信疑≠真理(シンギノチカラ、シンリニアラズ)   作:サモア リナン

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第3話信念≠現実

 朝のチャイムが鳴る前の教室は、いつもよりざわめいていた。けれど、それはにぎやかというよりも、どこか落ち着かない空気をまとっている。ニュースで報道された例の暴徒事件が、ちょうどこの近隣で起きたことが原因だった。

 

 しかもその現場に、あの真澄が居合わせたというのだから、なおさら生徒たちの話題を独占するのは当然だった。

 

「まじで真澄が止めたの?暴徒を?」

「いや、それはさすがに盛ってんじゃね?でも、現場にいたのは本当らしいよ」

「てかあいつ、昨日と全然雰囲気違くね?」

 

 クラスメイトたちのささやき声は、本人に聞こえないようにと気を使っているようで、しかし肝心の視線だけは隠しきれていなかった。

 

 真澄は教室の隅に座り、窓の外を眺めていた。いつものように無言で、いつものように誰とも目を合わせずに。

 

 ——けれど、何もかもが、もう「いつも通り」ではなかった。

 

 彼の中で、何かが確実に変わってしまった。それは身体に浮かぶ「双極構式(バイポーラ・フォーマット)」と呼ばれる紋様だけではなく、自分という存在そのものが、周囲の世界とどんな関わり方をしていくのか——その根本を揺さぶるような変化だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 放課後の帰り道、真澄は校門のそばで待っていた人物に気づいた。

 

 「真澄くん」

 

 一ノ瀬先輩だった。例の暴徒事件の後に軽く会話はしたが、こうして改まって待たれているとは思わず、真澄は一戸惑いの表情を見せた。

 

「……先輩。何か用ですか?」

 

「君と、少し話がしたくてね」

 

 彼の声には相変わらずの柔らかさがあったが、その奥にある真剣さが伝わってきた。

 

 二人は学校近くの河川敷を歩きながら、一ノ瀬がゆっくりと切り出した。

 

「君の紋様、“双極構式”だったね。信象と疑象、両方の特性を同時に宿す……珍しいけれど、稀少ってわけじゃない、僕も双極構式だしね。君の力が特別視される理由にはならないよ」

 

「……知ってます。自分でもわかってるつもりです。先輩には悪いけど、中途半端だって思ってるくらい、です」

 

 一ノ瀬はふっと笑った。

 

「正直だな、嫌いじゃないよ。どちらかに偏ることが、力になるわけじゃない。君が今なすべきなのは、“自分が何を信じていて、何を疑っているのか”を見極めることだ」

 

 真澄は、言葉を返さなかった。

 

 自分は、何を信じている?

 

 何を疑っている?

 

 この力を得た理由は? この紋様に選ばれた意味は?

 

 頭の中で渦巻く問いに、答えはまだ見つからないままだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 その夜、動画配信サイト「Luvid」に新着配信の通知があった。

 

《花守遥チャンネル:今日のナガレ配信ッ!》

 

 サムネイルには、例の暴徒事件の現場で撮影されたとおぼしき映像が。まるで戦場のように荒れた場所で、花守遥とその友人・しづくが、まるでバラエティ番組のようにテンション高くリポートしている。

 

「これは危なすぎるってば! でも見て見て、ここ! 信象の封じ印が地面にあって、たぶん誰かが力で暴徒止めたんだよね?」

 

「やば、マジでヒーローじゃん!」

 

 彼女たちの配信は賛否を呼びつつも、再生数を伸ばし続けていた。

 

 だが、真澄はその動画を見て複雑な気持ちになった。あの日、あの場所にいた自分の姿は動画には映っていなかったが、それでもなぜか、真澄はこの軽やかな言葉たちに強く引っかかりを覚えた。

 

「そんな軽いもんじゃないだろ……」

 

 

 

 *

 

 

 

 一方、学園の裏手では、一ノ瀬が別の人物と接触していた。

 

 「で、どう思う? 真澄くんの“資質”」

 

 問いかけられたのは、政府と連携しながら学園に通っている政界志望の生徒——八重樫律(やえがし、りつ)だった。

 

「中途半端で危うい。だが、世界を揺るがすのは、いつだって“選びきれない者達”の葛藤だよ」

 

「君らしい答えだね」

 

 律は腕を組みながら、月明かりの空を見上げた。

 

「俺は、政治という手段で世の中を変えたいと思ってる。信じることだけでも、疑うことだけでも、変革は起きない。だから真澄には、“決めさせたく”なる」

 

「指導者のような事を言うんだね」

 

 そのやり取りが、やがて真澄と彼らを繋げ、そして引き裂くきっかけになっていく——その時、まだ誰も知らない。

 

次回へ続く

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