DR_inflection   作:柚柚

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1章 裁判編

真っ赤な扉__いや、近づいてみると、それはエレベーターの扉だった。

他のどの出入口よりも分厚く、金属特有の冷ややかな光を帯びている。

 

扉の上には、無意味に煌めく羊の意匠。

まるでこちらを見下ろして笑っているかのように、黒と赤の瞳が光を弾いた。

 

モノシープの甲高い声がまた頭に響く。

 

 

モノシープ『さぁ、オマエラ。勇気を出して乗り込んでくださいね。地下の裁判所が、オマエラを待っているんですから!』

 

 

まるで遊園地のアトラクションを勧めるスタッフのような調子。

だが、これは舞台の入口ではあるのだ。

 

沈黙の中で、最初に一歩を踏み出したのは幕吏だった。

 

 

幕吏「...行くしかないだろう。この舞台は降りることが許されない。」

 

鳴佳「そう、ですよね...」

 

 

その言葉が合図となり、俺たちは次々と赤い扉の中へと吸い込まれていった。

 

中は広めな普通のエレベーター。

だが、床に敷かれた絨毯は妙に柔らかく、壁には見慣れぬ文様が彫り込まれている。

羊が螺旋を描くように無数に刻まれ、その中心には夢見ヶ浦学園のエンブレムが描かれている。

 

最後の一人が乗り込むと、無言のまま扉が閉まる。

 

エレベーターが軋むような音を立て、底の知れぬ闇へと落ちていくのを見てるだけの時間。息を吸って、吐く音だけが残った。

 

重力が足を掴み、引きずり下ろしてくる感覚。

エレベーターは落ちているのに、血の気が全て足元に集まっていくようだ。

 

やがて、降下は止まる。

重たい機械音と共に、扉が開いた。

 

 

 

目の前に広がるのは異様な光景だった。

 

まず目を奪うのは、天井を覆うステンドグラス。

極彩色の光が床に散り、模様を浮かび上がらせる。

だがその模様は羊の群れや、どこか歪んでいる狼の姿で、祝福というより呪いめいている。

 

 

信乃陀「なんという悪趣味な...」

 

禍賀「え~でも結構綺麗だね。もっとこう、厳かな感じを想像してたんだけど。」

 

 

床は白と黒の大理石調で磨き抜かれ、中央に並ぶのは、立ち位置を示す台座。

 

唯一の椅子は、俺たちの正面にあった。

壇上に据えられたそれは、どこか中世の王が腰掛ける玉座を思わせた。

深紅の布張りに黒い木材の縁取り。背もたれは天へ伸び、両脇には羊の角を模した装飾。

本来なら威厳を象徴するはずのその姿も、この場では「嘲笑」と「支配」の象徴にしか見えなかった。

 

そこに悠然と腰を下ろすモノシープは、場違いなほど無邪気な笑みを浮かべている。

 

 

モノシープ「ハイはい。オマエラは早く位置についてね!学級裁判の簡単な説明をするから!」

 

比良坂「んなことより、ありゃなんだよ...」

 

 

比良坂が首をしゃくらせ、視線を促す。

その方向には、モノクロの姿にピンクの×点がついた遺影。

その奥にいる穏やかな表情は、紛れもなく穂堂だった。

 

 

モノシープ「ありゃ? あー、穂堂くんですよ、遺影ってあるでしょ?それですね。」

 

比良坂「いや遺影は知ってんだよ、なんであんのかを聞いてんの。」

 

モノシープ「もー、仲間外れですか?可哀想でしょ?だからずっと傍に置いていくんです。優しいですねーさすが学園長。」

 

 

モノシープは玉座に腰を沈め、背もたれにだらしなく身を預けながら、楽しげに声を響かせた。

 

 

モノシープ「それじゃあ学級裁判のルールを説明しますね。オマエラのやることは一つ、この中にいるクロ、つまり犯人を探し出すこと。議論して、証拠を出して、嘘を剥がして、最後に投票する。ね、シンプルでしょ?」

 

薬袋「...投票、」

 

モノシープ「そうそう、最後は多数決です。正しくクロを当てられたら、そのクロは残念、オシオキを受けちゃいます。でも多数決で間違えちゃったら?クロは卒業し、それ以外のシロがまとめてオシオキ、ですね。」

 

繋守「はーい学園長ー! オシオキってなんですかー?」

 

モノシープ「ふふん、いい質問ですね。オシオキっていうのは処刑のことですよ。もっと分かりやすく言えば死にます、ってことですかね。クロを当て損なったら、クロ以外が死ぬ。それがルール。簡単ですねー。高校生がプレイするには簡単すぎて欠伸が出るんじゃないですか?」

 

 

あまり場の空気にそぐわない繋守の声、そして返されるモノシープの笑顔。言葉は軽いのに、響いた意味は重すぎた。

"死ぬ"なんて誰も笑えない。息を飲む音だけが、異様な沈黙の中に散った。

 

 

静寂「ろくでもないな。」

 

モノシープはその悪態を喜ぶように両蹄を叩いた。

 

 

モノシープ「じゃあ説明はおしまいです。たっぷり捜査時間あげたんだから、もう準備万端ですよね?それじゃあ始めましょうか。ワックワクのドッキドキの第一回!」

 

 

玉座に座る羊の瞳が、照明を受けてきらりと光った。

 

 

モノシープ「学級裁判の開廷です!」

 

 

天井のステンドグラスに反響する甲高い声。

悪趣味なまでに神聖な光景の中で、俺たちは互いの顔を見やり__

学級裁判が幕を開けた。

 

 

人を信じるために、人を疑うんだ。

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

コトダマ一覧

 

 

 

 

《モノシープファイル1》

 >被害者は超高校級のボディーガード、穂堂涼介。

  月無の個室内にて発見された。

  死因は失血死、どうやら刃物で刺されたようだ。

 

 

《割れた花瓶》

 >月無の部屋にあった。破片と共に花が何輪か落ちて、絨毯を濡らしている。

 

 

《争った形跡》

 >月無の部屋はぐちゃぐちゃになっていた。これは元からにしてもぐちゃぐちゃすぎる気がする...。静寂曰く、抵抗かもみ合いの跡だと言う。

 

 

《穂堂の死体》

 >ピンク色の染みが腹部にある。だが、肝心の凶器が、穂堂の腹にも、辺りにも見当たらない。ポケットには月無の部屋の鍵が入っていた。

 

 

《穂堂に握られたメモ》

 >穂堂が持っていたもの。頑なに離そうとしない手から無理やり取ったが、千切れてしまった。そして血が染みこんでいて読めない。

 

 

《ダイイングメッセージ》

 >Mと書かれている。Mの上には三日月マークが掠れた状態で残っていた。もし何か消された字があろうと、犯人への手がかりには違いない。穂堂が残してくれたものなのだから。

 

 

《遠く落ちていたベルト》

 >穂堂のズボンのベルトは、何故か穂堂の死体から離れた場所に落ちていた。

 

 

《開封済みの凶器セット》

 >月無の部屋の凶器セットは中身がかき乱されており、何かを探していたような形跡があるが、アイスピックが紛失している。

 

 

《穂堂の部屋》

 >ベッドはシワひとつないし、シャワーも使った形跡がない。誰もここで寝ていないのだろうか。

 

 

《部屋交換》

 >どうやら穂堂は事件前日の夕方、月無に部屋交換を申し出たらしい。その証拠に、月無は穂堂の部屋の鍵を持っていた。

 

 

《穂堂の日記》

 >穂堂の部屋のメモは、日記替わりにされていた。穂堂の流れるような達筆じみた文字は、いつ見ても綺麗だ。メモの内容も穂堂らしい、優しく堅い決意が滲んでいる。

 

 

《消えた包丁》

 >厨房から包丁が一本消えている。帳簿にも一本消えていることが記されていた。

 

 

《夜時間の規則》

 >夜時間中は食堂に侵入できない。

 

 

《銃声のような音》

 >夜時間、信乃陀は銃声のような音を聞いたと言う。しかし、銃なんてどこかに置いてあっただろうか...

 

 

《横払いの血飛沫》

 >男子トイレの個室の扉や壁には、横に伸びた血飛沫があった。

 

 

《男子トイレに落ちていた包丁》

 >扉の入口からかなり離れた場所に落ちていた。包丁にはあまり血が付着していない。それは全く付着していないというわけでもなく、どこかで洗ったか、拭ったりしたのだろうか。

 

 

《血濡れの布》

 >男子トイレの掃除用具入れのバケツの中に入っていた。何故こんなに血に濡れているのか定かではないが、不気味なほどにぐしゃぐしゃな布は触りたくない。

 

 

《配られたメモ》

 >『裏切者の正体がわかった。夜、あなたの部屋で話したい。これは絶対に誰にも内緒で。』と書かれたメモ。枢木に見せてもらったが、似たような話を燐海がしていた。まさかあいつはこの事件が起こることを予測していたんじゃないだろうか...

