プロローグ
中つ国と呼ばれる大陸、その西北部の一角にモルドールと呼ばれる地があった。遥か古来からオークや岩トロールといった魔物が跋扈する地であったが、今、そこを支配するは冥王サウロン。オークや岩トロールを改良し、戦いのためのクリーチャー、ウルクやオログを産み出し、強力な軍隊を創りあげた。サウロンの野望は中つ国の総支配。その先駆けとして、彼はその最高軍司令、アングマールの魔王と呼ばれる強大な幽鬼に号令し、モルドール西辺にある人間の都市、ミナス・イシルを陥とし、ウルクやオログの支配する都市、ミナス・モルグルとしたのだった。
ミナス・イシルは本来、西のゴンドール国から渡ってきた者たちが建設した都市であり、陥落後、その軍人たちの一部はモルドールを流浪しながら再起を計っていた。その中に野心に燃える猛者がいた。その人こそ、元ゴンドールの副隊長バラノールであった。バラノールはモルドールのリスラドというエリアの首領を倒し、リスラドを制覇することを目論んでいた。つまりモルドール内に再びゴンドール人の居場所を創り出そうというのである。
もっとも彼は実はゴンドール人ではない。モルドールやゴンドールの南方に広がるハラドリムの地こそ彼の故郷であった。しかし少年期からゴンドールで育ち、ゴンドールへの忠誠心厚く、ゴンドール軍の仲間たちとの連帯意識も一際強く持っていた。ミナス・イシルの総督の娘、イドリルとも恋仲にあり、イドリルや仲間たちとモルドールに居場所を作りたい、彼はそのような願いを切に抱いていたのだった。
彼は傭兵を一人雇い、首領に挑んだが、相手は軍団をいくつも率いており、まともにやって倒せる相手ではなかった。首領の配下の小隊長二人にいいようになぶられ、殺されたのだった。
しかし息を引き取る寸前、彼はタイムリープした。つまり瞬時に過去に飛ばされ、リスラドを訪れた時点に引き戻されたのであった。
彼はその後も戦死しては、タイムリープし、そうした戦いの記憶から徐々に戦い方をつかんでいった。この物語はバラノールの3度目のタイムリープ後、つまりは彼の4度目のリスラド制覇へのチャレンジの記録である。
第一章 千里の道も一歩から
リスラドに来たばかりのころの4回目の体験をなして、バラノールは思った。千里の道も一歩からだ。しばらくは大きな戦いは避け、小隊長討伐をこなし、金をかせぎ、傭兵を二人雇おう。三人なら軍団長討伐ぐらいできるかもしれない。
彼はとりあえず持ち金で彼の兄セルカが運営している傭兵組織から一人の補給技能に長けた傭兵を雇い、小隊長二人組を討伐したのだった。
さて、まだ金が足りないから、他の小隊長の情報をどこかで得なければと、バラノールはぶらりと歩き出した。彼はただの人間なので、幽鬼がやるように、情報を持っていそうな者を洗脳支配することはできない。機密書類などに見出される情報を入手する必要があった。相手の弱点を知らずして戦うのは危険度が高いことである。どうしてもでなければやめた方がよいのだ。
そうしていると、なにか気配がしてきた。何者かがこちらの臭いを嗅ぎつけ、追跡している。双眼鏡でみれば、一人のオログの小隊長が部下たちを連れて追ってきているではないか!小隊長たちの中には追跡能力に長けたものもいるのだ。彼の弱点はまだ知らない。バラノールは一目散に逃げ出した。
かなり遠く離れ、茂みに入り、とりあえず安堵したのも束の間、遠くから彼等が追ってくる!なんてしつこい!
バラノールはドワーフ職人のトルビンから与えられた装備、フック付きロープを発射する機器を左手に装着していた。それを発射し崖や屋根にフックをひっかけロープを機器に巻き取らせることで瞬時にフックをかけた場所まで移動することができた。
今こそその機能を発揮するときだった。その機器を使い、高低差ある場所に素早く移動していき、彼等をまくことができたのであった。
逃げる途中でそのオログ、アズ=アダールの情報も入手した。彼の弱点は毒だと知った。
よし、ではこちらから奴を討つかと、砦の門前付近を通過すると、遠くに小隊長の気配がする。双眼鏡で眺めれば、弓使いの小隊長タアルズがいる。
弱点知らないし、ここは構わず通過だな。バラノールはスルーした。
??
