月に魅せられた魔族   作:万年赤字一般傭兵

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"月光のシース"

 

 

 

 結界を張って安眠できる魔法(ピース オブ シン)をかけた。万一にも、朝までゼーリエが起きる事はないだろう。旅の終わり、ここでお別れだ

 

「さようなら。日記帳、破らないでくれよ」

 

 

 満月の日

 

「やはり、ここは……」

 

 天脈竜の背の上。

この世で最も高く、月に近い場所。

吹き荒ぶ風に雲一つ無い中私を照らす美しき月光は、懐かしき最期の記憶を私に想起させる

 

かつてローガンと来た時、何て素晴らしい場所なのだろうと思った

 

 

 孤独感はあるが、その感想は今でも変わらない。

遥か彼方まで見えるここは結晶と結界で覆った森も、ゼーリエと旅をした場所も…何もかも見渡せる。まるで、走馬灯を見ているかのようだった

 

 月に見入り、この世界に来た。決して苦しみは終わらなかったが…

 

ローガンに出会えた、初めて人間なのだと認められた、素晴らしい時を過ごした、生きる意味を知った。

ゼーリエに出会えた、仮初の生きる意味であっても残りの生を喜べた。

 

 

 そして…彼女のお陰で、一切の心配は無い

 

 彼の弔いは彼女が完璧に成し遂げてくれるだろう。最早、私がなすべき使命も生きる意味もない。つまり…私はただの邪魔者、殺されるべき魔族でしか無い

 

 

 

 一歩、一歩、踏み出すたびに風は強くなり目に月光が焼き付いていく。かつてのように、恐怖は無かった

 

 

 後、一歩。風が背中を押す

 

 きっと、ローガンと同じ場所にはいけない。人でなしの魔族は地獄に堕ちるべきなのだから。

だが心配は不要、前世も今世も同じ月が私を見ていた

 

 地獄に行こうと月は変わらず見守ってくれるだろう

 

 

 

 後、零歩

 

 遠ざかっていく月が恋しく思えた。耳を通り抜ける風の音も気にせず、終わりが来るまで それ を見続けようと目を開き続ける

 

 

 世界一高い場所だからだろう…何時間も見られた。

優しい月光が瞳を埋め尽くし、もはや私の目には暗い夜空も輝く星も見えない

 

 やがて、最期の痛みが

 

 

 

 

 来ない

 

 

 飛行魔法の発動。

 私の体が左手に引っ張られて月へ近づいていく。

 

 

 

 気づいた、左手の結晶が月光に負けない程に美しい光を発している事を。

 思わず見惚れた、その美しさに

 

 やがて天脈竜すら通り越して、止まり…

 

 

 [解除条件をクリア]

 

[貴方の大親友、"ビッグハット"ローガンからのメッセージを再生します]

 

 

 

 左手の二つ目の魔法が、発動した

 

『君がこれを聞いていると言う事は、そう言う事なのだろう。…死のうとしたんだな』

 

 聞こえてくるは、懐かしき彼の声。先よりも強くなった月光すら忘れて聞き入ってしまう

 

 

『魔法が発動した理由も、何でわかるかも…気になるに決まっているな。

理由は単純、記録した音を発する魔法と飛行魔法は、ある条件下でしか発動しないようになっているからだ。普通に使う分なら気づかないだろう』

 

『君の"前"の記憶。殆ど見られなかったが、最期の瞬間だけはハッキリと心に残っていた。月を見ながら落ちていく、その瞬間が私には見えたのだ』

 

『万一、死ぬとしたら同じ様に死んでしまうと、月に魅入られすぎて死んでしまうと思った』

 

『だから、限定的な条件を付けさせてもらった。

"大量の月光を浴びながら落ちていく時に、込められた魔法を発動させる"…こんな条件を』

 

 彼とは、心も何もかも理解しあった仲だった。

けれどここまで私の事を分かっている事を知って…

 

 月が、歪んできた

 

 

『君が死のうとする理由は分かる、私が先に死んでしまったからだろう。…私も君が先に死ぬとしたら、そう思うだろうから』

 

 

『だが、一人の友人として君には幸せに生きて欲しい…遺言など君のこれからの生き方を縛るかもしれないから本当は言いたくないが、死んでしまうなら話は別』

 

 

『ここからは遺言だ……昔、私は誰かから認められたかった、だから賢者になる事を夢見ていた』

 

