信疑≠真理(シンギノチカラ、シンリニアラズ) 作:サモア リナン
人混みが散りかけた夕方の繁華街。
不穏な熱気はすでに動画という形で拡散され、誰かの信仰が暴走するには十分すぎる土壌が整っていた。
「……来てる。あの動画の人たち……本物だ」
すれ違いざまに耳にした、そんな声。
その直後、遥たちを囲むようにして群衆がざわめいた。異様な熱に浮かされたような眼差し。光るスマホ、加熱したコメント、ひび割れた信仰。
「おい、あれ見ろ……!あの人、光ってる……!」
「“信じれば力が手に入る”って、本当だったんだ!」
突如、群衆の一人が地面に手をかざし、光の柱のような信象を発現させた。
その紋様は青白く輝き、空間を歪ませながら周囲に威圧を放っていた。
「ウソ……本当に発現してる……!」
星姫が後退りながら、カメラを下ろす。
「私たち……やばくない?」
遥も凪も固まったまま動けずにいた。
「配信、やめよう……」
凪が震える声で言った。
「でも……消したってもう……!」
遥の言葉が終わる前に、信象を発現させた青年が叫んだ。
「お前らの配信が、俺を目覚めさせてくれたんだ!だから俺は正しい!」
その声とともに、破裂音のような衝撃が走る。街路の舗装が隆起し、辺りが破片と土埃に包まれた。
「下がって!」
凪が前に出ると、彼女の背にうっすらと浮かび上がる模様――渦を巻くような灰色の疑象が輝いた。
しかし、それは攻撃を防ぐものではなく、相手の信象のバランスを微妙に揺らす「干渉」の能力だった。暴徒の動きに一瞬の迷いが生じたが、攻撃は止まらない。
「凪っ! 下がれ!」
遥が凪を引き戻そうとしたその瞬間――
「そこまでだ!」
強い声とともに、群衆の前に割って入ったのは、新藤 真土だった。彼の前に浮かぶのは、鉄錆のような赤銅色の信象。
彼は鋼鉄の柱のような構造を作り出し、暴徒の攻撃を防ぐ。
「真澄!こっち!」
群衆の外側から走り込んできたのは、真澄だった。
彼の腕には、銀と灰の幾何学模様――「双極構式」がくっきりと刻まれている。
「信じるだけじゃ、間違えることもある……でも疑うだけじゃ、立ち止まるだけだ」
真澄がそう呟くと、彼の前に現れた紋様が空中に広がった。
幾何学模様が組み替わり、銀色の回転式盾が形成される。
一方で、灰色のスパイラルが地面に展開し、暴徒たちの足元の地面を鈍く歪ませる。
「――これは、俺の“折り合い”。信じることと、疑うことの両立だ」
その瞬間、双極構式の能力が暴徒の信象を分析し、対となる反応を引き起こした。
過剰な信仰が中和され、力を失った暴徒はその場に膝をついた。
「……は……なんで……?」
一人が崩れ、次いで他の暴徒たちも力を失ったようにその場に座り込んだ。
「終わった……?」
遥が呟く。
「いや、まだだよ」
真澄が言った。「誰かが、俺たちの動画を見て事故に遭った。……それを、忘れちゃいけない」
「……同じ高校生……だったよね」
凪が、ぎゅっと手を握りしめる。
真澄の目には、痛みと責任感の混じった色が浮かんでいた。
「力は、簡単に持っていいもんじゃない。信じたって、疑ったって、その重さは変わらないんだよ」
その言葉に、誰もが返す言葉を持たなかった。
ただ、心に刻むように――静かな沈黙が、場を包んだ。
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次回に続く。
思いの力って強いよね!
↑
自分だけだと思わない事だね