箱庭ゲーム『生息演算』こぼれ話   作:キノント

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『座標固定において異常が発生しました』

『素体生成において異常が発生しました』

『リカバリー機能による補填を行います』



仮定記録:海辺スタート(ベリーハード)

 

 

 天気は快晴。気温も心地良く、身体に吹き付ける潮風の香りも丁度良い。

 

 

「あとは釣れさえすれば最高なんだけど……」

 

 

 海辺の岩群に腰掛け、お手製の釣り竿で勝負を挑むこと数十分。

 水面のウキは波に揺られるばかりで、うんともすんとも言いやしない。

 

 どうやら丸坊主記録は更新される運命にあるらしい。

 ここまで来ると本当に魚が居るのかすら疑わしいところなのだが、それに関しては先日実物を見せてもらったという事実が存在するため、純然たる俺の実力不足ということになってしまう。

 

 ……いや、釣りに実力は必要だろうか? これは単に運の問題なのでは? 

 

 

「……まぁ、運も実力の内ってやつか」

 

 

 訳も分からないまま見知らぬ海辺で目覚めて早二週間。

 運良く通りかかった少年──ミヅキさんに助けてもらえなかったら、俺は今頃野垂れ死んでいたことだろう。

 

 二週間も有れば、ここが地球とは全く異なる場所だということは嫌でも分かる。

 現にミヅキさんが見せてくれた魚も、殆どが骨のようで可食部が見当たらず、どうやって生きているのかすら分からないような生物だった。

 

 本来ならいろいろとパニックを起こすような状況では有るのだが、不幸中の幸いと言うべきか、今の俺にはここに来る前の記憶がほとんど無くなってしまっていたため、何故だかすんなりと現状を受け入れることが出来てしまっている。

 

 

「ポイントを変えよう。……あっちの方が釣れそう」

 

 

 釣り竿を引き上げるが、エサにしたミミズのような生物はその形を保ったままであった。

 つつかれた痕跡すら見当たらないので、この場所にはきっと魚が居ないのだろう。

 

 そうやって釣り場所を変えること数回。

 

 記録は結局、更新されてしまった。

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

「はい、どうぞ。召し上がれ」

 

「……いただきます」

 

 

 日もすっかりと落ちた夕暮れ時。

 何も入っていないボロボロのバケツを片手に、俺は近くの浜小屋へと帰った。

 

 この一帯も昔は漁業なり何なりで人が住んでいたのだろうが、俺の目に映るのは荒廃しきった建物の残骸だけである。

 

 比較的に見て隙間風が少なそうだったこの小屋を勝手に拠点としているけれど、ここ数日は慣れも有って快適さを感じ始めている。

 

 こういう時に記憶が無いのは大変便利だ。

 自分が元々住んでいたであろう住居を、事有る毎に引き合いに出さなくて済むのだから。

 

 

「すみません、ミヅキさん。全然お役に立てなくて……」

 

「気にしなくていいよ。誰にだって向き不向きは有るんだから」

 

 

 本日の夕飯は、よく分からない植物のサラダ、正体不明の肉が入ったスープ、そして硬いパンもどきである。

 

 食材調達はもちろんミヅキさん。調理担当ももちろんミヅキさん。

 オリジムシとかいう最強生物が出現した時の戦闘担当もミヅキさん。

 

 この状況の自分を何と呼ぶのか、俺は知ってる。『お荷物』というやつだ。

 ……かたじけない、って、こんな時に使う言葉なんだと思う。

 

 そんなことを考えながらミヅキさんの方をこっそり見やれば、彼は俺の食事の様子を楽しそうに観賞していた。

 

 

「焦る必要は無いからね、『ミズキ』。僕も急ぎの用事が有る訳じゃ無いし、しばらくはこうやって君に付き合ってあげられるから」

 

 

『ミズキ』というのは、俺の名前だ。

 いや、正確には本当に俺の名前であるかどうかは、思い出せないため定かでは無いのだが、名前が無いといろいろと不便だろうということで、ミヅキさんが付けてくれたものである。

 

 とても不思議な事に俺とミヅキさんの容姿は、眼と髪の色以外は双子と言っても差し支えないほどに似ている。

 それも有って発音が同じ名前にしてみたと、ミヅキさんは言っていた。

 

 見知らぬ土地、見知らぬ世界。

 付近に人気の無い荒廃した場所、そこに何故か通りがかったミヅキさん。

 どういう訳か親身に接してくれて、それに加えて容姿も似ているというまさかのオマケ付き。

 

 ……怪しいことこの上無い。

 だとしても、彼に頼らざるを得ない。

 

 いつもニコニコと楽しそうにしているミヅキさんだけど、目的も何も知らない以上、本心では何を考えているのかさっぱり分からないのが怖いところだ。

 これだけお世話になっているので、大抵のお願い事なら二つ返事で了承する所存ではあるけれど、それを言葉にするにはまだ怖さが勝る。

 

 

「────大丈夫。君は僕が守ってあげる」

 

 

 こちらをジッと見つめるミヅキさんは、優し気な声音でそう言った。

 

 理由不明の善意は、正直に言うと……怖い。

 

 俺は小さな声で「ありがとうございます」と、感謝を述べることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────特殊個体と不明個体を確認。指示が有るまで監視を続行します』

 

 




≪Tips≫

『共感を喪失』

『新たに復元を獲得』


―― 海辺スタートルート ――

大まかな追加ヒロインは、エーギル陣営・アビサルハンター陣営・ミヅキ。

共感能力を喪失しているため、コミュニケーションが少し困難に。

代わりに補填として『復元』を獲得。治療アーツに特化しており、成長と条件次第ではシーボーン化した生物すら元の状態に戻せる。

最初は強い興味から接していたが、アビサル関連で主人公から庇われ、その後も自身を代償に危害が及ばないように奮闘する主人公の姿を見て、ミヅキくんの興味は深い■■へと変化していくルート。

ノアへの帰還は早めになるが、主人公の状態悪化も早め。

オリジムシにはやっぱり勝てない。

家族の事を思い出すことは出来ない。

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