タアルズが後ろからダッシュで追ってきた!奴も追跡能力者か!フックロープでまたも大逃走。そしてまた途中でタアルズの情報をうることができた。タアルズの弱点はステルス攻撃、つまりこっそり近づき、不意をつけば大ダメージを与えられる!
さて、アズ=アダールとタアルズのどちらを討とうかとバラノールは思案したが、アズ=アダールの方が近くにいたので、まずは彼から討つことにした。
彼の方へと近づくと、向こうは気配を早速察知し、角笛で部下を呼びながら、こちらを探し始めた。
バラノールは崖にぶら下がって隠れた。
アズ=アダールは崖っぷちでうろうろとこちらを探す。そこで崖下からステルス攻撃!しかし彼は怯みもせず、向かってきた。そこで、また別の崖下に隠れ、やってきたところで、またステルス攻撃!ある程度のダメージは与えたはずだが、それでも彼は殺る気満々。
バラノールは距離を取り、ここで彼の弱点を突いた。毒矢を三、四発浴びせたのだ!グワーっと絶叫し、巨大な身体で脱兎のごとく退却するアズ!遠くから矢で撃ったが、弾切れとなり、フック付きロープを駆使しながらリスラドじゅうを駆け巡る大追跡となった。
ついに砂漠の途上でガルゴル(モルドールにいる肉食獣。飼い慣らして騎乗する者もいるが、危険な獣)に行き当たったアズに追いついた!バラノールは剣で攻撃を浴びせるが、さすがに巨漢のオログなかなか倒れない。しかもガルゴルがこちらを攻撃してくる。だが、ここであったが百年目である。アズに集中し、ついに彼を倒したのだった。
しかし激闘で消耗したこちらにガルゴルが攻撃してきて、もう少しでこちらも倒れそうだ。鼓動がドクドクと鳴り、視界が赤くチラつく。だがバラノールに運があった。バラノールはガルゴルの側面を突くことに成功し、ガルゴルを倒したのだった。
バラノールはアズ=アダールの物資をえ、薬で体力を戻した。さあ、次はタアルズだ!落ち着いたところで、バラノールはそう意を決した。
??
いきなり背後からタアルズが奇襲をかけてきた!考えてみれば、あれだけリスラド中を走り回っていて、タアルズに感知されないわけがない!
この状況では奴の苦手なステルス攻撃は難しい。発見されている状態でステルス攻撃はできないのだ。やつは弓使いだから接近戦で勝負!距離ができたら、フックロープで手前に引き寄せ転ばせる戦法で好勝負の末、タアルズを撃破した。
撃破後、バラノールは幸運にも情報書類を懐く死体を付近に発見した。このような書類は魔法がかかっており、だれか一人の情報を読むとかき消えてしまう。対象を一人に選ぶ必要があるのだ。
バラノールは顔と名前を知っている小隊長を思い浮かべた。ガーシュ、ホルク、シャグ…彼等三人のうちの誰かにしようと悩んだ末、ホルクの情報を選び、読み取った。
その直後また背後から急襲!さっき思い浮かべた三人のうちの一人、弓使いのガーシュである。バラノールの三択は外れであった。卑怯な手で兄弟を殺したなと、怒っている!ガーシュはタアルズと兄弟関係だったのか!ここは脱兎のごとく退散!
情報持ちの死体に出くわすことはたまにしかないのだが、運が良いようだ。逃げてしばらくしたらまた見つけた!バラノールはガーシュの弱点もステルス攻撃であることを知り、こっそり戻って、ガーシュを首尾よく仕留めたのだった。
金も十分貯まり、新たな戦闘向けの傭兵を雇った。軍団長討伐、これならいけそうだ!バラノールはそう野心をたぎらせた。
第二章 軍団長アムグを討て!
