箱庭ゲーム『生息演算』こぼれ話   作:キノント

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『座標固定において異常が発生しました』

『素体生成において異常が発生しました』

『リカバリー機能による補填を行います』




仮定記録:サーミスタート(ハードモード)

 

 

「誰かー! 助けてくださーい!」

 

 

 ちらほらと雪が漂う極寒の森の中。

 狩猟用に仕掛けられていたのであろうくくり罠に引っかかってしまった俺は、足にきつく巻かれたワイヤーに成す術も無く地べたへと座り込んでいた。

 

 これがトラバサミのようなものでなかったことは不幸中の幸いなのだが、このままではいずれ緩やかな死を迎えることに違いは無い。

 罠が有るということは狩人が確認しに来るはずだという一縷の希望を抱いて、俺は時折声を張り上げて助けを呼んでいた。

 

 

「…………何でこんなことになったんだろ」

 

 

 いつも通り家でゲームをしていただけのはずなのに、気付けば俺は森の中に居た。それが二日前の話。

 ドッキリにしては手が込み過ぎているし、そもそもそんなことを仕掛けられるような立場でも身分でもない。

 

 最初は呑気に「……北海道?」なんてことも思っていたのだが、その考えは即座に否定されることになる。

 

 

 まず一つ。風が吹き雪も降っているというのに、寒さを感じるどころか暖かさすら感じるという点。

 地面の雪に触れれば即座に溶け始め、凍った樹木の枝も解凍出来てしまったことから、俺自身が熱を発しているのでは? という推測に至った。

 

 出所も何も不明で疑惑は尽きないというのは置いておくとして、何とも弱い特殊能力ではなかろうか? 

 シチュエーション的には絶対必要な能力だけれども、ここから離れることが出来た後に不要になる未来しか見えない。

 

 そして二つ目。俺の容姿が明らかに変わっているという点。

 凍った池を覗き込んだ際に気付いたのだが、そこに映ったのは見たことの無い顔だった。

 

 柔和な雰囲気を携えた、『赤目白髪』の青年。

 身長は元の俺より少し低く、辛い社会人生活で濁ったそれとは違って瞳には妖しげな輝きを残しており、二十歳未満を思わせるような幼い見た目だった。

 俺は他人事のように、どこか近寄り難い不思議な雰囲気を纏った容姿だな、と感じた。明らかに人間のそれでは無い尖った耳も、その雰囲気に拍車をかけていた。

 

 最後の三つ目。とにかく森の中を歩いていた際、視界の奥に見たことも無い動物や、凡そ生物とは思えない存在を発見した点。

 別に足が六本も八本も有るとかそういったものではないが、角がまるで岩のような巨大な動物も、恐竜染みた見た目の生物も、膝の高さほども有る蜘蛛も、俺は生きていて見たことが無かった。

 

 そして何より時折姿を見た、顔の部分に黒いインクのようなモノを纏った存在。

 近付いてくるソレに恐怖で身動きが取れなかったのだが、目の前に来る頃にはその『黒いインクは霧散していた』。

 顔がちゃんと見えるようになったその生物は角がまるで岩のような動物と同じ種のようで、辺りをキョロキョロ見回した後、元気に何処かへと走り去っていった。

 

 

 ……後はまあ周りの植物とか岩石から囁くように声が聞こえてきたりもするのだが、意味の分からない言葉だし、こちらは極限状態における幻聴のようなものだと思っている。

 

 

「………………誰か、居ませんかー? 助けてくださーい!」

 

 

 以上の事から、俺はこの場所が地球の何処かでは無い、と結論付けるに至った。

 黙ってジッとしていても仕方無いので森の中を彷徨い、自身の熱で雪や氷を溶かして水を確保し、時折見付ける毒があるかもしれない小さな木の実や果実を食して今日まで生きている。

 

 ……このまま誰かに見付けてもらえなければ、俺は死ぬのだろうか? 

 未だに現実味を感じないが、徐々に衰えていく体力は俺に非情な現実を突き付けてくる。

 

 

 家に帰ってゲームがしたい。

 お腹一杯にご飯が食べたい。

 家族に、もう一度会いたい。

 

 

 脳裏に浮かぶ悲惨な未来から目を逸らして、俺はただただ声を張り上げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「……声が聞こえるな」

 

 

 サーミで狩人として活動しているサルカズ──ティフォンは、不思議な岩角獣を森で見た。

 明らかにこちらと視線が合っているにも関わらず、弓を向けてもまるで動くことなく、何かを訴えかけるようにこちらを見つめ続けている岩角獣を。

 

 そして弓を下げて近付けばその分後退する岩角獣の姿を見てティフォンは、『わたしを何処かに連れて行こうとしている』ことに気付いた。

 

 木々の間を抜けその姿を追って行ったティフォンはしばらくの後、叫び声を聞くことになる。

 

 『言葉の意味は分からなかった』が、切羽詰まったその声音に助けを求めていると判断し、彼女は声の出所へと素早く駆け付けるのであった。

 

 




≪Tips≫

『変換の内、翻訳能力を喪失』

『新たに浄化を獲得』


―― サーミスタートルート ――

大まかな出会うヒロイン順は、ティフォン・アルゲス・シモーネ・ミュルジス・タルラ・アリーナ・コシェルナ・フロストノヴァ・ケオベ…………。

翻訳能力を喪失しているため、コミュニケーションがより困難に。

代わりに補填として『浄化』を獲得。周囲の崩壊値を継続的に減少させ、身体に近い程減少速度が向上する。

生体からの崩壊体は浄化後に生命活動を継続出来るが、死体からの崩壊体は浄化するのみ。

オリジムシにはやっぱり勝てない。

家族ともやっぱり会えない。

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