嫁がクラバで死にそうなので、料理で肥やして生存目指します   作:隼河宗

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筆が乗ると捏造が捗ります。名前の由来だったり 後から設定が出てきた場合は書き直しますのでご了承ください。


約890kcal「チーズ入りたこ焼き/たこ焼き/豚汁」

宇宙世紀0082。サイド6、イズマコロニー

 

 地球の日本を似せて作ったコロニー……否、空調設備の不調から生まれた極端な気候が日本に似ていると言われ名前の由来にもなった。そのためイズマコロニーは、コロニーという完璧な空間であるにも関わらず夏は蒸し暑く、冬は肌寒い。

 

 ロスレスの電線で太陽光を受けているとはいえ、わざわざエネルギーの無駄を垂れ流す過ごしにくいコロニーに集まってくるような人間は、よほどの物好きか、日系人か、東アジア系の人間が中心なのかもしれない。

 

 さて、そんなエネルギーの無駄遣いで再現された蒸し暑い昼。かき入れ時が終わり、僕は夕食と明日の食材が足りないことに気づいた。食堂を任せたシイコと常連のお婆さんに笑顔で見送られた僕は、ガレージに止めてある小型EVに乗り込み仕入れに出発した。

 

 イズマ公団の地下鉄に沿って車を走らせ四十分、僕はイナクジラの魚市場で魚介を見る。転生して二十数年。転生前は日本でもこのような市場に行ったことはある。コロニーという人工的な構造物の中であっても、市場という場所の活気は変わらないのだ。

 

「親父さん、このタコいくら位ある?」

 

「おうマサ坊、ええとこ来たな。シイコちゃんとは仲良くやってるか?」

 

 と声をかけた顔馴染みの親父さんに揶揄われつつ、今日の魚を見る。一通り目を通してみると 普段は所狭しと並べられている輸送用の箱が随分と少ないように感じる。

 

「なんというか、今日は少ないな……?不漁か?」

 

「あーまあ……な」

 

 親父さんが苦々しそうに新聞を見せると……

 

 

軍警と難民衝突 輸出入「見通し立たず」

 

「この通りだ。生産コロニーとのサプライチェーンが完全に途切れちまってな……」

 

「あぁ、よく見ればブリや鮭なんかのここらへんで養殖してるのしか無いな」

 

「一応こういうのもあるんだが……」

 

 親父さんが目をやった先を見ると、段ボールに入ったパッケージが見える。手に取ってみれば、旧世界風の気の抜けたフォントでバイオ蛸と書かれていた。

 

「うげ、バイオ蛸か……」

 

「お前さんはバイオ蛸嫌いだろうがシイコちゃんは養殖もどっちも好きだったろ。もうすぐ3、4年が経つが、タコの価格なんて落ち着くことないからな」

 

「そろそろ生産再開したっていいだろ?」

 

「バカ言え、養殖の蛸を生産してたサイド2のはな……」

 

「そういやあそこが生存圏最大規模の養殖蛸の生産拠点だったな……」

 

 ガンダム世界に転生してから二十数年が経つが、喜びよりも恐怖の方が勝っている。敵対していたコロニーとはいえジオンは数千万の人と一緒に街を落としたのだ。そして僕はただの一般人。謙遜でも何でもなく、守られる側の人間でしかないのだ。

 

 そしてこの世界では地球連邦軍が宇宙圏から手を引いたおかげで いまだに複数の品目の生産の再開の見通しは立っていない。

 

「バイオ蛸だったら、イズマコロニー内の食品工場内で生産できる。価格も安定しているから最近は食べるやつが多いぞ」

 

「バイオ蛸や合成の塩サバはあんまりいい思い出がないんだよなぁ。縁起悪いし」

 

「縁起?……ったく、おめえが好き嫌いしてんじゃねえ。シイコちゃん蛸食べたがってたぞ」

 

「!?」

 

 しばらく熟考した末、バイオ蛸と店用にその三倍の値段の養殖蛸を見繕った後、いくつかの魚介類を買って軽EVに載せる。ふと振り返ると、同業者がどんどんと車を止め市場に集まっていくのが見えた。名前を見るに、夜から営業を始める居酒屋などが中心だろう。前世を含めて50年ほど見慣れた市場の風景だ。だが僕は違和感を感じずにはいられない。

 

「ここはやっぱり少し気持ち悪いな……」

 

『全く磯の香りがしない』魚市場を後にした僕は、いくつかの商品を買った後、いくつかの市場を回り店に戻った。

 

 

 うちの店は朝昼は僕とシイコが、夜は知り合いを雇ってレストランを営んでいる。最初は朝から夜までぶっ通しでやるつもりだったのだが、久しぶりに会って避難民になっていた同業者の友人の頼みを断ることはできなかった。気立てのいいやつだからここの町の人ともすぐに打ち解けて上手くやってくれている。