 

 

《比良坂の証言》

 >「昨日はオレとクソデカ帽子で、音楽室で次のイベントの話してたんだよ......」

  どうやら次のイベントを実施する予定だったらしい。音楽室を見るという考えが浮かばなかったところ、遊城の場所選びは正解だったのだろう。...出来なくて残念だ。

 

 

《薬袋の証言》

 >薬袋は視線を下げ、小さく震えていた。

  「た、確かに、モノシープファイルに書かれていることは正しいです。ただ...」

  縦長の切り傷と傷の深さから、モノシープファイルに記されている通り、刃物で刺され失血死が一番有力だと言う。しかし、薬袋と禍賀の検死の末、痣が何か所かあったようだ。

 

 

《月無の証言》

 >「昨日の夜は、ずっとランドリーに居て、そのまま寝たわ。」

  事件前日、月無はランドリーで一夜明かした。穂堂の部屋は整いすぎていて落ち着かないとも言っていた。何故ランドリーを選んだのか、は聞かない方がいいのだろうか...。

 

 

《幕吏の証言》

 >「昨夜はお前の知っての通り、ラウンジに居た。繋守と薬袋、それに信乃陀も共にだ。」

  幕吏、繋守、薬袋、信乃陀は夜10時、つまり夜時間のチャイムまでラウンジで談笑をしていた。彼、彼女たちは、あの動機に負けず、人を信じ、仲良くなっているみたいだ。

 

 

《信乃陀の証言》

 >「理解は確かに、コツコツという足音を聞きました。もちろん、幕吏様や繋守様、薬袋様のものではないものです。扉が閉まるまで見送りましたから。」

  夜時間にもかかわらず、足音を聞いていたという。

 

 

《絡転の証言》

 >「鳩の子が去っていったあと、すぐ解散したな。故に、我は象の子の行く末を知らぬ。」

  俺が二人のもとを去ったのは夜時間になる1時間ほど前だろうか。なら穂堂はどこへ行ったのだろう...

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

 

 

 

四葩「まずなにをすればいいの?」

 

静寂「議論だ。」

 

幕吏「ふん。議論ならば、まず題目を決めなければならないだろう?」

 

遊城「無難に死因とかでいいんじゃない?大事なものを確定させていった方が話が早いわ。」

 

枢木「じゃあモノシープからもらったファイルから確認していくのはどう?」

 

紗鳥「そうだな...」

 

 

 

 

 

枢木「とりあえず私が読んでいくけど、気になることがあったら言って欲しい。被害者は超高校級のボディーガード、穂堂涼介。そして死体発見場所は超高校級のデバッガー、月無廻の自室内。」

 

燐海「やッぱボディーガードクンだしねェ、うンうン。」

 

遊城「やっぱって何よ。」

 

枢木「死因は失血死、刃物で刺されたらしい。書いてあるのはここまでだ。」

 

繋守「死因が曖昧な感じするよねーこのファイル。」

 

比良坂「部屋がぐっちゃぐちゃだったんだけど、やっぱ殴り合いしたんじゃねぇか?」

 

鳴佳「穂堂さんに殴り合いで勝てる方がいらっしゃるのでしょうか...」

 

 

 

前もああ言っていたけれど、違うことを今度は証明してあげなければ...

 

 

殴り合い ← 《モノシープファイル1》

 

「それは違うぞ。」

 

 

 

 

紗鳥「いや、モノシープファイルには失血死、しかも刃物で刺されたと書いてある。君も見たはずだ。」

 

薬袋「え、えぇ。そのとおりです... 腹部の刺し傷がある以上、刃物はその場にあったはず...なので、単なる殴り合いでは...ないと思います......」

 

絡転「そも、あの象の子が他人と殴り合いをするのか?」

 

枢木「私から見れば、しないでしょうね。」

 

比良坂「じゃあなんであんな部屋がぐっちゃぐちゃで痣もあるんだよ。」

 

燐海「痣は一旦置いとかなァい?それよりもッと重要な話あるでしョ?」

 

 

 

鳴佳「えぇと、では、次の議題は凶器なのでしょうか...?」

 

繋守「でも凶器あったっけー?」

 

比良坂「確かにそうだよ。刃物だかなんだか言ってっけど、あの部屋に刃物なんてなかったぞ。」

 

 

 

 

 

 

鳴佳「刃物、といえば、あの部屋の凶器セットはどうでしょう?アイスピックがなくなっていた気がしますけれど。」

 

静寂「ミステリーものでは、忽然と消えた凶器はで描かれることが多い。」

 

四葩「氷は溶けるもんね。花壇に氷置いたらどうなるんだろう?花が可哀想かな。」

 

信乃陀「理解はだと思うのですが...刃物ですか......」

 

四葩「包丁じゃないの?」

 

幕吏「無難に考えてしまえばそうだろうな。だが、俺様は静寂の意見が気に入った。」

 

比良坂「気に入った云々の情報は要らねぇんだよ!!」

 

繋守「こう、アニメみたいに手刀でグサー、血がブシャー、はどう? それなら部屋に凶器が無くても問題ないよ。」

 

比良坂「はぁー?そんなの出来そうなの、殺し屋しかいなさそうだな。」

 

禍賀「ちょっと、うち見ないでよ。んなことできないってーの。バケモンじゃないんだから...」

 

 

 

視野外のアイデア、突飛な発想、それぞれが推理をしている。

だが、今のところ、これが一番可能性が高いはずだ。

 

 

包丁 ← 《男子トイレに落ちていた包丁》

 

「それに賛成だ。」

 

 

 

 

紗鳥「確かに現場には刃物はなかった。けど...男子トイレに血の付いた包丁が落ちていたんだ。つまりそれが凶器だったと考えるのが自然じゃないか?」

 

比良坂「ふーん、じゃあそれじゃん。」

 

 

 

 

「鳩の子よ、少し待て。」

 

 

紗鳥「絡転?」

 

絡転「包丁と断定するのは早計ではないか?」

 

 

 

絡転「先程、鳴佳が申していたが、アイスピックが消えているとの情報は無視するつもりか?名目上、アイスピックも刺すものであり、刃物ではあるだろう。」

 

「現場の凶器セットから消えていることについての説明が出来ない以上、包丁だと断定するのは早計だと言っている。」

 

「月無の部屋に訪れた犯人は、月無の凶器セットの中からアイスピックを取り出し、穂堂をアイスピックで刺した。勿論、穂堂がアイスピックを取り出し、攻撃し、そして反撃された可能性もあるだろう。」

 

「そしてアイスピックの行方を我らは探せていないだけなのではないか?」

 

「確かに、我では血が付着した包丁の謎は解けない。アイスピックの行方も知らぬ。だが、包丁ではないという可能性が一寸でもあるのならば、きちんと解いていかねばなるまい。」

 

 

 

絡転の言ってることはもっともだ。

俺たちは、アイスピックの行方を知らない。

だが一つだけ確かなことがある。

 

 

アイスピックで刺した → 《薬袋の証言》

 

「その言葉、斬らせてもらう。」

 

 

 

紗鳥「絡転の言ってることは間違いない。確かに俺たちはアイスピックがどこに消えたかなんて知らない。けど、確かなことは他にもあるはずだ。」

 

絡転「ほう、それを教えてくれないだろうか?」

 

紗鳥「もちろん。薬袋、穂堂の死体の傷跡について説明してくれないか?」

 

薬袋「あっ、はい!え、っと...縦長の傷、傷の深さ、その両方から凶器が刃物だということがわかっています。なのでモノシープファイルの書いてある通り...ではあります。」

 

静寂「......紗鳥は傷口の形の話をしているのか。」

 

紗鳥「うん。アイスピックで刺した場合、傷は縦長じゃなく、ただ一点の穴になると思うんだ。」

 

比良坂「殺し屋の意見はどうだよ。」

 

禍賀「まじでひらさんさ~、殺し屋って呼び方変えてくんない?、う~ん、まぁアイスピックで殺すなら、何回も刺した方が確実かなって。あ、うちも検死に参加してたけど、傷口の縦長の線は綺麗だったから、アイスピックでザクザクやったとかは無いと思う。」

 

比良坂「だとよ。」

 

絡転「ふむ...依然としてアイスピックの行方は不明だが、それについてはわからぬのか?」

 

紗鳥「...それは、うん。俺は見てない。」

 

静寂「考えてみろ、必ず凶器セットに触った人間は居る。そしてもし誰かがアイスピックを見つけていれば、黙る理由なんて無い。なら、そいつを持ち出した人間が既に回収した、未だ持っている。もしくはまだ見つかってないか。それだけだ。」

 

