『五つ子ちゃんは風太郎を五等分できないっ』 作:Sphilia
「起きてください、新婦様のご準備が整いましたよ」
ブライダルアテンダーの声で目を覚ます
──────夢をみていた
君と出会った高校二年の日
あの
──────夢のような日のことを
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その日の俺は、いつもより少しだけ機嫌がよかった。
親父の伝手で、相場の五倍──破格の報酬が約束された家庭教師のバイトが決まったとの連絡が、最愛の妹・らいはから届いたからだ。
(これでお腹いっぱい食べられるようになるね!)
(お兄ちゃんならできるって信じてる!)
らいはの声を思い出すだけで、なんとなく胸の奥が温かくなる。
少なくとも、終礼が始まるまでは、そんな気分でいられた。
「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」
そう挨拶した転校生の声は、妙に耳に残る涼やかさだった。
制服が間に合わなかったのか、彼女ひとりだけ黒のセーラー服を着ている。
黒薔薇女子──名の知れたお嬢様学校の制服らしい。学費が高いことでも有名だとか。
転校生で、金持ち。
嫌な予感しかしない。
らいはの話によれば、俺が担当するのは最近この辺に越してきた資産家の娘だ。
……どうやら、よりにもよってこいつがそうらしい。
実は、初対面じゃない。
とはいっても、『将来を誓い合った幼馴染』でもなければ――
『空から彼女が降ってきた』なんて運命的な出会いでもない。
ほんの数時間前の昼休みのことだ。
食堂で席を争い、
頼みごとを無視し、
挙げ句の果てに「太るぞ」とか余計な一言まで添えた。
結果、俺は彼女から「無神経な人ランキング1位」の称号を賜った。
ただそれだけの出会いだ。
……未だにタイムマシンを開発できない人類の科学力の低さが恨めしい。
彼女に拒否されれば、このバイトは即終了。
らいはの期待を裏切ることになる。
それだけは、何としても避けなければならない。
「……どーも」
席の横を通りかかる彼女に、精一杯の愛想笑いで声をかけてみた。
が、結果は、プン、と無視。
……まずい。このままでは、初回の顔合わせで間違いなくご破算だ。
焦る俺を尻目に、転校生は担任とともに教室を出ていった。
今日はもう、挽回のチャンスはなさそうだ。
現実ってやつは──
いつだって、試験より難問を出してくる。
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焼肉定食焼肉抜き。この食堂最安値のライス(200円)と同じ値段で味噌汁とお新香がついてくる俺が見つけた裏技メニューだ。
いつも通りそれをトレイに乗せた俺は、食堂内を見渡していた。
目的はひとつ。
昨日の大食いセレブ女を探すためだ。
家庭教師としての顔合わせは、今日の放課後に予定されている。
その前に、最悪の第一印象を少しでも回復しておきたい。
食事中であれば、さすがに立ち去られることもないはずだ。
会話のシナリオは、昨夜のうちに完璧にシミュレートしてある。
らいはの期待を裏切るわけにはいかない。
ご機嫌取りでも芝居でも、やるしかない。
「お待たせしました」
その声に反応して振り向くと、転校生がテーブルに腰を下ろすところだった。
その席には──
彼女の他に、四人の女子生徒がいた。
……想定外だ。
昨日転入してきたばかりの人間が、もう昼食を共にするグループを確保しているだと?