ガーシュを討ったあと、バラノールは首領や軍団長たちがいる砦を双眼鏡で眺めた。城壁のすぐ内側に小隊長の姿が見える。シャグだ!バラノールは、ガーシュに不意打ちをくらう直前、機密書類を前にガーシュかシャグかホルクかのいずれを調べるべきか迷い、ホルクを選んで、その機密のみを読んだのだった。
なぜ砦から離れたところにいるホルクの機密を調べたのだろうかと、バラノールは苦笑いしながら自問した。今更、しょうがない。シャグがやつらの暗殺の前に立ち塞がってくるのは明らかだ。やつの弱点を調べなくては。バラノールは少しまわりを歩き始めた。
情報がうまく荒野に転がっているということはないようだった。見つかると面倒だが、城壁の内側に入るとしよう、フック付きロープをうまく使い、屋根を移動していけば、情報にありつけるだろう、砦はやつらの中枢だからな。
バラノールはそう考えると、すぐ行動に移し、城壁に飛び乗り、見張の弓兵たちをステルス攻撃で静かに殺したあと、街中を上から物色した。
屋外に設置された卓上に機密書類が広がっている!人目を警戒しながら、さっと読み取った!わかった!シャグのやつもステルス攻撃に弱い!行くぞ!バラノールは屋根を飛び移って移動し、シャグのいる地点を目指した。
バラノールはシャグが立っているすぐわきの家屋の屋根に至り、シャグの頭上からステルス攻撃を浴びせる!よろめくシャグ!しかし街中である。ウルクたちがあちこちから湧いてきた。
その中に少し懐かしい巨体があるではないか!アズ=アダール!殺したと思ったのだが、息を吹き返したようだ。生命力の強いやつだ。
「また苦痛を与えてくれ!」
白塗りに黒筋を塗りたくった化粧顔が笑う。
たいしたマゾヒストだな。しかし敵は多勢になってきた。ここは補給護衛を呼び出そう。バラノールはそう考え、右手で合図を送ると一人の傭兵が現れ、さっと矢筒を渡してくれた。
とはいえ、相手は大勢である。バラノールはアズに数発毒爆弾を浴びせ、攻撃をかわしながら隙を窺い、近くの家屋の屋根へとフック付きロープで抜け出した。そして屋根上からシャグにステルス攻撃!あと少しでシャグを倒せそうだが、すぐウルクたちに取り囲まれる。そこでまた上に瞬間移動。さて、もう一度ステルス攻撃!
そう思ったが、もうシャグはいない。転がっている死体のどれかがシャグのようだ。傭兵がとどめをさしてくれたのだろう。そこで大的のアズにステルス攻撃!もう一度上にあがり、再度ステルス!形勢不利と見たアズは逃げ始めるが、家屋に満ちた街中であの巨体である。連撃を浴びせ、しゃがみこませることに成功した。アズはにっと笑い、こう言った。
「苦痛をありがとう!」
バラノールはアズの首を刎ねた。
化粧顔が前方に跳ね飛んだ。これでもう戻って来ることはあるまい。
尽きぬことない群れを相手にはしてられないと、バラノールは護衛とともに城外に脱出し、護衛を退却させた。アズ=アダールから獲得した戦利品を改めてみれば、ずっしりと重い剣だった。これで攻撃力が大きくアップだ!
バラノールはニヤリと笑った。シャグは軍団長アムグの護衛だった。今やつは孤立している。今がやつを討つ好機だ。作戦にかかろう。やつが街に置いてるグロックの樽を爆破して、やつを街中に誘い出すのだ!