信乃陀「とりあえず、包丁という線で考えて、ダメな部分があれば、またここまで戻ってくればいいはずです!」

 

遊城「そうよ。モノシープ、この学級裁判に制限時間はあるの?」

 

モノシープ「質問ですね? 制限時間は無いは無いのですが、あまりにも場が停滞するのも避けたい事案なので、一応とんかつの衣のようなサクサク具合でお願いしますね。」

 

繋守「じゃ!やっぱ"とりあえず包丁"って線を追えばいいわけ?」

 

紗鳥「ああ。」

 

 

 

 

 

四葩「じゃあ、誰かがどこかから包丁を持ち出したの?」

 

静寂「その可能性が最も高い。」

 

遊城「次は__誰がいつ、どこでそれを調達してきたのか。そうなるわね。」

 

繋守「なんか疑問点が多すぎてわけわかんないかも。」

 

 

まずわかりやすい疑問点があるはず。それは__

 

 

 

1.誰が

2.いつ

3.どこで

 

 → 3.どこで

 

 

 

紗鳥「いや、大丈夫だ。一つの疑問には答えが出ている。」

 

繋守「本当ー?なら大助かりだけど、それは何?」

 

 

 

コトダマ提示_

 

《消えた包丁》

 

「これだ!」

 

 

 

 

紗鳥「幕吏と信乃陀、鳴佳は知ってると思うけど、厨房から一つ包丁が消えていたんだ。」

 

幕吏「そうだな、あの存在感は姿を消していながらも最高の働きをしてくれていたよ。」

 

薬袋「えっと...つまりなくなってた、ってこと...?」

 

鳴佳「では、厨房から包丁を持っていかれた方が居らっしゃるんですね...」

 

静寂「次の疑問点の解消については、”いつ”でいいだろう。」

 

 

 

 

 

信乃陀「ではまず、包丁の最後の目撃情報から集めていきましょう!」

 

繋守「はい!昨日、夕ご飯の時にジュース取りに行ったときにはあったと思います!」

 

薬袋「う、うーん...わたしは厨房に入ってないからわからないです...」

 

比良坂「んなことしなくても、どうせ誰かが夜にこっそり盗んだんだろ。」

 

幕吏「いや、朝の可能性もある。誰よりも早く起きて、そして素早く包丁を取りに行ったのなら話は簡単だろう。」

 

静寂「こいつらに話を聞く耳と、話を聞こうとする頭はついているのか?」

 

枢木「あまりそういった言葉は感心しませんよ。」

 

 

 

様々な考察が縦横無尽に飛び交っている。

ここからは、有り得ないことを排除していって真実に近づいていくんだ。

 

 

夜にこっそり盗んだ ← 《夜時間の規則》

 

「それは違うかもしれない。」

 

 

 

比良坂「ハァ?んだお前さっきから。」

 

紗鳥「ご、ごめん。いや、ただ、夜時間に盗むことはできないんだ。」

 

比良坂「なんでだよ、誰にもバレずに行くっつったら最初に考え付くことだろ。」

 

紗鳥「思い出してほしい。夜時間のチャイムは就寝時間の他に、食堂や他の一部施設を立ち入り禁止にするものだ。そして食堂が封鎖されたら、厨房にも入れなくなる。」

 

幕吏「もちろん、退学処分というリスクを冒してまで夜時間に厨房へ侵入する命知らずが居るとは思えん。」

 

比良坂「じゃいつだってんだよ...」

 

 

禍賀「あー...、そろそろいい?実際問題、朝食準備時点でうちがいつも使ってた包丁一本なくなってんだよね。」

 

枢木「ノートにもそう書いた記憶がある。」

 

比良坂「お前早く言えよ!!」

 

禍賀「おバカたちが話聞かないからでしょ~~!」

 

静寂「ん゙ん、つまり”夜時間中は盗めない”、”朝食準備時点でなくなっている”、から考えれば可能性は二つ。夜時間より前に盗んだ。または朝のチャイムの後、禍賀や枢木よりも前に厨房へ行き、盗んだ、か。」

 

繋守「おー、わかりやすーい。さすがさすが。」

 

遊城「まぁ、恐らく前者でしょうね。」

 

信乃陀「?、それは何故でしょうか?」

 

遊城「後者だと、誰かが起きてくる可能性がある中で包丁を盗んで、誰かとすれ違う可能性がある中で月無の部屋まで行って、犯行に及んだことになる。」

 

信乃陀「うーん、確かにリスクが高すぎますね...」

 

燐海「じャあなに?夜時間前のアリバイ確認から始まる感じ?」

 

紗鳥「ああ、そうしよう。」

 

 

 

 

 

燐海「ボクと幸運クンは見回りしてたよねェ、だからアリバイはないけど、でも夜時間のチャイムが鳴る少し前にバッタリ会って、チャイム鳴るまで話してたよ。」

 

繋守「じゃあアリバイはある方なの?」

 

燐海「ま、ない人よりある方じャない? 少なくとも幸運クンは怪しさゼロだったしね。」

 

鳴佳「わたくしは自室に居たので、アリバイがない人になりますわね。」

 

静寂「俺も図書室に居た。証人はほぼ居ないと言っていい。」

 

遊城「アリバイが無い人はまぁまぁ居るのね。私は比良坂と音楽室に居たわ、次のイベントを考えるためにね。」

 

信乃陀「そうなんですか!?仲良くなったんですね!」

 

比良坂「なってねーよ全然!!!」

 

幕吏「俺様と薬袋と繋守と信乃陀はラウンジで夕食後からチャイムが鳴るまで、そして鳴った後も一緒に話していた。ふはは、俺様達は仲を深めているにも関わらず、貴様らはその程度なのか。」

 

遊城「待って、鳴った後も話してたの?」

 

薬袋「あ、あの、でも、誰も怪しい動きはしてません!お手洗いの数分程度の離席しかその場を離れてないのでっ!」

 

四葩「私は中庭にいたけど、廊下の方は見てないなぁ。」

 

絡転「夜、象の子と話していたが、チャイムの鳴る前には解散した。我は象の子の行方を見届けることはなかった故、象の子の行く末を知らぬ。」

 

枢木「私は夕食後、禍賀さんと話していました。解散の時刻は詳しく知りませんのであまり参考にはならないんですけど。」

 

禍賀「うちあれカウンセリングって名目で監視してきてると思ってたんだけど。」

 

枢木「私と禍賀さんは一緒に話していた、ということに変わりはないんじゃないですか?」

 

鳴佳「これでは埒が明かないのではないでしょうか...」

 

幕吏「確かに、全員分のアリバイを聴いたところだが、不思議な点はなかったな。」

 

 

 

待て。あの人は異様に黙ってるとはいえ、ちゃんとアリバイを聞かないと。

 

 

全員分のアリバイを聴いた ← 《月無の証言》

 

「それは違うよ。」

 

 

 

紗鳥「待て、まだ月無が喋ってない。」

 

比良坂「てかお前ぜんっぜん喋んねぇな。犯人なんじゃねぇの?」

 

月無「えぁ...違う!あたしはただ、喋ると疑われると思って...」

 

信乃陀「大丈夫です!理解は全て聞きますよ!」

 

枢木「喋らない方が疑われると思う。喋った方がいいよ。」

 

月無「.........っ、いや、あ、たしは......ランドリーに居たの、夜はずっと......」

 

繋守「ランドリー?」

 

幕吏「洗濯機がある場所だ。...しかし何故そんな場所に居たんだ?ずっととはどれくらいなんだ。」

 

月無「ずっとはずっとよ。」

 

薬袋「あの、お風呂のあとランドリー行きましたけど確かに人影はありました...、ただ、なんですぐ隠れちゃったのか...」

 

月無「隠れるに決まってるでしょ!」

 

薬袋「な、なんで...?」

 

静寂「理解できないな。」

 

信乃陀「理解も理解できていないです。」

 

燐海「あ~ららァ、デバッガーは信用されてないねェ。」

 

四葩「ちゃんと話をしよう。そうしたらきっと大丈夫。」

 

 

 

 

 

幕吏「ランドリーに居たことより、穂堂が月無の部屋に居たことの説明をしてほしいんだがな。」

 

遊城「そうよ、穂堂を探すって時、月無の部屋に居るとは思わなかったわ。」

 

四葩「私が見つけたの、良かったね。」

 

信乃陀「はい!助かりました!」

 

繋守「さすが!!!捜し物の天才ってやつだねー。」

 

遊城「......はぁ、」

 

月無「...だからそれは、部屋交換してて...」

 

枢木「穂堂さんと部屋交換...それは何故?」

 

月無「だから知らないんだって!あっちが勝手に言ってきて、勝手に死んでるだけ!」

 

絡転「それは責任の押し付けに聞こえてしまうな。」

 

幕吏「では、部屋交換の証拠は?貴様にその証拠が出せるのかな?」

 