計画を立て直すしかない。
見知らぬ女子五人の輪に飛び込んで印象を覆す──
それはもう外交官の任務だ。
高校生の出番じゃない。
方針変更。
下校中、ひとりになるタイミングを狙おう。
体感では一瞬で結論を出したつもりだったが……
現実には数秒立ち尽くしていたようだ。
「すみません、席は埋まっていますよ」
視線に気づかれるには、十分すぎる時間だった。
転校生の口元には、ほんのわずかに勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
……昨日の仕返しか。
ここは戦略的撤退に限る。
帰り道での再接触に備えるためにも、まずは昼食を手早く済ませなければ。
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「行っちゃうの?」
踵を返した俺にショートカットの女が話しかけてきた。
五月と一緒に座っていたグループの一人だ。
「席探してたんでしょ? 私たちと一緒に食べていけばいいよ」
無視して歩き出す。が、なぜか彼女はついてくる。
「ねーねー、美少女に囲まれてご飯食べたくないのー?」
……騒がしい。今はそんな話に付き合っている場合じゃない。
こっちは、今日の放課後が全てなんだ。
「まぁ待ちなよ」
先回りされて、行く手を塞がれた。
なんでそこまでしてくるんだ。
「五月ちゃんが狙いでしょ? ん?」
覗き込むようにして顔を寄せてきた彼女のシャツは、第二ボタンまで開いている。
目のやり場に困る。
「狙ってるわけじゃない」
反射的にそう返してしまった。
「えっ!? 本当に五月ちゃんなんだ!」
……何が「本当に」だ。
そもそも“狙い”って単語の選び方がもう間違ってる。
「ズバリ、決め手はなんだったんですか〜? 真面目なとこ? 好きそうだもんね」
矢継ぎ早に繰り出される質問は、無視しても止まらない。
タイムレースのクイズみたいだ。
「好きなの? 気になるの? 気になってほしいの?」
……いつ終わるんだこれ。
タイムショックだったらとっくに終わっているぞ。
「私が呼んできてあげるよ」
そう言って背を向けた彼女に、反射的に声が出た。
「待て」
咄嗟に腕を掴んで引き留める。
「余計なお世話だ。自分のことは自分で何とかする」
声を張るような内容でもない。
そもそも、これ以上この騒がしい輪を広げられるのは避けたい。
周囲に聞かれないよう、耳元で静かに伝えた。
……その耳が、赤く染まっていた。
見た目の軽さに反して、意外と初心なのかもしれない。
「ガリ勉くんのくせに~、男らしいこと言うじゃん」
照れ隠しか、バチンと背中を叩かれる。
……痛いからやめてほしい。
「そういうことなら黙っててあげる。頑張りなよ」
ようやく解放してくれるようだ。
……何か致命的な誤解をされたままだが、まあいい。
頑張らないといけないのは事実だ。
「でも──困ったら、この一花お姉さんに相談するんだぞ? なんか面白そうだし」
振り返りざま、楽しそうにそう言い残して去っていった。
……珍しい虫でも見つけたみたいな顔だった。
今後も絡んでくる気満々って感じの雰囲気。
お姉さんって……同学年だろ、多分。
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下校中が五月に声をかける最後のチャンスだ。
あいつ、昨日のことを完全に根に持ってやがる。
太るぞだなんて余計なこと言うんじゃなかった。
「上杉さーん」
「きこえてますかー」
一人になるタイミングは絶対にあるはずだ。
どう話しかければ好感度が上がる……?
慎重に会話プランを完成させなくては。
もう失敗はできない。
「うーえーすーぎさーん」
……人の気配がする。
顔を上げると吐息が吹きかかるような距離に顔があった。
──近すぎる
「うぉっ 誰だ」
思わずのけぞる。
「あはは やっとこっち見た」
なぜかご機嫌そうな女が対面の席から身を乗り出していた。
うさぎ耳のような悪目立ちした大きな緑のリボン、見間違えようがない。
五月の昼食グループの一人だ。
いつの間にこんな近くに……
いや、今はそれよりも気になることがある。
「なんで俺の名前を知っているんだ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。私、上杉さんにお届け物に参りました!」
そう言うなり両手を大げさに広げ、胸を張って何かを取り出す。
ご丁寧に「デデン!」とセルフ効果音付きだ。
この笑い方に効果音、そして頭の大きなリボン……
まるで90年代からのタイムスリッパー。
「あなたが落としたのはこの100点のテストですか? それともこの0点のテストですか?」
掲げているのはどうやら二枚の答案用紙だ。
世界線は変わらず──出身はどうやら湖の底。
「右」
当然、俺は100点のテストを指さす。こいつ、何が目的だ……?