グロックとはウルクの酒である。一見原油のように見える強烈な酒であり、発火性があり、よく燃える。矢を撃ち込めば大爆発である。バラノールは再び屋根をつたって街中に入り込み、樽の位置を探った。
グロック樽の四つ組セットを三つほど爆破すると、出てきた、出てきた。軍団長、ガラゴルライダーのアムグ!愚痴を言いながら、ガラゴルに乗っての登場である。屋根の上からそのガラゴルに矢を数発射たが、倒れない。特別丈夫なガラゴルのようだった。アムグはガラゴルに乗ったまま、こちらの屋根上に上がってきた。間近で火矢を射てガラゴルの方はやっと倒れた。しかし警報が鳴り響き、街中はウルクでカオス状態に!カオスの中、アムグに強化された剣撃を浴びせる。アムグはウルクの群れをすり抜け退却。うまうまと逃げられてしまった。
こちらも脱出しなければまずいと、バラノールは城壁の外に出た。すると「おい!」と呼び止める声。
「出てきてやったぞ!相手してやる!」
フードの男が叫ぶ。「ウジ虫」の異名を持つアサシン、ナアクラだ!「ウジ虫」、つまり腐った部分を浄化する者!権力者にとって不都合な者たちを命令従い、忠実に処分してきた暗殺者である。
そのような暗殺者ゆえ、彼にはそんな異名が付いたのだが、軍団長護衛となってからは暗殺業は止めていた。彼はアムグとは別の軍団長の護衛であり、よく個人行動を取ったシャグとは違い、忠勤に励んで軍団長の側に常に付き従っていた。
バラノールはよほど彼の興味を引いたようだ。権力に忠実な「虫」として生きてきた彼にしてみれば、バラノールのような大っぴらに権力に楯突く個人は許しておけない存在だったのかもしれない。
ナアクラを倒しておけば、彼の主人を討つのが楽になるが、今、やつの弱点がわからない。バラノールはフック付きロープを駆使して逃げ出した。
本当にこの機器は重宝する。逃げてからフック付きロープをまた用い、街に素早く再侵入し、情報を漁る。ナアクラに取り立てて弱点はないが、耐性も特にない。このアズ=アダールの重い剣で正攻法でいこう!
城壁に飛び移り、城壁外側に立っているナアクラに頭上からステルス攻撃を浴びせ、斬り合いの末、討ち果たす!
さあ、アムグと再戦だ!今度はやつの飼ってるガラゴルを何頭か殺して誘い出そう!
バラノールは街の屋根上を渡り飛び、ガラゴルの檻を見つけては檻の鍵を矢で撃ち壊し、檻から出てきたガラゴルを射殺した。
アムグはまた愚痴をこぼしながらガラゴルに乗って出てきた。相変わらず丈夫なガラゴルで、こちらの屋根に上がってきたぐらいで、やっと倒れる。
屋根から降りてアムグと戦っていると例によってウルクの群に囲まれてしまう。しかしこちらの憤怒のパワーもたっぷり溜まった!満を持して護衛たちに大招集の合図を送った!
あれ?
補給護衛しか来ない??
ガーシュ倒したあと金も貯まったしで、戦闘用護衛も雇ったはずだが??
……
!!!
戦闘用護衛、雇っただけで、護衛の任につけてなかった!今、やつは命令待ち状態のままだ!バラノールは自分の不手際にやっと気づいた!
傭兵組織の拠点家屋の屋上で戦闘用傭兵、シェルコズは寝転んでいた。あの客、金払ってくれたのはいいが、いつまで待機させてるんだ?全く暇くさい。俺は怠けるのが好きなわけじゃないんだかなあ。まあこういうのも仕事と言えば仕事か。全くしょうがねえ。シェルコズは独りそのような不満を抱えながら寝転んでいた。
一方、バラノールは危機的状況にパニックっていたが、そこで
「よくあのウジ虫から生き延びたな」
そう声がかけられた。
デストロイヤーの小隊長トゥカアが参戦してきた!ダメ押しが来たか!バラノールは覚悟を決めた!
しかしやって来たのがデストロイヤーだったのはバラノールにとって幸運だった。デストロイヤー、つまり爆弾魔である。彼の爆弾の爆発で敵の方も大パニック!街中はまさに阿鼻叫喚の状況である。アムグはたまらず、逃亡し始め、バラノールもそれを追って城外へ!
逃げるアムグに火矢を打ち込み、燃えて狼狽えているところに追いつき、剣撃の連撃をくらわせへたりこませる!呪いの言葉を吐くアムグを胸から貫き、さらに両腕を切り飛ばす。絶叫をあげ、倒れ伏すアムグ!ついに軍団長を倒した!