 

 

月無はずっと口を噤んでいる。言っちゃ悪いけど、怪しまれるのは当然...かもしれない。

でも、俺は俺の思うことをやる。今それは、月無の言葉の真偽を明らかにする事だ。

 

 

部屋交換の証拠 ← 《部屋交換》

 

「これじゃないかな。」

 

 

 

紗鳥「部屋交換は本当かもしれない。」

 

燐海「と、言うと?」

 

紗鳥「月無は穂堂の部屋の鍵を持ってたはずで、穂堂は月無の部屋の鍵を持ってた。これは部屋交換の証拠にならないか?」

 

薬袋「た、たしかに部屋の鍵の交換をしたならつじつまは合いますね。」

 

静寂「いや、証拠にならないな。」

 

月無「え...」

 

燐海「そうそう。だって、お互いがお互いのカギを持ってるなンて、ボディーガードクンを殺した後ならなんとでも偽装できるでしョ? ねェ幸運クン。どう思う?」

 

紗鳥「お、俺に聞くのか...? いや、まぁ、そう言われたら...鍵は証拠としては弱いかも...。」

 

信乃陀「うーん、話が難しくなってきましたね。」

 

幕吏「だが、何故穂堂が月無の部屋に行ったのかという疑問は答えが出ないままだな。」

 

繋守「それ大事ー?」

 

絡転「穂堂による部屋交換に正当な理由があるなら、それが月無の言っていることの証拠にもなりうるだろう。」

 

枢木「逆に言えば__理由が見えない以上、ますます疑惑は強まる。」

 

月無「...ほんとに知らないんだって。あっちが勝手に言ってきただけって。」

 

遊城「......、理由もなく、ね。随分と都合のいい話じゃないの。」

 

信乃陀「じゃあ、どうして穂堂さんはそんなことを......?」

 

 

燐海「うーン、これ以上同じ話ぐるぐるしてもつまンないんだけど。もッと視野を広く持とうよ、あッたでしョ~? ほらほら。」

 

 

 

そう言って燐海は俺のほうを向いた。燐海はなんで俺ばかりに話を振るんだろうか...

しかし、確かにそうだ。このまま堂々巡りしてちゃ話は進まない。

まだ話していない証拠から切り込む必要がある。

 

穂堂が最後まで握りしめていたあのメモや、ダイイングメッセージだって残っている。

その中でも、メモは血で滲んで読めなくなっていたが、あれこそが部屋交換の理由に繋がっているのかもしれない。

 

 

コトダマ提示_

 

《血に濡れたメモ》

 

 

 

紗鳥「皆、これを見てくれないか。」

 

薬袋「あっ、それは...穂堂さんが握ってた......」

 

静寂「血に濡れて肝心の内容がわからないが。」

 

燐海「あれまァ、奇遇だね。同じメモか知らないけど、ボクの部屋の扉の傍にも紙切れが落ちてたんだよね。確か内容は~...」

 

枢木「“裏切者の正体がわかった。夜、あなたの部屋で話したい”、だったはずだ。」

 

比良坂「はァ!?裏切者がわかった!??」

 

信乃陀「た、確か、実は理解も似たようなメモを拾いました!部屋に帰るのが夜時間を超えてしまったので、入れ違ってしまったのかと思ってましたが...」

 

四葩「私は拾ってないなぁ。」

 

鳴佳「わたくしも部屋の前で拾いましたわね...」

 

月無「あたしも...拾ってはいたけど......」

 

遊城「あんた、今度は何?」

 

月無「いや、いつの間にか失くしただけ...」

 

禍賀「なるほど、複数人が同じ内容のメモ受け取ってたんなら、ほどちゃんもそのメモを拾ったって考えるのが自然ってこと?」

 

繋守「そっかー!じゃあ穂堂くんはメモの送り主を待つために月無ちゃんの部屋に......ん?」

 

 

 

待て、穂堂がそのメモを拾ったのなら...なぜ穂堂は月無の部屋に行く必要があったんだ...

 

 

 

「つまりこういうことだろう!」

 

 

紗鳥「幕吏...」

 

幕吏「まぁ落ち着け、今から俺様の推理を披露してやろう。」

 

 

 

幕吏「では推理を聞くがいい。穂堂はメモを拾ったのではない。そう、俺様たちは「穂堂がこの複数のメモを書いた張本人」だという事実に辿り着いた。」

 

「メモを複数人に送ったのは、裏切者を炙り出すため。そして月無が裏切者だと知り、先手を打って月無の部屋に向かった。」

 

「だが、メモを見た月無は包丁を持って来訪者を待っていた。そして穂堂は返り討ちに......、月無の部屋で事件が起き、穂堂はメモを握ったままそこで倒れ、月無はなにもせず逃げたのだろう。」

 

「これが推理の全貌だ。まさかあの穂堂が月無に敗れるとは...、優しさなんぞより、恐怖の力の方が勝っていたというわけだ。なんとも滑稽で、哀れな話だ。そう思わないか?」

 

 

 

幕吏は舞台に立つように片手を広げ、わざとらしく俺へ向けて一礼した。

いや、違う。違う筈だ。 穂堂なら、確かに裏切者を探す手段を取るのかもしれない。でも、周りへ恐怖を与える方法を取るはずがない。

 

 

穂堂が複数のメモを書いた張本人 ← 《穂堂の日記》

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

 

紗鳥「違う。穂堂はそんなことしてない。穂堂の日記を見てくれ。」

 

幕吏「ほう? 見せてみろ。」

 

紗鳥「メモに書かれてた字は、教科書の見本みたいに整った明朝体のような字。だけど穂堂の字は違う。達筆な、流れが強い癖字なんだ。丸みも線の勢いも、全然別物なんだ。」

 

幕吏「ふむ...」

 

紗鳥「もし穂堂が自分でメモを書いたなら、この日記と同じ字になるはずだ。癖字はなかなか治らないからな。なのに一致しない。つまり、穂堂は書いた本人じゃない。拾ったんだ。」

 

燐海「はァ~、なるほどね。ンで、結局?なンでボディーガードクンはデバッガーの部屋に居たの?」

 

絡転「結局其処に戻るならば時間の無駄だったのかもな。」

 

 

......まずいな。

このままじゃ、“穂堂は月無に殺された”って話で固まってしまう。

確かに今はそれが一番有力だ。けど、まだ、出してない証拠がある。

 

 

 

紗鳥「...もう一つだけ見てほしいものがある。」

 

幕吏「おやおや、まだ続けるのか。いいだろう、披露してみせろ。」

 

紗鳥「これだ。穂堂の右手に残されていたダイイングメッセージだ。」

 

繋守「お、まさかこれはー?」

 

枢木「三日月の印、そしてM......」

 

燐海「はァ~、まァそうなるよね。“月”に“M”って、答え出てンじャン。ねェ、デバッガー?」

 

静寂「状況的にも整合する。穂堂は月無に接触し、抵抗され、そのまま命を落とした……そう考えるのが自然だ。」

 

幕吏「見事だな紗鳥!貴様の提示した証拠で、真実が明るみに出たようだ!」

 

月無「、うそ...そんな、わたしじゃない......違うのに......!」

 

 

たしかに、このメッセージは“三日月とM”だ。月無が犯人だと言われたらそうだ。

だが、なぜか一抹の不安が拭い切れない。

 

穂堂は、何を考えて、何を思って、このメッセージを残したんだろう。

俺たちにヒントを残そうとしたはず、ならそんなに難しく考える必要はないはずだ。

 

いや、まだ手元に情報はある。大丈夫だ。きっと。この違和感は正しい。

 

 

 

紗鳥「少し、待ってくれ。」

 

幕吏「...なんだ貴様、まだ抵抗するのか。」

 

紗鳥「いや、違う。ただ触れてない証拠があるんだ。それを確認してからでも、投票は遅くないと思わない?」

 

燐海「アハハ。ま、いいよ。幸運クンがそういうなら、聞いてやらンこともなしッてね。」

 

絡転「最後まで議論を続けるとするか。」

 

 

 

これで、まだ間に合うはずだ。

 

 

 

 

 

 

学級裁判中断

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

___モノシープ劇場

 

 

「いやぁ、初めての学級裁判。ミナサマどうです?クロ、わかりました?」

 

「ほうほう、なるほど。」

 

「お上はああ言っておりますが、答え合わせはもうしばらくお待ちいただいて。」

 

「え?ミナサマはこれが初めてではない?」

 

「そんなまさか!こんな悪趣味で愉快で過激な物語がたくさん?!」

 

「ならばボクも、その墓地のように乱立した物語を確かめに行かないとですねぇ。」

 

「いやはや忙しい、コロシアイで忙しいですね。」

 

「ミナサマもコロシアイを満喫されているようで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

学級裁判再開

 

 

 

 

 

 

月無が犯人...

