憎悪と狂気の断面図   作:blandish1643

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ロクスタ砂漠にて

一般に"砂漠"という言葉から連想する、果てしなく広がる風紋の刻まれた砂地と砂丘という情景と異なり、それは岩石に覆われた荒涼たる景色であった。それは同時にそれが形成されてから間もない――もちろん、それは地質学的スケールでの話である――まだ若い土地である事を示している。

 

その中に、砂煙を上げながら歩む直立二足歩行のシルエットが6体。

 

それは大まかには"ヒト型"と呼んで差し支えないであろう、ある者はそれを板金鎧に、或いはアニメや映画でヒーローが乗り込む"Mechs(ロボット)"に例えるが、しかし同時にそれは明らかに"ヒト"そのものからは大きくかけ離れたものだった。その質量を支えるのに必要であろう脚部は象の如き太さであり、その巨体から容易に想像できる重量を以て地面を踏みしめるのに必要な複雑な形状の爪を備えている。平面と曲面を組み合わせた精巧極まりない機械の巨人。

 

一般的に"ヴァンツァー(WAP)"という呼称で広く知られている巨人の肩には、7つの青い星と、それらより幾分小さな3つの赤い星、そしてそれらと同じ色彩の帯が引かれた国旗が描かれており、それらがどの国家に所属するのかを示していた。六角形をモチーフに濃淡が区別されたタン色の迷彩に青いストライプが施されており、標準的なUSNの砂漠迷彩とは異なる塗装。

 

 

 

「アンバー3-1よりアンバー3-6、インディア・コンタクト、複数、HDG315、800m」

 

 

 

"アンバー3-6"と名乗る『フロスト』型WAPは、歩みを続けながらも左腕に装着された巨大な筒状の物体を誇示するかのように掲げ、そう告げた。IRセンサーによる敵味方不明対象の検出、隊列の進行方位に対して315度の方向、そして距離。

 

 

 

≪アンバー3-6よりアンバー全機、TAC FREQに変更。アンバー3-1は10機分前進して目視確認VID、他は停止して全周警戒≫

 

 

 

隊長機こと"アンバー3-6"はこの状況を予期していたの如き間隔で彼に告げる。

 

 

 

≪各機、無線チェック≫

 

 

 

「1、チェック」

 

 

 

≪レナ、訓練通りだぞ≫

 

 

 

僚機が続いて、コールサインの順に無線確認の応答を返していくのを聞きながら、"レナ"と呼び掛けられたアンバー3-2の駆る『フロスト』は、それまでの二足での歩みを止め、両足を踏みしめるかのようにその姿勢を変化させる。それも一瞬のこと、脚部に備えられたディスク状の滑走装置が展開され、『フロスト』をそれまでの"地を踏みしめる巨人"から不安定極まりない直立した車両の如き挙動に変化させる。フィルターを通じた独特の吸気音と、それとは比べ物にならないほど喧しいタービン機関が稼働し、それまで足音と内部筋肉が軋む独特な駆動音のみを響かせていたフロストが、異形とは言えそれもまた戦闘装甲車両AFVの一種である事を思い起こさせる甲高い動力の音源と化した。

 

10ユニット分、即ち概ねたった100mの距離を移動するのに、その滑走装置を使用するのも訓練通り。距離はリソースの一要素であり、詰まる所は時間と空間の制約下で戦う者にとっての宿命である。よって、それを得る為の代償は支払われるべきである。少なくとも、USNのWAP操縦士たちは皆、そう訓練されている。

 

彼女もその一人であった。

 

彼女の鼻先から50㎝ほどに広がる主表示装置のうち、IRセンサーの情報を表示するウインドウには、彼女が先ほど捉えたコンタクトが今も映し出されている。ヘルメットのバイザーに内蔵された表示装置が、可視光帯域を扱う合成開口型の電子光学センサーから得られた鮮明な画像にそれを重ね合わせ、その熱源が稜線の向こう側にある事を示している。

 

 

 

「オール・ステーション、ターゲットは稜線の先、アンバー3-1より500m、正面。ターゲットに動きなし」

 

 

 

≪3-1、LOSに捕捉してターゲットを目視確認(VID)、WEAPONS HOLDだ。アンバー全機は3カウントで密集前進スクリメージ、稜線の手前100mで待機。1、2、3≫

 

 

 

「1、コピー」

 

 

 

