嫁がクラバで死にそうなので、料理で肥やして生存目指します 作:隼河宗
宇宙世紀0079
僕───スガイ・マサが最初に彼女を見たときの印象は、クールな女性だと思った。目は大きくて、髪は短め、オマケに戦うときはいつもの3倍増しで怖い。僕が最後までモビルスーツに乗ることはなかったが、彼女の模擬戦やシミュレーションの声はよく聞いていた。それに何より、
……誰の話かって?ああ、シイコのMAVの話だよ。そう、暴徒から僕を救ってくれた恩人でもある。
確か、入港した戦艦へのヘイトが溜まってたって話だったか。まさにその日、僕の運命が変わったと言っていい。
市民の憎悪はどうしようもなかった。ならばと市民の暴動を避ける為に、コロニー時間の深夜に船に食糧を送る調整が図られた。しかし、少数の住民は目敏く気付き、僕らに殴りかかってきた。
「おい連邦軍!飯持ってきてんだろ!」
「娘に食わせる分だけでもいいんだ!」
……いや、ちょっと語弊があったな。最初は、多くの住民は僕らや戦艦に群がって配給を求めだしたんだ。だけど、徐々に過激になっていき、しまいには僕らに殴りかかるようになった。
周りのやつらはうまく逃げた。連邦の戦艦の中に入って助けを求めたやつもいたみたいだが、残念ながら、僕は何もないところで転ぶという才能の持ち主でもある。
案の定こけてしまって、それでパニック状態の市民に叩かれたりするなど、まあひどいもんだったさ。それをそう。なぜかは知らないけど、ちょうどその場にいた連邦軍のあるパイロットが助けてくれたんだ。よく通る声で市民の動きを一瞬止めた後に、僕の首根っこを引っ掴んで、ね。
それがシイコのMAVだった。
その後、戦艦に助けを求めに入ったやつは、市民が落ち着いたらそのまま降ろされていた。
が、僕は残念ながら市民に標的と認識されてしまい、詳細は省くが僕はコロニーから去ることになった。速やかに補給を済ませた後に、戦艦は僕を乗せて、早々に戦線に戻ることになった。
「誠に申し訳ない。連邦兵士とはいえ、上の失態に巻き込んでしまった」
「艦長さん。そんなにまでしていただかなくても……」
こうなった理由も艦長さんから少し聞いた。軍機に触れるから機密指定解除まで言えないが、曰く連邦の上級幹部の方で食料の横流しがあったようだ。
そうならないように、裏で調整をしてる人間がいたらしいのだが、会談のために宇宙に上がった際に、運悪く爆殺されてしまい管理が行き届いてないのだという。
「まあ私はこの艦じゃ何もできない人間ですから、しばらくこのままで大丈夫ですよ」
まさか連邦軍の一兵士とはいえ、ほぼ実践経験のない人間を戦艦に乗せるだなんて、あり得ないと思った。船の中の人は全員ピリピリしてたから、僕の処遇を聞ける雰囲気じゃなかった。ただ、多分コロニーに降ろされるかして、別の仕事に従事するもんだと思っていた。
それがどうだ?終戦までその戦艦にいることになるとは全く思いもしなかった。民間人や一般人、役に立たない人間を戦艦や揚陸艦に乗せるだなんて普通はありえないからだ。……まあ、この一週間後から、僕はこの戦艦のコック……タムラと一緒に彼らにご飯を提供することになるんだがね。と、話が逸れた。無事に飛び立って五時間後くらい経ったころ、一人の女性が空き部屋に案内してくれるというのだ。僕は彼女について行った。
「あなたが私のMAVに助けられた兵士?」
「あぁ、ってことは君もパイロットか……」
「シイコよ。彼女があなたを助けたってことは、あなたから何か感じたのかもね。彼女は何か不思議な力を持っているから」
「不思議な力ねぇ」
無機質な戦艦の廊下で、幼顔の少女に空き部屋に案内されていた際、彼女は不意にそう言ってきた。そう。彼女がシイコだった。彼女の言う不思議な力っていうのは何か全くわからなかったが、その時の俺は不安やら何やらでそもそも話半分も聞いていなかった。
