箱庭ゲーム『生息演算』こぼれ話   作:キノント

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オーナー交友関係録 音

 

 

 ノアの住民達────特に主要な役職に就いていない一般住民には、数日に一度の休養日が設けられている。

 

 これは現代的価値観に則ったオーナーからの完全週休二日制の要望に対し、オーナーとノアのために少しでも役に立ちたい住民代表達との、激しい議論の末に落ち着いた結果である。

 余談だが、この休養日は主要な役職に就いている者には適用されないため、役に立ちたい一心である一部の住民に対しては向上心を強く刺激するものとなっており、現役職者の異常な連勤数も含めてオーナーを悩ませる種の一つにもなっている。

 

 そしてその休養日だが、同じ趣味に費やす住民が多い。

 楽器の演奏、楽器の作製、作詞に作曲、歌唱に合唱など、とにかく音楽に関係がある趣味だ。

 

 これはオーナーが『生息演算』時代に、リターニアに立ち寄ったことに起因している。

 今までただただ生きることだけを目標に過ごしていた人々は、オーナーとノアに出会い日々の糧を得ることに成功した。

 しかしその後しばらくの間は移動するノアと共に慣れない仕事をこなし、新しい環境に適応するのに精一杯であった。

 

 そんな彼等にようやく時間的な余裕が生まれたのが、リターニアへの訪問である。

 

 フロストリーフ達数名がヴィセハイムを訪れている間、リターニア領地内のため資源採取という仕事が出来なくなってしまった住民達は、道具の手入れや住居の清掃程度しかすることが無く、それすらも無ければオーナーとノアに、日頃の感謝の祈りを捧げるしか無かった。

 

 そのような状況の中で、リターニアで活動している著名な音楽家──ツェルニーすら唸らせる音楽が、突如としてノアに鳴り響いたのである。

 

 それはそういったモノと無縁であった住民に、どれほどの衝撃を与えただろうか。

 当時、一時的にノアへと身を寄せていた青年──クライデが音楽の知識を持っていたということもあり、住民達の一部は彼に演奏方法などを師事し、貿易によって齎された楽器を手に取り、初心者向けの教本を読み込んだ。

 

 それから年月が経ち、その一部の住民達の演奏は、もしもコンサートを開けばそれなりの料金を取れるほどのものへと成長を遂げた。

 これは住民が初めての『趣味』に没頭したが故の結果であり、オーナーの『音楽は好きです』という発言で最大級のブーストが掛かったためである。

 

 オーナーはこの音楽が得意な住民達で、せっかくだから何か出来ないかを、ここしばらくの間考え続けている。

 

 

 

「そう言えばオーナー、この『ノアコンサート』とやらは定期的に開催しているのか?」

 

「いえ、実は今回が初開催なんですよ。興味が有りますか? エーベンホルツさん?」

 

「ああ、とても興味深い。それに丁度こちらへの滞在中に開催されるようだ。時間を見繕ってクライデと共に鑑賞することとしよう」

 

「あはは……お手柔らかにお願いします」

 

「ウルティカ伯爵としてではなく、ただの一個人であるエーベンホルツとしての鑑賞だ。オーナー、心配する必要は無い」

 

 

 

 その考え続けた結果が、『ノアでのコンサート開催』である。

 ノアではイベント事が少ないため、住民達の楽しみの一つになってくれたら嬉しいという目論見も有り、定期的な開催も当然視野に入れている。

 

 初回かつ身内のイベントということもあり、オーナー含め住民達は外部への積極的な告知などはしていなかったのだが、リターニアとの定期交流で来訪したウルティカ伯爵──よく使用する偽名の『エーベンホルツ』で呼んで欲しいとオーナーは頼まれている──は、ノアの各場所で貼られている告知ポスターからその情報を得たようであった。

 

 ノアの談話室でお互いの近況を交えた雑談の中、ふと思い出したように聞いて来たエーベンホルツに答えながら、オーナーはコンサートの概要をまとめた資料を彼に手渡す。

 

 

「……メインとは別にノアの子供達による合唱に加え、外部の有志による参加も有り、と」

 

「演奏だけでなく歌唱も許可してます。問題が無いよう選曲と歌詞にはチェックをさせてもらいますが……」

 

 

 コンサート自体はノアの上部で行われ、開催までの時間はフリースペースとして数か所の演奏場所を確保している。

 更には音が外部に漏れて演奏が混じらないようノア謹製の透明な特殊素材で各周囲を囲っており、オーナーの知識からノアで作成した現代最高峰の楽器をレンタル用として複数配備するという手厚さだ。

 

 なおこの配慮はオーナー独自のもので有り、開催二日前に特殊素材に関してはミュルジス、最高峰の楽器に関してはフレモントからお叱りを受けることになるのだが、今のオーナーにはそれを知る由も無い。

 

 

「フリースペースは私やクライデが演奏しても良いだろうか?」

 

「長時間の独占とかで無ければ全然構いません。もし良ければ有志の枠も有りますよ」

 

「…………いや、今回は遠慮する。次回が有れば検討しよう」

 

 

 既に申し込みのあった有志枠の人達──ロゴスとScout、PhonoR-0、フロストノヴァ、アルトリア等々──の顔を思い浮かべながらオーナーはエーベンホルツへと提案したのだが、少し考え込んだ後に彼はその提案をやんわりと断る。

 

 そしてエーベンホルツは少々の申し訳無さを滲ませながら、オーナーへとささやかなお願いを口にした。

 

 

「オーナー、もし可能であれば私とクライデに、防音対策がされている宿か施設を紹介して貰えないか? フリースペースといえどしっかりと練習をした上で臨みたい」

 

「分かりました。…………でも、そんなに堅苦しいものじゃ無いですから、気楽に演奏して大丈夫ですからね?」

 

 

 数日後の開催を両者共に楽しみにしながらオーナーとエーベンホルツの雑談は続き、途中からクライデも加わることで更に時間は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノア 某所

 

 

「────恐れ多くも私達のコンサートは『ノア』様の御名前を賜りました。これがどういう意味か、皆様分かりますね?」

 

「指が砕けることが有ろうともコンサートは成功させます」

 

「腕が折れることが有ろうともコンサートは成功させます」

 

「肺が破けることが有ろうともコンサートは成功させます」

 

「……よろしい。では今日も練習を始めましょう」

 

 

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