WAPが一般的な戦闘装甲車両(AFV)に比較して大きな欠点を露にするのは、紛れも無くその前面投影面積である。彼女は『フロスト』の右脚を作動限界いっぱいまで伸ばし、左脚を曲げてちょうど片膝屈伸の姿勢を取り、その状態から滑走装置を最低速度で駆動させる。脚部に備わったセンサーが摩擦係数と動力負荷の変化を検出し、それを姿勢制御システムが地形に沿った最適の姿勢を維持できるよう各部のアクチュエーターに指示を出す。姿勢制御システムは同時に火器管制システムと連携しており、同時に右腕に装着された60㎜の低圧砲は、彼女が指示した通りにターゲットの予測位置を指向し続けている。

 

バイタル検出機能と連動したキャビン環境制御システムによって適切な温度に保たれている中でも、彼女の額には汗が滲む。

 

相手が稜線のすぐ上に狙いを定めているとすれば、姿をさらけ出した途端に脅威――特にWAPにとって致命的な対戦車ミサイル(ATGM)対戦車ミサイルや無反動砲の類――が飛んできてもおかしくは無い。WAPにはそれらの脅威から身を護るための煙幕弾投射機やアクティブ防護シスAPSテムが、脅威検出システムと共に備わってはいたものの、人類は未だかつて飛来する弾丸を完全に受け止める技術を手にした事は無い。

 

極度の緊張に囚われながらも、彼女は間違いを犯さないよう自分を落ち着ける事に集中する必要があった。稜線までは300mも無い。流れ落ちる汗の感覚、自分の呼吸音と鼓動、そしてそれらを煩わしく思う感覚さえも置き去りにして、彼女は自身がWAPと一体である事に注力する。

 

 

 

――これはただの「厚着」だ。

 

窮屈さに目を瞑りさえすれば、重機関銃の弾丸や至近距離で炸裂した砲弾片の嵐の中を生き抜き、多種多様なセンサーによって拡張され、かつパイロット自身がその情報を処理できるように制御された五感によって、WAPを駆る者は生身とはかけ離れた状況認識能力を得る事ができる。

 

詰まる所、それは身体への侵襲を一切伴わないだけでサイボーグの類と何ら変わらない。

 

視力の衰えを感じた者が眼鏡を着用するように、戦場で生き残りたいと考えた者が「厚着」をする。

 

その結果が『フロスト』であり、搭乗員である。

 

故に、レナは身軽な軽歩兵の如く、五感全てに神経を張り巡らせながら、その"脅威不明存在アンノウン"へのアプローチを続ける。滑走装置はすぐにその役割を終えて格納され、再び『フロスト』は鋼鉄製の巨人としての有様を取り戻した。彼女は再びフロストを歩ませる。

 

WAPの歩みはレナ自身のそれとは比較にならない程大きいが、拡張され、制御された感覚がそれを忘れさせた。

 

 

 

あと3歩。

 

 

 

それは数mほどにも及ぶが、機体の各所に取り付けられた分散開口型電子光学センサーのお陰で、彼女は生身の時と殆ど変わらない程自然に視覚情報を得る事が出来た。

 

 

 

あと2歩。

 

 

 

彼女はバイザーの表示装置とは別に彼女の正面、コクピットの殆どを覆い尽くすかのような汎用ディスプレイの片隅、個機防御システムの動作状況を示す表示が正常である事を確認する。

 

稜線越しに映る"ターゲット"の位置が見通し線上に姿を現すまで残り数秒。

 

 

 

あと1歩。

 

 

 

ヘルメットのバイザーに映し出される数多の情報の中で、彼女が一際意識するのは火器管制システムのパラメータ。XM-435E2、60㎜低圧砲。弾倉と薬室には合わせて20発の弾薬。弾丸は薬莢の底まで押し込まれたCTA弾薬。弾頭には12個のM87子弾が内蔵され、それらは爆風破片効果を強化した粘着榴弾により、

 

駆動系が分散しているWAPに対して高い阻止能力を持つ。同時にそれは広範囲を制圧する強化型複合効果通常弾DPICMとしての効果により、散開した敵歩兵などの軟目標に対して効果を発揮する。

 

 

 

「1、ポジティブID」

 

 

 

ディスプレイいっぱいに広がったのは、あどけない顔。それを庇う様にきつく抱き合った男女の姿がそれを縁取っていた。全員の表情は一様に、目の前の非現実的な光景を受け入れるまでの猶予を欲している。

つまり、ただぽかんとこちらを見上げているだけだった。

 