しかし、僕の食事を持ってきたり、案内をしてくれてるうちに彼女が、MAVに特別な力があると感じていることが分かった。
「じゃあタムラさん、お疲れ様です」
「おうマサ、お疲れ様」
それから1ヶ月後、窓のない調理室からようやく解放された僕は、仮眠を取りに自分の部屋に戻っていた。ようやく艦長から任された給仕や配給に慣れてきた時、シイコと彼女のMAVが歩いているのが見えた。
『ほう、なるほど……』
シイコがMAVに並々ならぬ感情を抱いていることは、その表情から分かった。しかし、それが恋情なのか、親愛なのかは分からなかった。ただその時、幸せそうなシイコと彼女のMAVを見て、なぜか不安な感情を覚えたのを覚えている。
その時、シイコの隣にいたMAVがコチラを見て、何か合図をしたようだった。なんだ?と思ってそのまま立ち止まっていると、シイコと別れた彼女がこちらへ手招きしている。
そのMAVとは、給仕や他の雑用でたまに会うときに話す程度だった。2人で何の話だろうと、不思議に思っていた。
彼女は挨拶もなしに一言、僕に「シイコを頼む」と言った。
「何のことですか?」
彼女はソレには答えず、僕をじっと見るだけだった。
『彼女は何か不思議な力を持っているから』というシイコの言葉を思い出すと、ふと、思い至った。彼女は、自分が死ぬことを分かっているのではないかと。
馬鹿らしい考えだと思ったものの、目の前の女性はまるで一世一代の大勝負かのように僕の目をじっと見つめている。彼女は僕の返事を求めている。ようやく観念した僕は、こういった。
「僕は、ただのコックです。私にできることといえば、皆さんを空腹から助けることだけです」
それもあなた方の助けがあってこそですが、と言い終わらぬうちに彼女は笑顔でいう。「それでいい」
「あの子にお腹いっぱい食べさせてあげてね」
それが僕と彼女が最後の会話だった。彼女は数日後、赤い彗星によって落とされた。
宇宙世紀0082。サイド6、イズマコロニー
「へぇ~じゃあマサさんって、戦艦でシイコさんと会ったのね」
……と、全てを目の前の女学生、ドロシーに話すわけにはいかない。要点を掻いつまんで話すだけで一時間はかかった。
まだ雨は降っている。引き戸の向こうではまだざあざあと音が聞こえている。湿度が高いジメジメした空間で、料理屋のテーブルを挟んで時計回りにドロシーとタムラ、そしてこちらに僕と、僕の反応を楽しんでニコニコしているシイコの順に座る。
およそ3/4が元軍属の思い出話は、どれが軍機でどれが軍機じゃないのかをそれぞれで確認した後にどこを話そうかと作戦会議。話が破綻しないように筋道を立てる様は、多分だが僕らが軍にいた時以来の真剣そうな表情だったんじゃないかというほどだった。
なお、結局僕が考えていた話は全くと言っていいほど採用されず、代わりにタムラとシイコから見た僕の印象と出会いに終わってしまったが……
「えー、でも、マサさんがシイコさんに告白したって話、なかったじゃない。」
「あー……それは又おいおいね……」
「えー!ケチ!」
と、ドロシーが僕に話の続きを急かそうとした時、不意にタムラが口を挟んだ。
「そういえばマサさん、軍から出るときに渡された配給って、今日が期限ではございませんか」
「あっ」
「えぇ!?なになに?軍の配給?食べてみたい!」
「あら?ドロシーさんって、配給は食べてたはずよね?」
「うーん、ウチは結構お金があったからか、配給じゃなくて普通の料理だったから」
「……聞かなかったことにしておくよ。いくら、この料理屋さんが知り合いしかいないからって、そんなこと言ってたら、どうなるか分からないからね……」