死体の位置やダイイングメッセージからはそう読み取れる。

だが、月無は「部屋交換をしていて穂堂のことは一切知らない」の一点張り。

肝心の部屋交換を証明する鍵も、証拠としては意味がない。

部屋交換を申し出るきっかけも、証拠からは読み取れない。

 

この違和感の正体はなんだ。

今の俺に出来ることは、思い出せる限りの情報を並べて、クロを見つけること。

 

 

 

「がんばってくれ、紗鳥。僕は応援してるから。」

 

 

咄嗟に振り向いた。

 

誰かの声がしたような気がした。

誰かが肩に手を置いた気がした。

 

出来ることをやるんだ。

やるしかない。

 

 

 

 

 

比良坂「なぁ、触れてないつったら穂堂のベルトはどうよ。あれも謎だったろ。」

 

繋守「ベルト? ベルトがどうかしたの?」

 

薬袋「ほ、穂堂さんの腰のベルトが、外れて、穂堂さんの死体からかなり離れた場所に落ちてたんです。金具や革は、力を込めて引っ張られた跡がある、って感じで...」

 

禍賀「やっぱあれってつっきーを襲おうとしてたってこと?こわーい。」

 

枢木「穂堂さんはそんなことしないと思いますけどね。」

 

禍賀「そ? 男はみんなケダモノってカルテに追記した方がい~んじゃない?」

 

信乃陀「では、ベルトは何に使ったのでしょう...」

 

禍賀「もうちょい相手してくれてもいいのに......」

 

遊城「ああいう形状で力を込めたっていうなら、首を絞める首を折るなんていう嫌な想像もさせられるわね。」

 

月無「怖いことわざわざ言うの頭おかしいの...?」

 

遊城「全部口に出してった方が性に合うの。あんたは言わなさすぎなのよ。」

 

静寂「...拘束だろうな。」

 

禍賀「やだ面白みがない。そーゆープレイは好みじゃないかな」

 

繋守「普通に着替えようとしてたとかじゃなーい? 部屋交換してたならそこで着替えててもおかしくないよ。」

 

幕吏「ふむ、ただの衣替えの最中ならば話は早い。隙を伺った月無、貴様だ!」

 

 

 

遠くに落ちたベルトってだけじゃなにひとつ情報は落ちない。

でも、これは穂堂のベルトだ。きっとそれだけで変わる。

 

 

拘束 ← 《穂堂の日記》

 

「それに賛成だ。」

 

 

 

紗鳥「最初、俺も意味が分からなかった。だけど考えてみてくれ。穂堂は“人を守ること”を信条にしていた人だ。日記にも、動機ビデオを見ても変わらず人を守ると書いていた。だったら、“戦う”より“抑える”方を選ぶはずなんだ。」

 

絡転「ふふ、確かに。象の如き優しさを持った人間だったな。」

 

幕吏「つまり......そのベルトは、拘束のために使おうとしたと?」

 

紗鳥「ああ。穂堂は部屋に入ってきた人間、襲ってきた犯人を無力化しようとしたんだ。殺意じゃなく、制止の意志で動いてた。」

 

禍賀「......うーん、でも結局ほどちゃん死んじゃったじゃん? つっきーに油断してたとかあるんじゃない?」

 

紗鳥「いや、おかしい。月無は華奢だし、体力も腕力もない。腕相撲の時も参加を避けてた。いくら武器を持っていたからって穂堂やり合って勝てるはずがない。」

 

月無「...その通りだけど、結構ズカズカ言うわね......」

 

燐海「まァ~確かに、あのデバッガーじゃボディーガードクンに勝つのは無理そーだね。まさに月とスッポン、天と地中の差だね。」

 

四葩「でも、ベルトが“守るための武器”だったのは間違いないんだね。」

 

 

歪んだバックル、擦れた革。そこに残る“抵抗”の痕跡。

……穂堂は最後まで戦ってた。

人を守るために。

 

 

薬袋「ただ...これでは犯人に辿り着かないのでは...?」

 

枢木「それでも、“月無が穂堂と互角に争った”という前提は崩れました。このまま投票するのは早いでしょう。」

 

 

 

静寂「穂堂が“抑える”という判断をした。それ自体は彼らしい。だが気になる点がある。」

 

繋守「うーん? っていうと?」

 

静寂「穂堂はボディーガードとしての才能を持ってた。包丁を持ってる相手に対しても、まずは間合いを取って制圧する術を知ってるはずなんだ。なのに__“ベルトで拘束”しようとした。」

 

薬袋「“過剰反応”、ですね......」

 

紗鳥「つまり、ベルトを咄嗟に使うほどの危険を感じた。“素手では抑えきれない”と判断したってことになる...?」

 

絡転「だったら次に考えるべきは、その“相手の力量”、ということか?」

 

信乃陀「それなら腕相撲大会の話はどうでしょうか!?」

 

比良坂「あー、確か、2位が殺し屋、3位がお嬢様、4位が演技バカだろ?」

 

禍賀「覚え方どうにかならんかった?」

 

鳴佳「わたくしは確かに3位ですけど...穂堂さんと戦っていないのでなんとも......」

 

幕吏「ふん、穂堂と戦った者。そうなるとたった一人しか居ないがな。」

 

紗鳥「とにかく、穂堂が“ベルトで拘束するほどの相手”と判断するなら、月無のような非力な相手じゃない。力が拮抗してる__禍賀、鳴佳、幕吏。そのあたりが妥当、だと思うんだけど。」

 

繋守「つまり、“穂堂が戦った相手はこの三人の誰か”ってこと?」

 

紗鳥「多分。」

 

薬袋「ようやく容疑者...が絞れましたね。」

 

燐海「でもさァ、3人の中の誰が包丁を使ッたのか、まではまだ分かンないンじャない?」

 

鳴佳「いえ。そういえば、包丁が発見されたのは男子トイレだったはずですわ。でしたら、幕吏さん......あなたが怪しいのではなくて?」

 

幕吏「なぜ私なんだい?鳴佳嬢。」

 

鳴佳「だってそうでしょう? 包丁を男子トイレに置けたのは男子生徒だけ。そう考えるのが自然ではありません?」

 

繋守「確かにー。」

 

幕吏「ははは、安直な推理だ。」

 

信乃陀「でも、血の付いた包丁が男子トイレにあったのなら......男子の誰かが関わってる可能性は高いんじゃないですか?」

 

遊城「まぁ、女子だと入るのは難しいわよね。」

 

禍賀「じゃあやっぱ男子の中に犯人がいるってこと?」

 

比良坂「幕吏、お前。夜時間前はどこにいたっつってた?」

 

幕吏「ほう、まるで犯人扱いだね。だが、その質問を待っていた。私は夜時間のチャイムが鳴るまで、ラウンジで繋守嬢、薬袋嬢、そして信乃陀君と語らっていた。お喋りが盛り上がってね、むしろ時間を忘れてしまったほどさ。」

 

繋守「うんうん、そうだよ! 夜時間過ぎて“そろそろ寝なきゃ”って言ってたくらい!」

 

薬袋「確かに。幕吏さんはずっとそこにいました。」

 

信乃陀「幕吏様発案でTRPGというものを作って皆様とやろうと盛り上がっていたのを覚えています!」

 

遊城「あら、イベントごとはあんたたちも考えてたのね。」

 

幕吏「そう、その通り!つまりボクが食堂に行って包丁を取るなんて、絶対に不可能だ!」

 

静寂「......なら、幕吏の線は薄い。」

 

禍賀「え~?じゃあうちorなりりんってこと?やだやだどっちにしろろくでもない話じゃん。」

 

薬袋「つまり、禍賀さんと鳴佳さん...どちらかが、穂堂さんと争った可能性がある。でもどちらも女子で、男子トイレに包丁を捨てられない...」

 

繋守「でもベルトのこと考えると、ほんとに二人のどっちかが相手だったら、穂堂くんがベルト使うのも納得かも。」

 

禍賀「は~~もう決まっちゃった感じなの?」

 

燐海「あッ、じャあ、共犯ッていうのはどう?カウンセラークンと殺し屋クンが組ンでたり、もしかしたらボクと新体操選手クンが組ンでる可能性だッてあるよね?」

 

枢木「なぜ君まで疑いに入るんだ。」

 

燐海「いやァ、新体操選手クンと実際会ッたのボクだけみたいだし?もしもそこで協力を持ちかけられてたらどうする?もしもボクが包丁を見かけてたら?」

 

紗鳥「何を言ってるんだお前は...」

 

燐海「アハハ、幸運クンにそう言われると傷ついちゃうなァ。」

 

静寂「実際、共犯者は利益がないだろう。」

 

燐海「えェ?利益がなくても面白ければいいッて人間がいるかもしれないよ。」

 

月無「どう考えてもあんたじゃない...」

 

 

話がずっとから回って、全く進まない。

雑談、とまでは行かずとも、みんな少しばかり諦めの気持ちが見えている。

 

クロを間違えれば、クロ以外がオシオキされる。

モノシープの言葉通りならば、このままじゃいけない。

しかし、実感が湧いてないのが現状なんだろう。

 

手もとにある証拠をもう一度見返そう。

少しでも話が進んだ今なら、また違ったものが見えてくるはず...