実際にはレナのフロストから彼らのいる所まで50m以上離れていたが、拡張された感覚が彼女にそれを忘れさせる。

 

緊張の糸が解れてそうになるのを必死で抑えながら、レナはマイクの出力先に外部スピーカーを追加する。その音量もまた、拡張されると共に制御されている。つまり、彼女が大声を出せばそれに応じて音量も大きくなり、砲爆撃の中でも聞こえるほどになるが、静かに話せば相応の大きさで出力される。それは入力された音量に単純に従うのではなく、彼女の全身に配置されたERA境界デバイスと体内に注入された有機ナノデバイス群の働きによって一連の生化学イベント――神経伝達物質の合成からその不活性化或いは再吸収とその過程で生じる微弱な電気信号までの全て――の観測とその判定に沿って行われる。

 

 

 

「こちらはUSN陸軍である。直ちにIDを提示せよ」

 

 

 

幼子の両親であろう2人が――母親の方は幼子を抱いたまま――、慌てた素振りでIDを取り出そうとする。片手ではそう簡単ではあるまい。

 

 

 

「ゆっくりでいい」

 

 

 

レナがそう付け加え、彼女の操作に従って意識しないままそれまで指向されていた60㎜の砲口が下りると、心なしか彼らの怯えは緩和されたようだった。

 

とは言え、潜在的な危険が去ったわけではない。彼女たちの目下の脅威は"独立反対派勢力"とのみ呼ばれており、その味気無さと裏腹に確固とした意志を持ったインサージェンシーだった。民間人に偽装しての襲撃など苦も無くやってのけるだろう。

 

怯えたままに彼らが掲げたIDを電子光学センサーが捉えると、統合状況認識システムに組み込まれた画像解析ソフトウェアがそこに刻まれた人間の目には見えない魔法のコードを読み取り、人間には聞こえない電子の声でホームの解析システムへと問いかけた。

 

結果は"該当なし"、レナは驚きを隠せない。それはUSNに籍を置くものではない事を示す返答だったからだ。

 

 

 

「氏名と職業、ここにいる目的を簡潔に述べろ」

 

 

 

「私はウォーレン・ランカスター。妻のユエと、娘のレイ。家族を連れてピクニックだ」

 

 

 

≪ニュースを見てないのか?ロクスタ砂漠全域に於いて民間人の立ち入りは禁止されている。OCUであろうと、USNであろうとだ。よって君たちの身柄を拘束する必要がある。少尉、手配しろ≫

 

 

 

すぐ後ろまで来ていた隊長機、アンバー3-6の存在にレナが気づいたのは、彼の声を無線ではなく外部音声から聞いた時だった。

 

 

 

「ラジャー、ボス」

 

 

 

味方がすぐ近くにいるのは頼もしい限りだったが、その存在がしっかりとディスプレイに表示されているにも拘らず、目の前の存在に気を取られて位置の確認を忘れるとは、緊張に飲まれるにも程がある。

 

 

 

「アンバー・パトロール0331よりソードマスター01、暫定ルート権限による送信、応答せよ」

 

 

 

『こちらソードマスター、感度良好(ファイヴ・バイ・ファイヴ)

 

 

 

「アンバー、非武装のユニフォーム・エンカウント、3名。コード78」

 

 

 

『10-4、アンバーは現状を維持し、待機せよ。車両隊を目視後に報告」

 

 

 

「アンバー、了解」

 

 

 

ランカスター一家の様子は先ほどと比べれば随分落ち着いているようだった。少なくともUSN正規軍であれば、インサージェンシーのような手荒な真似はしないだろうという安堵が見て取れた。

"ボス"は彼らを怯えさせないよう、WAPに片膝を着かせた姿勢を取らせ、落ち着いた様子で彼らと会話している。無線はオフ、外部音声だけがそれをレナに伝達してきた。

 

 

 

≪それにしても、こんな砂漠のど真ん中で護衛も付けずピクニックだなんて、あんた随分気合が入っているな≫

 

 

 

目の前の人物は生身で、武装もしていない。だが、OCUの潜入工作員である可能性を捨て去る事は出来ないし、今もインサージェンシーの連中が物騒な玩具を抱えながらこちらを除き見ているかもしれない事を考えると、レナは隊長のように軽口を交わす気持ちにはまだなれなかった。

 

 

 

〈爺さんはロクスタ砂漠であんた達のご先祖をやっつけたらしい。それに比べれば随分と落ち着いているとは思わないか?〉

 

