信疑≠真理(シンギノチカラ、シンリニアラズ) 作:サモア リナン
暴徒は、完全に理性を失っていた。
バットに巻かれた鉄条網には血がにじみ、足元には破壊された看板、住民の安全確保のため守ることに全力を出しているため、捕縛への決定打に欠ける警官たち。
信象を暴走させた力は、もはや“信念”とは呼べない狂気そのものだった。
「なんで、こんなことに……」
駅前の一角で、真澄は立ちすくんでいた。
体が、恐怖に凍りついて動かない。
その暴徒──榊という同級生だった男は、かつて優しげな笑みを浮かべていた、静かな青年だった。
「正しいことを信じてたんだよ、俺は……!」
暴徒の声が響く。
その目は血走り、何かを必死に弁明するようで、だが何も届かない。
「俺たちは間違ってない! 世の中を正すのが正義だろう!?
……なんで、誰も信じてくれないんだよ……!」
彼の体を包むのは、深紅の信象紋様。
暴徒化の原因は、“信じすぎた”ことだった。
信象は、強い“信念”と“対象”を持った者に宿る力。
だが、その信念が過度に偏った時──
“信じすぎる”ことは、歯止めの効かない暴力に変わる。
止めたのは、警察ではなかった。
「……力を振るう理由を、見失ってるな。君はもう、“信じる”というより、依存してるだけだ」
静かに現れたのは、黒髪を短く整えた制服姿の高校生。
一ノ瀬霧人──この春に進級したばかりの先輩であり、政界進出を目指す同じ学校の有名な異能持ちだった。
「君の正義は、もう誰にも届かない。疑われて、当然だ」
一ノ瀬が指を鳴らすと、彼の周囲に浮かび上がるのは、幾何学模様の紋様──銀と灰のジオメトリック。
それは、信象と疑象、双方の力を宿す“双極構式”だった。
「……“信じること”も、“疑うこと”も、力になる。だが、どちらも過信すれば毒になる。君はそれを……忘れてしまった」
一ノ瀬の一撃は、信象と疑象を融合させた攻撃だった。
暴徒は一瞬で制圧され、その場に倒れた。
その光景を、真澄は呆然と見つめていた。
(……すごい。あれが……“本当の力”)
信じるだけでもなく、疑うだけでもない。
両方を受け入れて、その先へ進んでいる──そんな力の在り方がそこにはあった。
──だが、その視線に一ノ瀬が気づくと、やがて近づいてきて、ふと口元だけで笑った。
「キミ、力に目覚めたみたいだね」
「え……?」
次の瞬間、真澄の胸に走ったのは、焼けつくような熱。
脳裏に、いくつもの“選択”がよぎる。
自分の無力さを悔いた記憶。
自分が信じられなかったもの。
疑うことさえできず、曖昧にしていたこと。
けれど今、確かに「何か」を自覚した。
誰かの叫びを、疑いもせず、信じることもせず、
曖昧に見過ごすだけの自分じゃ、もういられない。
「……俺は、信じるのが怖いんだ、だけど“疑いたくもなかった”んだ」
その瞬間、真澄の背後に紋様が浮かび上がる。
それは──双極構式。
銀と灰色のジオメトリック模様が、ゆっくりと形を成していく。
「信じることも、疑うことも……そのどっちも、逃げてた。
でも、それって結局……自分じゃ何も選ばない、選べないってことだよな……!」
覚醒。
真澄の目の前に、初めて“世界の色”が変わる感覚が走った。
信象は、信じることによって強まる力。
疑象は、疑うことによって研ぎ澄まされる力。
そして双極構式は、その二つの感情を、矛盾したまま抱きしめて力に変える。
一ノ瀬は、そんな真澄を見て静かに頷いた。
「キミも、その矛盾を抱えながら進む覚悟があるなら……“普通”ではいられなくなるよ」
真澄は、ただ
「もう、“普通”なんて……とっくに壊れてるから」
そう、自分に言い聞かせていた
どんな物事でも自分だけの影響の問題?
未だかつて関わりのなかった人に影響を与える可能性はある
自己解釈は事故解釈
なんちゃって!