「正直者ですね 両方セットで差し上げます」
──金の斧に鉄のオマケ。女神としては三流だ。
「いらねえよ、誰の0点だ」
つい反射的にツッコんでしまった。
こいつといるとペースが狂う。
「私のものです」
よく差し上げる気になったな!
「100点なんて初めて見ました 引くほど凄いです!」
いちいち顔が近い。
「俺は0点を取ったやつを初めて見て引いてるよ」
とりあえず距離をとるためにけなしておく。
「上杉さんの第一印象は『根暗』『友達いなそう』でしたが新たに『天才』を加えておきますね」
……めげないなこいつ。
それになんだ、これで褒めてるつもりなのか。
「……全然嬉しくない」
このままペースを乱されていると会話プランが練れない。
場所を変えよう。
……なんで付いてくるんだ。
「どうしたら~」「私はですね~」「というわけなんですよ」
更衣室に置いた通学カバンを取りに向かう道すがら、30通りほど会話を組み立ててみたが
──どれも機嫌を直せる未来が見えない。
うさぎ女の声? 学年主席・上杉風太郎の集中力を舐めてもらっては困る。
ただの雑音、右から左に流れていくだけだ。
ここまで来れば安心だ──
「いつまで付いてくるんだよ!?」
男子更衣室の中まで付いてきかねない様子に根負けして声をかけてしまった。
一年生が気まずそうにロッカーを開け閉めしている。勘弁して差し上げろ。
「まだお礼を言われていません」
ムーッと頬をふくらませるウサギ女。あざとい。
「落とし物を拾ってもらったら『ありがとう』、ですよ。天才なのに、そんなことも知らないんですか?」
―くっ、生意気な。
さっきの0点答案、まさか出番があるとはな。
これを突きつけて黙らせれば、借りもチャラだ。
俺は答案を差し出す。
「え? 私の……」
訝しげに首をかしげる彼女。よし、効いた──
「たまたま拾った。これで貸し借りなしだな」
どうだ、ぐうの音も出……。
「そっか! ありがとうございますっ!」
──出ないどころか、即お礼かよ。
馬鹿なのか……いや、素直すぎるだけか?
無邪気さに毒気も抜ける。
……たまには俺も素直になってみるか。
「お前、あの……中野五月と仲いいんだろ? 俺が謝ってたって伝えてくれないか?」
「うん? よくわかりませんが、ダメですよ」
チッチッチと指を振るうさぎ女。
——絶滅した昭和ジェスチャーの保護活動家か?
「謝るなら直接本人に、です!」
真正面からの満面スマイルに、不思議と腹は立たない。
「ああ、わかったよ。……ありがとな」
四葉は「えへへ」と照れ笑いし、リボンを揺らしながら駆けていった。
ああ、本当に素直ないい子だ。……憎らしいほどに。
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結局完璧と言えるプランは立てられなかった。
こうなればパッションでなんとかするしかない。
大丈夫だ、なんとかなる。
絶対に。いやおそらく、たぶん、きっと。……メイビー。
自分で言ってて不安になってきた。
クラスが違うのに昼食グループの絆は案外固いらしい。
帰り道まで一緒だとは……つくづく計算外だ。
……それにしてもあいつ、食べてばかりだな。
一緒にいるのは、蝶のようなリボンを両耳につけた前髪パッツンの女と、
青いヘッドフォンを首に下げ、片目が髪で隠れている──メカクレ女。
大仏パネルに隠れてやり過ごして、一人になるまで待つ。
幸い、肉まんに夢中のターゲットはパッツン女とじゃれ合っている。
視線に気づく様子はない。
……メカクレ女はどこだ──
「一人で楽しい?」
ジトッとした視線を感じて下を向くと……いた。
どうやら見つかってしまったらしい。
なんとか誤魔化さないと。
「割とね……こういうのが趣味なんだ」
東海市が誇る聚楽園大仏の顔ハメパネルから、必死の言い訳を吐く。
女子高生なら大仏なんかに興味ないと思ったが──読みが甘かった。
「女子高生を眺める趣味……予備軍……」
スマホの画面が光っていた。【9110】の数字がはっきり見える。
やめろ、愛知県警は毎日交通事故の対応で忙しいんだ、こんなことで手を煩わせるんじゃない。
「あ、違う、違う。そっちじゃなくて、大仏が好きなんだよ。
地域貢献的な意味で……パネルと一体化して、ほら、観光推進……」
焦りすぎて、自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
「無言で通報するのやめて。あと友達の五月ちゃんにも言うなよ?」
……まずい。こんな言い訳で通じる相手がこの世にいるのか?