 

 

≪爺さん?≫

 

 

 

〈"祖国達の島"って読んだ事ない?〉

 

 

 

≪サカタインダストリィ事件の?≫

 

 

 

そのフレーズはレナにも馴染みがあった。彼女が軍に入った主な動機の一つであり、今の世界を形成するに至った切欠でもある。

軍人と軍属、そしてその家族は全員が網膜や指紋といった生体情報だけではなく、体内に注入されたナノマシンと皮膚下に埋め込まれたIDタグによって、ERA境界デバイスが収集するのと事実上同様の生化学的イベント全てがリアルタイムに登録・管理される。彼らは知識としては理解するが、それを実感する事無く"プライベート"という概念を喪失している。

 

ERA境界デバイスとの接続は軍民問わず、凡そ"乗り物(ヴィークル)乗り物"と名辞されるであろう事実上すべてに実装され、その活用範囲は様々だったが、WAPの制御に於いてはそういった点で最も多岐に渡る範囲をカバーしており、量子コンピューティングに支援されたディープラーニングモデルが脳信号とヴィークルの制御パラメータをリアルタイムでマッピングする事で、バイオミメティクスとエンジニアリングの重合体である現用世代のWAPのような複雑極まりないヴィークルであっても、新規ユーザーが数分で直感的な操作が可能なレベルにまで達している。

 

 

 

尤も、それは単に()()()()というだけであって、WAPが単なる機械ではなく兵器システムとして有機的な活動が出来るかどうかはまた別の話だった。

 

兎も角、究極のマン・マシン・インターフェースは、同時に究極の個人管理に拠る防諜手段としても活用されているのが今の世界だ。

 

 

 

≪なるほど、ランカスター氏のお孫さんか。じゃあ俺の親父を殺ったのはあんたの爺さんかもしれないな≫

 

 

 

外部音声越しには、"ボス"の口調が変化したようには思えなかった。だが、その心情まで図り知る事は出来ない。

 

 

 

あの戦争で撃破されたUSN軍ヴァンツァーのうち30%近くが"キャニオンクロウ"との交戦に拠るものだとされている。もしランカスター氏の著書に書かれている事が全て事実なのだとすれば、その戦闘で負傷した大半は"ニルヴァーナ"という薄気味悪い名前の組織によって文字通り()()()()()、WAPの制御システムに組み込まれた筈だ。確かにランカスター氏は陰謀を暴いた張本人であり、その功績は計り知れない物がある。しかし、著書から伺わせる彼自身や、他の"キャニオンクロウ"メンバーの人物像は、決して魅力的な物ではなかった。

 

 

 

少なくとも彼女自身、そして彼女が聞いた評に関する限り、"この真実の物語は、彼らの激しい怒りと深い悲しみから生まれた――"と綴られた献辞には、一切の重みも感じられない程度には、非現実的な兵士の姿が描かれていた。彼らには強大な敵を打倒した時の高揚感も、或いは友軍を喪った時の悲しみも、困難な任務を終えて帰還する時の達成感や解放感、何よりも戦う動機付けといった彼らの心境を伺わせる描写が希薄だった。

 

 

 

或いは、傭兵部隊の一員として自ら銃を取った者とはいえ、本質的には民間人であるランカスター氏にはそれを察する事は出来なかったのかもしれない。

 

決して彼らに伝わる事は無いが、ふと思う事がある。

即ち、そういった人物を作為的に選んだのではないか、と。

 

 

 

自身の祖父もまた、サカタインダストリィ事件の関係者であったレナにとってそれは他人事では無かったが、既に決着がついた事になっている事件を今更蒸し返してもどうにもならない事も理解していた。国際平和調停機構が事実上解散し、首謀者とされたザーフトラ共和国はそれを認めないままに国際社会に於ける地位を失った以上、それを上回る真実が語られる日は来ないだろう。

 

そしてUSNとOCUで陰謀に関わっていた者の大半が死亡するか行方不明になっているが、ランカスター氏はそれ以降彼らの足跡を追う事はしなかった。詰まる所、陰謀そのものは彼の手によって暴かれたが、その核心までが明らかになる事は無かったのである。

 

 

 

その点に於いて、レナの祖父は少なくともUSN軍人としては為すべき事を為したと思っている。USN側の首謀者とその企てを暴く一端を担い、戦友を見捨てる事無く最後まで見届けた。

