箱庭ゲーム『生息演算』こぼれ話   作:キノント

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ノア住民教育講義記録

 

 

 ────皆様、こんにちは。教育区画で教師長の一人を務めているビガロと申します。

 この度晴れて住民の一員となった皆さんと、今後は接する機会も増えていくと思いますので、この場を機に覚えて頂けると嬉しいです。

 

 ──そこの方。ええ、はい、そこの貴方です。僕の顔を見て『随分と若い……』と、思いましたね? 

 ここでは年齢に関係無く、意欲と能力と信頼さえあれば、誰でも要職に就くことが可能です。僕はオーナー様とノア様の庇護下に入って長い方なので参考にし辛いと思いますが、数ヶ月ほどで要職に抜擢された方もいますので、興味が有るのならば話を聞きに行ってみて下さい。

 

 もちろん、そこに感染者と非感染者の隔たりは有りません。

 

 感染者だからといって不当な評価を受けることも無ければ、非感染者だからといって特別な評価を受けることも有りません。

 また、皆様の中には過去に何かしらの地位や名誉を授けられた方も居るかもしれませんが、ここでそれらが意味を成すことも有りません。

 今までに培った、あるいはこれから学んでいく経験や技術や知識だけが、皆様自身の『力』になってくれます。

 

 

 オーナー様とノア様の下、僕達は平等です。

 ……この言葉を忘れないようお願いします。

 

 

 ──さて、この後は講師の方々からここでの生活における注意点やオーナー様との接し方などについて説明をしていただく予定なのですが……、この時点で質問が有る方は居ますか? 

 はい、遠慮をする必要は有りません。僕がこの場で答えられるものならばこの場でお答えしますし、難しそうであれば後日正式にお答えします。

 

 ────『オーナー様とノア様のどちらに、より敬意を払うべきでしょうか』……? 

 

 ……………………オーナー様もノア様も、敬意の多寡で態度を変えるような方ではありません。

 

 ですが、今の質問は非常に危険です。

 これに関しては異なる派閥が多数存在していますので、貴女には講義終了後の熱烈な勧誘が予想されます。

 

 すみません、こればかりは僕にはどうにも……。

 ……頑張って下さい。

 

 

 

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 ────そうですね、皆様にはこれから居住区に移ってもらいます。

 居住区には区画毎に区長が居ますので、彼等の指示に従ってください。

 

 住民となった以上、仕事にも従事して頂きます。

 得意不得意を見極めるために最初の内は様々な仕事を経験して頂きますが、その後にどういった道に進まれるかは自由です。

 もちろん突出した成果を出すような方が居ればこちらから声をお掛けすることもありますが、断って頂いても問題はありません。

 

 ──なるほど。

 

 どうやら肢体不自由による不安の声が多いようですね。

 ご安心ください。オーナー様とノア様から治療薬を賜っています。

 

 

 ええ、そうです。

 こちらは通常では流通していない最高級品質の物です。

 

 

 ……目の色を変えた方が何人かいますね? 

 ここに居る何名かの方々は、本当はご家族の治療を求めてやって来た──私達は知っていますとも。

 

 言葉を重ねますが、ご安心ください。

 オーナー様とノア様はご家族分も用意してくださいました。

 この場に呼ばれている方は皆、私達住民からの調査とオーナー様からの審査を無事に通った者達のみです。

 その時点で既に、この治療薬を受け取る資格があります。

 

 ……私への感謝の言葉は不要です。

 その言葉は後日改めて、オーナー様とノア様にお伝えください。

 

 ────どうやら少々騒がしくなってしまったようですね。

 落ち着くまで質問を受け付けます。どなたか何か聞きたいことはありますか? 

 

『オーナー様とノア様には気軽にお会い出来るのか』……? 

 

 ノア様に関しては、過ごしている内にお声を聞くことも有るでしょう。

 何か特別にお伝えしたいことが有るのならば、本部に設置している祠を伺ってください。

 気軽に、とまでは言えませんが、非常に幸運なことに会話をして頂けることもあります。

 

 オーナー様に関しましては…………。

 

 ……………………。

 

 ……とても自由な御方ですので、不意に現れては私達にお声を掛けてきます。気軽と言えば気軽でしょう。

 その溢れんばかりの神々しさによって変装は意味を成していませんが、こちらが気付くと落ち込まれますので気付かないように努めてください。

 

 いえ、態度だけではなく心の中でも思ってはいけません。

 オーナー様は私達の心の内などお見通しですので、やはり落ち込まれてしまいますから。

 

 

 

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 ……警備部門の仕事は主に二つ。

 ノア様の周辺警戒とオーナー様の身辺警護だ。

 