「……わかった」
……ここにいたらしい
「あの子は友達じゃない」
一言そう告げた後、音もなく去っていく。
……通報されなかった。
パッションでも、案外なんとかなるらしい。
何事もなかったかのように、二人と合流して帰っていった。
……仲良く見えるんだけどな。
当人たちにしか分からない事情があるんだろう。
──やっぱ、人付き合いって、めんどくせぇわ。
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あの3人は別れることなく同じ道を帰っていく。
この先に住むところといえば、馬鹿みたいに高いタワーマンション──高さは聚楽園大仏の五倍、屋上にはヘリポート付き──くらいしかない。
マジモンの金持ちじゃねーか。
「なに君 ストーカー?」
角を曲がったところで待ち伏せされていた。昼食グループのパッツン女だ。メカクレ女もいる。
たしかに頼みは聞いてくれたらしい──警察にも五月にも伝えていない。
……次回があれば口止めするときは「誰にも言わないでくれ」と頼むことにしよう。
「何、君。ストーカー? 用があるならアタシらがきくけど?」
パッツン女はそう言いながら詰め寄ってきた。
モルフォ蝶がモチーフだろうか、綺麗なリボンだ。
……ここで足止めされてしまえば間違いなくゲームオーバー。
「お前たちじゃ話にならない。どいてくれ」
多少強引だが押し通るしかない。
「しつこい! 君、モテないっしょ? 早く帰れよ」
……想定以上に刺さる。
切りそろえた前髪、毛先までツヤツヤのロングヘア。容姿補正付きで放たれる悪口の破壊力は勘弁してほしい。
このまま強行突破したら、俺のメンタルが先に沈む。
ならば──言葉でこじ開けるしかない。
「帰るも何もここ僕の家ですけど?」
さすがに苦しいか……?
「えっ、マジ? あっ、ごめん……」
拍子抜けするほどあっさり道を開けてくれた。
……意外とチョロいなこの子。それとも今日は俺のパッションが冴えているのか?
「全く、失礼な人たちだ」
そんなことを嘯きながら歩く俺の前にメカクレ女が立ち塞がる。
──二人目の門番のお出ましだ。
「……焼肉定食焼肉抜き。……ダイエット中?」
どうやら食堂での注文を聞かれていたらしい。
……しまった。
タワマンの住人のランチ代が200円なわけがない。
「あ! アンタ。嘘つき! 警備員さーん!」
騙されたことに気づいたパッツン女が騒ぎ出した。
まずい、走り抜けるしかない。
なんとか五月に追いつかなくては。
頼む、間に合ってくれ!
エレベーターに乗り込むアイツの後ろ姿が見えた。
正真正銘、ここがラストチャンス。
ここであいつに謝れなかったら家庭教師の話がなくなっちまう。
「い……ハァッ、五……」
ガシャン
無情にも俺の目の前でエレベーターのドアが閉まった。
後ろからさっきの二人が追ってくる。
別のエレベーターを待つ時間はない。
……ここまでなのか。
いや―まだ階段がある。
思い出せ。
中野五月は何階のボタンを押していた?