軍人として、ジャーナリストとして、その矜持にどの程度の差があったかは分からないが、彼女にはフレデリック氏のそれがいかにも中途半端なように思えてならなかった。

実戦経験だけで言えば、彼はレナのそれを遥かに上回る時間を戦場で過ごしていたはずだが、それでも彼に対する敬意の念が生じないのは、恐らくそういった背景も影響していたのだろう。

 

 

 

「隊長?」

 

 

 

彼女は聞こえてきた会話について考えるのを止めた。いずれにせよ、この邂逅は偶然に過ぎないし、何かが変わる訳でもない。

 

 

 

≪なんだ、少尉≫

 

 

 

「その、危険では?」

 

 

 

隊長の『フロスト』が未だに降着姿勢をとっている事について述べたつもりだったが、彼は違う受け取り方をしたように思えた。

 

 

 

「俺が怒り狂って彼らを撃つとでも思ったか?前の戦争が終わって40年以上経つんだぞ。俺は親父の顔を写真でしか知らない。例え本当にランカスター氏が俺の親父を撃ったんだとしても、今更何の感傷も湧かないさ」

 

 

 

「そうではなくてですね……」

 

 

 

 

 

 

≪レーザー警報、2時方向≫

 

 

 

それは訓練で何度も聞いた、そして実戦では一番聞きたくない警告音声の間違いなくトップ3に入るであろう、火器管制用レーザーが照射された事を示す機械音声だった。嫌味になるほど冷静なそれと同調してコクピット内の大半を占める汎用ディスプレイの一角がレーザー発信源を大きく拡大した映像を映し出す。それはレナが望むのと同時に拡大され、望遠鏡のように見える何かがこちらを向いている様が見て取れた。

 

 

 

「3-6、回避を!」

 

 

 

外部音声のまま、彼女は叫んだ。

 

 

 

≪レナ、彼らを守れ!≫

 

 

 

彼女にとって、民間人とはいえ外国人の安全などこの場では二の次だった。

 

 

 

「ランカスター!車両の近くで伏せていろ!」

 

 

 

レナはそう告げると外部音声をオフにする。続いて巻き込まれただけの哀れな民間人を踏み潰さないよう全力で回頭し、脅威が迫る方向を向きながら滑走装置を全力で始動させる。一瞬の間を置いて3G以上の加速を経験した後、やや遅れて不可視の対抗レーザーが放たれる。敵のレーザー測距装置や火器管制レーザーの発信源を照射し、あちらのセンサーに対して"目潰し"する為の防御装置だった。

 

 

 

「オール・ステーション、アンバー3-1は攻撃を受けている!回避中!」

 

 

 

彼女が矢継ぎ早に告げる間にも、機体の防御システムが次の一手を打つ。破裂音のような音と共に胴体の側面部に列を為している発射機群がまるで不気味な無脊椎動物の群集の如く蠢き、それらが脅威方向を指向するや否や、次々に76㎜の発煙弾が放たれ、それらが弧を描いた後に連鎖したかのように炸裂する。それらは赤外線領域と可視光領域の双方を覆う煙幕となり、彼女と隊長のフロストを隠した。同時に、火器管制システムもレーザー測距装置をオフにし、最後に検出された距離と方位を正として彼女に脅威対応射撃の指示を出す。

 

 

 

「3-1、射撃開始!」

 

 

 

≪4、援護する!≫

 

 

 

60㎜のキャニスター弾頭が発射され、それらは火器管制システムから入力された最適位置で12個のDPICMを放出する。

 

 

 

『3-4、ATGMを破壊、良い射撃でした。ブレイク、オール・ステーション、他に敵影無し』

 

 

 

援護役である3-4は、どうやら脅威を見逃した事について若干の気まずさを感じているように思えた。しかし、レナにとってそれは些事である。今は脅威が去った事、そして味方が全員無事である事を確認する事が全てである。

 

 

 

≪3-6より3-1、ホームに医療後送(MEDEVAC)の要請をしてくれ≫

 

 

 

レナは隊長機からの応答を聞き、彼が無事である事に安堵した。

 

 

 

「3-6、負傷しているのですか?」

 

 

 

≪俺は何ともない。だが――≫

 

 

 

煙が晴れ始め、再び統合状況認識システムが可視光であたりを見回す能力を彼女に与えた。

 

 

 

我が子を抱え、泣き叫ぶ女。

 

 

 

途方に暮れたようにこちらをぼんやりと見つめる男。

 

 

 

 

 

 

力なく垂れ下がった幼子の腕。

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