信疑≠真理(シンギノチカラ、シンリニアラズ) 作:サモア リナン
昼休み、校舎の最上階にある小さな屋上には、いつものメンバーがそろっていた。
「この前、待ってたのに3人とも来ないから真澄くんと2人でご飯食べてたんだよ、気まずかったー」
「え、あの時、気まずかったの?」
真澄は少し目を見開いて
遥はニヤリと広角をあげた
「冗談だって!そんなわけないじゃん、多分」
「多分ってなんだ」
風が吹き抜けるコンクリの床に腰を下ろし、それぞれが弁当やコンビニのパンを手にしている。特別な会話をしているわけじゃない。ただ、そこにいて、笑ってる。そんな時間が、この数日で少しだけ重みを増していた。
「そういえばさ。例の事件、やっぱまだニュースになってたね」
口火を切ったのは、新藤真土。真澄のクラスメイトで、昔からの友人だ。真澄と似たような控えめで、内省的な性格だが、最近は少し浮かない顔をしていることが多い
「そりゃなるでしょ。あんな暴徒が街中で暴れてたんだもん。動画もバズってたよ。わたしの知り合いの配信者さんも現場の映像流してて……ま、再生数すごかったけど」
軽く肩をすくめながら言ったのは田中星姫。キラキラネームにコンプレックスを抱きつつも、明るく飄々とした性格で、今は動画配信が趣味だ。派手な見た目とは裏腹に、本人は「普通でいたい」気持ちを強く持っている。
「……でも、わたし、怖かったよ。真澄くんが、あんな風に……」
隣でさっきまで明るかった顔を伏せたのは遥。優しい性格の持ち主で、事件の夜、真澄が異能に目覚める瞬間を間近で見ていた。
「俺も、驚いたけど……」
真土が言葉を濁した。彼にとってもあの夜の真澄は、見慣れた友達じゃなかったのだろう。
「信象と疑象、同時に発現したって話、本当なの?」
凪が口を開いた。彼女は“疑うことで救いを見出す”異能者──疑象使いだ。その視線は、ただの興味というより、少し複雑な色を帯びていた。
「……本当。あの瞬間、信じたいとも、疑いたいとも思った。どっちも、強くて……でも、だからこそ、力になった気がする」
真澄が言葉を選びながら答えると、凪はふっと微笑んだ。
「ふーん。あんた、強いんだね。どっちにも染まりきらない中で、自分を保ってる。そういうの、今の時代じゃ、けっこうレアかもよ」
その言葉に、星姫がふと身を乗り出す。
「でもさ、なんか最近思うんだよね。信じるって、昔の宗教みたいなものだけど、今は“推し活”の方が近くない?」
「推し活?」
真澄が聞き返すと、星姫はスマホを掲げて見せる。そこには人気アーティストのライブ配信画面が表示されていた。
「ほら、“神”みたいな扱いされてるアーティストとかいるじゃん?イエス・キリストが好きなのと、ミセスの大森くんが好きなの、あんま変わんなくない?ファンクラブって、宗教と紙一重だと思うんだ」
「……面白い視点だね」
凪がぽつりと漏らす。
「神≠歌手、宗教≠ファンクラブ。どっちも救いを求めてる。でも、現実じゃ“信じるだけ”じゃ足りない場面が多すぎる」
遥がそっと付け足す。
「……私も、ただ信じるだけじゃ、真澄くんを守れなかった。あの夜、何もできなかった……」
沈黙が流れた。けれど、すぐに真澄が口を開く。
「でもさ、信じることと疑うこと、どっちかだけじゃ足りない気がする。どっちかに寄りすぎると、偏る。凪が言ってたろ?“人は、信じるだけじゃ救えない”って」
「ああ。そう言ったかもね。でも……あんたなら、両方できるかもよ。信じて、疑って、それでも前を向けるタイプ」
凪の言葉に、真澄は小さく笑った。
「……俺さ、ある人に言われたんだ。“きみの紋様は面白いね。信と疑、どちらにも拠らない。けれど、どちらも拒まない”って」
「その人、誰?」
星姫が目を輝かせる。
「一ノ瀬っていう先輩。ちょっと変わった人だけど……なんか、話してて楽しかった」
「へえ~。出た、“運命の出会い”」
からかうように言う星姫の肩を、遥が軽く叩いた。
「でもその先輩、信象の人?疑象?」
「……双極。俺と同じ、信疑の紋様を持ってる」
「おおー!それって、けっこうレアなんじゃない?」
星姫が声を上げるが、凪は首を振る。
「いや、それほどでもないよ。信象が主流だけど、疑象も一定数はいるし、工事現場じゃ信象使いが資材を支える補助に使われたり、病院でも信象で痛みを和らげる治療に役立ってる。逆に疑象は、警察が嘘を見抜く捜査で使ったりする」
「すご……。なんか、異能って生活の一部なんだね」
真土がぽつりと呟いた。
「そう。でも、力って便利だけど、扱い間違えると危険でもある。だからこそ、“何を信じるか、何を疑うか”って、大事なんだよ」
凪の言葉に、一同は静かにうなずいた。
風が吹き抜ける屋上。そこにいる5人は、まだ未完成で、まだ模索中で、でもだからこそ“信”と“疑”の狭間で、少しずつ歩き出していた。
そして、真澄の紋様──銀と灰のジオメトリックな双極構式は、その静かな光を、少しだけ強く輝かせていた。
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