軍団長はあと五人いるが、彼の担当する砦の特殊防御、ガラゴル部隊はもう機能しない!また彼が持っていた書類--これは魔法の書類ではなく、普通の手書きメモだった--から砦の周囲の拠点を統括する隊長たちの弱点についても情報をうることができた。
金をかけて軍隊を用意しても、砦の周囲の五つの拠点を陥さなければ、砦に進軍することはできない。しかし、これで拠点を陥す算段も整ってきた。
バラノールは、壮大な作戦が完成しつつある、リスラド制覇は夢ではない!と希望に胸を膨らませたのだった。
第三章 成長
ここで止まってはいられない!リスラド東辺にはバラノールを支援する兄、セルカの傭兵組織があるが、ほぼその真北にウルクたちが拠点を構えていた。戦局の安定のためにはまずそこを陥とし、組織の勢力圏を拡げておくべきだろう。そう考えたバラノールは間髪いれずに、その東北端の敵拠点に向かった。
陣を構える小隊長クリインプの部隊に傭兵二名と真っ向から挑む。
補給護衛のヤシールはただ矢を持ってきてくれるだけが取り柄ではない。傷ついた仲間の素早い手当てを行える衛生兵でもある。また彼の肩には魔法の反重力パッドがついており、それを踏み台にすれば天高く舞い上がれる。
素早く高く舞い上がっているあいだ敵はこちらを攻め難くなるから、こちらのステルス攻撃や射撃チャンスとなるのだ。
戦闘用護衛のシェルコズは「道」と呼ばれている。様々な難局を打開し、道を拓いてきた手練れの傭兵なのだ。小隊長クラスの強敵にも渡り合う戦闘能力がある頼もしい男である。
クリインプの陣は簡単に制圧され、クリインプもシェルコズに斬られて果てた。
これで組織の北側は押さえた!十分な金も手に入ったバラノールはさらに二人の傭兵を雇った。一人は大人数の敵を抑える技能に長けたボシュチ、もう一人はシェルコズと同等の強者バラコールである。バラノールはボシュチを護衛に加え、バラコールに制圧した拠点を管理させることにした。
さて、どうするかと情報を整理していたバラノールだが、そこで一通の報告書を目にした。あの派手なデストロイヤーのトゥカアがグラウグと戦う試練を行うというのだ。グラウグとはモルドールに住む巨大な獣であり、岩トロールを家屋レベルにまで巨大化させたかのような化け物である。
最近、機密書類を読んで知ったのだが、トゥカアは野獣の類が苦手ということである。果たしてそれで戦えるのだろうか?まあ試練というのは建前で、戦いは部下にやらせる気かもしれないが、やつを討つ好機に違いあるまい。現場に行ってグラウグを手助けしてやるか。
バラノールは現場に向かった。
なるほど、やはり試練というのは建前上のものだな。バラノールは現場を一瞥して理解した。ビーストマスターのオログ、アル=カイウスが付いている。ビーストマスターには獣殺しの特技があり、容易に獣を退治することができるのだ。
こいつが付いてるなら、試練の達成は固いな。そう考えながら見ていると、檻が開かれついにグラウグが解き放たれた。バラノールはそれを見計らって、トゥカアに矢を射かけると彼は天幕の下に下がっていった。バラノールが天幕の下に追いすがり、トゥカアに対峙した直後、アル=カイウスが突進してきた!
アルの攻撃を転がりながら避けているとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まだ生きてるぞ」
見ればガラゴルに騎乗したウルクがいる!アムグだ!しかも両腕がちゃんとついており、何不自由もないようだ。逆により闘気が強まっているような気がする。見れば両の二の腕に金属のサポーターが巻いてある。ウルクは腕程度なら金属でも巻いてつないでおけば治ってしまうのだろうか。何にせよ、小隊長三人相手は厳しい展開である。
とりあえず高台の上に逃れると、独り、ボロボロ状態のトゥカアが投げ槍を放ち、グラウグに対峙していた。
どうやらアムグの指示によりトゥカアを除いた全員ががバラノールにかかっているうちに彼にとって真の試練となったようだ。
アムグは忘れていなかったのだ。トゥカアの爆弾の暴発により苦境に陥ったことを。少し独りで苦しませた方がよい、アムグはそう考えたに違いなかった。
しかし驚くべき光景が繰り広げられた!トゥカアのとどめの一撃がグラウグに決まった!
あっぱ口を開けて驚くアムグ!崩れさるグラウグ!そして歓喜に満ちるトゥカア!