 

 

 

1.血に濡れたメモ

2.ダイイングメッセージ

3.開封済みの凶器セット

 

→ 2.ダイイングメッセージ

 

 

 

紗鳥「なぁ、ちょっといいか。」

 

薬袋「紗鳥さん?」

 

紗鳥「穂堂が残した、ダイイングメッセージをもう一度見直さないか。」

 

四葩「......“三日月マークとM”のやつ?」

 

紗鳥「うん。あの時、俺たちは“月無 廻”を示してると決めつけてた。でも今の話を踏まえると、それが本当に正しいのか__疑わしくなってきた。」

 

信乃陀「確かに! 争いの跡や力関係を考えれば、別の人物の可能性の方が高いです!」

 

繋守「じゃあ、もう一回ちゃんと見てみよっかー。“月マーク”と“M”。この二文字に、まだ何か意味が隠されてるのかも。」

 

 

 

 

四葩「“月、M”......文字そのものは変じゃないけど、意味はやっぱり分からないね。」

 

信乃陀「“月”っていうのは月無様の名前そのものですし、“M”もイニシャルになっています! これ以上の証拠があるのでしょうか...」

 

禍賀「えー、でもさ~。それなら単に『犯人は月無』って書けばよくない? なんで月のマークなうえに急にイニシャル?」

 

薬袋「そう言われると、確かに...」

 

絡転「直接的すぎると犯人が消す、改竄する可能性があるだろう。」

 

幕吏「だが“M”が頭文字だとしたら、該当者は月無嬢だけではない。」

 

繋守「たとえばー...ねこちゃんの“M”! “Minai”の“M”!」

 

薬袋「えっ、わ、わたし!?」

 

禍賀「うわ、まさかの?」

 

薬袋「ちょ、ちょっと......!」

 

燐海「じャあ“M”ッて“ミステリー”のMとか。”まさかあいつが!”のMとか、“またやっちまった”のMとか~?」

 

遊城「......もう少しまともな推理をしてくれないかしら。」

 

鳴佳「ふふ、“M”は“Mother”かもしれませんわ。穂堂さんが“母”のような存在を庇って...とか、”母”のもとへ行く...とか。」

 

幕吏「はは、それはそれで芝居がかっていて悪くない解釈だな。」

 

禍賀「“17人目の生徒がいる”とか。もしかして“M”はそいつの頭文字だったりして。」

 

燐海「お、いいね。隠しキャラみたいな人が本当に居たらドキドキしちャうかも。」

 

静寂「文字も、見方を変えれば違う意味に見えることもある。」

 

繋守「んー実は計算式で、M引く月で、月を英語にしてMoon!そっからMを引いて...oonだ。なんでもないや。」

 

幕吏「そもそも縦書きなんて、計算式にしては不自然すぎるだろ。」

 

信乃陀「皆様方の推理をまとめても、あまり進展があるように思えませんが...」

 

 

 

いや、待てよ...あの人の言っていること、よく考えてみよう...

もしかしたら...

 

 

見方を変えれば ← 《ダイイングメッセージ》

 

「それであっているかもしれない!」

 

 

 

静寂「どういうことだ。」

 

紗鳥「...ダイイングメッセージは縦書きじゃなかったんだ。」

 

幕吏「縦じゃない、というのであれば横...というわけか?」

 

薬袋「三日月マークとM...を、ど、どう見たらいいですか?」

 

繋守「こう、首をぐいっと。90度頑張って傾けて...」

 

枢木「...なるほど、合点がいきました。」

 

禍賀「ねぇちょっと一人で勝手に納得しないでよ。」

 

 

縦書きも三日月とM、これを90度傾けてみる。

そうすると、見えてくるものは。

 

『3月』

 

 

おそらく、三日月が掠れていたのは必死にそれだけでも守ろうとした、とかだろう。

数字の三が重なるということは、字ではなく三日月のマークにしたことにも意味があったはず。

 

そして見えてくる人間。

思い出せ。

 

 

 

 

人物指定

 

 → 鳴佳 光希

 

 

 

 

「鳴佳、お前じゃないのか?」

 

 

 

鳴佳「あら、わたくしですか?」

 

紗鳥「お前の名前、聞かせてもらってもいいか。」

 

鳴佳「......いいですわよ。鳴佳 光希ですわ。」

 

静寂「横書きで3月、なるほど。異称として弥生、そしてミツキとも読む。」

 

燐海「それに、Mに月ッて時点でMarch、3月に辿り着けたよね。」

 

比良坂「早く言えよ。」

 

枢木「気付いてて言わなかった、そうでしょう?」

 

燐海「ン~?どうだろうね。面白い方がいいじャん。」

 

禍賀「え~でもなりりんの名前だけで?」

 

鳴佳「そうですわね。まだ、男子トイレに包丁が落ちていた事実がわたくしの容疑を晴らしてくれているのでは?」

 

 

 

 

 

枢木「...確かに、鳴佳さんが犯人だとしても、矛盾があります。包丁は男子トイレの奥に落ちていた。女子がそう簡単に捨てられる場所じゃないです。」

 

薬袋「あ、あの、女子トイレ側から投げ込むことはできない、んです、よね...?」

 

遊城「無理じゃない?繋がってたら問題でしょ。」

 

比良坂「換気口から投げ入れるとかどうだ。」

 

繋守「いやいやー、男子トイレの換気口の位置知らないのにわざわざ換気口入るかなー。しかも夜にガサゴソと。」

 

幕吏「ふむ。共犯者に託して男子トイレに捨てさせた、等の推理も潰してしまうのか。」

 

静寂「共犯者が居る可能性は低いとさっき話したが、共犯者を作るリスクの方が高い。」

 

燐海「じゃあさァ、モノシープに頼ンだとかは? “処理お願いしまーす”ッて。」

 

四葩「それはどうなの?」

 

モノシープ「え、まさかボクに聞いてます? それを考えるのが君らの仕事でしょ? まぁでもいいですよ、言ってなかったボクの責任ということで。ボクはクロのお手伝いとかそういうの絶対に致しませんのでね。」

 

禍賀「“投げる”じゃなくて、“届かせる”方法とかはないの? ほら何か長い棒とかヒモとか、ドローンとか!」

 

信乃陀「深夜にそんな道具を持ち歩くのも不自然ですよね... しかも奥と言っても曲がってますから、単純に落としたり引っ掛けたりしても届かなさそうです!」

 

幕吏「見立ての妙が必要だろう。誰もが思いつかない”角度”や“動き”を利用する__それこそが劇場的解決法だ。」

 

 

 

恐らく、ここが山場。

幕吏の言う通り、違う角度や動きを考える必要がある。

それに、単純な証拠で辿り着くものでもないだろう。

 

なら、証拠を組み合わせて考える、重ねて考える、なんてことも...

 

とにかく、やってみるしかない。

 

 

ヒモ ← 《血濡れの布》

 

「これだ。」

 

 

 

紗鳥「モノシープ。証拠をもう一度調べることはできる?」

 

モノシープ「もう...初回だから許しますけど、こんな話しかけることないですよ普通。まぁ、既に調べ終わっている”物”なら、確認のために持ってくることは可能としましょう。場所はダメ...いや要相談ですね。」

 

紗鳥「男子トイレの掃除用具入れにあった布をちゃんと調べたいんだ。」

 

モノシープ「あぁ...はいはいなるほど。いいですよ。」

 

 

薬袋「え、っと。赤い布...?」

 

燐海「ノンノン、血みどろの布。」

 

繋守「ひえー...」

 

幕吏「それで、その血濡れの布を確かめてなんだと言うんだ。」

 

紗鳥「血濡れの布は掃除用具入れのバケツに丸められて入ってたんだけど、広げてみたら長いヒモのようになってた。このことから、ある方法で包丁を奥に捨てたんじゃないかって思って。」

 

信乃陀「ヒモで包丁を奥まった場所に捨てた...ということですか?」

 

紗鳥「あぁ、まぁどうやって届かせたか、なんだけど...鞭の原理、みたいなものだと思ってるんだ。」

 

静寂「...物理の話か。」

 

紗鳥「俺は難しい言葉は使えないから、俺が想像してることを簡単に伝えるけど...」

 

月無「難しい言葉使われた方が理解できないから。」

 

枢木「この状況では、分かりやすく伝える能力、の方が重宝されるでしょうね。」

 

