「皆さん、流石の私も学びました。今日の私は一味違います」
「……オーナー、寝言は寝てから言うものだ」
「オーナー、眠いの?」
「フロストリーフ殿、ケオベ殿……。オーナー殿の話を一先ず聞いて差し上げるのが、人情というものでござろう」
とある日のノア内部、俺の普段の住居にて。
俺の部屋には突然の招集に応じてくれたフロストリーフ、ケオベ、サガの三名が集まっていた。
集めた理由はただ一つ。ここ数日の間に思い付いたノアの新たな生成品の出来栄えを見てもらい、それらを評価してもらうためだ。
今までの失敗ややらかしを踏まえた上で取り組んだので今回は少し自信が有ったのだが、発表の第一声から駄目出しのようなものを受けてしまったため早くも心が折れそうである。
あと……サガ? 人情、ってことは優しさとかそういうことだよね? あんまりフォローになってないからね?
……だが彼女達の評価も妥当と言えば妥当である。今日はそれを覆させて頂こうじゃないか。
「えーと、まずはこの飴玉────」
「美味しそう! いただきまーす!」
気を取り直し、机に置いていた缶から摘まみ上げた緑色の飴玉は、反応する間もなくケオベの口へと消える。
というか飴玉だけでなく俺の指ごと舐られた。
……何でフロストリーフとサガは俺の指を見詰めているのだろう?
食品として生成したものだから大丈夫ではあるのだが、何でもかんでも食べようとするのは頂けないので、ケオベの友人としてちゃんと注意をして欲しいところである。
「……かえふ?」
「そのまま食べても大丈夫です。次からは一言先にお願いします」
「んっ!」
俺の視線に気付いたケオベは、その口を妖しく開き、真っ赤な舌の上で飴玉を転がした。
そして許可を出すとその舌を引っ込めて満面の笑みを浮かべる。……ケオベが喜んでるならまあいいか。
「簡単に言うと医療キットの食品版です。注射式や錠剤式ほど効果はありませんが、栄養やカロリーが取れるようにしたので非常食代わりにもなります」
「……戦場では重宝しそうだな。一個でどれくらい保つんだ?」
「大体成人男性の一日分くらいですね」
「ふむ、ケオベ殿。本日の夕飯は量を減らした方が良いでしょう」
「っ?!」
悲しそうに耳をペショリと伏せるケオベの隣で、元クルビア少年兵であり傭兵経験も豊富なフロストリーフの眼差しは真剣そのものだ。自身の経験があるからこその反応だろう。
少しの後、フロストリーフはようやくその口を開く。
「すまない、こんなにまともなものが出て来るとは思わなかった。とても良いものだと思う。ケルシー先生に伝えても怒らないはずだ」
評価基準が怒るかどうかみたいになっているのは多少引っかかるところだが、フロストリーフの反応は上々のようで安心した。
元々アイディアだけは有ってノアで食品を作ると味を度外視することから一度置いておいたものだったのだけれども、ノアへの要望を時間を掛けて細かく調整した甲斐も有り、普通の飴玉程度の味にすることが出来た代物である。
滑り出しは順調。このまま他の生成物も良い評価を貰えることを祈るばかりだ。
「……ところでオーナー? まだ予備は有るか?」
「はい、いくつか残ってますよ」
「味も確認したい。私にも一つくれ」
そう言って、フロストリーフは小さく口を開けた。
それっきり、彼女が動く気配がない。
…………別に手が塞がっている訳でも無いのだから、自分で取れば良いのではないだろうか?
そんなことも考えたが、『共感』が哀しみを訴えかけて来たので今回は早々に折れることを決めた。
なるべく唇に触れないよう細心の注意を払いながら、飴玉を彼女の口へと転がし入れる。『共感』は何故か少々の不満を感知した。……何が駄目だったのかさっぱり分からない。
「…………サガ?」
「拙僧は仲間はずれでござるか?」
そういう訳で、フロストリーフと同じようにサガにも飴玉をあげることになった。
そして彼女からも同様に、少々の不満を感じることになる。
本当に何? 誰か正解を教えて欲しい。
「────すっごく寝やすい!」
「尻尾や角が有る種族の方に配慮した超低反発マットレスです。特殊な素材を使用しているので耐久性・柔軟性・吸湿性・速乾性もバッチリですよ。元々の体積の範囲内なら自由な変形も可能なので、これ一つでほとんどの種族の方をカバー出来るはずです」
「オーナーも来て? 一緒に……寝よ?」
「ケオベ? ちょ、力強っ──」
「なるほど。確かに今まで使用したものとはまるで違うな……」
「多種族対応かつ尻尾だけじゃなく髪や角の手入れにも使える万能クリーム……ですけど、そんなにすぐ分かるものなんですね」
「ああ、肌質や毛質により合う製品を常日頃から欲しているからな。尻尾が終わったら髪の方も頼む」
「それは構いませんが……。あの、どうしてお二人もフロストリーフの後ろに並ぶんですか?」
「ふむ、これはどういった場合に使用する品物でござるか? 傍目には厚手の湿布のようにしか見えませぬが……」
「これはですね、こうやって体の何処かに貼ると……こんな感じで覆った部分ごと透明になるカモフラージュパッチです」
「これは何とも不思議な……! 見えぬのに触れた感触だけがありまする」
「治らない古傷や体表に発生した鉱石病の形跡を簡単に隠すことが出来ます。鉱石病患者の人が、不躾な視線を受けることなく好きな服を着れるようになれば良いな、と思いまして……」
その後もいくつかの生成物を三人に見てもらったのだが、大体八割くらいは好評だった。
今までが二割くらいだったことを考慮すると、今回は俺の大勝利と言っていいだろう。
ノアの新たな交易物が増えてくれそうで何よりである。
今夜はよく眠れそうだ。
「こんなに便利な物、本当に頂いて良いんですか? オーナーさん?」
「……私、オーナーさんからいろんなものを頂いてばかりですね。今はまだお役に立てませんが、いつか必ず……必ず、オーナーさんのお力になります」
「だから、楽しみに待っていて下さいね?」
「────あ、それとオーナーさん。今度の休日、お時間を頂けますか? パパとママがオーナーさんにぜひお会いしたいと言ってて……」