トゥカアの至福の瞬間、バラノールによる頭上からのステルス攻撃がトゥカアの喉を掻き切った!トゥカアは戦闘者として幸福な一生を終えた。
それも束の間、アル=カイウスがバラノールに憤怒の表情で猛進してきた。アムグはともかく、こいつについては知らないことが多すぎる。ここは退却だ!バラノールはフック付きロープで遠方に逃れた。
バラノールはアル=カイウスとアムグを撒き、一心地ついて現在地を見ると、小隊長グーラの野営地の付近に来ていた。最近、機密書類を読んで知ったのだが、グーラは軍団長フーバーの護衛である。グーラを仕留めればフーバーを孤立させることができる。
アムグはこの前の失態があるから、少なくともしばらくは軍団長に返り咲けまい。
フーバーを倒せば、砦の防御力をさらに下げることができるだろう。
バラノールはグーラの野営地の崖下に張り付いた。
崖にへばりつきつつ様子を窺えば、グーラが部下どもと焚火を囲んで何やら雑話している。「格闘家」の異名を持っているだけに筋肉の固まりのようなウルクだな。バラノールはそう思った。
さて、やつはステルス攻撃でふいを突くのが効果的らしいが、どうしたものかな。
思い悩んでいると、一頭のガラゴルがバラノールがへばりついている崖の上あたりに近付いてきた。しかし崖にしがみついている人間相手にどう対処してよいか当惑しているようである。
バラノールは崖にへばりついた状態で、横ばいし、グーラの焚き火の方に近付いていった。崖上のガラゴルもそれを追って崖上を移動する。
「ガラゴルだ!」
グーラの部下の叫び声。思惑通り、ガラゴルとグーラたちの戦いが始まった。
ガラゴルは一頭のみであり、当然グーラたちは勝利した。歓喜に溢れかえるグーラたち。
そこでバラノールは崖上に上がり、焚火に矢を射る。焚火に矢を射て爆発を起こさせるのはバラノールの特技の一つである。
大爆発によりグーラの部下は全員倒れ、グーラも軽い失神状態になり、うずくまる。そこに間髪入れずに剣撃を繰り出すバラノール!
しかしさすがに「格闘家」、剣撃を受け目覚めると、すかさず体勢を立て直し、
「俺はしゃべるのは苦手だが、戦いは得意だ!」
と言い放ち、素早く手斧を振り下ろしてきた。
こいつにはあまり近付いて戦わない方がいい、攻撃が苛烈過ぎる、バラノールがそう思ったのも束の間、素早い三連続斬撃を受け、あっという間にへたり込まされてしまった。
とどめの一撃が頭上へと振り下ろされる!バラノールは間一髪受けかわし、体勢をなんとか立て直せた!そこからは用心して、距離を心掛け、毒矢を射かけた。毒がよくまわったようだ。ついにグーラは倒れた。
手強いやつだった。しかしこれでフーバーも殺れる!
バラノールは砦に向かった。
「操縦者」の異名を持つフーバーは知将として名を馳せる軍団長であり、リスラドのウルク軍に供給する武具の量産を担当していた。
ここはやつの抱えている鍛冶屋どもを何人か始末して挑発してやろう。双眼鏡で城壁内を眺めながら、バラノールは思った。
鍛冶屋を二人ばかり頭上からのステルスで片付けると、やはりフーバーが姿を現した。大勢のウルクたちもである。
「おまえは完全に包囲されている!」
フーバーは叫んだ。
実際そのようなので、バラノールはウルクたちを撹乱することにした。フック付きロープを駆使し、あちこちの屋根に飛び移る。こちらの追跡のため、フーバーのいる屋根あたりが手薄になってきた。今だ!フーバーの近くにいる部下の一人にステルス攻撃を行いつつフーバーのあたりへ弩から爆撃を放つコンボ攻撃!しかしそれで終わるフーバーではない。素早い手斧を繰り出してきた。
フーバーの戦い方はグーラに似ていた。
近付くのが危険なタイプだ。
肉体派の知将とは、ここの首領は人材に恵まれてるな。しかしここまでだ!
