜とか設定も見た目もカッコ良すぎて好き

もうちょっとだけ続きます
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