紗鳥「ありがとう。まず鞭の話なんだけど、長いヒモって振ると先端の方が速くて勢いがある、みたいなことよく聞くだろ。」

 

静寂「鞭を素早く降ると先端が音速を超える現象だな。」

 

比良坂「あぁ、なんか動画で見たわ。あれほぼ銃声だよな。」

 

 

銃声 ← +《銃声のような音》

 

 

紗鳥「そうそれ。その現象が夜時間中に起こったんだ。」

 

禍賀「はぁ?んなの聞いてないんだけど。」

 

紗鳥「でも証人は居るんだ。なぁ信乃陀。」

 

信乃陀「あ、はい!あれは銃声ではないのですね。」

 

鳴佳「あら、信乃陀しか聞いていないのであれば聞き間違いでは?」

 

信乃陀「理解はそう思っていたのですが...」

 

四葩「...あ、防音か。」

 

静寂「ふん、なるほど。夜時間中、外に出るなというルールを律儀に守って防音性能の高い自室に籠っていた人間は、その現象を聞けなかった。逆に、ルールを破って最後まで出歩いていた信乃陀は、その現象を聞いたと。」

 

遊城「ルール守ってとか破ってとか言う必要あった?」

 

枢木「落ち着いてくださいね。」

 

 

幕吏「その鞭の原理の現象が起きたという可能性についてはわかったけど、なぜその現象が起きたんだ。」

 

紗鳥「もちろん、包丁を捨てる為だ。」

 

信乃陀「???」

 

幕吏「...ヒモを使って包丁を捨てるのと、鞭の原理、なんの因果関係が...」

 

紗鳥「包丁の柄に、この血濡れの布を結んで...男子トイレの入口から、思い切り横に振り払う。そうすると、鞭みたいに先端に向かって勢いが伝わっていくんだ。」

 

繋守「つまり、遠心力で包丁を...ってこと?」

 

紗鳥「あぁ。勢いが頂点に達した瞬間、包丁は結び目から抜けて__勢いのまま、奥に飛んでいった。」

 

比良坂「そんな精密なことできんのか?」

 

紗鳥「狙うというより、“勢いに任せて届かせた”んだと思う。入口から奥へは曲がり道と言っても、入り組んでるわけじゃない。ヒモを使って、勢いで振り抜けるように、包丁を一瞬だけ“飛ばせばいい”。」

 

枢木「...理屈はあっているね。」

 

遊城「つまり、その瞬間に“銃声のような音”が鳴ったのね。」

 

紗鳥「そう。血濡れの布を勢いよく振り払えば、その音が鳴る。そしてその時、横方向に血が飛び散る。あの《横払いの血飛沫》がまさにそれを裏付けてる。」

 

薬袋「横払い...血の飛び方が、“振り抜いた方向”と一致してる...」

 

四葩「...ってことは、“ヒモで届かせた”説は、筋が通る。」

 

燐海「そりャ派手なトリックだね。ド派手すぎて、まさかそンな真似するとは誰も思わないなァ。」

 

幕吏「劇的で、かつ物理的。なるほど、“劇場的解決法”だ。」

 

 

紗鳥「そう、だからこそ疑わしい人間は絞れてくる。」

 

 

 

深く息をついた。

 

そして、その人に人差し指を向ける。

 

 

疑わしい人間は、

 

人物指定  →  鳴佳 光希

 

 

「君だ。」

 

 

 

 

 

 

禍賀「なに。どうやったら鳴佳に辿り着くわけ?」

 

繋守「うーん、でも”ヒモ”っていうか“リボン”を使うってなるとさー、やっぱりーって感じ? あとさっきの銃声の話聞く限り、一発で捨てたんでしょー? それができるのって、慣れてる人じゃない?」

 

比良坂「新体操選手なら、リボンを自在に扱える。理屈としては十分あり得るな。」

 

幕吏「おや、思ったより劇的な投擲技法だ。さぞ彼女の舞いは美しかっただろうね。」

 

鳴佳「......舞い、ですか。少し聞こえが良すぎますわ。」

 

燐海「ンーでもさァ、ボクが夜時間前に見た新体操選手クンは、何も持ッてないように見えたけどなァ?」

 

静寂「...鳴佳がメモを部屋の前で拾っていた時、のことか。」

 

幕吏「ふむ。つまり君は、“包丁を運んでいなかった”と証言するわけか。」

 

燐海「証言ッてほどじャないけど、見たまま言っただけ。ほら、そッちの推理が間違ッてるかもよ?」

 

薬袋「持ってなかったように“見えただけ”...というのは、どう、ですか...?」

 

紗鳥「...包丁をリボンで包んで、さらにリボンで太ももに固定してたら、スカートの中に隠せる。これならどうだ。」

 

四葩「それなら確かに、ぱっと見では分からないね。」

 

枢木「複数のリボン。鳴佳さんはいつも髪飾りや足に巻いていますから、なんら問題はない。」

 

鳴佳「......確かに、“包丁を持ってなかった”とは言えませんわね。」

 

燐海「ありャ?庇ったつもりだったけど、逆に確定演出入ッちャッたや。」

 

 

鳴佳「ひとつ、質問をしてもよろしいかしら。」

 

紗鳥「何だ?」

 

鳴佳「仮にわたくしが犯人だとして、包丁を使って殺害したとしましょう。なら、当然“返り血”が服に付着しているはずですわ。」

 

薬袋「た、たしかに。包丁を抜いたとなると出血の量も多いですし、避けようがないと思います......」

 

枢木「しかし、鳴佳の服に返り血の跡は見つかっていない。」

 

鳴佳「えぇ。つまり“わたくしは返り血を浴びていない”。この事実にはどう返されますの?」

 

 

 

比良坂「返り血浴びたけど処分した、とか?」

 

鳴佳「なら、どうやって? その処分方法は、先ほどのように説明しなければ。」

 

繋守「うーん...そう言われると。そもそも見てないからなー。」

 

幕吏「処分の手段...。舞台装置やカラクリがないのなら、隠す洗うしかないだろうな。」

 

静寂「...なるほどな。」

 

燐海「お、編集者クンはなにかわかッたのかな?」

 

静寂「うるさい。別に、俺以外にもわかった人間はいるだろう。」

 

 

 

うっ、視線を感じる...。

考えれる限り、あの証言とあの発言は一致しない。

なら...二択なら......

 

 

洗う ← 《月無の証言》

 

「それは違うよ。」

 

 

 

紗鳥「......ランドリーには、ずっと月無が居たはずだ。だから、犯人は服を洗濯することはできない。返り血の付いた服は“洗うことができない”。...つまり、」

 

幕吏「“今もどこかに隠されている”。......そう言いたいのか、主演よ。」

 

紗鳥「しゅ、主演......、まぁ、だったら、調べる場所は決まってる。」

 

 

 

 

紗鳥「鳴佳の自室を調べたいんだが。」

 

モノシープ「場所への再調査は“要相談”と言ったばかりなのに......。」

 

燐海「えェー? ボクはてッきり、学園長サマのことだから“調べられない場所に重要な証拠がある”ッてわかッてて、あえて“禁止”じゃなくて“要相談”にしたンだと思ってたけど?」

 

モノシープ「いやいや、まさか。ただ未来のことを考えてそうしておいたということに...しておきましょうね。はぁ、今度からは“被害者の自室のみ解放”じゃなくて“全個室解放”にでもしましょうか。そっちの方が早い。」

 

繋守「最初からそうしとけばいいのにー。」

 

モノシープ「おほん。けど、そんなポンポン行くわけないですからね。今回は御目溢しです。あと、オマエラがこの裁判場から出られるのは“学級裁判が終わった後”ですから、代わりにボクが行きますよ。ただし“見つけてほしいもの”や”より詳しく見てほしい場所”は事前に、明確に、伝えてください。『怪しいの見つけてきて!』なんててきとーに言われたら、ボクもクロもたまったもんじゃありませんから。」

 

信乃陀「意外と優しいんですね!」

 

モノシープ「うーん、嬉しい言葉ですが、いざ言われると虫さんがトコトコ走ってしまいそうですね。」

 

静寂「......はあ。」

 

紗鳥「じゃあ、お願いする。”返り血のついた服”を。」

 

モノシープ「ほう、なるほどなるほど。鳴佳サンの部屋でしたね?」

 

 

 

 

 

少々お待ちください、と言わんばかりに、モノシープが座っていた玉座に『離席中』と書かれた看板が立てられている。

 

 

比良坂「看板要るか?アレ。」

 

遊城「さぁ?」

 

 

そしてすぐ、裁判上のモニターの明度が上がる。

 

 

モノシープ『あーアー、さぁ始まりました。ここで特別映像のお時間ですね。今回は鳴佳光希サンのお部屋チェックをお届けしましょう。』

 