『近年では、ジオンが払い下げ始めたモビルスーツを用いた窃盗や破壊活動、デモが相次ぐなど……』
タイミングよく聞こえてきたラジオからは戦争が終わったとはいえ、まだこの時代が決して平和な時代ではないということを思い出させる。立ち上がりラジオを切った僕は、僕から連邦の非常食兼配給である乾燥糧食を四箱持ってきた。
「はいこれ。言っておくけど、あんまり期待しない方がいいよ」
「これが……軍の人たちがずっと食べてたやつ?」
「いえいえ、いつもは普通の料理ですが、戦闘中だったりどうしても非常な事態にはこういうものを食べていたんですよ」
「そうなのね〜」
「チョコ、チーズ、ポテトがあるけどどれが食べたい?」
僕が徐ろに箱を開けると、チョコ、チーズ、ポテト味の3本が姿を現す。薄い人工的な匂い――チョコの甘ったるさ、チーズの淡い塩気、ポテトのぼんやりした香り――がわずかに漂うのみ。正直、食堂で出すものじゃないが、身内しかいないのだ。どうせならと皿に出して三人の前に置く。
シイコがチョコ味を手に取ると、茶色い棒はプラスチックのような光沢を放ち、表面に小さな気泡が覗く。そっと鼻に近づけても、人工的な甘みの匂いはかすかで、戦場のレーションを思い出させる。
ドロシーもチョコ味をガリッと噛む。硬い食感が歯に当たり、パサパサと砕ける感触が舌を覆う。味は単調な甘みと、どこか化学的な後味。噛むたびにカリカリと音が響き、一言。
「お、美味しくないわ……」
糧食を食べたことがないドロシーの言葉に頷く元軍人三人。
「元々この製品は、兵器などを作る軍事工場を転用した場所で作ったものだからね」
「あそこの工廠は調理用の機器も作ってたんですが、まあひどい出来で……」
「あの工廠で作った部品だけ何故かすぐ壊れてしまうことが多くて……」
「どんな工廠よそれ……」
言葉を失ったドロシーは諦めて口にものを入れる作業に戻った。
シイコはチーズ味に手を伸ばす。薄黄色の棒は、かすかに塩気のある匂いを放つが、期待したチーズのコクはなく、噛むとパサッとした粉っぽさが広がる。
「うーん、戦闘後の空腹なら我慢できるけど…」と呟きながら、シイコは妊娠中の食欲に押されて次を頬張る。ポテト味は、ほのかな塩気と人工的な芋の風味が混ざり、噛むほどに味が消えるような頼りなさ。四人のガリガリと噛む音に響く。しばらくは我慢していた。
……が、一番最初にダウンしたのは僕だった。
「悪い。やっぱ辛えわ……」
「しかしマサさん、栄養値は申し分ないですよ。タンパク質も炭水化物もバランス良いですからね」
眉間にシワを寄せながらも食べる手を止めないタムラ。タムラは自分が思い出さなくてもいいことを思い出してしまったことで、皆が苦しみながら食べているのに責任を感じているのか、よければ自分が全て食べますよなどと言っている。
しかし、賞味期限を忘れて今日まで引き延ばしてしまった僕にも責任がある。僕も負けじと口に詰め込む
ドロシーはチョコ味をガリッと噛み、「タムラさん、栄養はいいけど、味が…ね?戦場じゃ仕方ないけど、サイド6じゃ物足りないのだもの!」と言いたげに頬を膨らませる……実際は口の中の水分を取られたのか、微妙な顔でこっちを見るだけだった。
……三十分後。ようやく食べきったドロシーは、感想をあらかたしゃべった後、微妙な顔をしたまま、また来るわ、と帰っていった。
それを見送った僕含め3人は、重い足取りで夕方の店を開く準備を始めた。なんせ、彼女に出してないだけで、店の裏には大量にあるのだから……
「そういえばあなた。チーズ味って、もっと塩っぱくなかった?」
「……昔から、ずっとこの味だったよ」
わりい、やっぱ眠みぃわ…
誤字脱字や意味の通らない文章などがあったら優しく教えていただけるとありがたいです。いつも眠い中書いてるので…