バラノールはフック付きロープを振り回し、フーバーの部下どもを薙ぎ倒し、フーバーに火矢を数発打ち込んだ!フーバーの弱点は遠距離攻撃。矢に当たって吹き飛び、フーバーは絶命した。
やった!また軍団長を倒せた!しかも護衛を呼ばずに街中で!やつの弱点を突いたのもあるが、俺はだいぶ成長したのだ。リスラドの制圧は遠くない!バラノールは独り勝利を噛みしめたのであった。
第四章 地固め
次にすべきは我々の勢力圏の拡大か。言わば地固めだな。まずは中心に杭を打ち込むとしよう。中央部の拠点を制圧だ。
意気に燃えるバラノールは敵の中央拠点へと歩を取り始めた。
しかし…
ドスン!!
背後から急襲!アムグだ!しかしガラゴルに乗っていない。部下も連れていない。どうやらタイマン勝負がしたいらしい。トゥカアの試練を見て感じ入るところがあったのだろうか。
「俺の試練はおまえを独りで倒すことだ!」
アムグはそう言い放った。よし、それなら敬意をもって相手をしてやろう!宿命の対決が始まった!
お互い手のうちは知り尽くしている。バラノールとアムグは一進一退の攻防を繰り広げたが、バラノールの方が一枚上手だった。ついに彼をへたりこませ、アムグの腹から胴を両断した!
さすがにこれならもうこの世に戻っては来るまい。
そうして気を取り直し、再び歩み出そうとするバラノールに声がかかる。ドロドロに顔面が溶ろけているが、どうやらグーラだ。毒殺したと思ったのだが、どうやら毒を克服して毒気の怪物になったようだ。以前も手強かったが、それに毒の攻撃力も加わり、恐ろしい相手になったものだ。こいつにタイマンはとても無理だ!
バラノールはフック付きロープで上方に逃れるとヤシールを呼び出し、ヤシールと連携して、攻め手の隙を作り、彼の苦手なステルス攻撃を交えて追い詰め、首を刎ねた!
これ以上進化されたら堪らん。冥土へ行ってくれ!バラノールはそう念じながらグーラを葬ったのだった。
リベンジャーたちを始末したあと、バラノールとヤシールは中央拠点に辿り着いた。
火炎の武器を装備した小隊長ズカとディフェンダーの小隊長シャカアが陣を張って守っており、手堅い守りではあったが、無事、敵陣を制圧し、上空からのステルス攻撃でズカも仕留めた。
盾で防御を固めるシャカアを攻めあぐねていたが、ヤシールの部下が上手く動き、背後からシャカアにとどめを刺してくれた。
彼が上手くやってくれて良かった。ヤシールは出血で動けなくなっていた。戦闘がもう少し長引いていたらヤシールの命にかかわるところだった。バラノールは胸を撫で下ろした。
中央部を奪い取られて、ウルクたちが黙っているはずがなかった。伝説的な変幻自在のトリックスター、オグバーを始めとした様々な小隊長たちが再三、こちらの勢力圏に進入してきた。しかしバラノールはヤシールやボシュチに協力をあおぎ、彼らのすべてを返り討ちにした。中央部を占めたことで組織の情報収集力が格段に上がり、彼らの弱点がまるわかりになったことが大きかった。
このままリスラドの東部をこちら側で固めてしまえ!バラノールは敵の南東拠点に歩を進めた。
小隊長が三人も待ち構えていたが、こちらも護衛を全員繰り出し、敵陣を制圧、小隊長も全て討ち果たし、無事、南東拠点の奪取に成功したのだった。
それにしてもシェルコズは相変わらず強い!小隊長一人はバラノールが倒したのだが、残り二人を倒したのはシェルコズであった。
バラノールの勢力はいつのまにかリスラドを二分するほどになっていた。セルカたち、傭兵組織の者たちにもバラノールのリスラド制覇の日は近いように思えてきたのだった。
第五章 最後の拠点
南東拠点を制圧したあと、ノルクやアル=カイウスといった小隊長たちの領域侵入があったが、中央拠点を制圧してからは組織の諜報力が強化され、すべての小隊長の弱点は事前に丸わかりであり、難なく討つことができた。
あの勇猛なアル=カイウス至っては毒に極端に弱いことが判明していたので、遠方から毒爆弾を彼とその配下に二発放っただけで済んだ。