腕の角度、視線の高さ、鏡に映った手の動き
──すべては見えていた。
……嫌な予感は大抵当たる。
「マジかよ」
──最上階だ。
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もう何階だ。何段目だ。汗が目に入って前が見えない。
全力で階段を駆け上がる。
エレベーターには5組は乗客がいた。4回は止まるはずだ。
全力で駆け上がればなんとか間に合うかもしれない。
段々と腹が立ってきた。なぜ俺がこんなところで汗だくになって走らないといけない。
全部あいつのせいだ。
怒りを燃料にして階段を駆ける。
赤の他人の顔色を窺う居心地の悪さも──あと4階
見透かしたような眼のアイツに絡まれたのも──あと3階
しつこい単純バカのアイツに付き纏われたのも──あと2階
何を考えてるのか分からないアイツに警戒されたのも──あと1階
正義ヅラのアイツに因縁つけられたのも──最上階!!
全部……こいつのせいだ!
「待て!」
声が届いた。
間に合った。
エレベーターを出た五月が、ピタリと足を止める。
「なんですか? 私に何かご用ですか?」
キッと睨みつけてくる。
「き……昨日は──」
舌がもつれる。
謝罪なんて慣れていない。
らいはの笑顔が脳裏をかすめる。
……しっかりしろ、俺。
絶対に、このチャンスをものにしろ。
「用がないなら失礼します」
無情にも背を向け歩き出す五月。
まずい、このまま行かせたら全てが終わる!
「待ってくれ!」
考えるより先に体が動いていた。
慌てて腕を伸ばし、通路を塞ぐように五月の前に立ちはだかる。
勢い余って、彼女を壁際に追い込む形になってしまった。
──図らずも、壁ドンの体勢だ。
至近距離で睨みつけてくる五月の瞳には警戒の色が強く浮かんでいる。
「今から家庭教師の先生が来ます。どいてください」
強い口調で拒絶されるが、家庭教師の話題を向こうから切り出してくれたのは僥倖だ。
「それ俺のことだ」
目を見開き、何を言われたのかわからない、といった態度の五月。
「お前の家庭教師、俺」
自分を指さしながらもう一度伝えた。
耳から入った情報を五月の脳は理解したくないようだったが……無駄な抵抗だったらしい。
「だ、断固拒否します」
辛うじてそう返してきたが、怒りより戸惑いが勝ってしまったのだろう。
さっきまでの険悪さはすっかり影を潜めてしまった。
ここで畳みかけろ──上杉風太郎。
「昨日のことは全面的に俺が悪かった。謝る。お前が嫌だって気持ちもわかる。
でも俺は絶対に諦めない。だから──」
息を整えて、ハッキリと伝える。
「──今日から俺がお前のパートナーだ」
言い切った。俺はできることはやり切った。
あとは五月の反応に賭けるしかない。
「……信じられません。どうして、あなたみたいな人が──私たちの家庭教師だなんて」
五月の表情から読み取れるのは不信と絶望のみ。
信頼なんてひとかけらも浮かんじゃいない。
ダメか──
すまんらいは、情けない兄を許してくれ。
……今こいつ、何か変なことを言わなかったか?
私たち──?
ポーン。エレベーターの到着音。
最上階は一室しかないはずなのに──
見覚えのある女子が四人、ぞろぞろと降りてきた。
「あれ? 優等生くん! 五月ちゃんと二人で何してるの?」
──食堂で話しかけてきたショートカット女。
「いたー!! こいつがストーカーよ!!」
──マンション前で待ち伏せしていたパッツン女。
「ええっ、上杉さん ストーカーだったんですか?」
──更衣室までついてきたうさぎ女。
「二乃、早とちりしすぎ」
──何を考えてるかわからないメカクレ女。
「……なんで、こいつらがここにいるんだ」
「決まってるでしょ。住んでますから」
五月が溜息混じりに言う。
「──同級生五人でシェアハウス?」
走り疲れて頭が回らない。ブドウ糖が足りない。
「違います、私たち、五つ子の姉妹です」
神経が灼ける音がする。
それでも限界を超えて稼働し続けた俺の脳は、
ついに──
一つの答えを導き出した。
夢だ──これは夢に違いない。
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俺はあの瞬間を大人になってからも夢に見る
とんでもない──悪夢だ。
原作一話の構成、改めて読むと本当に綺麗ですね。
ねぎ先生、やっぱりすごい。
できるだけ自然な形で、二乃ルートに着地できるよう進めていきます。