箱庭ゲーム『生息演算』こぼれ話   作:キノント

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『エネルギー基準値が一定値を初めて下回りました』

『動作確認を兼ねて特殊プログラムを実行します』

『対象の情報を選別中……』

『対象の情報を選別中……』

『対象の情報を選別中……』

『選別した情報をエネルギーに変換します』

『対象からの抵抗を確認』

『プログラムの実行を中断します』




オーナー混濁追想録①

 

 

「────…………あれ?」

 

 

 目を開いた俺の視界に飛び込んできたのは、見覚えの無い天井だった。

 

 枕と布団のような感触が伝わってくることから自分がベッドに寝ていることは分かったのだが、それ以上の情報を得るために身体を起こそうとしても、俺の身体はまるで鉛か何かに変わってしまったかのように、一向に動いてくれそうな気配が無い。

 首を動かすことすら難しく、視界からは天井と照明、端にちらりと見えるカーテンのようなものしか確認出来なかった。

 

 ……これは、どんな状況なのだろう? 

 

 普通ならパニックを起こしそうなものなのだが、予想に反して自分が冷静であることに俺は驚く。

 

 そして身体を動かす方法をアレコレと試行錯誤している途中で、横からカーテンの開く音が聞こえた。

 

 

「……無事で何よりだ、オーナー」

 

 

 こちらを見下ろすように覗いてきたのは、目元以外をマスクとフードで覆った見るからに怪しい人物。

 だがその声音は安心や安堵に満ち溢れていたので、見た目ほどヤバい人では無いのだろう。

 

 そんな感想を抱いていると、マスクの人物の目元が険しそうに歪んだ。

 

 

「反応に違和感があるな……。ケルシー、来てくれ!」

 

 

 今度は俺が安心する番だった。

 

 どうやらこの人物はケルシー先生と知り合いであるらしい。

 同名の他人である可能性も頭をよぎったが、知らない人物と並ぶように覗き込んできたその顔を確認して、俺はそれが杞憂であったことを知る。

 

 目の隈が出ている辺り、いつものごとく無茶な働き方をしているのだろう。

 ロドスは何時になったらその辺りがホワイトになってくれるのか? 労基署が存在すれば一発アウトであることは間違いない。

 

 

 ……ロドスって何だ? 

 あと、労基署って何だ? 

 

 

 確かに頭に浮かんだ言葉なのに、その意味が分からない。

 まるで思考に靄がかかっているかのようで、晴らそうとすればするほど具合が悪くなる気がした。

 

 頭が、痛い。

 

 

「ドクター、これは……」

 

「ああ、間違いなく何かしらの異常が起きている。精密検査用の機械を準備しよう」

 

 

 二人が慌ただしく動く様子が、聞こえてくる音だけで分かる。

 

 この人、ドクターって名前なのか。

 何だか聞き覚えが有るような無いような……? 

 

 痛む頭を無視しつつ、思考の靄をゆっくり払う。

 靄の向こうに見えたのは、とある記憶だ。

 

 そうだ、あまりにも印象的で、あまりにも強烈なあの光景を忘れるはずが無い。

 

 それは『インスタント麺を口の中で直接調理するドクターの姿』! 

 

 思い出した────! 

 

 

 

 ────こんな記憶でっ!? 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 眠っていた病室と人気の無い廊下を行き来し、リハビリしながら過ごすこと数日。

 あれからドクターとケルシー先生による聞き取りを何度も受けた結果、いくつかの事実が判明した。

 

 まず俺が眠っていたのは、『サーミ』という場所に向かうために『ノア』を長期間離れたことで、戻って来た際に、以前にも一度起こったというエネルギー補充による気絶が再度起こってしまったためらしい。

 これについては元々予想がされていたらしく、想定よりもずっと早い二週間ほどで俺は起きたのだとか。

 

 そして俺の身体に起こっている異常についてだが、特殊な記憶の混濁ではないかと、ドクターとケルシー先生の意見が一致している。

 これは俺がドクターの事を思い出せたことに起因しており、記憶喪失とはまた違った状態の可能性があると二人は言っていた。

 

 真偽は不明だが、現状はその推測に縋るしかない。

 縋るしかないのだが……この記憶の混濁に関しては、状況が好転する様子が今のところ見えてきていなかった。

 

 

「人物リストとか映像を見ても何も思い出せないんだよなー……」

 

 

 この数日、リハビリの傍らで何種類かの方法を試してはみたのだが、そのどれもに結果が伴わなかった。

 医療系は専門であるドクターとケルシー先生もお手上げ状態で、現状残された方法は一つとなってしまっている。

 

 

『──では第一回目の治療を開始する。通信回線は開いておくが、基本的にこちらからは干渉しない。問題が発生した場合、すぐに声をあげてくれ』

 

「分かりました、ケルシー先生」

 

 

 それ即ち────直接対面という荒療治である。

 

 ドクターの事は本人がその場に居る時に思い出せたという唯一の一例があるため、この方法に可能性が無い訳ではない。

 ……というかこれが駄目となると本当に手詰まりになってしまうので、何かしらの成果は出したいところである。

 

 病室の一角に用意したイスに座り、俺は扉が開くのを待った。

 

 ケルシー先生によれば最初に来るのは────。

 

 

「────オーナー、久し振り。身体はもう大丈夫?」

 

 

 ────『ミヅキ』という人だ。

 

 

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