 

 店の方は顔を出さなくていいとまではいかないものの、自分たちの夕飯を店とは別に作って食べる時間は十分にある。正直、効率でいえば間違いなく、余り物などを食べた方がいいんだが、嫁のお腹をふにふににするためには適当な余り物では歯が立たないのだ。

 

 

 さて、夕暮れのキッチンに、ごま油と豚肉がジュージューと炒められる香ばしい音を響かせる。

 

 僕は鍋を振ってゴボウと人参を丁寧に炒め、土っぽい香りを立ち上らせながら、シイコがレストランから戻るのを待っていた。

 

 カウンターでは、たこ焼きの鉄板がチリチリと温まり、生地の香りが漂い始める。マサが鍋に昆布と鰹節のだしを注ぐと、シューッという音とともに白い湯気がふわりと広がり、豚肉のうま味と根菜の甘みが溶け出す。こんにゃくをサイコロ状に切って加え、ジャガイモをそっと沈めると、鍋の中でグツグツと小さな泡が弾け始めた。

 

 僕は味噌を茶こしでゆっくり溶き入れ、木べらでスープを混ぜながら「シイコ、絶対喜ぶな」とつぶやく。今のところ彼女は戦争に戻りたいなどよりも 戦場の食事と今の食事を対比して思い出した時に涙ぐんでいる様子も見られる。

 

 泣くほど嬉しいのか、それとも彼女のMAVの……

 

 考えつつも青ネギを刻むシャリシャリという音がキッチンに響く。長ネギをパラリと散らし、たこ焼きの鉄板に生地を流し込むと、チーズの濃厚な香りがキッチンに混ざり合い、温かな夕食の準備が整った。ちょうどその時、レストランに繋がるドアが開き、シイコの「お腹空いちゃった〜」という声が聞こえてきた。

 

 さ、今日も彼女に喜んでもらえるかな。

 

 

 

 

 

 仕事の疲れを引きずりながらドアを開けると、シイコの鼻をくすぐったのは、たこ焼きの香ばしい匂いと豚汁の深いうま味の香りだった。

 リビングの食卓には、マサが仕上げた夕飯が温かく並び、電灯の光に照らされて湯気が揺れている。中央では、丸い物が鉄板の上でジュージューと音を立て、こんがり焼けている……。シイコは驚きの声を上げる。

 

「たこ焼き!?蛸高かったんじゃない?」

 

「親父さんに好きだって聞いたからね。なに、バイオ蛸だから心配いらないさ」

 

「そうだったの……でもあなたバイオ蛸は苦手だって……」

 

「あぁ、そこら辺も解決したんだ。よかったら食べて見てみて」

 

 鉄板からチーズ入りたこ焼きを皿に盛りつける。丸い表面はこんがり黄金色に焼け、中身がとろりと溢れ、ソースの甘辛い艶が電灯の光にキラキラと映る。鰹節が湯気でふわふわと揺れ、青のりの鮮やかな緑がチーズの白に彩りを添えている。

 

 濃厚なチーズの香りが鼻をくすぐり、たこ焼きの香ばしさと混ざって、シイコのお腹がまたクゥと小さく鳴る。彼女は箸で熱々のたこ焼きをそっとつまみ、チーズが糸を引く様子に目を奪われる。

 

「もしかして……モッツァレラチーズ?」

 

「そうそう」

 

 

 シイコは慎重に口に運んだ。表面のサクッとした歯ごたえが弾けると、ふわっとした生地が舌の上でほろりと崩れ、モッツァレラの濃厚なコクがじんわりと広がる。タコの弾力あるうま味が噛むたびにジュワッと溢れ、ソースの甘辛さと味噌のほのかな塩気が後味を締める。

 

「どう?」

 

「記憶の中にあるタコよりも、何倍も美味しい」

 

「やっぱり、バイオ蛸の独特の風味は、養殖とも違うんだ。モッツァレラチーズだと消えてほしくない風味も消えるかもしれないと思ったけど、入れる順番を工夫してね……」

 

 シイコはマサの言葉に耳を傾けた。一口ごとに、身体の重さが溶けていくような温かさが胸に広がり、彼女は次のたこ焼きに手を伸ばした。隣の豚汁の湯気と、たこ焼きの鰹節が揺れる食卓は、まるで小さな幸せの舞台のようだった。

 

(やっぱり、この人と結婚してよかったなぁ)

 

 




落ち着け、そいつはただのムチムチふっくらさせたいだけの変態だぞ。

不漁……コロニー世界では絶対なくなっていそうな概念。言葉の意味が変わって、競りに負けた。供給業者がバックレた結果入らなくなった、などの意味に使われてそう
縁起が悪いバイオ蛸と塩サバ(合成)……別作品。それ単体に意味はないが並ぶと放射能汚染が心配になる
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