アルが「必ず見つけてやる」と言い放って、こちらに走ってくるあいだに、彼は毒が回って倒れ伏したのだった。
バラノールはこの勢いでリスラド全土制覇をなさんと燃えていた。南西拠点への攻撃に踏み切ったのである。
しかし小隊長が4人で防御を固めていた。まともに戦うと厳しそうだと考えたバラノールは拠点の外れの方にいる隊長を一人、さらに別な場所でぶらついている隊長を一人と個別に片付けた。
二人片付けた時点で敵軍のすべてはバラノールの侵入に気付き、陣に集結した。バラノールはボシュチを呼び出し、彼の隊に戦わせながらフック付きロープで素早く移動、攻撃、退避を繰り返し、陣を制圧。
小隊長たちも片付けたのであった。
そこからは破竹の勢いである。軍団長二人を続けて楽々片付け、小隊長を数名仕留めた。
今、残る拠点を攻め落とす時だ!バラノールは「博学な書記」の異名を持つムズが治める西北拠点に歩を進めた。最後の拠点である。
しかしなぜムズはそんな異名なのだろうか。観察する限り、書記のようなふるまいはしていない。ああ見えて政治力が高い小隊長なのかもしれない。
しかし他に四人も小隊長が招かれている。これはやはり気づかれないうちに少しずつ減らしておこう。そうバラノールは考えた。
そこでバラノールは離れにいる小隊長を一人見つけ、ステルス攻撃をなしたが、伝説級の手練れだったようだ。即座に火炎剣の連続攻撃で反撃され、一旦退かざるをえなかった。
敵のすべてに早くも侵入が気付かれ、敵軍は本陣に集結した。こうなったらこちらも総攻撃だと、バラノールは護衛すべてを招集させ、陣に攻め入った!
…
なんと!あのシェルコズが簡単に殺された!続けてボシュチも殺され、ヤシールは出血で動けなくなっている!どうやら敵は猛者ばかりだ!ヤシールも結局失血で死んでしまった。
攻撃力の高い五名の猛攻撃を全て防ぐことはかなわず、ついにへたりこむバラノール!ムズの凶刃が振り下ろされる!
死んだ!そう思った瞬間、兄のセルカが突如現れ、ムズに必殺の一撃を浴びせる!
ムズは絶叫して息絶えた。
「まだ死んでしまっては困る」
セルカはそう言って、にっと笑うと、さっさと去って行った。
バラノールはあと四人も手練がいるんだ!一緒に戦ってくれ!と、心の中で叫んだが、去られてしまい、どうしょうもなかった。
バラノールはフックロープを駆使し、逃げつつ隙を窺いながら攻撃することにしたが、遠距離攻撃の小隊長がいつのまにか一人増援されているのに気づいた。
バラノールは彼に近寄り、対面し、苦笑した。ホルクである。情報が貴重だったリスラドに来たばかりのころ、誰を調べるかでホルクを選び、失敗した記憶が甦った。
どうあれ、こいつも含めてまとめて倒してやる、そう思いつつ、フックロープで移動するバラノールであったが、彼はどうやらホルクを舐めていた。
ホルクの特技、必中の射撃で撃ち落とされるバラノール!落下しながらバラノールは思った。あの三択は正解だった!あれは真っ先にホルクを倒しておくべきだと直感が告げたものだったのだ!
落下してへたりこんでいるところにバーサーカーの小隊長の斧が振り下ろされる!
バラノールの目前は闇に包まれた…
エピローグ
これはリスラドの砂漠の入り口から発見された手記に記された記録である。筆記者は自身を「バラノール」と三人称で書いているようだ。おそらくバラノール当人が自身の体験を回想して書いたのだろう。
この手記があるということはバラノールはまたリスラドを訪問したばかりの時期にタイムリープしたようだ。その後、彼がどうなったのかはわからない。リスラドをバラノールという者が治めたという記録も現存していない。
しかし、彼のタイムリープの繰り返しにより歴史が変わり、彼がリスラドの統治者として歴史に現れることもないとはいえない。
タイムリープという現象の中にあるのは彼の運命なのだろうか。そうであるならば、すべては運命の御手のままに!
終
また『シャドウオブウォー』の拡張版「モルドールの」に挑戦しましたら、「バラノールの人生2」を書くかもしれません。そのおりはよろしくお願い致します。