 そもそもノア様は、我らなど取るに足らないほどの防御能力を備えている。しかしその優しさ故に、積極的な排除は好まれていない。

 ……全くもって許し難いことに、その優しさにつけ込んだ輩がノア様に手を出してくることも少なくないのが現状だ。

 

 御身への掘削器具の使用、ノア様の子とも言える『リトル・ノア』様の誘拐、無許可での調査機械の設置など、挙げればキリが無い。

 罪人共は残さず捉えて罪を償わせているが、罪を犯す前に……ノア様が被害を受ける前に対応することが、警備部門の理想だ。

 

 次にオーナー様の警護に関してだが……。

 

 詳細は機密事項のため省かせてもらうが、我らのような大恩を感じている者が傍に居ること自体が、オーナー様に多大な負担を掛けることが判明している。

 そのためある程度の距離を保った上で、数名で連携を取りながら警護するのが基本的な形となっている。

 

 オーナー様は非常に優しい。そしてその代償であるかのように………………身体能力に優れていらっしゃらない。

 

 ……これは単なる噂に過ぎないが、オーナー様はオリジムシに負ける、と言われているほどだ。

 この表現が不敬であることは間違いない。噂を流布した者を見付けた際には相応の処罰を与えるところだが、これを心掛けとして覚えておいて欲しい。

 

 

 一見脅威の無さそうなモノであってもオーナー様にとっては危険となる可能性が有る。

 オーナー様の安全に尽力し如何なる想定をもした上で、全身全霊で以って警護に当たるべし、と。

 

 

 諸君と共に、ノア様とオーナー様の役に立てる日が来ることを願っている。

 

 ────話は以上だ。

 

 

 

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 ────まずは特別講義への参加、ありがとうございます。本部で秘書課に勤めています、リーヴァです。

 秘書課のみなさんは普段はそれぞれの区画で仕事をしていますが、私は秘書課の専属をさせていただいてます。

 

 ここに居る秘書希望のみなさんも、最初の内はそうやって兼任の状態になります。

 オーナー様の秘書としての仕事、区画での仕事……どちらも疎かにすると秘書の順番を回してもらえなくなるので注意してください。

 

 ──はい、そうですよ。

 順番は私が決めてますので、私が、回しません。

 

 職権乱用、ですか? 

 私がオーナー様の秘書を務めるのは、週に一回から二回程度です。

 それにオーナー様の周りには優秀で綺麗な方がたくさん……たくさん居ますので、そういった事が原因で秘書の仕事が出来なかった人には、私の順番を譲ったりもします。

 ……私利私欲に走るようなことはしません。そんな邪な思いを抱いたら、オーナー様に嫌われてしまいますので。

 

 私より上手く出来ると思う人は、ぜひ頑張ってみてください。本当にそうであれば、私の立場も喜んでお譲りします。

 

 オーナー様のためになることが、一番ですから! 

 

 …………さて、みなさんも既に気付いていると思いますが、今日は特別講師の方が居ます。

 オーナー様と接する以上、やはり円滑なコミュニケーションが一番必要になりますので、ごく短期間で親交を深めた経験を持っているこの方をお呼びしました。

 

 ────Wさん、こちらへどうぞ! 

 

 

 

 

 

「────オーナーに関することでお願いがあるって言われて、たまたま暇だったから付いて来てあげたのに、こんなことをさせられるなんて聞いてないわよ、リーヴァ?」

 

「ええ、もちろん。最初に聞かされてたら断ったに決まってるじゃない」

 

「あのねぇ……」

 

「そもそもあたしはノアの所属じゃ無いし、オーナーとの付き合いも仕事の一環よ。ロドスの方から仕事を請けているだけで、そこに他意は無いわ」

 

「────ちょっと待ちなさい」

 

「今、殿下にも報告するって言ったかしら?」

 

 

 

 

 

「────それは一ヶ月以上前の話でしょ? オーナーの最近の好みは濃い味よ。あたしも肉じゃがの味付けは少し濃い目に変えたわ。……肉じゃがを知らないの? ふーん、オーナーから聞いてないのね? レシピくらいは書いてあげるから精々頑張りなさい」

 

「────あんた達、オーナーが種族特有の器官に興味を持っていることくらいは流石に知ってるわよね? ……何でそれも知らないのよ。特に気にしないなら角でも耳でも尻尾でも触らせてあげなさい。メチャクチャ喜ぶわよ、あいつ」

 

「────待ちなさい。何をどう考えたらそんな話になるわけ? あたしがオーナーとそんな仲になるはずないじゃない。あんな甘ちゃん、もっと相応しい相手が別に居るでしょ。想像した事すら無いわ」

 

 

 

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