 

モノシープの姿が映る。

背景には、見慣れた赤い壁。見慣れた個室。

そして見慣れない、完璧に畳まれた寝具。整列したティーカップ。

 

 

モノシープ『うーん、なにもないように見えますね。とんだ骨折り損でしたか?っと、忘れていないですよ。もちろんもちろん。クローゼットですね。女子のクローゼットを見たいなど、普通なら引っ叩かれてもおかしくないんですから、気を付けてくださいね。』

 

 

そう言いながら、鳴佳のクローゼットを開く。

そこには異物があった。

 

血だっただろう赤い染みが黒ずみはじめた、鳴佳の服だった。

 

 

薬袋「ほ、ほんとに...」

 

繋守「あるんだー。」

 

 

鳴佳を見やると、今まで以上に淑やかに笑っていた。

目を閉じて、落ち着いている。

 

そんな鳴佳とは違って、禍賀は舌打ちを鳴らしていた。

苛立ちのような何かを感じたが、俺がなにかできるものじゃない。

特に、鳴佳を追い詰めた俺には、なにもできないだろう。

 

 

モノシープ「おやおや、ほんとにありましたね。やはり全個室解放が良いですね。ボクの仕事量的にも楽ができそうで。」

 

 

モニターから玉座へ視線を戻すと、既にそこには、愚痴を溢しながら看板を片付けているモノシープの姿。

 

 

枢木「何も言わないんですか?」

 

鳴佳「えぇ、わたくしはもう否定しておりませんから。」

 

 

彼女は、微動だにしなかった。

静かで綺麗な蓮のような笑顔で、ただ全てを受け入れているようだった。

 

 

幕吏「ふむ、演技ではない。貴様は今、本心で笑っているのだな。」

 

燐海「なーンだ。もッとこう、罵詈雑言とかあられもない姿を期待してたのになァ。」

 

 

燐海はそう言い、だるそうに床へ座り込んだ。

 

 

絡転「もうやる気が湧いてこぬか、白山羊の。」

 

燐海「ン、ボク?まァ、勝手に続きやッといてよ。」

 

 

 

しかし、続きを喋る人は居なかった。

モノシープのふざけた声も、今は鳴りを潜めている。

 

ただ、鳴佳の柔らかな笑い声が響いた。

 

 

鳴佳「ふふ、あら、なぜ誰もわたくしを責め立てないのかしら。」

 

遊城「別に言葉にしてないだけよ。あんたは人を殺したってことは、まぁそうなんでしょうね。ただ、実感が湧かないの。」

 

枢木「動機がわからないのもその一端でしょうね。」

 

 

鳴佳「そう...では、おさらいをしましょう。動機は、動機ビデオ、でよろしいかしら。さて、おうち勉強会、というものですわね。」

 

 

ちょっと使い方が違うであろう言葉と共に、鳴佳は俺へ視線を向けた。

 

 

鳴佳「お願いしてもよろしいかしら。」

 

 

俺は目を閉じる。

頭の中で、穂堂の笑顔から、聞こえた悲鳴まで、全てをもう一度並べていく。

 

全部繋げる。ここで終わらせないといけない。

 

 

息を吸って、口を開いた。

 

 

紗鳥「やってみる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Act.1

 

事件の発端は、当然、モノシープから配られた"動機"だ。

犯人はその動機を見て、人を殺さなければならないというその考えに支配されてしまった。

 

だからこそ、これ以上みんなと仲良くなって殺しづらくなる前に、犯人は殺人を衝動的に、けれど計画的に、行うことに決めてしまったんだ。

 

 

 

Act.2

 

計画の中では夜時間前に動くことが多いため、できるだけ見つかる確率を減らしたかった犯人は、まず、メモで数人でも人を自室に縛り付けておく作戦を考えた。

内容は「裏切者の正体」について。他人に内容を話すリスクが大きい、それにボーナスタイムの件もある。余程のことがなければ、部屋から出ずに待つだろうね。

そして、各部屋の扉の隙間からメモを差しこんだ。それは足音一つ立てず行われた白昼堂々の犯行準備だった。

 

 

 

Act.3

 

時刻は夕食後。凶器を調達するため、犯人は厨房へ赴いていた。

そして、いつも身体中に何本も巻いてあるリボンを解いて、包丁を包み隠した。

これなら、ふいに姿を見られても、そこまで違和感のあるようなものではなくなった。

 

しかし、何の用もなく厨房に居る姿は怪しまれる。そう思い、急いで自室に帰ろうとしたところで、燐海と出くわしたんだ。

慌てて、ポケットに余らせていたメモを、さも今拾ったかのように振る舞い、一応事なきを得た。

 

そして、犯人は自室で犯行時刻まで待つことにした。

 

 

 

Act.4

 

ターゲットに選ばれたのは、今回の事件の現場の持ち主である、月無だった。

 

しかし、月無の危機に勘づいていたのは月無自身ではなかった。

超高校級のボディーガードとしての勘なのか、彼女を守るために部屋交換を願い出ていた。そして押しに弱い月無はそのまま承諾してしまったんだ。

 

...危機が訪れると知っている月無の自室。

その中で、穂堂は犯人から逃げることなく待っていたのだ。

 

 

 

Act.5

 

犯人は夜時間中、月無の部屋のインターホンを押す。

 

扉が開き中へ入れば、そこには月無の姿はなく、穂堂の姿しかなかった。

犯人にとって予想外の出来事が起こった最中、それでも犯人は手を止めなかった。

"穂堂は犯人の殺意を感じた上で止めに来ている"と、犯人が察したからだ。止まってしまえば、もうチャンスは失われる。

悲しいことに、犯人は穂堂の姿を見たせいで、止まることができなくなってしまった。

 

穂堂は犯人をベルトで拘束しようと動いていた。

だが犯人は才能を最大限活かし、ベルトを避け、穂堂の腹部に、包丁を深く刺した。

...そして、抜いた。刺したままにしていると、包丁が止血効果になってしまう場合が多い。

 

ただ失血死は、すぐには死なない。気付けば犯人の名前を指す「3」と「月のマーク」をメッセージとして残し、右手で隠した。

「3」は「M」と勘違いされ、疑いの範囲が大きくなってしまったのは、優しい彼も死に際でそこまで考えられなかったのかもしれない。

 

 

 

Act.6

 

次に、包丁の処分。

リボンで包丁を再び包み、処分場所である男子トイレまでに血痕が落ちないようにしていた為、リボンは血を吸い、赤く滲んで重くなっていた。

包丁の柄をリボンで巻く。リボンを横に振り払い、先端により力が伝わって、遠心力で包丁は結び目から抜け落ち、男子トイレの奥へと飛んで行った。

 

そして、犯人は自分の服に返り血がついていることに焦り、急いで証拠隠滅を図ろうとする。

しかし、ここで障害となってきたのは、月無の存在。月無はランドリーで眠っていたのだ。

 

犯人は返り血で濡れた自分の服を洗うことが出来ず、自室に隠しておくことしかできなかったんだろう。

 

 

これで、女子である犯人が男子トイレの奥という入れない場所へ包丁を捨てた方法。そして見つからなかった返り血の行方だ。

 

 

 

「粗削りな推理だけど、辿り着いたのは君だ。」

 

「【超高校級の新体操選手】鳴佳 光希。君が殺した、ってことでいいんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モノシープ「議論の結果がついに出たみたいですね。では、さっそく投票タイムといきましょう。オマエラ、お手元のモノパッドで投票してください。あ、"必ず誰かには投票"してくださいね。無投票なんてつまらないことで人が減るのはこちらとしても面倒臭い事案ですし、オマエラも嫌でしょう。」

 

 

 

手元のモノパッドが震え、見てみると不思議な画面になっていた。

16人分の顔写真が並ぶ中から、鳴佳の顔写真を震える指で力強く押した。

 

 

当の本人は静かに微笑んでいるのが見えた。

 

 

何故、そんな顔をしていられるのだろう。

 

穂堂を殺したくせに、という感情なのか。

それとも、オシオキを受けるのに、という感情なのか。

 

俺にはわからなかった。

 

 

 

モノシープ「全員の投票が終了しました。さてさて、お待ちかね、投票の結果を見ていきましょうね。クロは誰なのか、そして正解なのか不正解なのか。」

 

 

 

ふいに、チャリンという音が鳴る。

 

見上げれば、モニターには大きなスロットのようなものが映し出されていた。

 

ガラガラと回り始め、ゆっくり静止していく。

甲高い電子音と、金属の音が空気を裂く度。心臓も一緒に回されていくようだった。

 

そして、三つ揃いの、鳴佳光希のアイコン。

瞬間、けたたましいファンファーレが鳴り響く。

 

 

黄色いリボンが、ひらひらと紙吹雪と共に舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

学級裁判閉廷

 

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