『しかし、君と魔法を通じて分かりあった時にその夢は叶った。

魔法に精通した魔族と、素晴らしい研究が出来たのは勿論だが…それ以上に君が私の存在を認め、大の親友になってくれたからな』

 

『だから…君には魔法を通じて、また誰かと友達になって欲しい、腹を割って話せる存在を見つけて欲しい。きっと今、幸せで無いのは…孤独のせいだから』

 

『君の心は人間で体は魔族、何とでも友になれる。

どうか、この先の生を誰かと共に過ごして欲しい』

 

『そして、覚えてくれ。私達の繋がりは決して消えてなどいない。…君の心に映る月は全て同じだった、だから死して別れようとも私達は同じ月を見るだろう』

 

『この先ずっと、共に同じ月を見ている事を忘れないで欲しい』

 

『ここまでだ。君の、これからの生が魔法と友に満ちたものである事を祈ろう』

 

 

 涙が、泣き声が、震えが止まらなかった。彼の想いを受け止め、己の愚かさを思い知った

 

 

 そして、啓蒙された

 

「ああずっと、ずっとそばに居てくれたのか……」

 

「我が師…導きの月光よ…」

 

 

 月が、常に共にあった事を。

 私を優しく導いていた事を

 

 月に見入って足を踏み出したあの時から、私はずっと導かれてきた。導かれて、出会えたのだ…ローガンに、素晴らしき親友に。

そして別れたと思っていた今でさえ、見えていなかった繋がりの気づきに導いた

 

 

 今まで分かっているようで、分かっていなかった。

 月とは、私の導きの師であったのだ。

いかなる場所であろうと、その美しき光で静かに教えを授け、暗き夜にも確かな導きを示す、最良の師

 

 それこそが、私にとっての月である

 

 

 天脈竜すら超えた場所で見た月光は、何故か一番美しいものだった。彼からのメッセージを伝え終え、左手の魔法が途切れたが…しばらくは地上に降りたくなかった

 

 

 

 

 

「今なら、できる…」

 

 

 左手は月光を吸い込んで月と遜色ない程に美しく光輝き、私にインスピレーションを与え始める。

閃き、鮮烈な啓蒙、そして彼への想い…全てが合わさった今、過去最大の魔法が完成した

 

「遺言、確かに受け取った。もう死ぬ気はない、その証にこの魔法を送ろう」

 

 魔力が、ゆっくりと左手に注ぎ込まれていく。魔力は月光と混ざり、鮮やかな碧色に輝き始め

 

 

月光を放つ魔法(ムーンライト)

 

 

左手から放たれた、何ものの邪魔を許さない月光は深淵の如き夜空であっても呑み込むことはできず…

 

 刹那、夜が明けた

 

 世界の全てを照らす光

 あらゆるものに閃きを齎す、美しき光

 

 きっと、遠い場所にいる彼の元へ届いただろう。

 これで、安心してくれる

 

 

 


 

 

 とある魔族の研究ノート

 

 女神が君臨した神話の時代にある、一つの伝説

 

 夜が消えた日

 

 残された書物によれば、全世界の闇が美しき光によって祓われたのだと言う

 

 この伝説は初め、女神によるものだと考えられていたが…グリッグスと呼ばれる魔法使いの書物を初めとした多くの文献によって否定された

 

 月に魅せられたが故に練り上げた美しき魔法で、多くの人々を魅了し啓蒙を与えた存在。特別な二つ名を持つ魔族

 

 

 "月光のシース"

 

 こう呼ばれる"魔族"が、伝説を作り上げたと言われている

 

 衝撃的な発見であったため…人間の間で、この魔族について更なる調査が行われた。

結果、その名が伝説以外の様々な書物でも見つかり…彼が放つ魔法は多くの魔法使いに閃きを与え、相当数の魔法の開発に関わったのだと考えられている

 

 それだけではない。

名を偽って魔法使いに関わる事があった、と推測される文献まで存在する程に人間との関わりが深い魔族。

確かな証拠は無いが、魔法の類似性から大魔法使いローガンは彼を唯一無二の友とし、名を偽りながらも多くの魔法を共に開発したという主張さえある

 

 

 このことは人と魔族の共存に……………

 

 

 





ここまで読んで頂きありがとうございます

これでお終いにしようかと思いましたが、想定よりも好評で驚きました。需要があるなら続き書きます

書くにしても、私自身フリーレンにわかなので原作とかアニメ見てからになりますが

続き需要あります?

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