炎国の首都、百灶。
人々が騒がしく夜を過ごしていく中、一角に建てられた小さな飲食店に、オーナー達は居た。
「────どんどん食べて良いからね! おかわりも有るよ!」
普段は客で賑わう店内も、本日は四人での貸し切り状態である。
テーブルは中央に纏められ、数え切れないほどの種類の料理が、どうやっても食べきれないであろう量で、綺麗に並べられている。
ユーの声を聞きながら、オーナーは目の前の大皿を見た。
香辛料が効いた美味そうな香りに思わず顔が綻び、その表情を彼等は見逃さない。
「オーナー、貴公の好みだとこれが口に合うだろう」
「ありがとうございます、チョンユエさん」
「オーナー、こちらは以前美味しいと言っていた食材が使用された料理です」
「そちらも頂きます、ジーさん」
オーナー、チョンユエ、ジー、ユー。
そしてテーブルの片隅にそっと置かれた数個の碁石。
彼等は料理を囲むように座っているがその位置は非常に偏っており、全員がオーナーの居る場所へと寄ってしまっている。
末弟の料理に舌鼓を打ちつつも、その視線や意識はオーナーに向けられることが多く、当の本人であるオーナーは、若干の居心地の悪さを感じてしまっていた。
そもそも今回オーナーが百灶を訪れたのは、炎国の皇帝──『真龍』に招かれたためであるが、それを知った歳の代理人兄弟達が、護衛や里帰りなど個々の理由によって同行を求めてきた次第である。
なお今回の訪問について歳の代理人姉妹達は運悪く知る機会を逃しており、後日オーナーは穴埋めの如く彼女達に連れ回される運命に有り、兄弟達は理不尽に怒りをぶつけられる事になるのだが、現時点では知る由も無い。
また本日の食事会の開催にあたり、ノアのメンバーも司歳台の役人達も、『何事も起こらないように!』と強く願いながら固唾を呑んで監視と護衛を行っているのだが、『共感』に感知されて邪魔になってしまわないよう十分な距離を取っているので、こちらもオーナーが知る由が無いことであった。
「と、ところでっ、今日は本当に私も参加して良かったんですか? こういうのって『家族水入らず』で行うものですよね?」
そういった事情や未来に起こる出来事を知らないオーナーは、過剰にお世話してくる彼等を止めるために、疑問を投げ掛ける。
「…………もう食べちゃってるし、今更じゃない?」
「それは確かにユーさんの言う通りですけど……!」
ユーの正論に返す術も無く、呆気無くオーナーは引き下がるしか無かった。
そうして大人しく食事を再開するのだが、オーナー以外の胸中には似たようなモノが生まれていた。
(……そう言われればまだそうだったな)
(……遅かれ早かれというものでしょう)
(……うん、そっちの方も今更だよねぇ)
三人はお互いに顔を見合わせ、何を考えているのかを瞬時に察し、それぞれが笑みを零す。
そして碁石は何かを言いたげに、カタカタと揺れていた。
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「ではオーナー、貴公はどういった人物を好むんだ?」
感じていた居心地の悪さも何時の間にか霧散し、美味しい食事も終盤を迎えてデザートに差し掛かった頃。
その質問は、チョンユエさんの口から急に飛び出して来た。
思わず料理を吹き出しそうになったのを何とか堪え、落ち着いて会話の流れを思い出す。
切っ掛けは俺の好みに関する話だった。
それは単純な趣味嗜好とかのものだったはずなのだが、『ノアの住民達が噂している容姿の好みも本当ですか?』というジーさんの質問で、全ての歯車が狂った。
確かに俺は『色素が薄い長髪の長身女性』に心惹かれることは有るが、外見よりも内面が大事だということを淡々と、そう淡々と説明したのだ。
それに対するチョンユエさんの質問が、先のものである。
何だかんだ食事の時間も長く続いている。俺は酒で酔うことは無いが、リィンさんほどでも無い限り、チョンユエさん達は違うだろう。多少は酔ってしまっているに違いない。
こちらをジッと見つめる三対の瞳に圧力は無く、純粋な疑問だけが宿されていた。
好奇心とかが含まれていない分、余計に性質が悪い。
……だが侮るなかれ。
俺とてこの世界で無為に生きてきた訳では無い。
このくらいのことならば、平然と答えることが出来るのだ。
まずはちゃんと予防線を張って、変に特定や推測されたりしないように一般的な内容にして────。
「そうですね、これは性別に関係無くなのですが……」
「ご存じの通り私には戦う力が僅かしか無いので、守ってくれるくらい強い人が好きですね」
「それと様々な人と交流する事が多いのもあって、そういった事が得意な人にも憧れますよ」
「後は食事が私の楽しみの一つなので、料理が得意な人に好感を抱くことが多いと思います」
「……大まかにするとこんな感じですかね」
自分で言いつつも条件に合う人物を考えてみたが、合致する人が多過ぎる気がする。
男性だとパッと思い付くのはグロ将軍、シルバーアッシュさん、ヤーカさんだろうか? 意図せずイェラグ縛りになってしまった。女性だと…………思い付くけど止めておこう。考えるだけで恥ずかしくなってしまう。
そこでようやく、俺は気付く。
三人が何故か、深く考え込んでしまっていることに。
だが俺が声を掛けるよりも先に、三人の方に動きが有った。
下がっていた視線は直され、こちらへ向けられた顔には微笑みが携えられている。
含まれている感情は安堵と嬉しさ、それと……納得だろうか? 珍しいやつだ。
「……これからも私達をよろしく頼むぞ、オーナー」
「えっと……私の方こそよろしくお願いします……?」
そしてよく分からないままに、チョンユエさんの言葉で締められてしまった。
……まあ悪い感情は向けられていないみたいだし、問題無いだろう。
食事もとても美味しかったし、機会が有ればまた参加したい所存だ。……チョンユエさん達が次回も誘ってくれれば、だけれども。